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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第29話 爆弾魔は拠点を買う

「いらっしゃいませ! 便利屋へようこそーっ!」


 ドアが開くと同時に明るい声に迎えられた。

 飛び出してきたのは、眼鏡をかけた女だ。

 癖のある栗色の頭髪にぴっちりとした緑の制服。

 年齢は二十代半ばくらいか。

 お調子者といった雰囲気を醸し出している。


「少し頼みたいことがあるんだが、いいかな?」


「ええ、ええ! もちろんですとも! どうぞお入りください」


 上機嫌な女は、嬉々として俺達を室内へ招き入れる。

 その顔に浮かぶのは、どことなく胡散臭い笑みだった。

 腕のいい商売人のそれである。

 つまりは油断ならない人種ということだ。


 案内されたのは、応接室のような広い部屋だった。

 ローテーブルに向かい合わせのソファが並んでいる。

 奥にはカウンター席もあり、そこだけがバーのようになっている。


 カウンター席には筋骨隆々の大男が立っていた。

 タンクトップにオーバーオールの作業着を着ている。

 素手で熊を倒せそうな見た目だ。

 男の鋭い視線が俺達に向けられる。


「…………」


 特に言うことはないのか、男はすぐに背を見せてカウンター席を拭き始める。

 掃除中だったらしい。

 寡黙な男である。


 そして、なかなかの手練れだ。

 佇まいからして分かる強さである。

 見た目に違わぬ戦闘能力を持っているのだろう。

 ここの用心棒といったところか。


「ほらほら、遠慮なくお座りください。今、お茶を持ってきますので!」


 元気な女に促されて、俺とアリスは隣り合って座る。

 女は軽い足取りでどこかへ行ったかと思うと、盆を持って戻ってきた。

 そこに載せた三つのグラスをテーブルの上に置く。


 対面に腰かけた女は、胸に手を当てて微笑んでみせた。


「初めまして! 私、便利屋オーナーのレトナといいます。向こうの逞しい彼は助手のハックです。以後お見知りおきを」


「ジャックだ。こっちはアリス。よろしく」


「いやはや、お会いできて光栄です。大通りで一悶着を起こした方が、その足でうちへ来られるとは思いませんでした。あのドアのぶつけ方はすごかったですねぇ。痛そうでした」


「――見ていたのか」


 俺は持ち込んだライフルに手を添えながら尋ねた。

 自然と眉を寄せて目付きがきつくなる。


 するとレトナは、大袈裟なリアクションと共に首を振った。


「たまたまですよ! あの場所には、こっそりと遠視の魔道具を設置しているんです。商売柄、情報の鮮度が命なものでして。土地的にも治安が悪いですから、備えは必要ですからねぇ。別にそれであなた方を脅す気は毛頭ございません。ただの世間話というやつです」


「なるほどな……」


 どうやら街の通りには、監視カメラみたいなものが仕掛けられているらしい。

 魔術関連は詳しくないものの、そういったことも可能なのだろう。

 アリスの万能さを知っているので驚きは少ない。

 片手間に追尾式のミサイルが造れるのだ。

 監視カメラくらいあってもおかしくない。


 それに、レトナの意見も当然だ。

 このような街で暮らす以上、何らかの策は用意して然るべきだろう。


「ところで、本日はどういったご用件で?」


「二人で暮らせる家がほしい」


「ほうほう。ご希望の物件の条件と資金を教えていただけますか?」


 俺がアリスに目配せすると、彼女は具体的な条件と資金を伝えていく。

 細かい部分は省くが、魔術研究に適した広さと高い防犯性、建物自体の耐久性が主な要望だった。

 アリスの話を聞いたレトナは、少し考えた後に笑顔になる。


「それでしたら該当する場所が一軒だけありますねぇ。売り出し中の物件です。ただし、この街では縁もなしに交渉を進めるのは難しいです。私達であれば、所有者との売買を仲介できます。手数料はいただきますが、円滑に進められますよ」


「そいつは助かるな。頼むよ」


「ありがとうございます! よろしければ今からその物件を見に行きますか?」


「いいのかい?」


 俺が問うと、レトナは笑みを深めた。


「はい! ちょうど空き時間だったもので」


 その後、俺達はゴーレムカーで移動することになった。

 便利屋の二人も同乗した状態で街を進む。

 さっそく後部座席が役に立った。


 ちなみに荷物類は車両の隠しスペースに収納してある。

 ドラゴン素材の導入と共に追加した機能で、爆弾やドラゴン素材の余りはそこに突っ込んでいた。

 第三者に見られては困るとの判断で予め対策していたのだ。


「そういえば、お二人はどちらから来られたのですか?」


 興奮気味にゴーレムカーを観察していたレトナが、何気ない口調で話題を挙げる。

 その眼差しの奥には、粘質で嫌な色が含まれていた。

 世間話の体で素性を探ろうとしている。

 ハンドルを握る俺は、自然体を装って答える。


「お隣の国の田舎町さ。前々からエウレアの自由な風潮に興味があって、思い切って引っ越そうと決めたんだ」


 事前に用意していた嘘の経歴だ。

 エウレアのどこかに日本人が潜んでいる可能性がある。

 爆弾魔の噂が広まりすぎると、俺の生存を知って暗殺を仕掛けてくるかもしれない。

 対策を確立していない状態では避けたい流れだった。

 そのため、なるべく身分を偽りたいのだ。


 渋滞の際、白コートの男と揉めてしまったが、あれは不可抗力であった。

 この街で喧嘩は日常茶飯事。

 大して目立ってはいないはずだろう。

 とにかく、この便利屋に情報を渡すのはナンセンスだった。


「なるほど、なるほど。遠いところからはるばるお疲れ様です。素敵な新生活の応援ができて、私達も嬉しいですねぇ」


 レトナは芝居がかった調子で言う。

 あちらも嘘の経歴だと見破っているだろうが別に構わない。

 その上のやり取りである。


 十分ほどの移動を経て、俺達は目的地に到着した。

 そこは通りから外れた場所で、柵で囲われた敷地となっている。

 荒れ果てた土地に、二階建ての家屋があった。

 どうやらあそこが件の物件らしい。


「見た目はただのお家ですが、防音加工を施された地下空間があります! かなり頑丈で、隠し部屋なんかも付いてますね。使い古しになりますが、置いてある家具も使っていただいて構いません。お値段もご希望の額の範疇に納まっています。所有者に許可を取れば内部見学も可能ですよ」


「所有者は誰なんだ?」


「この城塞都市の犯罪組織ですね。エウレアを統べる代表者の下部組織でもあります。壊滅させた敵対組織から徴収したそうで、そのまま放置している物件らしいですよ。曰く付きですが、その分お買い得です」


 レトナの説明に俺は苦い顔をする。

 代表者の下部組織が所有者か。

 ただの物件の購入だが、果たして関わっていいのか迷うところである。

 何もなければいいものの、なんとも微妙なラインである。

 ただ、理想的な物件を見逃すのも惜しい。


 そこで俺はアリスを呼び、便利屋の二人から距離を取って相談をする。


「ここを買い取るのはまずいか? 拠点としては良さそうな場所だが」


「大丈夫じゃないかしら。物件の売買くらいなら問題ないはずよ。便利屋さんが仲介もしてくれるそうだし」


 アリスは涼しい顔で即答する。

 彼女の言う通りだ。

 これはただのビジネスである。

 犯罪組織に喧嘩を売るわけではない。

 あまり警戒しすぎると、行動が制限されて窮屈になる。


「それにもしもの時は、ジャックさんが解決してくれるでしょう?」


「……確かにな」


 上目遣いに見つめてくるアリスに、俺は思わず苦笑する。

 そう、俺にはトラブルを解決する力がある。

 いざとなったら爆弾でまとめて吹き飛ばすまでだ。

 元の世界でも、数々の暗殺任務もこなしてきた。

 犯罪組織の十や二十なら、片手間に壊滅させている。

 過剰な心配は野暮というものだろう。


 まったく、この世界に来てから、暴力的な手段に訴えることが増えてきた気がする。

 圧倒的なパワーを得たからだろう。

 それを発揮して楽しみたいのだ。

 子供のような幼さを自覚しつつ、俺はレトナに告げる。


「最終決定は内部見学をしてからだが、ここを買う方向で進めてくれ」


「ありがとうございます! では、少し手続きをさせていただきますね」


 レトナは持参の書類と手帳に何かを書き込んでいく。

 内部見学にあたって行うべきことをまとめているのだろう。

 それを待っている間、俺はふと気になっていたことを話すことにした。


「そうだ。俺のことを探ろうとする輩が現れても、情報を売ってくれるなよ? 色々と訳ありでね」


「えぇー、それは了承しかねますねぇ。私達も商売ですから、金額次第では口も割ってしまいますし――」


 へらへらと笑うレトナ。

 俺はライフルの銃口を彼女の顎に突き付けた。

 引き金に指をかけながら告げる。


「一つ耳よりな情報をプレゼントしよう。俺はお前みたいにふざけた輩が大嫌いだ。高みの見物を気取って、面白半分で場を掻き乱す奴だ。どうして自分が安全だと思っているんだろうな。質問の代わりに鉛玉をぶち込んでやりたくなる」


「な、なな……っ」


 金縛りに遭ったかのように硬直するレトナ。

 そばに立つ助手のハックが、殺気を膨らませた。

 レトナを助けようとしているらしい。

 いち早く察知した俺は、そちらを向いて睨む。


「おっと、お前も動くなよタフガイ。オーナーの脳味噌がぶちまけられるのを見たくないだろう?」


「…………」


 ハックは無言で悔しそうな表情をする。

 こちらに聞こえるほどの歯ぎしりを鳴らすも、殺気を沈静化させた。

 ひとまず襲いかからないと決めたようだ。

 見た目とは裏腹に理性が働いているらしい。

 俺はライフルを下ろさず、鼻で笑う。


「便利屋なんて自称しているが、結局は情報屋の一環だろう。いいか。今後、俺達に関することを少しでも外部に漏らしてみろ。地の果てまで追いかけて、お前達をとびきり残酷な方法で嬲り殺しにする。絶対にだ。ここで契約書にサインしてもいい」


「うぅ……」


「俺だって率先してそんなことをしたいわけじゃない。お前達とは、良い関係を築けたらと思っている。だから、あまり怒らせないでくれ」


「い、嫌だなぁ。大切なお客様の情報を流出させるわけないじゃないですかぁ。私としても、ジャックさん達とは上手くやっていきたいと考えていますからねぇ。真摯に向き合って仕事をしていく所存ですとも、えぇ」


 レトナはおどけた調子で笑う。

 顔が若干青ざめていた。

 俺が本気だと伝わっているようだ。

 言葉だけの脅しなら、彼女が怯えることはなかった。

 返答次第では本当に死ぬと分かっているが故に動揺している。


 両手を上げて降参のポーズを取るレトナは、乾いた笑いを漏らす。


「は、はは……暴力的な方だとは思ってましたが、まさかここまでとは……」


「やる時はやる男ってことだ。そういうことで、改めてよろしく。ここの手続きも頼んだぜ?」


「……あなた、そこそこ狂ってますね?」


「気にするな。元からだ」


 レトナの指摘に平然と返しつつ、俺は彼女と握手を交わした。

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