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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第38話 爆弾魔は後始末を済ませる

 組織のビルの一階。

 横転したトラックにラルフは縛り付けられていた。

 彼は血走った目でこちらを見ている。

 俺のアッパーを食らったせいで下顎が砕けており、口はだらしなく開きっぱなしだった。

 猿轡をせずとも喋ることができない。


「いい面構えだ。キスしたくなるよ」


「…………」


 ラルフは眉を寄せて無言を貫く。

 ただ苛立たしげに血の唾を垂らしていた。

 口が無事なら罵倒を飛ばしてきたのだろうが、殺し合いの結果がこれだ。

 敗者となったラルフには逆らう術もない。


「……キス、したくなるの?」


「他愛もない冗談さ。真に受けないでくれよ」


「そう。ならいいけれど」


 隣に立つアリスは、澄ました顔で納得する。

 彼女は無事に陽動の役目を果たしたどころか、屋外の人間を一掃していた。

 これといった怪我もしておらず、ゴーレムカーも故障一つ起こさずに健在だ。

 文句なしの素晴らしいパートナーと言えよう。


 エントランスの各所には、山積みになった無数の紙包みがあった。

 身の丈を軽く超える高さで、主要な柱に密着させて設置している。

 中身は火薬草だ。

 アリスの調合液に浸した特別品である。


 いずれも敷地内の倉庫から拝借したものだった。

 火薬草の一部はゴーレムカーに載せているが、本当に掃いて捨てるほどあったのだ。

 組織はこれらの売買を資金調達の一環にしていたらしい。


 これらも一応は爆弾の一種だ。

 証拠としてステータスが表示される。




名称:調薬大爆弾(火薬草)

ランク:B-

威力:25000

特性:【過積載】【火気過敏】【爆炎増大】【連鎖爆発】




 全体的に悪くない性能だろう。

 都市核の爆弾に次ぐランクと威力である。

 俺の見立てが正しければ、これらの爆破でビルは倒壊させられる。


 これは都市に住む悪党共へのメッセージだ。

 俺達に手を出したらどうなるかを知らしめるために実行する。

 生き残りや仲間の組織がいたとしても、軽率に報復しようとは考えなくなるはずだ。


 もっとも、それらは建前に近い。

 本音を言うなら、俺がスカッとするから爆破するのだ。

 シンプルで分かりやすいだろう。

 デメリットがない以上、やらないという手はない。


 俺は並べた燃料タンクを持ち上げ、中身を紙包みの山にぶちまける。

 万が一にも不発とならないよう、各所の爆弾にまんべんなくかけておいた。

 そうして空になったタンクを放り捨てると、新しいタンクを傾けながら歩き出す。

 流れ出した燃料が道を作っていく。


 アリスはゴーレムカーに乗ってついてくる。

 タンクが空になれば、また新しいものを使って道を伸ばす。

 それを何度か繰り返した。


「さて、これくらいでいいか」


 俺は最後の空タンクを捨てて息を吐く。

 燃料の道は五十ヤードほどとなった。

 芝生の途中で途切れている。

 ビルからはそれなりに離れていた。

 ひとまずこの辺りまででいいだろう。


 俺は葉巻とライターを取り出し、先端に着火して吹かす。

 深く息を吸って煙を味わった。

 葉巻はドワーフ達の集落で貰ったものだ。

 仕事終わりということもあって旨い。

 この一服のために生きていると評しても過言ではなかった。

 本当なら酒も飲みたいが、まだ仕事中なので我慢する。


 夜風に攫われる紫煙を眺めながら、俺はしばらく葉巻を楽しんだ。

 満足したところで、葉巻を口から離す。

 そして、縛られたままのラルフを遠くから一瞥する。


 ラルフは噛み付かんばかりの表情だった。

 遠目にもはっきりと分かる。

 命乞いでもすると思ったが、肝は据わっているようだ。

 俺はライターを持った手を振った。


「じゃあな。あの世で待っててくれ」


 ラルフに別れを告げ、葉巻を指で弾いて飛ばす。

 くるくると回転する葉巻は、ぽとりと燃料の道に落下した。

 途端、伸び上がった炎が燃料の道を伝ってビルの爆弾へと向かう。


 数秒後、腹の底に響くような爆発と共に、エントランスから爆炎が噴き上がった。

 横転していたトラックを押し退けるほどの衝撃が起きて、燃え上がった紙包みが弾けて空を舞う。

 まるでロケット花火のようだ。

 それが連続して発生する。


 爆破したビルが振動を始めた。

 間もなく土煙を巻き上げて、一階から順に崩れ出す。

 高さを失って縮みゆくビルは、最終的に燃え盛る瓦礫の山となった。

 あとには威光も何も残されていない。

 瓦礫の隙間から、黒煙が虚しく立ち昇る。


「ハッハッハ! フィナーレにぴったりな光景だなァ!」


 俺は歓声を上げながら小躍りする。

 途中、アリスがハイタッチを要求してきたので応えておく。

 目的をこなした俺達は、余韻もそこそこにゴーレムカーへ乗り込んだ。

 後部座席は戦利品で溢れている。

 ビル内や倉庫を回って集めた物資だ。


 渋滞が発端で始まったトラブルだったが、結果的には得をすることができた。

 あの時に喧嘩を売ってきたダレスには感謝しなければいけない。


「よし、行くぞ。無事に帰るまでが仕事だ」


「そうね。油断しちゃいけないわ」


 和やかに会話しつつ、俺達は敷地外へと車両を走らせた。




 ◆




 明け方、俺達は便利屋に帰還した。

 扉を開けると、資料整理をするオーナー・レトナの姿と目が合う。

 彼女は俺達を見て親しげに話しかけてきた。


「随分と遅いご帰宅ですね。ひょっとして、お楽しみでした?」


 レトナの冗談に反応せず、俺は彼女に詰め寄る。


「通りで争った相手が犯罪組織の一員で、それも幹部だった。ダレスってやつだ。俺にわざと黙っていただろう。どういうことだ?」


 ラルフの組織を潰すことになったのは、そもそもダレスとの一件が発端だった。

 通りの渋滞でダレスと初対面した後、報復を目論んだ彼との再会から繋がっている。

 もし早い段階でダレスの素性を知っていれば、立ち回りは変わったはずだろう。

 ただのチンピラではなく、都市を支配する組織の幹部なのだ。

 そこまで判明したら、さすがの俺でも多少は警戒して行動する。


 レトナは、俺がダレスと揉めたことを知っていた。

 それにも関わらず、彼女は黙っていた。

 意図的な情報遮断である。


 俺の追及に対し、レトナはおどけた笑いを見せた。


「あ、ひょっとして殺っちゃいました?」


「目障りだったんでな」


 レトナは特に驚かない。

 それどころか、彼女は平然と釈明する。


「ダレスのことは、あえて言わなかったんです。そうすればきっと衝突するだろうと思いまして。ジャックさん達がお掃除してくれるのを期待したんですよ。彼には迷惑していたんです。組織が組織なので手出しできませんでしたが、無事にお亡くなりになったようで。いやはや、ありがとうございます。これは形ばかりですがお礼です」


 レトナは戸棚を漁ると、重そうな革袋を渡してきた。

 それを受け取った俺は中身を確認する。

 やはりというべきか、大金が収められていた。

 俺は嫌悪感を隠さずに言う。


「俺を利用したわけか。小賢しい女だ」


 本当なら殺してやりたいところだが、今回の騒動は俺にもメリットがあった。

 ここは手を引いてやろう。

 レトナにもまだ利用価値がある。

 感情に任せて始末するには惜しい人材だった。


 ナイフを取り出す代わりに、俺はレトナの顎に手を添えた。

 そして彼女の目を睨みつけながら告げる。


「あまり調子に乗るなよ? 度を過ぎると、利害を無視して始末してしまうかもしれない」


「わっ、分かっていますとも! ご安心ください、決してジャックさんの邪魔はしませんから!」


 自らの失態を察したレトナが慌てて約束する。

 その後、彼女はまくしたてるように補足説明を始めた。


「お、思い出しましたっ! 例の物件の所有者は、ダレス所属の犯罪組織です! 彼の死で混乱する今なら、有利な交渉ができるかもしれません! これから組織内部では覇権争いが活発化しますからねぇ。資金も必要になるでしょう。少し不利な条件でも、放置物件を換金したいと考えているはずです。そっ、そこに私の交渉テクニックがあれば、楽々と値引きできてしまいますよ!」


 レトナの話を聞いた俺は少し驚く。

 購入を決めた物件が、ラルフの組織のものだったとは。

 意外な接点である。

 あの組織とは、遠からず関わることになっていたらしい。


 ただ、レトナの話には誤りがあった。

 組織が内部抗争で荒れることはない。

 先ほど俺が丸ごと潰してしまったのだから。

 それは伝えておいた方がいいだろう。


「ほら! 私もジャックさんに協力していますよ! ですから、あまり脅さないでください、ね?」


 必死に懇願するレトナを押し留めつつ、俺は端的に真実を話す。


「あの組織なら壊滅させた。ボスは獅子頭の亜人だろう? 今頃はミンチになってくたばっているさ」


「え……?」


「知らなかったのか。お得意の盗撮で情報を掴んでいると思っていたが」


「え、遠視の魔道具も万能ではありませんからねぇ……この都市全域を網羅できるほどではありませんから。仕掛けたら色々と不味い地域も少なくないですし……というか、あの……ジャックさんは本当に何者ですか?」


「今のところはシークレットだ。開示できる状況になったら教えるよ」


 俺は呆然とするレトナを置いて二階へ赴く。

 今日はもう疲れた。

 諸々の処理は明日から始めればいいだろう。

 そこで思考を止めた俺は、ベッドに倒れて眠りについた。

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― 新着の感想 ―
多分ツーアウトですよレトナさん! なぜだろう、ドワーフ達の時は「コロサナイデ、コロサナイデ」な気持ちだったのに。 レトナさんについては最初から Ω\ζ゜) チーン だった気がする。
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