表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/200

第54話 爆弾魔は召喚者を監視する

「スカウトは中止だ。あいつは俺の手で殺す」


 俺は宿屋の一室で宣言する。


 椅子に座るアリスは、これといったリアクションを取らない。

 彼女はいつも通りの冷静さのまま会話を続ける。


「それだとドルグの指令に背くことになるわ。彼も我慢の限界のはずよ。いいの?」


「事情が変わった。召喚者の始末を優先する。このチャンスを逃すと、いつ殺せるか分からないからな」


 俺は忌々しげに答える。


 仕事通りにスカウトを進めると、マイケルが組織の仲間になる。

 それは絶対に無理だ。

 まず間違いなくやっていけない。

 召喚者は殺すと決めている。

 それを忘れて仲良くするなど不可能だった。


 仮にマイケルが仲間になった後に殺す場合、高確率でドルグに妨害される。

 余計な手間が増え、また逃げられる恐れもあった。

 始末するなら、邪魔が入りにくい今がベストだろう。


 そもそもの前提として、スカウトが成功する気がしない。

 マイケルだって俺を仲間とは思えないだろう。

 俺と鉢合わせた瞬間、攻撃を仕掛けてくる可能性も十分に考えられる。


 奴はドワーフの集落で俺を始末しようとしたのだ。

 おそらくはそれが再現される。

 スカウトどころではない。


 それに奴の能力は未だ不明だった。

 銃を向けられた状況から一瞬で姿を消し、俺を首吊り状態にした仕組みが分からない。

 それだけのことができるのだから、強さで有名になるのも頷ける。

 召喚者として高いレベルと特殊なスキルを持っているのだ。


 最初に殺した召喚者であるコージは、すべての攻撃を倍返しで反射する能力だった。

 俺自身は爆弾作りを確実に成功させる能力である。

 法則性はない。

 ただ、効果が絶大であるのは確かだった。

 マイケルも同程度の能力と仮定した方が良さそうだ。


「最良の機会を逃さずに抹殺するのね。ジャックさんらしい考えだわ」


「ただ、これでドルグと敵対しかねないのは事実だ。アリスは反対か?」


 アリスは首を横に振る。

 彼女は真っ直ぐな眼差しで答えた。


「私はジャックさんに協力するだけよ。どんな選択をしようと、決してあなたは死なないもの」


「大した信頼だな。気持ちは嬉しいが、根拠はあるのかい?」


 俺は疑問を投げかける。

 そこまで断言されることをした覚えがない。

 我ながらしぶといとは思うが、不死身ではなかった。

 どこまで行ってもただの人間である。


「…………」


 アリスは十秒ほど沈黙する。

 彼女はぼんやりと天井を見つめながら思案した。

 やがて視線を戻して微笑んでみせる。


「最も強い人間が生き残る。それが世の常でしょう?」


 アリスの言葉を聞いた俺は、間の抜けた表情になる。

 完全に虚を突かれ、思考停止してしまった。

 我に返った俺は、腹を抱えてゲラゲラと笑う。


「ハッハ、こいつは一本取られたなァ。まったくその通りだ! 反論の余地もない!」


 俺は両手を広げる。

 笑いすぎて呼吸が苦しい。

 涙まで出てきそうだ。


 だが、この上なく清々しい気分だった。

 アリスの答えは、俺がよく知る真理である。

 まさか言い聞かせられる立場になるとは。

 愉快なこともあったものだ。

 アリスは口下手な方かと思っていたが、とんだ勘違いであった。


 笑いの治まった俺はアリスを見やる。


「俺は最低なサイコキラーだが、相棒には恵まれているらしい」


「最低同士、気が合うだけよ」


 アリスは、自嘲を交えて薄く笑った。




 ◆




「きゃっ、マイケル様ったら!」


「駄目。ご主人様は私と話しているの」


「ほらほら、喧嘩しない! 皆で仲良くするのが鉄則でしょっ! ねぇ、マイケル?」


 視線の向こうには、一人の青年と三人の女がいた。

 テーブルを囲んで盛り上がっている様子だった。

 酒場の中央を陣取る彼らは、傍目から分かるほど惚気ている。


「三人ともあまり騒ぐなよ。周りの迷惑になるだろ?」


 女達に囲まれる青年――マイケルが困った顔をしている。

 まんざらでもなさそうだ。

 顔がほんのりと赤く、少し呂律が回っていない様子である。

 酒を飲んで軽く酔っているらしい。


 酒場の他の客は、嫉妬の視線を向けていた。

 ただし、直接的に文句を言う者はいない。

 小声で悪態を吐くだけだ。

 因縁をつければ、痛い目に遭うと知っているのである。


「……異世界を満喫中か。良いことだよ本当に」


 俺はジョッキを置いて呟く。

 彼らを遠巻きに眺めつつ、嘲るように鼻を鳴らす。


 ここ数日間、俺はマイケル達を監視していた。

 殺害に必要な情報を集めるためだ。

 とにかく尾行を繰り返し、都市内でよく利用する店や、一日のスケジュールパターンをチェックした。

 住居も突き止めて、向かい側の宿屋の一室を借りている。

 マイケルが別の人間と決闘する姿も観戦した。


 目立たないために争い事は控えている。

 この街ではまだ誰も殺していない。

 俺にしては異例なほどに平和的な時間だった。


(まあ、そんな日々も終わりかけているわけだが……)


 俺は無言でジョッキを傾ける。


 地道な調査の結果、分かったことがあった。

 その中でも大きい収穫は、取り巻きの女達についてだ。

 彼女達は全員が冒険者である。


 革鎧を着た赤髪少女は、新米の剣士。

 長身のエルフ女は、他国の有名な魔術師。

 銀髪褐色の女は、元奴隷の呪術師。


 三人の女は別々の事情からマイケルと出会い、そして彼の仲間に加わった。

 そこには様々なストーリーがあったそうだが、特に必要な情報はない。


 マイケルを殺害する場合、三人の女も自ずと敵になる。

 何ができるかを事前に知っておかなければならない。

 ここぞというタイミングで妨害されても困るのだ。

 故にマイケルの監視と並行して、彼女達の能力も把握しておいた。

 そしてアリスと話し合った結果、大した障害にはなり得ないと判断した。


 三人とも実力者には違いないが、俺達には敵わない程度なのだ。

 むしろ人質にできることを考えると、こちらにとって都合のいい存在である。

 マイケルは彼女達を心底から大事に想っている。

 そこを利用しない手はない。

 明確な弱点と言えよう。


「さて……」


 ジョッキを空けた俺は席を立つ。

 勘定をテーブルに置いて出入り口へ歩き出した。

 その際、一度だけマイケル達を覗き見る。


 彼らは実に楽しそうにしていた。

 平和そのものといった光景で、ハートマークでも散りばめた方がいいくらいだ。

 ああやって毎日を過ごしているに違いない。


 マイケルはドワーフの集落で俺が死んだと思っているのだろう。

 そして現在、異世界での生活を謳歌している。

 素晴らしいことだ。

 過去を清算して、前に進みつつある。


 だが、俺はそれを木端微塵に叩き潰そう。

 こちらの恨みはまだ晴れていないのだ。

 絶対に逃がさない。

 どんな手段を使ってでも復讐は果たす。


「――待っていろよ。すぐに地獄へ送ってやる」


 人知れず呟いた俺は、口笛を吹きながら酒場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ