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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第56話 爆弾魔は召喚者の能力を暴く

 青々とした昼間の草原を、ゴーレムカーは突っ切っていく。

 街道を無視して走っているため、車体は常に振動する。

 もっとも、それは微々たるものであった。

 悪路の走行にも対応できるように、アリスが様々な工夫を凝らしているからだ。

 おかげで振動も不快感を覚えるほどではなかった。


 車内ではジャズもどきの音楽が流れていた。

 音楽プレーヤーによるものだ。

 俺はハンドルを指で叩きながらリズムを取る。


 後部座席にはアリスがいた。

 彼女は人形のようにひっそりと座っている。

 たまにバックミラーで確認しても、驚くほど変化がない。

 マネキンの方が表情が豊かかもしれない。


 その隣には拘束した赤髪少女がいる。

 赤髪少女の手足には枷をはめ、布で目隠しを施していた。

 狙撃で貫通した鎖骨部には包帯を巻いてある。

 縫合と回復魔術で治療済みだ。

 解毒薬で症状を緩和して、ひとまず死なないようにしている。

 喋るくらいはできるようになっていた。


「ねぇ、あなた達は誰なの……?」


 赤髪少女が遠慮がちに発言した。

 ここまでずっと沈黙を貫いてきたが、ついに耐え切れなくなったらしい。


 俺は振り返らずに答える。


「言っただろう。王子様だよ。今は白馬にも乗っている」


「ふざけないで。私を攫ってどうするつもり?」


「決まっているじゃないか。マイケルを誘き出す餌だよ。あいつは君を見捨てない。そういう男だと知っている」


 マイケルが仲間の女を大事にしているのは、調査をしてすぐに分かったことだった。

 四人は互いに大きな信頼感を抱いて行動を共にしている。

 その結束こそ、彼らの弱点だった。

 どこか一箇所を崩せば、連鎖的に倒れてくれる。


 笑い声が聞こえてきた。

 バックミラーを調整すると、嘲るような表情の赤髪少女が映る。

 彼女は勝気な調子で鼻を鳴らした。


「ハッ、本気? マイケルはとても強いわ。あんたみたいな卑怯者なんて、すぐに倒してくれるはずよっ!」


 その時、アリスが赤髪少女の顔を掴んで自身の方へと向けた。

 かなり強引な動きで容赦がない。

 アリスは赤髪少女の眼前まで顔を寄せると、瞬き一つせずに話しかける。


「訂正して。彼の方が圧倒的に強い。状況が物語っているでしょう? 虚勢を張って目を曇らせるのは愚かだわ」


「ひっ、う……」


 冷徹な声音に、赤髪少女は途端に委縮してしまう。

 普段のアリスからは想像もつかない行動だった。

 ひょっとして俺が侮辱されたことを怒っているのだろうか。

 表情に変化はないものの、瞳の輝きが異様に昏い。

 赤髪少女が目隠しをしていたのは幸運だったかもしれない。


 俺は苦笑しつつも会話を続ける。


「アリスの言う通りだ。威勢がいいのは結構だが、人質という立場を理解した方がいい。別にあんたの生首にメッセージカードをくわえさせて、愛しのマイケルへ送り返してもいいんだぜ?」


「い、嫌……」


「もちろん嫌に決まっているよな。だから態度は弁えた方がいい」


 淡々と諭すと、赤髪少女は俯いて黙り込んだ。

 よく見るればじっとりと汗を流している。

 極度の恐怖と緊張を感じているらしい。

 ようやく身の危険を理解してくれたようだ。


 剥げた荒れ地を直進しながら、俺はバックミラー越しに尋ねる。


「俺を卑怯者と言ったな?」


「……それが何」


「ありがとう、最高の褒め言葉だ」


 俺に対する罵倒の中でも常套句と言えるワードであった。

 追い詰められた者は、精一杯の恨みを込めて叫ぶのだ。

 そして俺に殺される。


 これはお行儀のいい決闘などではない。

 どんな手段を使ってでも、相手を殺して生き残れば勝ちなのだ。

 卑怯者と呼ばれるくらいでないと殺されてしまう。


「俺はな、徹底的にやる主義なんだ。中途半端な措置というのが嫌いでね。やり過ぎるくらいがちょうどいいと思っている。暗殺を阻止できて満足しているかもしれないが、まだ安心する段階じゃない」


 今回の襲撃では大きな収穫があった。

 マイケルの暗殺には失敗したが、別にそれは構わない。

 こちらに損失は無く、人質も手に入った。

 悪くない結果だろう。


 これによって主導権は俺に渡った。

 マイケル達の行動は手に取るように分かる。


 怯む赤髪少女だが、なんとか強がって虚勢を保つ。


「でも、あなた達は絶対に勝てない。だって彼の能力は――」


「俺達はマイケルがどんな能力を持つか知った上で敵対している。この意味が分かるかい? あの野郎をぶち殺す算段があるってことさ」


「嘘よ! あのスキルを破れるはずなんてないわ!」


 赤髪少女は断言する。

 彼女の気持ちも理解はできるが、マイケルの能力について口を滑らせかけている。

 挑発に弱いタイプらしい。

 もっとも、彼女の状況提供を待つ必要もない。

 既に判明していることだ。


 俺はさらりと言葉を返す。


「時を止めるんだろう? 知っているさ」


「なっ……」


 赤髪少女は絶句する。

 やはり知っていたらしい。

 今のリアクションで確定した。

 マイケルは仲間だけに能力を告白していたようだ。

 口を開閉する赤髪少女を見て、俺は微笑む。


 狙撃に対するマイケルの行動により、奴の能力は判明した。

 すなわち時間停止である。

 細かいメカニズムは知らないが、時間に干渉しているのは確かだ。


 止めた世界の中を、あいつだけが動くことができる。

 それが超スピードや転移魔術を疑われた力の正体である。

 この辺りはアリスとも意見が一致していた。


 俺の狙撃を阻止できず、仲間の一人を拉致されているという状況から、時間の巻き戻しなどは不可能なのだろう。

 もしそれができるのなら、召喚当時の帝都爆破も止めているはずだ。


 マイケルが時間停止の能力者だと仮定すると、これまでの事象にすべて説明が付く。

 奴はドワーフの集落でも能力を使用していた。

 時間を止めている間に俺を高所へ運び、首に縄をかけて宙へ放り出したのだ。


 狙撃時、路地へと点々と続いた血痕は、停止世界でマイケルだけが動いた証拠である。

 被弾して負傷した彼は、必死に逃げたに違いない。

 俺に反撃したり、仲間を救出する余裕もなかったのだろう。


 時間停止と聞くと無敵にも思えるが、実際にはいくつかの弱点がある。

 まず狙撃が成功した点から、認識外からの攻撃に弱い。

 おそらく時間停止は任意で発動している。

 まるでライトのオンオフを切り替えるように、マイケルは世界を操っているのだ。


 つまり時間を止めるべきタイミングが分からなければ、その効力を十全に活かせない。

 身を守るのに適した能力とは言い難いだろう。

 コージの反射スキルの方がよほど使い勝手がいい。


 二つ目の弱点として、時間停止の継続力が挙げられる。

 マイケルは無限に時間を止められない。

 もしそれが可能なら、停止世界で治癒を済ませてから俺達を捜索しているはずだった。

 永遠に時を止められる人間を相手に、街からの脱出は不可能である。

 今頃はマイケルからの反撃を受けていなければおかしい。

 こうして俺達が自由に行動できていることが、彼の力の限界を示していた。


 継続力に関しては、アリスから指摘があった。

 時間停止のように世界に干渉するスキルは、能力の規模が非常に大きく、それを代償もなしに使えるとは考えられないらしい。

 どれだけ高ランクであれ、必ず何らかの反動を受けているのだという。


 調査と監視により、マイケルが決闘の連戦を嫌っているのは判明していた。

 持久力がないという情報も耳にしていた。

 あれは単純に基礎体力が無いというわけではない。

 時間停止による肉体への負担のせいで、連続して戦えない状態だったのだ。


 では、どれくらいの時間を止められるのかという話になるが、これは参考体験がある。

 俺がドワーフの集落で受けた一連の攻撃を基準としよう。

 あれを停止中に行っていたのだとすれば、数分間は時を止められると考えていい。

 端的に言って、かなりの脅威だ。

 俺のスキルと比較した場合、明らかにマイケルの方が強いだろう。


 とは言え、対抗できないわけではない。

 こうして不意打ちと拉致に成功しているのだ。

 付け入るだけの隙はある。


 脳内の考察と、今後の計画をまとめながら運転すること数時間。

 前方に都市が見えてきた。

 懐かしいその外観は城塞都市だ。

 俺とアリスの拠点がある土地である。


 ゴーレムカーで無人の正門を抜けて、俺達は真っ先に拠点へと向かった。

 夜間という時間帯が幸いして、通りも渋滞はしていない。

 酔っ払いはいるものの、ゴーレムカーを目にすると慌てて道の端に寄ってくれた。


 犯罪組織との抗争で暴れ回ったおかげで、この都市における俺の影響力は大きい。

 ゴーレムカーの存在も知れ渡っていた。

 よほどの命知らずでもない限り、誰もが避けようとするのだ。

 不在中もその傾向は変わっていないらしい。


(ドルグが支配する黒壁都市より暮らしやすいな……)


 快適に走れる通りを見て、俺は小さく笑う。

 黒壁都市では厄介者のレッテルを張られていた。

 利便性を加味しても、どこか過ごしにくい感覚があった。

 やはりこの都市に戻って生活した方が良さそうだ。

 仮にドルグとの関係が決裂しなかったとしても、黒壁都市を離れようと思う。


 考え事をしているうちに、ゴーレムカーは拠点に到着した。

 柵に囲われた敷地と、その中の木造家屋。

 最後に見た時と何ら変わっていない。

 特に荒らされた形跡も見当たらなかった。

 アリスが魔術の罠を張っているため、不用意に近付く者もいないのだろう。


 俺は柵の手前で車を停めた。

 そして後部座席を振り返り、赤髪少女に告げる。


「さて、ゲストを迎える準備をしようか。パーティーの飾り付けの時間だ」

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