第49話 爆弾魔は異世界知識の助言をする
別荘で暮らし始めてから数日が経過した。
ドルグからの呼び出しはない。
今頃は俺の担当する仕事を準備しているのだろうか。
特にやることもなかったため、その間に俺は新たな武器を作製していた。
屋敷の私室で寛ぎつつ、俺は出来上がったものを並べる。
真ん中にあるのは、精霊石の爆弾だ。
炎、雷、風の三種の属性がある。
いずれも精霊を封じ込めた稀少版で、粘着機能を有したリモートタイプだ。
やはりこの組み合わせが安定する。
任意のタイミングで起爆できるのは使い勝手が抜群に良く、どの場面でも活用できるのだ。
ちなみに材料はすべてドルグ経由で発注してもらっている。
おかげで俺個人の出費はない。
高価な材料も遠慮なく使うことができた。
精霊石の爆弾の隣には、大きな金属製の筒が置いてある。
筒にはグリップと引き金が付いている。
これはロケットランチャーだ。
ただし、ドラゴン戦で使ったような追尾式のミサイルランチャーではない。
こちらはロケット弾を真っ直ぐに飛ばすだけである。
筒状の発射装置はアリスに頼んで作製してもらった。
弾は俺の自作だ。
特別な機能がない分、材料コストや作製難度は低い。
基本的にはミサイルランチャーの代用なので、これくらいで十分だ。
とは言え、このロケットランチャーもなかなか侮れない。
汎用性は高く、敵車両や建物の破壊など様々な場面で使える。
動きの遅い大型の魔物にも有効だろう。
安価な弾だが、破壊力はそれなりにある。
総合的な性能は非常に高い水準を誇る武器だ。
先制攻撃に最適で、困った時はとりあえずぶっ放しておけばいい。
ゴーレムカーに積んでおけば、そのうち役立ってくれると思う。
ロケットランチャーの隣にあるのはショットガンだ。
一般流通するライフルを改造したもので、銃身が二本並んだ水平二連式である。
工具とガラクタで無理やり改造して作ってみた。
少し不格好だが、動作面に問題はない。
専用の弾薬――ショットシェルも作製してある。
ショットガンは前からずっと欲しかった。
一挺あるだけで安心できる。
護身用にも最適で、室内戦闘にも向いている。
現在、ポンプアクション式も作製中だ。
内部構造を大幅に弄らなくてはならないので、時間がかかっている。
もっとも、材料は豊富にあるので、近いうちに完成しそうだった。
実際、銃の自作は何度となく経験している。
ゴミ捨て場にあったものだけで銃と爆弾を作り、暗殺を達成したこともあった。
仕事によっては、入念な準備ができないことも少なくなかったのだ。
これだけ恵まれた環境なら、それなりのものが作れる。
そもそもなぜ武装を整えているかと言えば、今後の保険だった。
ドルグの部下という立場上、きっと荒事にも頻繁に携わることになる。
今のうちにできることをしておきたかった。
たとえそれが杞憂だったとしても、どのみち損はしない。
新しい銃器や爆弾は多い方がいいのだから。
幹部という権力が有効なうちに、その恩恵をフルに活かす所存だった。
数日の成果を確かめた俺は、ショットガンを片手に部屋を出る。
その足で屋敷の庭へと赴いた。
気分転換と性能チェックを兼ねて射撃訓練をするためだ。
ただし、爆弾は危ないので試すのはショットガンだけにする。
他の武器は実戦での使用を楽しみにしておこう。
的の設置が済んだところで、俺はショットガンの装填を行う。
この銃は中折式となっており、二発ごとに再装填を要する。
連射ができる分、単発よりはマシといったところか。
「さて、どんなものかな」
俺はショットガンを構えて発砲する。
小さな粒の散弾が放たれ、前方に並べた数本の瓶が割れた。
砕けた瓶が芝生の上に落下して転がる。
次にショットガンの狙いを横にずらして再び撃つ。
今度は丸太にいくつもの穴が開いた。
散弾が掠めたのか、表面の一部が削れている。
「ふむ」
俺は排莢と再装填を行うと、腰だめの二連射を繰り出す。
中古の金属鎧が抉れ、胸部が大きく引き裂かれた。
散弾はしっかりと貫通している。
倒れた鎧を眺めつつ、俺はショットガンを下ろした。
「オーケー、悪くない」
使い勝手はまずまずだ。
射撃精度もほどほどで、破壊力もある。
人間を相手に撃ち込んでも、有効なダメージを与えられるだろう。
散弾という特性上、咄嗟の射撃でも命中しやすい。
「さすがです、ジャック様」
近くで見ていた使用人達が、称賛の言葉を送ってくる。
彼らはああやって監視しているのだろう。
俺の作った武器も、ドルグに報告しているに違いない。
まあ、これくらいは知られても構わなかった。
秘匿するほどのことではない。
どうせ使っているうちに知られるだろう。
それなら堂々としていた方がいい。
使用人達から視線を外した俺は、庭先のガレージに注目する。
そこでは、アリスがゴーレムカーを改良していた。
近くには無数の金属部品が山積みになっている。
あの部品の山は、ドルグから譲り受けた装甲車だ。
構造に興味を抱いたアリスが城にあった一台を貰い、その日のうちに解体したのである。
些か大胆な行動だが、ドルグからは何の注意もされていない。
むしろゴーレムカーがどうなるのか期待されていた。
ここ数日、アリスはずっとあの調子だった。
なかなか熱心に取り組んでいるようだ。
邪魔するのも悪い。
今は声をかけないでおこう。
◆
その日の午後、私室に戻った俺は、とある文書を読み込んでいた。
文書には街の情報屋を経由して手に入れた情報が記されている。
内容は、俺が爆破した帝国についてだ。
ふと気になったので、依頼してみたのである。
文書によると、現在の帝国では後継者争いが勃発しているらしい。
皇帝の血を引く者同士が、熾烈な争いを繰り広げているそうだ。
国内全域を舞台とした大規模な戦争である。
帝都の爆発については、都市核の誤作動による事故と見なされているのだという。
あれが作為的なものだと気付いている者もいるだろうが、通説とはなっていないようだ。
まあ、後継者争いが活発みたいなので、それどころではないのだと思う。
帝国については、当分は静観するつもりだ。
現状、俺には関係のない出来事である。
俺を召喚した挙句、奴隷にしようとした人間は既に始末した。
国そのものに恨みはない。
首都を失った国を誰が引き継ぐのであれ、黙って見守るつもりだ。
無論、俺に敵対するのならその限りではない。
牙を剥いてくるのなら、即座に吹き飛ばしてやろう。
二度と報復行為を考えられないようにする所存である。
もっとも、このまま国内で争い続けるようなら、衰退した末に他国に呑まれる気がする。
それこそエウレアが侵略を考えれば、容易に達成できそうだ。
ドルグならすんなりと実現しかねない。
(その時は、俺も戦争に参加するのか……面白そうではあるな)
帝国の行く末を想像していると、私室の扉がノックされた。
俺は文書を脇に置いて応じる。
「誰だい?」
「ジャックさん、ちょっといいかしら」
アリスの声だ。
俺は扉を開けて彼女を部屋へ招き入れる。
「どうしたんだ」
「ゴーレムの改良で少し相談があるの。ジャックさんに意見を貰いたいのだけれど大丈夫?」
「もちろんさ。遠慮なく言ってくれ」
俺が気軽にそう答えると、アリスは開発状況を説明し始める。
彼女の話をまとめたところ、ゴーレムカーが室内戦に対応できない点で行き詰まっているらしい。
いくつかの形態を模索しているそうだが、どうにもイマイチなのだという。
特にアリスの身を守る機能の実装が難しいとのことだった。
「浮遊する盾に変形させたり、小型のゴーレムに分裂させる案もあるのだけれど、狭い場所だと咄嗟の防御が間に合わない場合があるから。かと言って、魔術だけに頼るのは不安が残るわ。物理的な防御がほしいの」
「確かにな。万全な守りにした方がいい」
「そこで異世界人のジャックさんなら、参考になる技術を知っているかと思ったの。何かいい案はないかしら」
「なるほど。異世界の技術か……」
俺は腕組みをして考える。
専門外の話だが、アリスに期待されているのだ。
すげなく降参するのも格好が付かない。
(しかし、元の世界にゴーレムなんて無いからなぁ。似たようなものといえば、ロボットくらいだが……)
そこまで考えたところで、俺は閃きを得る。
条件に合致したものが知識の中にあった。
俺はそれをアリスに提案する。
「実現できるか分からないが、パワードスーツなんていいんじゃないか」
「ぱわーどすーつ?」
首を傾げるにアリスに、俺はパワードスーツの説明をする。
とは言え、俺の知識なんてSF映画や漫画から得たものだ。
肝心の中身もうろ覚えで、詳しいメカニズムなどは知らない。
とりあえずパワードスーツの概要と、劇中での使われ方などを伝えた。
それを真剣な顔で聞き終えたアリスは、大いに納得した様子で頷く。
「鎧として纏うことで、携帯性と防御性を両立させるのね。確かにそれなら室内でも同行できそうだわ。さすがジャックさんね。とても物知りだわ」
「そうでもないさ」
「さっそく今から設計図を作ってみるわ。そこまで時間はかからないはずよ」
少し早口で述べたアリスは、駆け足で部屋を出て行った。
難航していた開発の活路が開けたことが、よほど嬉しかったらしい。
あの調子なら、すぐに完成するだろう。
ちょっとしたアドバイスだったが、役に立てたのならよかった。
さらなる強化が施されるゴーレムカーを楽しみにしつつ、俺は部屋の扉を閉めた。




