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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第52話 爆弾魔は新たな仕事を受ける

 パワードスーツのお披露目から二週間が経過した。

 相変わらずアリスは研究と開発に没頭している。

 それなりに難航しているようだが、着々と改良を進めているようだった。


 彼女なら大丈夫だろう。

 二週間前の時点でプロトタイプは完成していた。

 それにアリスは、クールなように見えて負けず嫌いだ。

 熱意も十二分にある。

 この前の失敗を糧に、上手く成果を出すはずだ。


 一方で組織内における俺の扱いは、悪化の一途を辿っていた。

 再三の注意にも耳を貸さず、ムカついた人間を殺し続けたからだ。

 最近では集会にも呼ばれなくなり、仕事の頻度も少なくなった。

 意図的に疎外されている状況である。

 ドルグもそれを黙認している節があった。


 本格的に厄介者と思われ始めているようだ。

 この件に関しては半ば諦めていた。

 ドルグの対応は当然のものだ。

 協調性のない人間を排斥する流れは理解できる。


 だが、俺も自分の考えは曲げられない。

 元の世界にいた頃から、このスタンスでずっとやってきたのだ。

 きっとそう遠くないうちに組織を追放されるだろうが、甘んじて受け入れるつもりであった。


 どんな形であれ、これが互いに歩み寄ろうとした結果だ。

 異論を挟むつもりはない。


 そんなある日、ドルグから珍しく呼び出しを受けた。

 三日前に下部組織を壊滅させた件かと思いきや、純粋に仕事の依頼らしい。

 玉座に腰かけるドルグは、文書の束を片手に俺を見下ろす。


「新しい仕事の概要だ。ここで読め」


 投げ渡された文書を掴み取り、ざっと斜め読みする。


 今回の仕事は、とある男のスカウトと、黒壁都市への招待のようだ。

 その男とはエウレア国内の都市の一つで活動する冒険者らしい。

 冒険者という職業に聞き覚えが無いものの、たぶん傭兵の亜種だろう。

 或いはトレジャーハンターの類かもしれないが、そこは大して重要ではない。


 男の素性は不明で、何らかの特殊なスキルを持っているという。

 最近になってエウレア国内に入っており、無名の新米冒険者から成り上がっているのだそうだ。

 都市内でも有名になりつつあるらしい。


 そんな期待の新人を、ドルグは勢力下に引き込みたいようだ。

 仮面の女ことシュナが、俺を黒壁都市へ招いた時と同じような要領だろう。


「手始めに男のスキルを探れ。奴は隠蔽の魔道具でステータスを誤魔化している。能力の正体を暴いた後、この都市へ案内するのだ」


「相手の調査と勧誘がメインか。楽な仕事だな」


「交渉は儂がやる。お前さんは男を連れてくるだけでいい。くれぐれも手荒な真似はするな。分かったな?」


 ドルグは必要以上に念押しする。

 どうやら俺の暴走を警戒しているようだ。

 今まで散々やらかしてきたので、納得の懸念ではある。


 俺は文書を手に肩をすくめた。


「何度も言わなくたって分かっているさ。それにしてもスカウトに俺を使うなんてな。一体どういう風の吹き回しだい?」


「件の男は異様に強いらしい。組織には多数の実力者がいるが、相手の実力は未知数だ。使者として送るには些か不安が残る。そこでお前さんの出番というわけだ。腕っ節には自信があるだろう?」


 ドルグはもっともらしい表情で語る。

 一応、俺を褒めているスタンスを取っているが、その内心は透けて見えた。

 端的に言えば、俺を使い捨てのスカウトマンにするつもりらしい。

 他の部下を損耗しないための鉄砲玉である。

 正体不明の相手にぶつけて失ったとしても、惜しくないと思われているのだ。


(最高の待遇だな。嬉しくて涙が出そうだ)


 皮肉を呑み込みつつ、俺は文書の戦闘記録に目を通す。


 件の男は、複数の敵をその場から動かずに昏倒させたらしい。

 正面からでは、どんな攻撃も当たらないとも記載されている。

 転移らしき動きを駆使しているという噂もあるそうだった。


 文書の中では、超スピードの持ち主か、空間魔術の使い手と推測されている。

 ステータスという法則があるこの世界では十分にありえる話である。

 俺自身が高レベル補正でスーパーヒーローのような身体能力を獲得しているのだ。

 他に同じような輩がいても不思議ではない。


 もし空間魔術の使い手なら、召喚魔術を使えるか訊いてみなければならない。

 それで元の世界へ帰られるのなら一気に解決だ。

 俺個人としても見逃せない案件である。


 何としてでも男の身柄を拘束しよう。

 これは大きなチャンスだ。

 逃すわけにはいかない。


「今後、お前さんには幹部として様々な仕事をさせたい。今回もその一環だ。儂を失望させてくれるなよ?」


 ドルグが少し威圧感を込めて言う。

 俺は薄い笑みを湛えて頷いた。


「任せてくれよ。楽勝さ」


 ひらひらと手を振りながら、俺は踵を返した。

 その足で部屋の出入り口へと向かう。


「ジャック・アーロン」


 背後から声がかかった。

 振り向くと、真顔のドルグが俺を凝視していた。


「何だい?」


「今回の結果次第で、お前さんの処遇を決める。あまりに酷ければ、組織からの除名も考えなくてはならん。お前さんの優遇ばかりしていると、他の者への示しも付かないのでな。これが最後の忠告だ。横暴は控えてくれ」


 鋭い眼光が突き刺さる。

 形ばかりの虚勢や脅しではなかった。

 本気の忠告である。


「――分かっているさ」


 俺はそれだけ答えると、特に気負うこともなく部屋を後にした。




 ◆




 件の男をスカウトするため、俺はアリスと共にゴーレムカーで移動する。

 目的地は別の都市だ。

 無理せずに進んでも二日はかかる計算なので、出発は早い方がいい。

 晴れ空の下、俺達は街道を走行していく。


 それにしても、ゴーレムカーが以前より運転しやすくなっていた。

 ハンドリングが改善されている。

 装甲がシャープになったおかげで加速もしやすい。

 パワードスーツ用に設計を組み直した影響だろう。

 車両としての性能もさりげなく上げるとは、さすがアリスである。


 助手席で仮眠する彼女を横目に、俺は文書を読み直す。


 文書には、件の男の外見的特徴などが簡潔に記載されていた。

 残念ながら顔写真などはない。

 名前はマイケルだそうだが、これも信用ならない。

 偽名の可能性が高い。


 暫定マイケルの男は、それなりに有名らしい。

 現地で聞き込みをすれば、見つけるのに苦労はしないだろう。

 向こうはドルグに目を付けられるほど活躍しているのだ。

 到着さえすれば接触も難しくないはずである。


 まだ見ぬスカウト相手を想像しながら、俺はサイドミラーを覗く。

 そこには黒い車両が映り込んでいた。

 車には二人の男が乗っている。


 どちらもドルグの組織の人間だ。

 彼らは付かず離れずの間を維持して後方を走っている。

 明らかに尾行されている。

 おそらくは監視役だろう。

 俺が不用意な真似をしないように見張っているのだ。


 わざわざ姿を晒すことで、監視の目を強調しているに違いない。

 まったく煩わしい。

 俺は真面目に仕事を遂行するつもりなのに、こういった措置を取られると腹が立つ。

 不信感の証だ。

 露骨な侮辱と言えよう。


 俺はブレーキを踏んで停車した。

 ワンテンポ遅れて黒い車両も止まる。

 車間はだいたい三十ヤードで、ちょうどいい距離だった。

 周りには誰もいない。

 迷惑はかからないだろう。


 ブレーキで起きたアリスが目をこする。


「どうしたの?」


「タイヤにへばり付いたガムを取ってくる」


 俺は後部座席の荷物を漁りながら答える。

 何が起こるか分からないので、一通りの武器を持参している。

 不足することは滅多にないはずだ。


「私も手伝った方がいい?」


「いや、俺だけでやれるさ。ちょっと待っててくれ」


 目当ての物を抱えた俺は車外へ出る。

 そして、黒い車両に向けて膝立ちになり、後部座席から取り出したそれ――ロケットランチャーを構えた。

 照準を合わせながらトリガーに指をかける。


 異変を察知した黒い車両は、慌てて発進しようとしていた。

 だがもう遅い。

 俺は躊躇いなくトリガーを引く。


 放たれたロケット弾は、白煙を噴射させながら突き進む。

 そのまま吸い込まれるように黒い車両に命中した。

 次の瞬間、大爆発が起きる。


 側面にロケット弾を食らった車両は、激しく回転しながら吹っ飛んだ。

 地面を盛大に転がった末、ひっくり返って炎上する。

 車内に黒焦げの死体が二つ見えた。

 監視役の連中は、ロケット弾の直撃を受けて即死したようだ。


「ハハハ、しょぼいガムだったな」


 スッキリした俺は、意気揚々と車内に戻った。

 ロケットランチャーを後部座席に投げて、ゴーレムカーを発進させる。

 野暮な連中はいなくなり、これで快適な旅ができるようになった。


「鮮やかな手際だったわ」


「慣れた動きだからな。朝の挨拶みたいなものさ」


 俺はサイドミラーを確認する。

 炎上する車両が映るのみで、他に尾行されている気配はない。

 この程度の監視で十分だと思われていたとは、見くびられたものである。


 監視自体はドルグの命令だろうが、具体的な指示は別の人間が行ったに違いない。

 色々と迂闊すぎる。

 黒壁都市に戻ったら、その間抜けを探さなくてはいけない。


 新たな予定を脳内に加えつつ、俺はゴーレムカーを走らせるのであった。

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