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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第46話 爆弾魔は首領と出会う

 街の中には、にぎやかな光景が広がっていた。

 見える範囲でも多種多様な種族がいる。

 露店などをひやかしたり、店主との値引き交渉を繰り広げている。

 雑然とした空気は、活気に満ちていた。


 全体的な印象は、城塞都市とほとんど同じだ。

 代表の支配する都市なので、もっとお行儀のいい街並みを想像していたが、どうやらそうでもないらしい。

 俺はこういった雰囲気の方が好みなので良かった。

 暮らしやすそうではある。


 城塞都市との相違点を挙げるとするなら、街の中央辺りに立派な城があることだろう。

 周囲の建物と比べると何倍も大きい。

 まるで誰が支配者かを知らしめるようにそびえ立っている。

 遠く離れているにも関わらず、その全体像が見えないほどだ。


 あそこにドルグがいるのだろう。

 先行する車両も城の方角へ向かっている。

 ここからなら大して時間はかからないはずだ。


 それはそれとして、先ほどから少し気になることがあった。

 先行車両を目にした街の人々が、足早に道を開けているのだ。

 正確には車両に付いた旗を見ていた。


 あの紋章にはやはり意味があるらしい。

 推測だが、ドルグの組織のシンボルだろう。

 この街において権威を振るっているようだ。


 進路上の人混みが真っ二つに分かれるおかげで、後続の俺達も快適に走ることができた。

 渋滞で進めなくなることもない。


「まるでモーゼだな」


「何の話?」


「ただの例えさ」


 その後、これといった出来事もなく城に到着した。

 城は深い堀に囲われており、門まで橋が架けられている。

 橋の上を進みながら、俺は堀を覗き込んだ。


「へぇ、面白いな」


 堀には鮫のような生き物が泳いでいた。

 落ちた人間を食うための罠だろうか。

 ただ、維持費を考えると実用性は低いはずだ。

 この世界の技術レベルなら、もっとマシな罠が設置できる。


 となると、金持ちの道楽なのだろう。

 飼育場所を考えるに、観賞用とは思えない。

 誰かを落として、苦しむ様を楽しむためのものだろうか。

 素晴らしい趣味の持ち主がいるらしい。


 城門の先には駐車スペースがあった。

 数台の車両が停められている。

 車両には装甲やハッチが設けられていた。

 備え付けの砲を撃てるような構造になっている。


「戦車か」


 だが、キャタピラーではなくタイヤで走るようなので、装甲車と称するのが正解だろう。

 何にしろ戦闘車両には違いない。

 まるで軍隊だ。

 誇張なしに戦争を始められる。


 俺は装甲車を凝視して、なんとなしに破壊方法を思案する。

 真っ先に閃いたのは地雷だ。

 車体を下から突き上げて、機能不全に陥らせることができる。

 タイヤが破損すれば、機動力は大幅に落ちる。

 ハッチから内部へ浸入するのも悪くない。

 車両を奪い取って戦うことも可能だろう。


「兵器開発が進んでいるようね。興味深いわ」


 アリスは別の観点で装甲車を見ているようだった。

 どうやら彼女は、ゴーレムカーに導入できる部分を探しているらしい。

 これは近いうちに模倣どころかグレードアップして搭載しかねない。

 密かに楽しみにしておこう。


 速度を落とした先行車両は、装甲車のそばに停まった。

 それに倣って俺もゴーレムカーを近くに停車させる。

 車両を降りた仮面の女が、静かに歩み寄ってきた。


「これより先は徒歩となります。盗難対策はありますのでご安心を」


「分かった。任せるよ」


 仮面の女の先導で、俺達は城内を進んでいく。

 城内は隅まで手入れが行き届いていた。

 国王の住まいと言われたとしても、何ら疑うことはないだろう。

 事実、俺を召喚した帝国の城と比べてもまったく見劣りしないほどだった。


 私兵や使用人は、仮面の女を見るなり通路脇に寄って礼をする。

 そのまま通り過ぎるまで微動だにしない。

 上下関係が徹底されているようだ。

 そして仮面の女はかなりの地位にいるらしい。


 途中、俺はふと気になったことを尋ねる。


「ところで武器は預からなくていいのかい?」


「はい。ドルグ様の意向です」


 仮面の女は歩きながら即答する。

 俺はその答えに驚く。


 武装しての面会を許可しているとは信じられない。

 聞いたことがない話だった。

 ドルグはよほどの愚か者なのか。

 それとも自らの力に絶対的な自信があるのか。

 俺はドルグという支配者に少なくない関心を抱いた。


「こちらです」


 しばらくして仮面の女が立ち止まる。

 そこには大きな扉があった。

 身の丈を優に超える高さである。

 おまけに頑丈そうだ。

 普通の爆弾では、陥没させるのが精一杯だろう。


「案内はここまでと言われております。私はこれにて失礼いたします」


 言い終えた仮面の女は、そのまま踵を返していなくなる。

 最初から最後まで一方的な言動だった。

 命令に忠実な奴だ。

 まるでロボットである。


 取り残された俺はアリスに確認する。


「心の準備はいいか?」


「ええ、問題ないわ」


 アリスはいつも通りの様子で頷く。

 こういった場でも冷静なのは頼りになる。


 俺は扉をノックしてから押し開いた。

 扉は軋みながら開いていく。


「――ほう。お前さんが爆弾魔とやらか」


 床を震わせる重低音が耳を打つ。

 広大な部屋の奥に、宝石で彩られた玉座が置いてあった。

 そこに腰かける人物は発言したのである。


 いや、それを人と呼んでいいのか。

 発言者は、象と並ぶほどの巨体を持っていた。

 座っている状態でそれだ。

 立ち上がれば三十フィートはあるだろう。

 人間の身の丈より遥かに大きいのは言うまでもない。

 遠近感が狂いそうだ。


「おいおい、マジかよ」


 俺はその非常識なサイズに苦笑する。

 笑うしかないだろう。

 明らかにおかしいのだから。


「どうした。何がおかしい」


 玉座の人物は、愉快そうに問いかけてくる。

 爬虫類のような目が、じっとりとした視線を向けてきた。


 肌にピリピリと違和感を覚える。

 相手の覇気とか威圧感とかそういう類によるものだ。

 強者のみが発する凄みである。

 地位や名誉では決して培われない、純粋な暴力の予感だ。

 本能的な恐怖を呼び起こすものであった。


(さすが異世界。どこまでもやりたい放題だな)


 現実を認めた俺は肩をすくめる。


 玉座からこちらを観察するのは、ドラゴンの頭を持つ亜人だった。

 黒革のズボンに毛皮のマントを羽織っている。

 赤い鱗に覆われた肉体が見え隠れしていた。

 相当に鍛え上げている。

 鱗の上からでも分かった。

 ボディービルダーが裸足で逃げ出すようなレベルである。


(こいつはまた、とんでもないモンスターだ)


 俺は頬を掻きつつ呆れる。


 エウレアは実力主義である。

 その慣習が具現化したようなビジュアルだ。

 俺のような人間を呼び出したことにも頷ける。

 力に自信があり、多少のトラブルなら問題にならないと思っているのだ。


「巨竜人――巨人族と竜種の混血ね。とても珍しい種族よ。私も初めて見たわ」


 アリスが囁き声で補足する。

 ドラゴンと巨人の血を引いているなら、あれだけのサイズにも納得だ。


「儂の名はドルグ・ヴィングリア。この都市を統べる者である」


「ジャック・アーロンだ。こっちは相棒のアリス」


 巨竜人ドルグの名乗りに、俺は気楽な調子で自己紹介する。

 変に畏まることもない。

 互いに対等な立場で接するという意思表示だ。


 ドルグは俺の口調にも腹を立てず、穏やかに笑いながら話を続ける。


「ほほ、噂は聞いておるぞ。ラルフの小僧を爆破したそうじゃないか」


「その件についてはすまないね。成り行きでそうするしかなかったんだ」


 俺は申し訳ない表情を作って笑う。


 いきなり組織壊滅の話に触れてくるとは、やはり俺の行動を咎めるための呼び出しなのか。

 金で解決できるのなら、大人しく払うつもりだった。

 いくつかの組織から奪った資金がある。

 城塞都市に戻れば稼ぐことも可能だ。

 できるだけ穏便な解決が望ましい。


 俺の予想とは裏腹に、ドルグは首を振って唸った。


「いや。その話はどうでもいい。用件は別にある」


「そいつは気になるな。教えてくれよ」


 俺が返すと、ドルグは笑みを深める。

 そして親しげな雰囲気で告げた。


「――その力、気に入った! お前さんさえ良ければ、儂の部下にならんか」

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