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第5話 爆弾魔は実力行使で手がかりを得る

 無事に街へ入った俺は、薄暗く寂れた区画――スラム街を歩いていた。

 いつ倒壊してもおかしくないほど古びた建物群。

 あちこちにゴミが転がり、所々で異臭がする。

 時折、生きているのか死んでいるのか分からない者も倒れていた。

 安全や清潔感といった言葉とは無縁の場所である。


 そこで道行く人間に聞き込みを行っていた。

 魔術に詳しい者を探すのが目的である。


 表通りは人が多すぎる。

 ライフルで追っ払い続けるのも面倒だった。

 加えて増援の兵士がやってきたりするので、聞き込みの効率が悪かったのである。


 それに比べてスラム街は実に快適だ。

 基本的に静かだった。

 たまに誰かの奇声や悲鳴が聞こえるも、それくらいは許容範囲だろう。

 小粋なBGMみたいなものである。

 図太い神経さえ持っていれば、見た目とは裏腹に住みやすいかもしれない。


 遭遇する人間も、意外と無害な者が多い。

 酔っ払いや子供などが大半で、質問にもすんなりと答えてくれた。

 ありがたい限りである。


 ちなみに宿泊場所については、辺りに廃屋がたくさんあるので解決した。

 どこかを適当に使えばいいだろう。

 これだけ空き家だらけなのだから、文句も言われないはずだ。


 現状、聞き込みで分かったことがいくつかある。

 まず一つ。

 この世界には魔術師はそれなりにいるらしい。

 その実力は幅広く、個人の適性によって使える魔術の種類が異なるのだとか。


 召喚魔術や送還魔術のような空間に干渉するタイプは、使い手がほとんどいないそうだ。

 しかも大魔術に分類されるもので、相応の設備や材料も必要なのだという。

 肝心の手順や魔法陣も国に秘匿されており、個人単位での行使は不可能に近いとのことである。


 正直、あまり嬉しくない情報ばかりだった。

 だが把握しておくべきことでもある。

 そう簡単に帰還できないことは察していた。

 世界を行き来するなど、並大抵のことではない。

 具体的な方針が定まっただけでも収穫だ。


 帰還魔術の適性を持つ人間の捜索と、必要な設備と材料の準備。

 実現までの道は遠いが、めげずに頑張ろう。


 そんなことを考えながら歩いていると、前方に十人くらいの男達がいた。

 浮浪者にしては小奇麗な服装をしている。

 粘質な視線が俺を観察していた。


 衣服に手を添えている者が、やや不自然な動きをする。

 どうやら武器を隠し持っているようだ。

 彼らは路地を占拠する形でたむろしている。

 案の定というべきか、俺の進路を塞ぐ位置であった。


 近くに曲がり道はない。

 ここで踵を返すのも時間の無駄だろう。

 俺は男達に歩み寄って声をかける。


「すまないが道を空けてくれないか。この先に用があるもんでね」


 そう伝えると、男達が一斉に動き出した。

 ただし、素直に道を譲ってくれたわけではない。

 彼らは無言で俺を取り囲んで来た。

 これでは引き返すこともできない。


 場に剣呑な空気が漂い始める中、スキンヘッドの大男が手を差し出してきた。


「通行料を払いな。ここは俺達の縄張りだ」


 その言葉を聞いた俺は、ため息を吐きそうになる。

 こんなスラム街の路地で通行料とは。

 随分とケチな連中である。

 縄張りということは、スラム街を取り仕切っているのだろうか。

 こういう輩は世界が変わっても存在するらしい。


「おら、早く出せやっ!」


 向こうの言い分に呆れていると、いきなり横から突き飛ばされる。

 ふらついた先には、別の男が待ち構えていた。


「強がっても無駄なんだよォ!」


 肩を掴まれて押し飛ばされた。

 俺はみっともない姿勢で転びかける。


 男達から下卑た笑いが上がった。

 まったく、何が楽しいのやら。

 人を馬鹿にするのは大概にしてほしい。


 嘲笑に包まれながらも、俺は胸ポケットを探る。

 確か瓶コーラを買った後に、ここへ入れたはずなのだが……。


「ほらよ、ブラザー。悪いがこの国の金は持ってないんだ。ドル紙幣でいいかい?」


 そう言って俺は、くしゃくしゃの紙幣を見せる。

 スキンヘッドの男は、それを乱暴にひったくった。


「なんだぁ、この紙切れは? 馬鹿にしやがって……ふざけてんじゃねぇぞッ!」


 男は紙幣を破り捨てて激昂すると、ノーモーションから殴りかかってきた。


 笑みを消した俺は片腕でガードする。

 存外に派手な音が鳴るも、不思議とまったく痛くない。

 丸めた画用紙で小突かれたくらいの感覚だった。


 対するスキンヘッドの男は、拳を押さえて痛がっている。

 周りの連中も怪訝そうにしていた。

 構図から推測するに、スキンヘッドの男はリーダー的な立ち位置のようだ。


「このクソがああああぁああああッ!」


 顔を真っ赤にしたスキンヘッドの男は、助走をつけて蹴りを放ってくる。

 今度はあえて無防備に受けて、数歩ほど後退した。


「……ふむ」


 俺は蹴りを食らった腹を撫でる。

 やはり痛くない。

 骨くらい折れてもおかしくない受け方だったのに。


 たぶんレベル補正だろう。

 ゲームで言うところの防御力が高すぎるのだと思う。

 もしかすると、銃弾くらいでは傷付かなくなっているかもしれない。

 率先して試す気にはなれないが、頭の片隅に置いておこう。


「こいつ、舐めた真似をォ……!」


 二度の攻撃を無駄にしたスキンヘッドの男は、未だに激昂していた。

 他の連中も殺気立っている。

 今にも跳びかかってきそうだった。


 俺は紙幣を拾って胸ポケットに戻す。


「お金は大切にしようぜ? いい加減な扱いだとツキが逃げちまうよ」


 そう言いながら、俺はナイフを取り出した。

 場の空気がさらに張り詰める。

 スキンヘッドの男が険しい顔で凄んできた。


「一人でこの人数を相手に戦うってのか? 無理すんじゃねぇよ。今すぐ謝れば、命だけは取らないでやる……早く金を出しな」


「そっちこそ後悔すんなよ? まあ、謝っても命は貰うがね」


「野郎……ッ!」


 目を見開いたスキンヘッドの男が、鞘から曲刀を抜いた。

 それを合図に他の男達も武器を構える。

 無数の殺気を浴びながらも、俺は微笑む。


 聞き込みばかりで、ちょうど辟易していたところだ。

 少しばかり気分転換でもしようか。




 ◆




「自業自得って言葉を知ってるか? 知り合いに聞いたイディオムなんだが、まさにこの状況にぴったりなんだ」


 俺は足元のスキンヘッドの男に話しかけた。

 仰向けになった男はぎろりと睨んでくる。

 なんとも恐ろしい顔だが、手足の腱を切ってあるので無力だ。

 悔しさに震えることしかできない。


 辺りには男達の死体が散乱していた。

 首が裂けていたり、胸を抉られていたり、頭部が吹き飛んでいたりとバリエーションに富んでいる。

 どれも俺がやったものだ。


 実に簡単な作業で、片手間に殲滅することができた。

 レベル差もあるのだろうが、彼らの戦闘技術はお粗末だったのだ。

 芯が脆いとでも言おうか。

 所詮は弱者を虐め抜くための力に過ぎなかった。


 ちなみに男達は、揃いのバッジのようなものを着けていた。

 どこかの組織の一員なのかもしれない。

 まあ、俺には関係のないことだ。

 その組織に遭遇することがあれば、まとめて爆破してやればいい。


 死体を一瞥した俺は、ふと思い出す。


「そうそう、通行料だったか。残り少ないあんたの寿命を三分だけ延ばすというのはどうだろう? この状況で長生きできるんだ。破格の提案だと思わないか?」


「ぐっ、ふざけた真似を……俺達が誰か知らないのか? こんなことをしてタダで済むと――」


 俺は男の胸部を踏み付け、その口にライフルの銃口を突き込んだ。

 軽い衝突感を伴って、何かが折れる音がする。

 見れば男の前歯が割れていた。

 俺はライフルの引き金に指をかける。


「おおっと、質問に質問で返すなよ。立場をよく考えて発言するんだ。寿命が三分どころか三秒になっちまう」


「あ、あがっ……!?」


 男は銃口をくわえたまま呻く。

 随分と苦しげだった。

 動かせない手足を震わせている。


「どうだい。生きたいか?」


「…………っ」


 男は小さく頷いた。

 俺が銃口を口から外すと、僅かに安堵した表情を見せる。


「よし。じゃあ、その延びた寿命で答えてもらおう。この街に優秀な魔術師はいるかい? 空間に干渉できるような凄い奴だ」


「ま、魔術師……だと?」


「ああ。野暮用で探しているんだ。何か知っているか」


 俺の問いかけに対し、男は必死になって考え込む。

 そして恐る恐るといった調子で答える。


「……あ、あの魔女なら、もしかすると、空間魔術も使えるかもしれない。確証はないが……」


「あの魔女?」


「この街に住む、錬金術師の女だ。自作の魔道具やポーションを、売って暮らしている……あいつは恐ろしい力を持っているという噂がある。調子付いて強盗へ入った奴らは、ただの一人も帰ってこなかった……以来、誰も近付きたがらない」


 面白い単語がいくつか出てきた。

 少し興味の湧いた俺は質問を続ける。


「そいつはどこにいる?」


「スラム街と表通りの境にある屋敷だ……そこに、引きこもっている。つ、作った商品は、仲介業者に取りに来させている……」


「なるほどな」


 俺は顎を撫でつつ考える。


 錬金術師か。

 男の話を聞くに、魔術関連の職人だろう。

 特殊な技術を持っている可能性がある。


 送還魔術に関しても何か知っているかもしれない。

 或いは彼女自身が使い手というパターンもありえる。

 最悪、何らかの意見だけでも仰ぎたかった。


「他に該当する魔術師の候補はいるのか?」


「お、俺が思い付くのは、あの魔女だけ、だ……空間魔術の適性を持つ人間は、帝都の宮廷魔術師に、なることが多い……探すなら帝都へ行った方が早い」


 それを聞いた俺は苦笑する。

 帝都はもう滅んでしまったからな。

 探すも何もない。

 逆に言えば、そういった人材を集めていたからこそ、召喚魔術を使用できたのだろう。


 それにしても、ようやくまともな情報が手に入った。

 何の事前知識もないから手間取った。

 この世界の常識についても学んだ方が良さそうだ。


 無知を悪とは思わないが、色々と面倒だからな。

 帰還するまではこの世界で暮らすのだ。

 徐々に知識を増やしていこう。


 その後、俺は男からその錬金術師の屋敷の場所を聞き出す。

 口頭説明を記憶して道順を把握した。

 ここから近いらしい。

 尚更好都合である。


 知りたいことはこれくらいか。

 あとは現地でどうにかするしかない。

 そう判断した俺は、男の口に再び銃口を突っ込んだ。


「おご、あ……ッ!?」


「慌てるなよブラザー。せっかくのハンサム顔が台無しだ」


 激しく身をよじる男を宥める。

 いきなり暴れないでほしい。

 ちょっとした拍子に引き金を引きそうになってしまう。


 笑いそうになるのを堪えながら、俺はあっさりと告げる。


「情報収集は完了したからな。あんたは用済みってわけさ」


「あ、ごぁ……がっ……」


 男は涙を流しながら首を横に振った。

 何を言いたいかは分かる。


「見逃してほしいんだな?」


「…………」


 無言で頷く男。

 悪人面が情けないことになっている。

 まるでショッピングモールで迷子になった子供だ。


 俺は深々とため息を吐き出す。


「仕方ねぇな。情報をくれた誠意に免じて、一つ賭けをしよう」


 そう言って俺はライフルを指差す。

 男はこちらの提案をまだ理解していない。


「こいつに弾が入っているかどうか。あんたのお仲間を殺った時に使ったが、装填し直したかは憶えていない。あんたは憶えているか?」


「う……あ、ぐぉ……」


 男は首を横に振る。

 目に絶望の色が浮かんできた。

 今から始まることを察したらしい。


 俺は気にせず話を続ける。


「お前を生かすか否か、この銃に訊いてみようじゃないか。もし弾が入っていなければ再装填せず、二発目は撃たない。神に誓おう。もし弾が入っていれば、あの世行きだ」


「ぐら、ぁがっ……!」


「拒否権はないんだよ。さぁ、覚悟を決めろ。準備はいいか?」


「がっ、ごぇ、あ、ああッ!」


 往生際の悪い男だ。

 ここに来て抵抗し始めるとは。

 既に手遅れだというのに。


 暴れる男を押さえ付けた俺は、ライフルの引き金を引いた。

 カチリ、と虚しい音が鳴る。

 弾丸は入っていなかった。

 俺は口笛を吹く。


「へぇ、とんだラッキーボーイだな。銃はお前を許したようだ」


「…………っ」


 途端、男は脱力する。

 びっしょりと汗を掻いていた。

 荒い呼吸をしながらも、強い安心感を覚えているようだった。


 その表情が、固まる。

 何かに驚いた様子の男は、視線をゆっくりと下にずらす。


 俺の握るナイフが、男の胸を刺し貫いていた。

 柄をひねると、鮮血が溢れ出してくる。

 俺は淡々と男に告げる。


「あぁ、確かに銃はお前を許した――だが、俺は許さない」


 言い終えると同時にナイフを引き抜く。

 出血の勢いが増して一気に迸った。


 男はがくがくと震え出す。

 やがて動きは弱まり、白目を剥いて死んだ。

 俺は立ち上がり、ナイフの血を振り払う。


(まったく、この世界は歩いているだけで絡まれる……)


 しかも厄介な連中ばかりだ。

 必然的にこの手を汚すことになる。


 別に俺は快楽殺人者ではない――と思う。

 あくまでも売られた喧嘩を買い、迷惑料を込みで報復するだけである。

 軽んじられるのが我慢ならないのだ。


 まあいいか。

 絡まれるのも悪いことばかりではない。

 代わりに有力な情報が手に入ったのだから。


「錬金術師、か」


 会いに行くしかない。

 現状、唯一とも言える明確な目的地である。


 錬金術師はどんな人物だろう。

 協力的な性格なら嬉しいのだが、前情報から考えると微妙なところだ。

 危険人物の可能性も十分にある。


 ただ、俺にとって重要な存在であることに違いはない。

 苛立つことがあっても、なるべく耐えるようにしなければ。

 大海のように深い心を意識しよう。

 苦手分野だが努力する。

 これも元の世界へ帰るためだ。


 密かに決心しつつ、俺はその場を後にした。

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人は殺せないとかいう軟弱な主人公よりすがすがしい
[良い点] かっこよすぎて草
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