第43話 爆弾魔はプレゼントを貰う
ある日、リモート爆弾を量産していると、アリスから呼び出しを受けた。
有無を言わさずに居間へ移動させられる。
ここ数日は開発に没頭していたようなので放っておいたが、何か進展でもあったのだろうか。
彼女は俺の前に立つと、改まって話を切り出した。
「ジャックさんに渡したいものがあるの」
「へぇ、そいつは気になるな」
「すぐに見せるわ。ついてきて」
アリスは俺を手招きしながら地下へと向かう。
渡したい物とは、少し予想外の話だ。
一体何なのだろう。
心当たりと言えば、改良したゴーレムカーのお披露目くらいか。
アリスが熱心に取り組んでいたのを知っている。
ただ、それにしては勿体ぶっている感じが気になった。
(付いて行けば分かるか)
俺は梯子を下りるアリスの後を追う。
自分の開発スペースに着いたアリスは、戸棚から何かを取り出した。
「渡したかったものは、これよ」
そう言って彼女が見せたのは、二挺の拳銃であった。
黒い自動拳銃と、シルバーが基調のリボルバーだ。
見たことがない種類なので、この世界の銃に違いない。
二挺の拳銃を実際に手に取ってみる。
手にフィットするグリップに洗練されたフォルム。
無駄がなく、カスタムも容易そうだった。
デザイン性ではなく、実用性を主眼に作られているのが明白である。
間違いなく量産品ではない。
緻密に考えて設計されたオーダーメイドだ。
俺は感心しながら拳銃を返す。
「すごいじゃないか。どこで買ったんだ?」
「非売品よ。私が作ったものだから。ジャックさん、使っている銃が不満だと言っていたでしょう?」
「ああ、そういえば言っていたな」
連射可能な銃に関しては、俺も市場で探していた。
しかし、未だに見つかっていない。
極端に数が少なく、そもそも流通していないのだ。
この世界の銃は単発式のライフルが主流である。
技術面や製造コストの兼ね合いでそうなっているのだろう。
「この拳銃にはゴーレムを使っているのか?」
「ええ、そうよ。小型のゴーレムを内部構造に採用したの。携帯性を維持するのが大変だったわ」
アリスはちらりと室内の一角を見る。
そこには大砲が置いてあった。
砲身に人間が入れるだけのサイズだ。
おそらく前段階の試作品だろう。
この大砲を基に拳銃を仕立て上げたらしい。
確かにそれだけの改良が必要なのだとしたら、連射型が普及していないことも納得だ。
騎士や兵士に配備するにしても、採算が合わないだろう。
「器用だな。いや、前から分かってはいたが」
俺はしみじみと呟きながら、誇らしげなアリスを一瞥する。
さすがは十三人分の記憶と能力を持つ錬金術師だ。
常人とは比べ物にならない技術力である。
このような人間が世界滅亡を掲げているのだから、恐ろしい世の中だ。
「試しに撃ってみる? そのための場所と的も用意しているの」
「準備がいいな。試させてくれ」
アリスに連れられた先は、隣接するスペースだった。
前方に台があり、その上にガラス瓶や鉄板が設置されている。
あれらが試射用の的らしい。
アリスは二挺の拳銃と弾を目の前の机に置いた。
俺は自動拳銃とその弾を手に取る。
「使い方は分かる?」
「ああ、把握した」
俺は自動拳銃の弾倉を抜き取って弾を装填する。
弾倉を戻して射撃の構えを取った。
ここまでの動作もスムーズにこなせる。
拳銃の造りがしっかりしている証拠だ。
欠陥品だとこうはいかない。
「よし、行くぜ」
俺は的に向けて発砲した。
鳴り響く銃声。
引き金を引くたびに、空瓶が次々と破裂する。
鉄板には弾丸がめり込んだ。
弾倉が空になるまで撃ったところで、俺は自動拳銃を下ろす。
「上出来だ」
この自動拳銃は、連射性と射撃精度に優れている。
装弾数は十発と多く、発砲のたびに装填を要したライフルとは段違いだ。
威力も通常のライフルと同程度はある。
本体の重心がやや後ろ寄りだが、使っているうちに慣れるだろう。
次に俺はリボルバーを試射することにした。
銀色のリボルバーは、表面にびっしりと術式が刻み込まれている。
魔道具の回路だ。
少し学んだからこそ分かるが、信じられないほど複雑な回路が構築されていた。
多種多様な術式を少しの誤りもなく完璧に組み込んでいる。
俺にはとても真似できない。
「これがプロの仕事か」
軽くぼやきつつ、俺はリボルバーをスイングさせた。
振り出したシリンダーに弾を込めていく。
よく見ると弾丸の表面にも術式が施されている。
専用弾らしい。
ちなみに装弾数は七発だった。
「ラッキーセブンだな。縁起がいい」
俺はリボルバーを構えて発砲する。
先ほどよりも強い反動が肩に伝わってきた。
弾丸は分厚い鉄板をぶち抜くと、その後ろの壁も貫通して消える。
俺は残る六発も続けて撃った。
あっという間に鉄板と壁は穴だらけとなる。
「とんだじゃじゃ馬だな。だが、俺好みだ」
シリンダーを回して排莢しながら、俺は口笛を吹く。
リボルバー型は威力重視らしい。
単純な構造にして銃本体を頑丈にしてある。
自動拳銃と比べると、連射速度と射撃精度はやや劣り、リロードにも時間がかかる。
しかし、一発あたりの破壊力が抜群に高い。
欠点を補って余りあるほどの特長だ。
強靭な外皮や鱗を持つ魔物でも、あっさりと貫けるだろう。
「新しい武器はどうかしら。感想がほしいわ」
「最高の銃だ。これだけの逸品とはそう出会えない。何かを参考にしたのか?」
「日頃のジャックさんの話や、この街の銃使いの意見を参考にしたの。そこから取り入れるべき要素を抽出して、二種類の銃にしてみたわ」
「なるほど。素晴らしいな」
俺のために真剣に製作してくれたようだ。
まったく、アリスの勤勉ぶりには頭が下がる。
その優しさに深い感謝の念を覚える。
「いつかはもっと性能の高い銃も作れるはずよ。今はそれで我慢してね」
「ありがとう。大事にするよ」
アリスと握手を交わしていると、少し離れた所から声が聞こえてきた。
ちょうど試射用の的を置いた方角からだ。
侵入者だろうか。
このタイミングとは見上げた根性である。
俺はアリスをその場で待機させて、穴の開いた壁の後ろへ回り込む。
誰もいない。
リボルバーの弾丸がいくつかの荷物や壁を貫いているくらいだ。
声はさらに先から聞こえてくる。
弾痕を辿るうちに到着したのは、尋問用の隠し部屋であった。
回転する入口に、ちょうど七発分の穴が開いている。
たまたま射線上にあったらしい。
声はここから聞こえてくる。
俺は窪みのボタンを押し回転扉を作動させた。
そこには、一つの死体があった。
拘束した者達のうち、獣人の男が血塗れになって死んでいる。
胴体や顔面に銃創がくっきりと残っていた。
どうやら貫通してきたリボルバーの弾丸を食らってしまったようだ。
肝心の声は、生き残った者達が驚いて発しているものであった。
近くにいた人間がいきなり蜂の巣になって死んだのだ。
怯えてしまうのも仕方のない話だろう。
「……まあ、こういうこともあるさ。気にしないでくれ」
彼らの不運に肩をすくめつつ、俺は隠し部屋を閉めた。




