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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第2章 巨竜人と無法の国

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第28話 爆弾魔は街の治安を知る

 ちょっとした邪魔が入りながらも、俺達は引き続き街中を移動する。

 途中、露店で食糧を買うことにした。

 備蓄が少なくなっていたことに加え、渋滞に少し飽きていたのだ。


 俺はアリスのポケットマネーを受け取って下車する。

 戻ってくるまでは自動運転に任せておく。

 近くに肉屋があったので、さっそく立ち寄ってみた。


「やぁ、干し肉をいくつか貰えるかな」


「おうよ! どいつもお買い得だ」


 厳つい風貌の店主に勧められ、商品の肉をいくつか選んで会計を済ませる。

 帝国の貨幣が使えるか気になったものの、問題なく支払いができた。

 そのことについて訊いてみたところ、エウレアでは様々な国の貨幣が流通していることが判明した。

 独自のレートで両替できるようになっており、場所によっては物々交換も認められているそうだ。

 そもそもエウレア固有の通貨が存在しないのだという。


「この国は特殊だからなぁ。制度やら文化やら、あらゆるものが一貫していない。無法地帯と言ってもいいだろう」


「そいつはすごいが、商売をするには不向きな環境じゃないか? 無法地帯だと商品を狙う輩も出てきそうだ」


「そんな時はぶっ飛ばしてやるだけよ。力こそ正義――それがエウレアに敷かれた唯一絶対の法律だ」


 店主は筋肉を見せつけるようにポーズを取ってみせる。

 熊を彷彿とさせる屈強な体つきだ。

 虚勢や冗談ではなく、本当に力で解決するタイプだろう。


 エウレアはつくづく特殊な場所である。

 独立国家という形態と成り立ち方が要因なのか。

 代表者とやらの方針も関係している気がする。


 まあ、その辺りに興味はない。

 それより優先して調べなければいけないことがあった。

 俺は店主との会話を続ける。


「そうだ。この都市で手軽に購入できる物件はないかな」


「物件? 兄ちゃん、エウレアに定住するつもりかい」


「ああ。住みやすそうで気に入ったよ。安く買えるところがあると助かるんだがね」


 アリスのポケットマネーはそこそこの額らしい。

 彼女が錬金術師として稼いだ財産である。

 とは言え、巨万の富というわけでもない。

 後先考えずに使えばすぐに底を尽きるとのことだった。


 そのうち金稼ぎもすべきだろう。

 どんな仕事をしようか迷う。


 真っ先に思い浮かぶのは傭兵だ。

 元の世界で慣れ親しんだ職業である。

 高レベル補正を得た肉体なら打ってつけに違いない。

 働き口に困ることはないだろう。


 アリスはアリスで様々な技能を活かした仕事ができる。

 俺より稼ぐことも容易だと思う。

 多才というのは、それだけで大きな価値になり得る。


 送還魔術の研究にも金が必要だ。

 今後のためにも貯金を増やして損はあるまい。


「物件を探しているのなら、便利屋に相談するのがいいだろう。金は必要だが、条件に合った場所を手配してくれるはずだ」


「便利屋だって?」


「おう。ここから近い。まずは寄ってみるといい」


 そう言って店主は便利屋の場所を説明する。

 確かにここからすぐに行けそうだった。

 他に手がかりもない。

 まずは顔を出してみるべきか。

 俺は店主にチップを渡し、ゴーレムカーに戻って運転を再開する。


 通りは相変わらず渋滞気味であった。

 ちっとも動かないタイミングも少なくない。

 とは言え、日が落ちるまでにはまだ時間がある。

 近道も考えず、風景を楽しむことにした。


「痛ェっ! 何すんだテメェ!」


「そっちが先にやってきたんだろうがァッ」


 道端で殴り合いをしている男達がいる。

 互いに罵声を浴びながら争っているのは、魚人のような種族と頭部が狼の種族だ。

 それを見た周りの人間は、口々に囃し立てて楽しんでいる。

 賭けをしている者もいる始末だった。


「待てコラァ! 大切な商品を盗みやがって! 今日という今日は絶対に許さんからな……ッ!」


「嫌だね! 捕まってやるもんかっ!」


 ゴーレムカーのすぐそばを、果実を抱えた少年が駆け抜ける。

 その直後、エプロン姿の男が現れて怒声を発した。

 男は鉈を手に少年を追いかけていく。

 少年は果実泥棒で、男はその持ち主か。

 尋常でない殺気だったので、あれは捕まればただでは済まないだろう。


「い、いやッ」


「このクソ、大人しくしやがれ……!」


 微かに声がしたので視線を動かす。

 麻袋を被せられた女が、路地の陰へ引きずり込まれるところだった。

 奴隷にでもされるのだろうか。

 この世界ならそう珍しくないことだと思われる。


「非情だな……」


 それらの光景を傍観する俺は、しみじみと呟く。

 改めて観察すると、エウレアの治安の悪さが際立っていた。

 他の街もスラム街も、ここまで露骨ではなかった。


 これらの光景が大通りで横行しているのを見るに、ここでは当たり前のことなのだろう。

 周りの人間も、特に気にした様子もなく過ごしている。

 彼らにとってはこれが日常らしい。


 これだけ無秩序ながらもそれなりの規模の都市なのだから驚きである。

 陰鬱とした空気もなく、むしろ底無しの活発さが窺えた。

 エネルギーに満ち溢れているような感じがする。


 なんとも面白い。

 ある種の狂気に近かった。

 国全体の都市が似たような状態なのか、気になるところである。

 是非とも国内の都市を見て回りたかった。


「とても元気な場所ね。犯罪が少し多いようだけれど」


 アリスがぽつりと述べる。

 ちょうど同じことを考えていたらしい。

 外から視線を戻した俺は彼女に尋ねる。


「エウレアに来たことはないのか?」


「ええ。ここは静かに研究するには騒々しすぎるから。でも、嫌いじゃないわ。物の不自由はないはずよ」


「確か輸出入が盛んなんだったか」


「そうね。混沌としているけれど、何もかもが揃う街よ。誰でも簡単に身を隠すことができる。ジャックさんの探す召喚者も、必ず国内に潜伏しているはずだわ」


 そこで言葉を切ったアリスは、控えめに拳を握ってみせた。

 彼女は口を閉じて、無言でじっと見つめてくる。

 凛とした眼差しにはいつもより力がこもっているような気がした。

 何かを訴えかけているのだろうか。

 少し考えて意図を察した俺は苦笑する。


「ひょっとして、励ましてくれているのか?」


「そうよ。ドワーフの集落で再会した時、召喚者を逃がしてしまったでしょう? しかも抵抗もできずに攻撃されていたもの。それで落ち込んでいるのだと思ったの」


 アリスはストレートな物言いで答える。

 悪意はなく、ただ思ったことを口に出しているだけのようだ。

 それにしたって辛辣すぎるとは思うが。

 ただ、こちらを気遣った発言なのは伝わってきた。


 俺は軽く笑って肩をすくめる。


「落ち込んではいないさ。たった一度の失敗で折れるほどヤワじゃない。大好物の料理が後回しにされても、いちいち腹を立てたりしないだろ? それと同じだ」


「……つまりどういうこと?」


「あいつは必ずぶっ殺すってことだ」


 それを聞いたアリスは、きょとんとした表情を見せた後、柔らかな微笑を浮かべた。

 心底から嬉しそうにしている。


「分かりやすい結論ね」


「シンプル・イズ・ベストを信条にしているからな」


 会話をしているうちに渋滞が解消され、ゴーレムカーが十字路に差しかかった。

 ハンドルを切って右へと曲がる。

 そこからは店主に教えてもらった道順に従って進んでいく。


 ほどなくして青い三角屋根の建物が見えてきた。

 あれが便利屋の目印である。


 俺は建物の前にゴーレムカーを停め、アリスと共に外へ降りる。

 ゴーレムカーは窃盗防止の機能をオンにしておいた。

 これでもし妙な輩が車体に触れた場合、自動的に変形して迎撃するようになっている。

 盗もうなどと目論む者はいないだろうが念のためだ。


 果たして手頃な物件はあるのだろうか。

 治安の具合によっては、別の都市に拠点を置いてもいい。

 犯罪者が頻繁に遊びに来るような場所は困る。


 もっとも、アリスに頼めば防犯装置くらいは設けられる。

 そういったもので追い払えれば静かになるか。

 最終手段として、俺が直々に暴力を以て排除すればいい。

 それがエウレアの流儀みたいなので、上手く合致しているだろう。


(とにかく、見てからのお楽しみだな)


 期待に胸を膨らませながら、俺は便利屋のドアをノックした。

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