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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第51話 爆弾魔はパワードスーツの経過を見る

 真新しい返り血で汚れながら、俺は寂れた路地裏を歩いていた。

 指に付いた鮮血を、服の裾で拭い取る。

 俺自身は出血していない。

 至って無傷の健康体である。


 弾切れの拳銃の再装填も行っておく。

 シリンダーを回転させて、淀みのない良い音に耳を傾ける。

 動作不良がないことを確かめてから、拳銃をホルスターに戻した。


 数分前、闇討ちしてきた仮面共は残らず始末した。

 そこそこの手練れだったが、所詮はその程度だ。

 大した労力ではなかった。

 むしろ鬱憤が晴らせたので感謝しているくらいである。


 最近は組織関連で我慢することが多かった。

 たまに息抜きをしないと爆発してしまう。

 心身のためにもストレス発散は大事だ。


 これはただの余談だが、黒壁都市の都市核の場所は既に把握していた。

 興味本位の調査によって見つけたのである。

 今のところは帝都爆破を再現するつもりはないが、俺の機嫌次第では手を出してしまうかもしれない。

 無論、率先して大量虐殺したいわけではない。

 この都市を消し飛ばすことがないように祈ろう。

 すべては今後の展開で決まってくる。


(敵はたくさんいるからな。最後の手段として念頭には置いておこうか)


 胸ポケットに入れたメモ用紙を見て、俺は人知れず苦笑する。


 仮面共を拷問したことで、闇討ちの首謀者は判明していた。

 正体は都市内でも有数の豪商の一人だ。

 俺も知っている名前であり、ドルグからも懇意にされている。


(はてさて、どこで恨みを買ったのやら……)


 考えてみたものの、生憎と心当たりがない。

 俺の暴走が巡り巡って商売にダメージを与えたのだろうか。

 不利益を被ったのなら、直談判でもしてくればいいのに。

 クレームにはいつだって応じるつもりだ。

 必要なら謝罪だってする。

 闇討ちなんて卑怯な真似をする前に、合法的な手段で抗議してほしいものだ。


 まあ、今となってはどうでもいい。

 相手の素性は割れた。

 数日以内に襲撃しようと思う。

 舐められたまま泣き寝入りするのはナンセンスだ。

 闇討ちを命じた臆病者には、誰に喧嘩を売ったのかをしっかり教えてやらねば。


 脳内のスケジュールに新たな予定を組み込みながら、俺は屋敷へと戻った。

 正門を開けて敷地内に入る。

 どれだけ問題を起こしても、この屋敷は与えられたままだった。

 ドルグから没収されるようなこともない。


 活動拠点を縛って、俺の行動をコントロールするつもりか。

 十分にありえる話だ。

 使用人もいるので監視も容易だろう。

 野放しにするとまずいとは思われていそうである。


 屋敷へ入ろうとしたところで、庭先からアリスが駆け寄ってきた。

 心なしかそわそわとしている。

 何事かと思っていると、彼女は意を決して切り出した。


「改良したゴーレムを見てほしいのだけれど、時間はあるかしら」


「ああ、大丈夫だ。俺も気になっていたところさ」


 パワードスーツのことを話してから、アリスは随分と奮闘していた。

 あれからも何度か助言を求められたが、ついに形になったようだ。

 覗き見するのも悪いので、経過報告があるまで触れないようにしていたため、俺もどうなっているかは知らない。

 思い付くままにアイデアを出したが、果たしてどうなっているのか。


 もっとも、それほど心配はしていない。

 アリスのことだ。

 さぞ面白いことになっているのだろう。

 彼女の天才ぶりは今に始まったことではなかった。


 俺はアリスに手を引かれて倉庫へ移動する。

 アリスは扉を閉めると、何重にも施錠を行った。

 そして扉が開かないことを確かめる。

 随分と念入りだ。

 成果を使用人達に見せたくないらしい。


 確かにそれが賢明だろう。

 ショットガン程度ならまだしも、パワードスーツには相当な技術が導入されている。

 下手に勘付かれても、厄介なことになる気しかしない。

 何らかの開発を進めていることは察知されているだろうが、その内容を教えてやる義理もあるまい。


 二人きりになった倉庫内には、ゴーレムカーが停めてあった。

 俺の記憶の中のそれと比較すると、車体の端々が微妙に変化している。


 まず外付けの装甲がスマートになっていた。

 代わりに表面の魔術回路が増えている。

 無駄を削ぎ落として洗練された設計だ。

 アリスの努力が窺える。


 一方、武装の大幅な追加などは見られなかった。

 これが本当にパワードスーツになるのか。

 見た目からはとても考えられない。


 アリスはゴーレムカーの前に立ち、両腕を横に伸ばした。

 そして脚を肩幅に開く。

 さっそくお披露目してくれるらしい。


 邪魔をしないように、俺は少し離れて見守る。

 アリスは姿勢を保ったまま呟く。


「まずは装着ね」


 その途端、ゴーレムカーがエンジンを吹かせて作動した。

 車体が折り畳まれるようにして変形していく。

 装甲の内側が蛇腹状になっており、それがコンパクトな動きを可能としているようだ。

 変形した車体は、次々とアリスの身体に纏わり付いていく。

 魔力の光で室内を照らし上げながら、形を組み上げていった。


 そうして光が治まった時、俺の目の前には装甲に包まれた大柄な人型が佇んでいた。

 身の丈は俺よりも高く、七フィートはある。

 全体的に寸胴な体格だ。

 頭部も着ぐるみのように大きい。

 手足は丸太のように太く、何かのマスコットキャラクターのようだ。


 数秒前まで車だったとはとても思えない。

 本当に映画のCG演出のようだ。


「すごいな。本当にパワードスーツじゃないか」


 俺はアリスの背面に回り込む。

 パワードスーツは金属の大きな箱を背負っていた。

 そこに車内の荷物を入れてあるのだろう。


 箱の側面からは四本のアームが生えていた。

 それぞれに物を掴むための爪が付いている。

 箱の上部が開き、一本のアームがロケットランチャーを取り出した。

 それを自然な動作でアリスの腕に渡す。

 アリスはロケットランチャーを構えながら微笑んだ。


「どう? ジャックさんの想像通りにできているかしら」


 ややくぐもった声が聞こえてくる。

 パワードスーツを装着したアリスは、腰に手を当てていた。

 誇らしげな様子である。


 俺は素直に拍手を送った。


「想像以上だな。ここまでのものができるとは思わなかった」


「今は最低限の機能しか搭載していないけれど、ここから全身の各部に武装を加えるつもりよ」


 アリスは身振り手振りを交えながら説明する。

 動きに鈍重な感じはない。

 これなら実戦でも使えそうだ。

 従来のゴーレムカーと同等の防御性能があるのなら、生半可な攻撃では傷付かない。

 仮にアリスが前線に出たとしても、安心して任せられそうであった。


 そんなことを考えていると、何かのロックが外れるような音がした。

 音の出所を探る前に、パワードスーツの右腕部分が射出され、俺に向かって真っ直ぐに飛んでくる。


「おっと」


 俺は前腕で弾いてガードした。

 それなりの衝撃が伝わってくるも、レベル補正のおかげで痛みはない。


 軌道が逸れた金属の右腕は、倉庫の壁に激突してめり込んだ。

 拳を中心にして、壁に亀裂が走る。

 あまりの勢いに貫く寸前だ。


 それを目にした俺は、苦笑気味に尋ねる。


「これも機能の一つかい?」


「……連結部分の不具合ね」


 アリスは若干の間を置いて答える。

 顔は見えないが、なんとなく気まずそうだった。


 アリスは壁にめり込んだ右腕を回収しようと前に踏み出す。

 その瞬間、彼女の左足の裏からジェット噴射が発生した。

 パワードスーツが急な角度で跳び上がる。


「あっ」


 体勢を崩したアリスは、そのまま壁にタックルした。

 弾みでパワードスーツがばらばらに空中分解し、中身のアリスも飛び出す。

 あのままでは怪我をしてしまう。


 床を蹴った俺は、彼女をお姫様抱っこの要領でキャッチした。


「おっと、大丈夫かい?」


「…………」


 腕の中のアリスが目を逸らす。

 その横顔は、心底から申し訳なさそうにしていた。


「ごめんなさい。まだ改善点があるようね」


「いや、ここまで形になるなんて上出来だ。俺には真似できない」


 俺は優しい声音で慰める。

 伝えているのは、本心からの言葉だった。


「何事も失敗はつきものさ。応援しているよ」


「――ありがとう。もう少し頑張ってみるわ」


 小さく拳を握ったアリスは、陰りを消して笑った。

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― 新着の感想 ―
ポンコツマッド美少女アリスちゃんうん百歳かわいい
[良い点] アリスちゃん……可愛い(●´ω`●) [一言] 大丈夫、次は絶対大丈夫だよ!
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