第33話 爆弾魔は人間爆弾を放つ
「だいぶ静かになっちまったな。残された気分はどうだい?」
俺は周りを見渡しながらダレスに訊く。
辺りには死体が散乱していた。
いずれもダレスの連れてきた手下達である。
俺とアリスで皆殺しにしたのだ。
どいつも半端な実力しか持ち合わせておらず、実に簡単な作業だった。
数が揃えれば圧倒できると思われていたらしい。
舐められたものである。
「…………」
足元に這いつくばるダレスは無言を貫く。
彼は指先に転がる魔剣を握ろうと手を伸ばした。
「おっと、そいつは駄目だ」
俺は魔剣を軽く蹴る。
地面を滑った魔剣は、ダレスの手の届かない場所へ行ってしまった。
ダレスは噛み付きそうな顔で唸る。
もっとも、魔剣は刃が割れて柄も折れていた。
戦いの中で破損したのである。
アリス曰く、転移機能も故障しているらしい。
たとえ掴まれたとしても、何ら問題はなかった。
それなのにあえて触らせないのは、ダレスの絶望感を煽るためだ。
「ぐっ……」
ダレスは悔しげに呻く。
彼は両脚を骨折しており満足に動けない。
ちょっとした身じろぎ一つでも激痛が走る状態だ。
魔剣を諦めたダレスは、俺を見上げて睨む。
「狂人め……私が何者なのか知らないのか」
「ああ、ちっとも知らない。だからそれを聞きたいんだよ」
俺はダレスの背中を踏み付けた。
少しだけ力を込めて圧迫する。
加減を誤ると殺してしまうので注意を払う。
「所属組織の情報を吐くんだ。素直に教えてくれたら、苦しまずに死ねる」
「だ、誰が、貴様なんぞに話――」
俺はダレスの折れた脚を踏み躙る。
しっかりと折れた箇所を狙い、念入りに体重をかけた。
「ぐぉおおおぉぉっ!?」
「あまり手間を増やすなよ。俺だって暇じゃないんだ」
ダレスを痛め付けながら、さりげなく周りの様子を窺う。
これだけ騒いでいるというのに誰も見に来ない。
野次馬共が湧いてきそうなものだが。
それだけ巻き込まれるのを嫌っているのか。
ダレス達は関わってはいけない存在として周知されているようだ。
まあ、俺達にとっても好都合である。
目撃者なんていないに越したことはない。
俺はダレスの髪を掴んで持ち上げた。
「平和的に話そう。俺も暴力に訴えるのは嫌なんだ。お互いに損だろう?」
俺はダレスに優しく言い聞かせる。
歯噛みするダレスは、強情にも目を逸らした。
まだ口を割るつもりはないらしい。
なんて忠誠心の厚い男だ。
感動で拍手を送りたくなる。
俺はそばで待機するアリスと顔を見合わせた。
アリスはゴーレムカーから一本の瓶を取り出す。
「自白作用のあるポーションよ。使ってみる?」
「いや、気持ちだけ受け取っておくよ。尋問は得意分野なんだ。ここは俺に任せてくれ」
俺はダレスの右手に足を載せた。
ほんの少しだけ力を込めて固定する。
「さて、質問タイムだ。ルールを決めよう。まずは俺から疑問を投げる。あんたはそれに答える。その繰り返しだ」
「…………」
「もし答えられなかったり、余計なことを言えば、指を一本ずつ砕く。指の次は眼球だ。その次は歯にしよう。どうだい、猿でも分かる簡単なルールだ」
「馬鹿め、私がそのような脅しに屈するわけが――」
「ルール違反だ。景気付けに一本目といこうか」
朗らかに笑いながら、俺はダレスの親指を踏み砕いた。
◆
俺は路地裏をゴーレムカーで移動していた。
一昔前に流行ったロックを口ずさみながら運転する。
「――! ――!」
後部座席では、縛り付けたダレスが喚いていた。
口に布を詰めているので内容は分からない。
まあ、碌でもないことだろう。
わざわざ聞くまでもない。
話し合いの結果、親切なダレスはすべての情報を吐いてくれた。
おかげで彼の所属する組織の構成や場所などもすべて把握できた。
余談だが、ダレスは両手足の指を折った辺りで白状した。
意外と持った方じゃないだろうか。
さっさと吐くかと思っていた。
彼なりに組織を守ろうとしたのかもしれない。
その献身ぶりに涙が出そうである。
現在向かっているのは、教えてもらった組織の本拠地であった。
そこに組織のトップがいるのだという。
何をしに行くのかと言えば、トップを始末して組織を瓦解させるのだ。
ダレスだけを抹殺しても、いずれ組織から報復が為される。
それが面倒なので、根本から壊してやることにしたのだ。
単純明快で効果的なやり方だろう。
トップを潰せば少なくない混乱を与えられる。
ダレスによれば、組織も一枚岩ではないらしい。
内部抗争による自滅を促すのが狙いである。
それでも報復を目論むのなら、徹底的に叩き潰すまでだ。
実行するだけの装備は揃えてある。
どちらにしろ、今宵の強襲にデメリットはなかった。
とりあえずは組織のトップを殺して様子見するつもりだ。
願わくばこれで因縁が途切れることを祈ろう。
俺達に関わってはいけないと思わせれば勝ちだ。
半端な攻撃は間違いなく敵愾心を煽るだけだが、そこまでやれば恐怖が上回る。
圧倒的な暴力こそ、交渉における最善手。
都市の治安貢献にもなり、ついでに組織の物資を拝借できる。
見事にいいことづくめであった。
楽しくドライブをしているうちに、俺達は組織の本拠地に到着する。
そこは都市の北部で、通りから外れたエリアだった。
ゴーレムカーを停車させた俺は遠目に観察する。
「なかなか立派だな」
本拠地は石造りの壁に囲われていた。
一見すると砦である。
見れば数人が付近を巡回しているようだ。
かなり厳重かつ堅牢な警備だ。
この外観が組織の影響力の大きさを物語っている。
「あまり近付かないで。感知系の魔術が敷かれているわ」
助手席のアリスが警告を発した。
俺は踏みかけたアクセルから足を離す。
「ジャックさんは魔力を持たないから潜入できるけど、私やこの車両は無理よ。どうやって忍び込むの?」
「ふむ……」
十秒ほど考えた俺は、画期的なアイデアを思い付いた。
後部座席のダレスを凝視して笑う。
「別に侵入がバレようと問題ない。せっかくのパーティーなんだ。派手にいこうぜ」
俺はダレスを掴んで引っ張った。
激しく抵抗されるも、顔面を殴って大人しくさせる。
「喜べよ、出番だ」
車内に置いてあったいくつかの爆弾をダレスの胴体に結び付けた。
ふとした拍子に緩まらないよう、何重にも巻き付けておく。
これで準備が完了した。
俺は爆弾塗れとなったダレスを車外に引きずり出し、頭上を確かめる。
これといって遮蔽物はない。
場所を変えなくて良さそうだ。
「ジャックさん、何をするつもりなの?」
「まあ、見てなって。号砲ってやつさ」
俺はそう答えると、ダレスを掴んだまま真上に跳躍した。
一瞬の浮遊感を経て、周囲の建物を見下ろすほどの高さに到達する。
この世界で得た身体能力のおかげだった。
目を向ければ、ちょうど敷地内の本拠地を望むことができた。
石壁の先に六階建てくらいのビルがある。
大量の車両が置かれた駐車場や、箱型の倉庫も併設されていた。
ダレスの情報に違わぬ規模である。
徐々に落下を始める中、俺はダレスを掲げた。
後ろに引き、神経を研ぎ澄ませながら腕に力を込める。
「人間爆弾のプレゼントだ。盛大にぶちかましてやるよ」
「――、――――ッ!!」
絶叫するダレスを全力で投擲する。
高速回転して宙を突き進むダレスは、吸い込まれるように本拠地へ衝突した。
直後、つんざくような大爆発が起きる。
建物の一角から爆炎が上がり、轟音を立てながら壁が崩壊し始めた。
真っ赤な炎が夜闇を煌々と切り裂いていく。
「ハッハッハ、最高のスリーポイントシュートだな!」
理想的な先制攻撃をかました俺は、ゴーレムカーのルーフに着地した。
そこから車内に滑り込み、待機していたアリスに告げる。
「敷地内に突入するぞ。準備はいいか?」
「もちろん。いつでも万端よ」
「いい返事だ」
俺は頷き、アクセル全開でゴーレムカーを発進させた。




