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第4話 爆弾魔は門番を蹂躙する

 帝都を爆破した俺は、森を抜けて再び街道を移動していた。

 ただし、バイクではなく徒歩である。

 バイクは動かなくなったので森に放置してきた。

 いきなりエンジンがかからなくなったのだ。

 おそらくは故障だろう。

 射撃であちこちが破損していたからな。

 むしろよく持った方だ。


(さて。これからどうしたものか)


 真っ先に思い付いたのは、元の世界への帰還だった。

 こちらの世界もなかなか愉快だが、永住を決心するほどではない。

 俺を拉致した連中への報復は完了したし、さっさと帰りたいのが本音であった。


 しかし、肝心の帰還方法が分からない。

 城の連中が送還魔術とやらを研究中と言っていたが、俺が爆破してしまった。

 今から戻ったとしても、何も残っていないだろう。

 自らの行動をほんの少しだけ後悔する。


 昔からの悪い癖だった。

 怒りに火が点くと、殺戮衝動が止まらなくなる。

 今回も感情に身を任せた結果、面倒な事態になった。


 ただ、帝都を爆破せずに逃げ出すことは、俺のプライドが許さなかった。

 俺を蔑み馬鹿にする奴は、何があろうとぶちのめす。

 心に決めた絶対のルールだ。

 何にしろ帝都爆破は避けられない事態だったろう。


 ……思考が少し脱線した。

 とりあえず、元の世界への帰還手段を探すのが当面の目的か。

 せっかく百万ドルの仕事を成功させたのだ。

 報酬で思う存分に豪遊したかった。


 この世界の情勢は分からないが、帰還は不可能ではないと思いたい。

 それを知るためにも魔術に詳しい者を探そう。

 生憎と魔術は専門外の分野である。

 ベストは送還魔術を使える人間を見つけることだ。

 色々と手探り状態だが、頑張っていかなければ。


(そういえば、ステータスはどうなったかな)


 ここに至るまでに、ド派手なパーティーをかましてきた。

 何か変化があってもおかしくない。

 少しだけ期待しながら、俺は脳裏に展開されたイメージに注目する。




名前:ジャック・アーロン

レベル:385

クラス:爆弾魔

カルマ:-600

スキル:【翻訳 B】【爆弾製作 EX++】




 予想外すぎる表記に驚いて足を止める。

 何がどうなっているんだ。

 数値類が大幅に変動しているじゃないか。

 他にも微妙に変わっている。

 これはさすがにスルーできないぞ。


 まず気になったのはレベルだ。

 最後に確認した時点では確かレベル4だったのに、いきなり三桁に突入している。

 ゲームだと大抵は99が上限だった記憶があるのだが。

 いや、最近はそうでもないのかもしれない。

 とにかく非常識な数値になったことは確かだろう。


 一方でカルマは大幅に低下していた。

 これが何を表すのかはよく分からない。

 負の数に振り切っているということは、あまり良くないのだと思う。

 まあ、現状では特に困っていない。

 誰かに会ったら訊いてみるか。


 そしてクラスが爆弾魔になっていた。

 ついにステータスにも認められてしまったようだ。

 まあ、これは今更か。

 別に間違ってはいない。

 むしろぴったりだと思う。


「感慨深いね、いや本当に」


 俺は機嫌よく笑う。

 いずれの変化も、帝都を爆破したのが原因だろう。

 それくらいしか思い当たる節がない。


 あれだけの規模の爆発だ。

 相当な人数が犠牲になっただろう。

 ゲーム的な表現で言えば、経験値を大量に取得した形になる。

 それでもいきなりレベル385はぶっ飛んでいるが、実際に表示されているのだから仕方ない。


 気のせいか、力が漲っている感じがした。

 普段よりも身体の調子がいい。

 元の世界での任務からほぼノンストップで動き続けているのに、疲れがほとんどなかった。


「……もしかして」


 とある推測を閃いた俺は、試しに軽く走ってみる。

 すると自動車と見紛うばかりのスピードが出た。

 慌てて足でブレーキをかける。


「うおっと、危ねぇな」


 俺はつんのめりながらも停止する。

 スタートダッシュだけのつもりが、それなりの距離を進んでしまった。

 今ならチーターとでも競争ができそうだ。

 ひょっとすると追い抜かせるかもしれない。


 こいつはいい。

 レベル上昇に伴って身体能力も上がっているようだ。

 大きな発見である。


 次に俺は、道端の石ころを拾った。

 それを握り締めて、徐々に力を込めていく。

 ピシリ、と音が鳴って石ころは割れた。


 なかなか面白い。

 スピードに加えて膂力も強化されている。

 本気で殴れば、岩でも粉砕できるんじゃないだろうか。

 あながち間違いでもなさそうな感覚だった。


「はっは、スーパーヒーローの誕生だな。今度のクリスマスは、専用スーツでもお願いするか」


 これで空なんて飛べた日には最高なのだが。

 多少の期待を抱いてチャレンジするも、残念ながら飛行能力はなかった。

 六十フィートばかりのジャンプができただけだ。

 それでも十分に驚異的だが、あくまでも飛行ではなく跳躍であった。


 まあ、それはそれとして。

 身体能力の上昇は嬉しい誤算だった。

 手持ちの武器がそろそろ尽きかけていたのだ。

 予備弾薬はあと僅かで、爆弾は手榴弾が一つしかない。


 この肉体性能なら、たとえ騎士が束になろうが安心だった。

 力押しでぶちのめすことができる。


 一通りの確認を済ませた俺は、街道をジョギング感覚で爆走し始めた。

 瞬く間に景色が流れていく。

 バイクが使えなくなった時は面倒だと思ったが、思わぬ移動手段を見つけてしまった。

 そのまま一気に移動する。


 どこか寝泊まりできる街を見つけたかった。

 さすがに野宿は避けるべきだろう。

 キャンプ道具の一つも持っていないのだ。


(せっかく大仕事をこなしたのだから、ゆっくり休みたいもんだぜ)


 スポーツカーも真っ青な速度で走りつつ、俺は内心で愚痴る。

 夜までに街が見つかるのを祈るばかりであった。




 ◆




 夕方頃、遠くに街が見えた。

 周りを外壁に覆われ、上部から建物の屋根が覗いていた。

 帝都ほどではないにしろ、なかなかの規模である。


 ようやく発見した街だ。

 今夜はあそこに泊まろう。

 生憎と金は元の世界の紙幣と硬貨しかないが、まあなんとかなるだろう。

 俺は交渉にも自信があるのだ。


 ほどよい距離で速度を緩め、やがて徒歩に切り替える。

 猛スピードで近付いたら攻撃されかねない。

 敵意がないことをアピールしなくては。

 善良な人間として振る舞おう。


 門は開けっ放しになっていた。

 両端に門兵が控えており、槍を持って直立不動の姿勢を保っている。

 ああやって街に入る人間を監視しているのだろう。


 俺が観察している間にも、馬車や人々が街を出入りしている。

 特別なチェックを受けている様子はない。

 警備はそこまで厳重ではないようだ。


 そんな人々に倣い、俺も素知らぬ顔で門へと歩いていく。

 緊張も何もない。

 暇な休日に近所のバーガーショップへ行く時のような平常心だ。


 こういう場面は堂々としていた方がいい。

 挙動不審になると余計に怪しまれる。

 門兵達は、俺が帝都で何をしたかを知らない。

 情報が出回っていれば、もっと警備が厳しいはずなのだ。

 封鎖されていたとしても不思議ではなかった。


 俺はそのまま門を通過しようとする。

 あと数歩というところで、眼前を二本の槍が交差した。

 言うまでもなく門兵達の仕業だ。

 俺の進路を阻むように槍を動かしたのである。


 門兵の一人が眉を寄せた。


「止まれ。見慣れない顔だな。服装も奇妙だ」


「いきなりどうした? 悪いが恋人募集は締め切っているんだ。口説くなら他をあたってくれよ」


 俺は後ろへ下がりながら苦笑した。

 門兵は俺の冗談にも耳を貸さず、鋭い目つきのまま語る。


「私は【断罪 C】を持っている。罪を犯した人間を直感的に見つけられるのだ。お前から禍々しい雰囲気を感じる……」


 ご丁寧に説明してくれた門兵は、腰の袋からゴーグルらしきものを取り出す。

 それを通して俺のことを見た途端、そいつはたじろいで叫んだ。


「カ、カルマが-600だとォッ!? 大罪人ですら到達しない域だ! しかもレベルは385ッ! こ、こんなことは、ありえないッ! 偽装しているのだな!? どちらにしろ危険人物には違いないっ!」


「何!? くそ、敵襲だぁ!」


 もう一人の門兵が呼びかけると、門の内側から兵士が殺到してきた。

 あっという間に二十人弱が集結する。

 彼らは殺気満々で身構えていた。


 案の定な光景に、俺は肩をすくめる。


「とんだ歓迎ムードだな。誕生日はもう少し後なんだがね」


 まさか手軽に他者のステータスを閲覧できる道具があったとは。

 そもそも宰相ヴィラーツェは、他者のステータスを視認していた。

 門兵との接触前に、類似能力の存在も考慮すべきだった。

 明らかに俺の判断ミスである。

 帝都爆破で浮かれすぎていたらしい。


 既に話し合いができる空気ではなかった。

 ここで街へ入るのを諦めても、攻撃を仕掛けてきそうな気配がある。


 まったく面倒な。

 俺は話し合いで穏便に解決したいのに。


 少々手荒になるが、場合によっては強行突破するか。

 向こうが暴力を以て阻止してくるのなら、それを上回る暴力でねじ伏せればいい。


 何より舐められたままでは、俺の気が済まなかった。

 自分達が強者だと勘違いしている兵士共に、現実を突きつけてやろう。

 俺は一歩だけ前に踏み出す。


 目ざとく気付いた門兵が槍の穂先を向けてきた。


「動くな! 今からお前を捕縛する。抵抗すれば攻撃する。レベルを偽装して強く見せかけたようだが残念だったな。そんな滅茶苦茶な数値があるわけないだろう。我々は騙されんぞ」


「偽装なんてしてないし、危険人物でもない。ただ街に入れてくれるだけでいいんだ。ちょっと一休みしたいだけさ」


 これは本音だった。

 俺だって争わずに済むならそれでも構わない。

 兵士の態度が癪ではあるものの、別に我慢だってできる。

 ……意趣返しに殴るくらいはするかもしれないが、その程度は誤差の範囲だろう。


 俺の懸命な主張に応じず、兵士達は誰も武器を下ろさない。

 欠片も信用されていないのは明白だった。

 ここまであからさまだと悲しくなってしまうな。

 涙が出そうだ。

 ため息を吐いた俺は、笑うのを止めて門兵達に問う。


「最終警告だ。考えを改める気はないかい? 今なら骨の一本や二本で許してやるが」


「何度も言わせるな。街を守るのが兵士の役目だ。お前のような大罪人を入れるわけにはいかない」


「なるほど……そいつは残念だ」


 肩を落とした俺はポケットを探る。

 手榴弾のピンを抜き、兵士たちの背部へ放り投げた。


「それがラストなんだ。しっかり堪能してくれよ?」


 硬い落下音の後、爆発が起きた。

 間近で炸裂を浴びた兵士達は、四散した鉄片に引き裂かれる。

 血飛沫が舞い上がった。

 兵士達はあえなく倒れていく。


 一方で俺は無傷だ。

 爆風やら鉄片は、すべて兵士達が受けてくれた。

 俺のところまでは到達しなかったのである。


「よし、仕上げはこいつにするか」


 足元に転がってきた剣を拾う。

 武器の節約だ。

 帝都で派手に使いすぎたからな。

 あれはあれで楽しかったが、手持ちの管理を怠るわけにもいかない。


「はてさて。どいつの首から刎ねていこうか。野蛮だが勘弁してもらえると――」


 喋る途中、強烈な殺気を感じた。

 反射的に首を傾けると同時に、銃声が響き渡る。

 何かが髪を掠めた。


「ぐっ、くそ……」


 兵士の一人が、地面に伏せながらもライフルを構えていた。

 悔しげに顔を歪めている。

 どうやら重傷を負った身で反撃してきたらしい。

 素晴らしい執念である。


「いやぁ、あと少しだったな。弾道が僅かにでもずれていたら、俺を撃ち殺せただろうに」


 俺はガッツを見せた兵士に歩み寄り、その顔面に剣を振り下ろす。

 刃が頭蓋を叩き割り、脳漿を飛び散らせた。

 なかなかのスプラッター具合である。

 高レベルとなったことで力加減が難しくなった気がした。

 気を付けねばならない。


 他の兵士は動けない者が大半だった。

 鉄片や爆風の直撃で死んでいる者もいる。

 辛うじて意識のある数人が、何とか立ち上がろうとしていた。

 どれだけポジティブに捉えても壊滅状態であった。


 俺はそこへ駆け寄って剣を振るう。

 斬撃を受けた兵士は、鮮血を撒き散らしながら吹っ飛んだ。

 それを口笛混じりに繰り返していく。


 俺に剣術の心得はない。

 日本のカタナソードには興味があったが、残念ながら触れる機会はなかった。

 任務でも専ら銃火器か爆弾を使うため、まともに剣を使ったのは初めてであった。


 そんな俺でも、高レベル補正のおかげで存分に剣を振り回せる。

 刃筋が立つとか立たないとかは一切関係ない。

 倒れている兵士も残らず斬り殺していく。


 そうして最後の手榴弾を投げてから早三分。

 門前に集まった兵士は全滅した。


 俺は血塗れの剣を捨てる。

 乱暴な扱いをしたせいで刃こぼれが酷かった。

 途中からは斬るというより叩き潰す感じに近かった。

 剣術の使い手なら、もう少し上手くやれるのだろうと思う。


 俺は兵士の死体を物色して、ライフルと予備弾薬を拝借した。

 これがずっと欲しかったのだ。

 ようやく入手できた。

 兵士が使う姿を見て扱い方は記憶している。


 ライフルは中折式だった。

 発砲のたびに銃身を駆動させ、排莢と再装填をするタイプである。

 近代の連射可能なものに比べるとやや不便だ。

 まあ、贅沢を言える立場でもない。

 ありがたく貰っておこう。


 さらに喜ばしいことに、数人の兵士が爆弾を所持していた。

 俺が宰相ヴィラーツェの指示で作ったものと同じ規格だ。

 爆薬となる材料は貴重である。

 俺の【爆弾製作 EX++】にも直結してくる。

 低威力な点に関しては、然るべき改造を施せばいい。


 ついでにゴーグル型の道具もいただいた。

 これがあれば他者のステータスも見えるみたいだからな。

 あって損するものでもない。


 さて、武器の補充ができた。

 うるさい門兵も静かになったし、これでようやく街へ入れる。

 俺は軽い足取りで門を通り抜ける。


 門の先では、野次馬が固まって騒然としていた。

 ざわざわと好き勝手に喋りながらこちらを眺めている。

 非常に目障りな上に邪魔だ。

 彼らのせいで通りが塞がれてしまっている。


「見世物じゃねぇよ。すっこんでろ」


 俺はライフルを頭上に向けて発砲した。

 銃声が轟き、街の人々は悲鳴を上げて逃げ出す。

 ものの三十秒ほどで、通りから人影が消えて静まり返った。

 これで散策しやすくなった。


 俺はライフルの再装填をしつつ歩き出す。

 さっそく宿泊場所を探そう。

 既に日没間際である。

 夜になるまでに寝床を確保したいものだ。

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門番さんや、レベル偽装を疑うならカルマ偽装も疑うところやろ… 信じたい情報だけ信じるから困るんやぞ…
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