表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/200

第57話 爆弾魔は罠の迷路で歓迎する

 最低限の調度品と、大量の機材で埋め尽くされた部屋。

 そこで俺は、赤髪少女に尋ねた。


「囚われのお姫様になった気持ちはどうだい?」


「…………」


 残念ながら返事はない。

 目隠しを外し、猿轡などもつけていないにも関わらずだ。

 彼女は恨みも露に睨み付けてくる。


 椅子に縛り付けているのが不服なのかもしれない。

 魔道具も使って拘束している状態だ。

 もっとも、これを緩めるわけにはいかない。

 万が一にも計画を邪魔されると困る。


 ここには俺とアリスと赤髪少女の三人がいた。

 半日前から部屋に籠っており、滅多なことでは出られないようにしてある。


 城塞都市に戻ってから五日。

 俺は拠点周辺のエリアを改造した。

 現在、辺りは完全な無人となっている。

 俺達以外の人間は一人もいない。

 住民は金を渡して追い出し、誰も近寄らないように通達している。


 付近一帯は土の壁で封鎖してある。

 臨時で雇った魔術師達を総動員して築き上げたのだ。

 さらにエリア内には多数の罠を設置している。


 諸々が突貫工事だが、アリスとの共同制作だ。

 動作面に問題はない。

 トラブルは起きないよう、細心の注意を払っている。


 部屋の壁の全面には、無数の映像が展開されていた。

 夜の街並みが様々な角度から映し出されている。

 建物内を映すものもある。


 これは遠視の魔道具だ。

 分かりやすく言えば、異世界版の監視カメラである。

 エリア内の各所に設置しており、主要な地点はすべて見れるようになっている。


 カメラの役割を担うのは死体の眼球だ。

 眼球の見ている光景が、こうして映し出されている。


 四番目のアリスが死体を操る魔術師――死霊術師で、その技能を用いて用意してもらった。

 ただ、適性は低かったらしく、死体の軍勢を作るような真似は不可能らしい。

 今回のように、部分的に用いる程度が限界なのだとか。

 それでも十分にすごいとは思う。


 余談だが、死体を操るために磨いたテクニックは、ゴーレムの操作として役立てているそうだ。

 本来、ゴーレムには大雑把な命令しかできないものらしい。

 アリスのように、リアルタイムで同時に動かすなど不可能なのだという。

 ゴーレムカーなどの複雑な機構など以ての外とのことであった。


 それができるのは、ひとえに死霊術師として研鑽を積んだからなのだそうだ。

 「人生、何が役立つか分からないものね」とはアリスの言である。

 彼女の場合、前世の知識や能力を引き継げるので余計にそう感じるに違いない。


(早くて数時間以内、遅ければ二日後くらいか)


 俺は無数の画面を眺めながら思案する。

 これといった異常は見当たらない。


 今頃、マイケル達は赤髪少女を捜索しているだろう。

 いくら時を止められると言っても、即座に俺達の場所を突き止めるのは不可能に等しい。


 ただ、見捨てることは絶対にない。

 マイケルの性格は事前調査で知っている。

 奴は必ず助けに来る。


 マイケル達が辿り着けるように、隠蔽工作はしていない。

 必死に情報を漁れば、俺が狙撃に関与し、赤髪少女を城塞都市に攫ったことくらいは判明するはずだ。

 それまでの猶予を使って、彼らを待ち構える準備を進めたというわけである。


「ジャックさん、北部側の壁よ」


 三十分後、アリスが冷静に報告を発した。

 仮眠していた俺は目を開け、椅子から立ち上がる。


「ようやくお出ましか」


 展開された無数の画面のうち一つに注目する。

 そこにはマイケル達の姿があった。

 仲間の二人も同行している。

 画質がやや粗いものの、見間違いではない。


(他の人間に加勢を頼まなかったのか)


 俺は顎を撫でつつ訝しむ。

 手分けして侵入を試みている感じでもない。

 魔術など特殊な潜入方法も、アリスが対策済みだ。

 そちらにも反応はない。

 マイケル達は、本当に三人で乗り込んで来たようだ。


「知り合いだっているだろうに、協力してもらわなかったのか」


 俺達のように、誰かを雇うことだってできるはずだ。

 仲間の危機に焦って頭が回らなかったか。

 それとも、自分達だけで救出できると慢心しているのか。

 何にしろ迂闊であることに変わりはない。


 画面を見ているうちに、エルフ女の魔術が土の壁を粉砕した。

 彼らは固まってエリア内に侵入してくる。

 隠れもせずに堂々と現れるとは、大胆なものだ。

 やはりどこまでも舐められているらしい。


「ふむ……」


 俺はマイケル達を観察する。

 慎重に歩く三人の動きは、少しぎこちなかった。

 狙撃の傷が残っているのだろう。

 弾丸の麻痺毒は治療したようだが、完治とはいかなかったらしい。


 きっと大急ぎでここまで来たに違いない。

 赤髪少女の捜索を最優先したのだ。

 本当に仲間想いの連中である。


 今のところマイケルの挙動に不審な点は無い。

 まだ時を止めていないようだ。

 おそらくは能力を温存している。

 自由に時間を止められるのなら、この時点で俺の前にいてもおかしくない。

 狙撃の負傷が要因かもしれないが、やはり時間停止には制約があるのだろう。


「悪くない状態だな。ツキが向いている」


 元より正面戦闘では勝ち目がない。

 あちらが馬鹿正直に突っ込んでくるのなら好都合。

 どんどん卑怯な手を使わせてもらおう。


「さぁ、お嬢さんは今のうちにお休みしようか」


「ちょと、待っ――」


 俺は睡眠薬に浸した布を掴み、赤髪少女の口と鼻を覆って眠らせる。

 今から始まる光景を目にしたら騒ぐので、先に静かにしておいた。


 ついでに俺は近くのレバーを倒して、とある罠を作動させる。

 一見すると変化はない。

 これは時間経過で効果が発揮されるタイプだ。

 効果が現れるのを楽しみにしておこう。


 一方、マイケル達は慎重な足取りで進んでいた。

 エリア内は大幅に改装している。

 屋内外を問わず、たくさんの土の壁や天井が設けられていた。

 迷路状になっており、エリア全体が非常に入り組んでいる。

 彼らにとっては、この上なく進みにくいはずだ。


 ほどなくしてマイケル達は行き止まりに直面した。

 すぐにエルフ女が魔術の準備をする。

 また土壁を破壊するつもりなのだろう。


 予想通り、生み出された火球が土壁に炸裂した。

 すると土壁が爆発し、大量の破片をエルフ女に飛ばす。


「ハッハッハ、そういうショートカットは無粋だろう?」


 俺は愉快な気分のままに笑う。

 土壁の一部には爆弾を仕掛けてあるのだ。

 ああやってズルをすれば、手痛いダメージを受けるようにしている。

 せっかく造った大迷路なのだ。

 長く楽しんでもらわないと困る。


 破片を食らったエルフ女は倒れていた。

 全身に破片が刺さり、遠目にも分かるほどの出血をしている。

 映像だけで音声は拾えない仕組みだが、苦しんでいるのは確かだった。


 すぐさま駆け寄ったマイケルと褐色肌の女は、慌てて傷の手当てを始める。

 一人は周辺の警戒を行うべきだと思うが、それを忠告できる者はいない。


「一発で終わると思うなよ?」


 俺はそばに用意した無数のスイッチから、一つを選んで押した。

 するとマイケル達の頭上で爆発が起き、無数の瓦礫やレンガが落下してくる。

 マイケル達が見上げるのとほぼ同時に殺到した。


 しかし、そこに彼らの姿はない。

 別の画面を見ると、マイケル達は少し離れた路地裏にいた。

 あのタイミングからでは、回避もまず間に合わない。

 つまりは時間停止だ。


「よしよし、使ってくれたな」


 俺は狙い通りの流れに満足する。


 エリア内の大迷路と罠は、マイケルに時間停止を使わせることが目的であった。

 奴がここへ辿り着くまでに、常に消耗を強いていく。

 道中の罠で殺せるのなら、それはそれで構わない。

 突破してくるにしても、無傷は不可能だろう。


 罠を張っての待ち伏せは、俺の最も得意とする戦法の一つだ。

 瞬間的な時間停止くらいでは回避できない。

 力の温存など考えられないようにしてやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ