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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第31話 爆弾魔は厄介者と再会する

 静まり返る室内。

 酔っ払い共の視線がこちらへ集中した。

 一部の者は、勘定を置いてそそくさと店を出て行く。

 今から起きるであろうトラブルに巻き込まれたくないらしい。


 張り詰めた空気の中、俺は立ち止まったウェイターに声をかける。


「酒を急いでくれ。それと悪いが料理の注文はキャンセルだ」


「は、はいっ!」


 ウェイターが慌てて酒を持ってきて、すぐさま店の奥へと退避した。

 俺はテーブルに置かれた酒を見やる。


 それは桃色の液体で満たされたカクテルだった。

 グラスの縁には輪切りの果実が飾られている。

 綺麗な彩りだ。

 この雑然とした酒場には不釣り合いに感じる。

 どちらかと言うと、小洒落たバーにありそうだった。


 俺は輪切りの果実をつまみ、果汁を数滴ほど落とした。

 手に取ったグラスを軽く揺らす。

 嗅いでみると、甘酸っぱい香りがした。

 ちょうどいい具合である。

 俺は首元の刃を気にせず、グラスの中身を呷った。


「……うん、いいな。美味い」


 メインで使っているのはベリー系のリキュールだろう。

 引き締まった甘さで、口当たりもいい。

 後に入れた果汁も、カクテルの風味を引き立てている。

 ここを紹介してくれたレトナには感謝しなければいけない。

 俺は空になったグラスをテーブルに置く。


「おい貴様……この状況が、分からないのか」


 横に立つ白コートの男が怒りに震えていた。

 律儀にも俺が飲み終わるのを待っていたらしい。

 いや、自分が無視されていることを理解できなかったのかもしれない。

 思考停止というやつだ。


 男の後ろには、柄の悪そうな男が二十人ほどいた。

 手下でも引き連れてきたのだろうか。

 揃いも揃って剣呑な気配を纏っている。

 酒場の良い雰囲気が台無しだ。


(踏み込みの気配は感じなかったが……)


 俺は突き付けられたままの剣を一瞥する。


 白コートの男は、歩いてこちらへ向かってきたはずだ。

 一瞬で詰められるほどの距離ではなかった。

 それにも関わらず、いきなり背後に移動してきたのである。


 例の如く魔術だろうか。

 可能性は高い。

 このファンタジーな世界だと何が起こっても不思議ではなかった。


 俺はアリスに視線をやる。

 意図を察した彼女は、椅子に座ったまま発言する。


「今のは短距離転移ね。その剣から魔力の揺らぎを感じたわ。おそらくは転移能力を持った魔剣よ。とても稀少性の高い武器ね」


「なるほど。武器の能力か……」


 アリスの解説に相槌を打ちつつ、俺は白コートの男の顔を窺う。

 包帯のせいで目元しか見えないが、かなり不機嫌そうな様子である。

 小さく舌打ちしたのも聞こえた。

 アリスの考察は図星だったらしい。


 それにしても転移能力とは、随分と厄介なものが出てきた。

 端的に言って反則じみている。

 戦闘における脅威度は考えるまでもない。

 ファンタジー由来の力は、どうにも予想が付かないので苦手だ。

 これまでに培ってきた知識や経験が役に立たない場合が多い。


 まあ、愚痴を垂れたところで状況が好転するわけでもない。

 この世界に召喚されてから、何度も味わってきたことだ。

 苦手意識は徐々に克服していこう。


「さて――」


 俺はおもむろに立ち上がった。

 白コートの男が反射的に魔剣を退ける。

 やはり本気で斬るつもりなどないようだ。

 自らの力を誇示するため、わざわざ背後を取ったのだろう。


 呆れるほどに下らない。

 問答無用で斬りかかるくらいの気概は見せてほしかった。

 白コートの男と対峙する俺は、目を逸らさずに話しかける。


「相席希望かい? すまないがデート中なんだ。他を当たってくれ」


「この期に及んで、まだ戯言とは……ッ!」


 男はくぐもった声で唸る。

 先ほどからずっと話しにくそうだった。

 俺がゴーレムカーのドアで顎を打ち砕いたからだろう。

 確か歯も折れていた。


 フロントガラスに突っ込んでいたので、顔にも傷跡が残っているのかもしれない。

 ミイラ男になっているのも納得だ。

 怪我の割にはよく喋れているので、魔術による治療でも施しているのだろう。


 男の風貌をじろじろと見ながら、俺は嘲るように評する。


「いい面構えだ。その包帯、似合っているよ。男前になったんじゃないか?」


「き、貴様ァ……ッ!」


 男が頬を痙攣させて激昂する。

 包帯越しでもよく分かった。

 鼻息が荒くなり、射殺さんばかりに俺を睨んでいる。


 この男はどうにも挑発に乗りやすいタイプらしい。

 冷静さを欠いた人間ほど行動を読むのが楽なので、個人的には望ましい性格である。

 転移なんて面倒なことができるのだ。

 なるべく判断力を失わせておいた方がいい。


 男はそのまま斬りかかってくるのかと思いきや、唐突に深呼吸を始めた。

 なんとか息を整えると、落ち着いた眼差しを向けてくる。

 前回、激昂の挙句に大怪我をしたのを思い出したか。

 人並みの学習能力は持っているようだ。


 幾分かの苛立ちを覗かせながらも、男は努めて冷静に口を開く。


「私の名は、ダレス・ロードミラー。レベルは49でクラスは魔剣士だ。貴様が取るに足らぬ存在ではないと認めたが故に名乗った。光栄に、思うがいい……」


 白コートの男・ダレスは不遜な態度で言う。

 いきなり自己紹介をするとは少し予想外である。

 それにしても偉そうだ。

 傲慢さを隠そうともしない。


「名乗れ。私が許可しよう」


「ただの飲んだくれだ。気にするな」


 俺は肩をすくめてみせる。

 ダレスが血走った目で睨んできた。


「貴様はどこまでも私を愚弄するようだな……。こうして私が和解に来てやったというのに」


「和解? この状況で抜かすのか。冗談がきついぜ」


 俺はダレスの背後にいる連中を指して笑う。

 明らかに裏社会の人間だ。

 どこかの組織に属しているのだろう。

 大勢の部下を率いているところを見るに、ダレスはそれなりの地位に就いていると思われる。

 酒場の客の動揺を考えると、結構な有名人なのかもしれない。

 人は見かけによらないものである。


「それで、あんたの言う和解ってのは何をするんだい?」


 俺が問うと、ダレスは即座に答える。


「貴様を私と同じ目に遭わせる。本来は即座に殺すところだが、今回は慈悲をくれてやる。私は寛容だからな。この街で平穏に暮らしたいのならば従え」


 そこまで聞いて笑いそうになる。

 馬鹿げた提案だ。

 大人しく頷くとでも思っているのか。

 言うことを聞かなければ、後ろに控える部下を使うつもりなのだろう。


 この場でこいつらを始末するのは容易い。

 だが、後から同じ組織の人間が報復に来ても面倒だ。

 組織としての面目を保つため、俺の始末に躍起になる恐れがある。

 次から次へと刺客が襲いかかってきて、延々と因縁が切れなくなってしまう。


 解決方法を考えなければ。

 その場を収めるだけのやり口では駄目だ。

 たまには頭脳を駆使してみせようじゃないか。


 ダレスと睨み合う中、俺は考える。

 そして素晴らしいアイデアを閃いた。

 俺はダレスの包帯顔を見て薄笑いを浮かべる。


「――雑草は根元から刈らないとな」


「貴様、何を言っている」


「こっちの話さ。それより和解なら場所を移そう。ここだと店の迷惑になる」


「……フン、いいだろう。私とて無関係な者を巻き込むつもりはない」


 俺の意見を聞いたダレスは鼻を鳴らす。


 その後、俺達は酒場の外へ出た。

 ダレスの手下に包囲されながら、夜の街を徒歩で移動する。

 すれ違う通行人は、俺達を気の毒そうに眺めていた。


「どこへ行くんだい」


「黙っていろ」


 手下の一人に質問するも、すげなく返されてしまった。

 二度とそんな態度を取れないようにしてやりたいが、寸前で堪えることに成功する。

 ここで暴れ出してはいけない。

 今は我慢の時であった。


「ねぇ、ジャックさん」


 連行される中、アリスが話しかけてくる。

 こんな状況でも彼女のテンションは変わらない。

 欠片の動揺も窺えなかった。


 俺は横目でアリスを見る。


「何だ?」


「でーと、とは何かしら? 初めて聞いた言葉だわ」


 唐突な質問を受けて、思わずアリスの方を向く。

 酒場での俺の発言がずっと気になっていたらしい。

 なんともマイペースなものである。

 俺は夜空を仰ぎながら、彼女の疑問に答えた。


「こいつらが邪魔した時間のことさ。深い意味はない」


「じゃあ、でーとの続きはまたの機会ね」


「……ああ、そうだな。楽しみにしているよ」


 無邪気に言うアリスに、俺は苦笑混じりに答えるしかなかった。

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【悲報】アリスちゃんうん百際、情緒は幼女並み
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