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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第47話 爆弾魔は巨竜人と手を組む

 俺はドルグの提案に片眉を上げる。

 まさか俺を仲間に誘うとは予想外だった。

 冗談で言っている雰囲気でもない。

 ドルグは本気でスカウトしようとしている。


 俺はドルグに歩み寄りながら疑問を呈する。


「正気かよ。あんたの組織をぶっ潰した男だぜ? 恨みは無いのかい」


「そんなものは欠片も無い。儂は力を重んじる。お前さんは、その力で敵を殺しただけだろう。規模の差こそあれど、この国では日常的に行われていることよ」


 ドルグは悠々と言い放つ。

 何の偽りも感じられず、そこには強者の威厳と余裕があった。

 紛うことなき彼の考えだ。


「それに、儂の傘下にある組織は数百にも及ぶ。お前さんが潰したものなど、その一割にも満たん。元より気にすることではあるまい」


「豪快な意見だな。死んじまった部下に同情するよ」


 俺は思わず苦笑いを浮かべる。

 もっとも、加害者である俺が悼んだところで、誰も喜びやしないだろう。

 一連の殺戮は、成り行きで起きてしまったものだ。

 誰が悪いということもない。

 結果的に俺が生き残っただけである。


 一方、玉座に座るドルグは僅かに身を乗り出した。


「話が逸れたが、儂はお前さんを部下にしたい。強大な個人戦力は貴重だ。是非とも仲間になってほしい」


「俺にメリットはあるのかい?」


「エウレア全域における地位を確約しよう。儂に可能な範囲であれば、お前さんの要望にも応える。金も女も名誉も揃えてやる」


 本当ならとんでもなく旨い話だ。

 故に怪しい。

 こういう場合、大抵は裏がある。

 額面通りに信じられるほど俺はピュアじゃない。

 ドルグの様子を観察しながら、続けて質問を投げる。


「あんたの部下になったら、どんな仕事をするんだ?」


「担当地域の運営や問題解決、販路の拡大に携わってもらう。お前さんを幹部に据え置きたいのでな。様々な業務は任せたいと考えている」


「幹部だって?」


 驚く俺に対し、ドルグは平然と首肯する。


「儂の直属の部下になってもらうのだ。相応の役職は必要だろう」


「仕事量はどうなる?悪いがあまり束縛されたくない主義なんだ」


「お前さんの行動を極端に縛り付けるつもりはない。基本的には自由にやってくれていい。他に幹部もいるのでな。お前さんに回す仕事はなるべく減らそう」


 ドルグは手を広げて語る。

 やはり嘘を言っている様子はない。

 それにしては、俺にとって都合のいいことばかりだった。


 いや、違う。

 ドルグは極端なまでの実力主義者だ。

 俺という爆弾魔を仲間に引き込んだ時点で、相応の利益になるのだろう。

 彼は先行投資を辞さないタイプらしい。

 膨大な富を積むだけの価値を俺に見い出している。


「儂はお前さんの力を高く評価している。その狂った眼がいい。暴力を敬愛している者の眼だ」


「そんなに褒めるなよ。何も出て来やしないぜ」


「褒めていない。ただの事実だ。エウレアでは力こそ全て。お前さんはその風潮に完璧に馴染んでいる。儂はそういった人材を求めているのだ。どうだ? お前さんの答えを聞かせてくれ」


 そこでドルグは沈黙する。

 俺の返事を待っているのだ。


 正直、悪くない条件であった。

 エウレアのトップの後ろ盾を得られるのは大きい。

 パトロンとしては最適だろう。

 懐が潤うことで、様々な研究や開発を進められる。

 元の世界への帰還も実現に近付くはずである。


 ドルグに従うというのも別に嫌ではない。

 俺は軍人や傭兵で生きてきた人間だ。

 ギブ・アンド・テイクの関係には慣れている。

 たとえ犯罪組織の親玉でも、待遇さえ良ければ抵抗はなかった。


 考えの決まった俺は、ドルグに答えを告げる。


「交渉成立だ。俺はあんたの部下に――」


「お待ちください」


 俺の言葉を遮るように声が発せられた。

 そちらを見れば、部屋の入口に仮面の女がいる。

 彼女はつかつかとこちらへ近付いてくる。


 それを目にしたドルグは目を細める。


「シュナか。どうした。お前さんを呼んだ憶えはないが?」


「ご無礼をお許しください。この者は危険です。幹部への配属は些か早計かと」


 仮面の女シュナは冷静に述べた。

 俺とアリスには見向きもせず、真っ直ぐにドルグのもとへ歩いていく。


「お前さんが意見するとは珍しい。ジャックをここまで案内してくれたではないか」


「私は招致の目的を聞かされていませんでしたので。ドルグ様が直々に処罰されるものかと思っておりました」


「俺が幹部になることがそんなに不満かい?」


 傍観する理由もないので、俺は声をかける。


「…………」


 シュナは足を止めて振り返った。

 仮面の奥の冷徹な眼差しが、俺を一瞥する。


「不満です。エウレア国内での貴方の素行は、報告書で把握しております。とても幹部に適しているとは思えません」


 シュナは毅然と答えた。

 その言い方に俺は少し苛立つ。

 一方的に呼び出しておきながらこの扱いだ。

 まるで俺が悪いかのように語りやがる。


 俺は片脚を前に出した。

 その姿勢でシュナと目を合わせる。


「俺の靴でも舐めてみるかい? そしたら辞退も考えてやるさ」


「戯言を――」


 侮辱を受けたシュナが殺気を放つ。

 今にも襲いかかってきそうな気迫だ。

 仕掛けてくるのなら、容赦なく殺してやろう。

 これは正当防衛だ。

 ドルグも非難はしないはずである。


 腰の拳銃に手を伸ばそうとしたところで、アリスが俺の前に割り込んだ。

 彼女は俺を後ろに押しながら、シュナに告げる。


「彼に手を出さないで」


「アリス」


「私に任せて」


 アリスは動こうとしない。

 怒っているのだろうか。

 俺の前に立っているので表情は見えない。


「…………」


 シュナはアリスを凝視する。

 その手元が閃いた。


「ドルグ様は貴方の処遇までには言及していない」


 呟いた直後、シュナがこちらへ駆け出す。

 その手にはナイフが握られていた。

 無音で迫るその動きは、一流の暗殺者のそれであった。


 シュナが目前まで踏み込んだ瞬間、アリスの前面に青い半透明の障壁が展開された。

 防御魔術だ。

 ゴーレムカーに搭載された盾の機能と酷似している。

 多重に発生した障壁は、突き込まれたナイフを受け止めた。


「……っ」


 シュナが小さく舌打ちをする。

 大部分が破壊されながらも、障壁はナイフを防ぎ切っていた。

 刃はアリスのもとまでは届いていない。


 役目を果たした障壁が僅かに波打つ。

 すると表面が剣山のように尖り、勢いよく伸びた。


 いち早く察知したシュナは飛び退いて回避行動を取る。

 着地した彼女は、自身の手足を見やる。

 黒づくめの衣服が裂けて、垂れた血が床を汚していた。

 装着した仮面にも、小さな傷が付いている。


 防御魔術を消したアリスは、懐からペンダントを取り出した。

 青い結晶と銀細工であしらわれたものだ。

 彼女は息の一つも乱さずに言う。


「魔術師なら詠唱前に殺せると踏んだのね。甘く見ないでほしいわ」


 俺はアリスの肩に手を置いた。

 拳銃をちらつかせながらシュナに尋ねる。


「続けるか? 俺はいいぜ。お前の脳味噌に鉛玉をぶち込んでやるよ。一瞬であの世行きさ」


「…………」


 黙り込むシュナ。

 ナイフを持つその手が動こうとする。


「そこまでだ。余興も度が過ぎれば冷める」


 ドルグが仲裁の言葉を口にした。

 場の空気が明確に重たくなる。

 聞く者を服従させるだけの圧がかかっていた。

 ドルグは爬虫類の目でアリスを捉える。


「シュナの攻撃を捌くどころか、反撃にまで転じられるとは。そちらのお嬢さんも無碍にはできんな。お前さんも幹部に招こう」


「ありがとう。嬉しいわ」


 アリスは淡々と礼を言う。

 言葉に反して、特に嬉しそうではなかった。

 とても事務的な口調である。


 ドルグはそれに笑いながら、今度はシュナを見る。


「シュナ。異論を力で通そうとするのは構わん。だが、お前さんではその二人には敵わないだろう。理解はしているな?」


「……はい」


「儂も無為に部下を減らしたくない。ここらで手を引いておけ。二度は言わんぞ」


「――承知しました。出過ぎた真似をして申し訳ありません」


 シュナは謝罪を口にすると、そのまま速やかに部屋を出て行った。

 気配が遠のいていく。

 そこまで見届けたドルグはため息を吐いた。


「儂の部下がすまんな。忠誠心は十分だが、たまに生真面目すぎるのだ。あやつ自身も幹部だから、余計に異議を立てたくなったのだろう」


「いや、俺達は気にしていないさ。お互いに事情がある。これくらいなら、じゃれ合いの範疇さ」


「はっはっは。殊勝な男よな」


 ドルグはひとしきり笑うと、真剣な表情になった。

 そして、此度の交渉の最終確認をする。


「では、改めて問おう。儂の傘下に下り、幹部の地位を得るか?」


「ああ、喜んで。誠心誠意、働かせてもらうよ」


 こうして俺は、エウレア代表の一人である巨竜人ドルグの部下となった。

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