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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第30話 爆弾魔はトラブルと再会する

 その日の夜、俺達は便利屋の建物で宿泊することになった。

 件の物件の売買が済むまで、寝泊まりする場所がなかったのである。

 当初は適当な宿屋にチェックインするつもりだったが、レトナの好意で二階の一室を借りた。

 彼女曰く、失礼なことをしたお詫びらしい。

 件の物件に関する仲介手数料も半額で、清掃サービスまで付けてくれるそうだ。


 無論、盗聴や盗撮の魔道具を設置するなと念押ししている。

 レトナにはしっかり頷いてもらえた。

 あの調子なら大丈夫だろう。


 レトナは賢い。

 狡猾に立ち回る人種だが、暴力には従順なタイプである。

 用心棒のハックでは俺に敵わないと悟って、早々に白旗を上げた。

 その観察眼は確かなものだ。

 現状では信頼できる。


 もっとも、俺を凌駕する戦力を味方につけた瞬間、レトナはあっさり裏切るだろう。

 此度のことをきっと根に持っている。

 チャンスがあれば報復してくるはずだ。


 まあ、当分は訪れないであろう展開だと思う。

 彼女とて俺を裏切るリスクは理解している。

 絶対に始末できると確信しない限り、向こうから仕掛けてこないだろう。


 レトナはこの街における唯一の協力者だ。

 できるだけ大切にしたいものである。

 殺さずに済むのなら、それに越したことはない。


 ちなみに件の物件だが、二日後には引き取れるという話だった。

 唐突だったのに随分と早い。

 レトナが頑張ってくれているようだ。


「よし、できた」


 借りた部屋にいる俺は、机で爆弾作りを行っていた。

 自作できる範囲で試行錯誤を繰り返している。

 現在は起爆方法を研究中だ。

 スイッチによる遠隔式か、時限式の爆弾を量産したい。

 これがなかなか難しいのだ。

 手持ちの材料だけで、簡単なものを構築するのが面倒すぎる。

 ある程度の数を揃えられなくてはいけない。


 アリスの魔術に頼れば実現できるが、なるべく自力で完成させたかった。

 いつでも彼女のサポートが受けられるとは限らない。

 幸いにも【爆弾製作 EX++】のおかげで、仕組みさえ整えれば作ることができる。


 爆弾は消耗品だ。

 暇な時に様々なタイプを開発して、ストックしておかなければ。

 どんな場面でも臨機応変に動けるようにしたい。


 この街の市場では、多種多様な商品が売られていた。

 アリスによれば爆弾の材料となるものもあるらしい。

 俺自身、気になる品が何点かあった。

 近いうちに買いに行こう。

 爆弾作りがさらに捗りそうだ。


 作業の手を止めた俺は、窓の外を眺める。

 ここから見える街並みは存外に明るい。

 点々と設置された外灯のおかげだ。

 電気ではなく魔力による発光だろう。


「……小腹が空いたな」


 俺はなんとなしに呟く。

 この後に用事はない。

 新しい街へ来た記念だ。

 せっかくなので飲みに行くか。

 決心した俺は、ベッドで転がるアリスに声をかける。


「酒場に行ってくる。眠たかったり億劫ならいいが、一緒に来るかい?」


「ええ、行きたいわ」


 答えたアリスは、ころんと丸まって一回転する。

 彼女は床に着地しながら靴を履いた。

 そのまま立ち上がる。

 なぜか誇らしげだった。


 俺は軽く拍手をしてから机の上を片付ける。

 そして、ナイフやライフルを装備した。

 爆弾もいくつか所持しておく。


 エウレアは治安が悪い。

 夜になればその傾向も増すだろう。

 丸腰で出かけるほどお気楽にはなれなかった。

 常在戦場とまでは言わないが、これくらいは当然の嗜みである。


 俺はアリスを連れて階下へ向かう。

 すると、カウンター席で食事をしていたレトナと遭遇した。

 レトナは俺を見るなり立ち上がって背筋を伸ばす。


「どうもジャックさん! 何かご用ですかね?」


「ちょっと酒場に行ってくる。近所でいい店を知っているかい」


「それでしたらオススメがありますよ!」


 レトナは近くの酒場までの道順をメモしてくれた。

 名物料理や人気の銘柄の酒まで記載してある。

 さすが便利屋。

 この街の基本情報は、頭の中にインプットしているらしい。


「すまないな。恩に着るよ」


「いえいえ、他でもないジャックさんの頼みですからねぇ。いくらでもお手伝いさせていただきますとも」


 レトナは華麗に一礼してみせる。

 よく言うものだ。

 まったく心がこもっていない。

 薄っぺらい言葉である。


 ただ、俺の怒りを買わないようにしているのは確かだった。

 昼間の脅しが効いている。

 ずっとこのままでいてくれることを祈ろう。


 俺とアリスは便利屋を出て、併設された倉庫へ歩いた。

 渡されていた合鍵でシャッターを開ける。

 そこにはゴーレムカーが停めてあった。

 便利屋の倉庫を、ガレージとして使わせてもらっているのだ。

 金すら払っていないのに、過剰なまでの好待遇だった。


 俺達はゴーレムカーに乗って発進する。

 ガレージを施錠してから街へ繰り出した。


 徒歩でも行ける距離だが、やはり治安の悪さを配慮しての選択である。

 安全に移動できるのが一番の理由だった。

 加えて歩行者に絡まれないので快適に過ごせる。


 目的地の酒場には数分ほどで着いた。

 店の前にゴーレムカーを駐車して、アリスと共に店内へと入る。


 室内は、絶え間ない活気に包まれていた。

 むさ苦しい男連中が大騒ぎしている。

 彼らは酒で満ちたジョッキを片手に笑い合っていた。

 夜風で肌寒い外とは対照的な熱気である。


 いい場所だ。

 こういう酒場は嫌いじゃない。

 雑然としながらも大衆的な感じが酒を美味くする。


 俺は店内の隅のテーブル席を確保した。

 近くを通りかかったウェイターを呼び止め、レトナに薦められた酒と料理を注文する。


 待っている間、室内の様子を傍観する。

 素面の者はいない。

 誰もが赤ら顔で大声を上げていた。


「ここはすごい場所ね」


 周囲の音に掻き消されそうな声でアリスが述べる。

 彼女は頬杖をついて店内を見つめていた。

 その姿は絵画にできそうなほど様になっている。


「酒場にはあまり来ないのか?」


「ええ。そんなに興味がなかったから。でも面白いと思うわ。雰囲気が幸福に満ち溢れているもの」


 確かにここは幸福な者だらけだ。

 酔っぱらって騒ぐのは楽しい。

 こうして見ている分にも退屈するものではない。

 俺は足を組み直しながら苦笑いする。


「幸福か……世界を滅ぼしたい人間のセリフじゃないな」


「私、人間は嫌いじゃないわ。少なくともジャックさんのことは好きよ?」


「そいつは光栄だ」


 雑談を交えて酒と料理を待っていると、不意に店の入り口から殺気を感じた。

 どうやら空気の読めない客が入ってきたらしい。

 まったく、困ったものである。


 そちらを向こうとした瞬間、俺は首元に冷たい感触を覚える。

 視線だけを動かすと、両刃の剣が添えられていた。

 頸動脈にあたる位置を撫でている。


「――へぇ」


 俺は続けて視線を動かす。

 剣の手元から、その持ち主へと順に確認していく。

 そこに立っているのは、顔を包帯で覆った白コートの男であった。

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