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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第1章 異世界の爆弾魔

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第25話 爆弾魔は宴を楽しむ

 ゴーレムカーが森の中を低速で進む。

 運転席の俺は、気分よく口笛を吹いていた。

 行き道のようにドラゴンを警戒する必要もない。

 実に快適な道のりである。


 現在は集落への帰り道だった。

 助手席にはアリス、車両の周りにはドワーフがいる。

 さらに数十体のゴーレムも追従していた。


 このゴーレム達は、急遽アリスが製造したものである。

 質より量を優先したため、形状に均一性はなかった。

 どいつも人型に積み上げた岩石のような見た目をしており、バランスが悪そうな個体も少なくない。


 そんな岩石のゴーレム達は、鱗の付いた肉や骨の塊を抱えていた。

 ドラゴンの死骸である。

 解体したものを運搬させているのだ。


 元々のドラゴンは旅客機ほどの大きさだった。

 さすがにゴーレムカーに載せ切れない。


 かと言って、放置は論外だ。

 ドラゴンの素材が稀少かつ有用であることは既に判明している。

 爪の破片すら強力な武器となり得るのだ。

 これを見逃すわけにはいかない。

 そんなわけで、大量のゴーレムで運ぶ次第となった。


 ちなみにドラゴンの死骸は、集落で話し合ってドワーフ達と分け合うつもりだ。

 彼らも勇敢に戦って勝利に貢献した。

 人数合わせの足手まといなどではない。

 活躍に見合った報酬が必要だろう。


 実際、ドワーフ達の砲撃に助けられた面は大きい。

 そもそも彼らの協力がなければ、ここまでの装備を整えられなかった。

 どのみち、この量の死骸は今後の旅では持ち運べない。

 ここで恩くらい売っておいてもいいだろう。


 途中、日が落ちてきたので移動を中断し、その場でキャンプを行うことになった。

 日没後も進んで集落に帰還することもできたが、ドワーフ達のメンタルに考慮した。

 大きな怪我を負っていないとはいえ、あの激戦を経験したのだ。

 心的疲労は計り知れない。

 戦闘中は高揚感で誤魔化され、今も討伐を達成した喜びに紛れているが、気疲れは感じているだろう。


 それに集落へ急いで戻らなければいけない理由もない。

 どれだけ悠長に帰っても、明日の昼には到着できる距離だ。

 焦らなくてもいい。


 キャンプが決まった途端、ドワーフ達は手早く準備を始めた。

 手伝おうとしたら、丁重に断られてしまう。


「ジャック殿はお疲れでしょうから。ゆっくりお寛ぎくだされ」


 ドワーフの一人が微笑みながら言う。

 ドラゴンと激戦を繰り広げた俺を労わっているようだ。


(別に気遣ってくれなくていいのだけどな……)


 実を言うとほとんど疲れていない。

 元から体力には自信があったが、高レベル補正で人間を超越していた。

 常にほぼ万全の状態なのだ。


 とは言え、これもドワーフ達の善意である。

 素直に受け取っておこう。

 彼らの手際もよく、手伝うこともなさそうだった。

 俺は苦笑して、仕方なく座って待機する。


 暇潰しに周囲に立つゴーレムを見やる。

 彼らは警備役だ。

 接近してきた魔物を追い払うように命令されている。

 今のところは一度も出番が来ていなかった。


 まあ、いざという時は俺が対応するつもりだ。

 さすがにドラゴン以上の魔物はいないだろうし、簡単に倒せるだろう。

 もしそのような怪物が現れたとしても、余裕で対処可能だ。

 用意した武器はまだ余っている。


 そんな俺の自負とは裏腹に、魔物はまったく現れない。

 気になった俺は、同じく待機するアリスにそのことを尋ねる。

 彼女は当然のように答えた。


「竜の血の臭いが、他の魔物を遠ざけているの。生存本能を刺激しているのでしょうね」


「なるほど。死骸にそんな効果があったとはな」


 俺は感心する。

 ドラゴンの素材を使えば、魔物除けのアイテムなんかも作れそうだ。

 まあ、何にしろ余計なトラブルが起きないのはいいことである。


 そうこうしているうちに、ドワーフ達が焚火で鍋を始めた。

 野菜と肉の煮込みだ。

 肉はドラゴンを使用したものであった。


 俺は鍋を覗き込む。

 ほぐれたドラゴン肉がスープを泳いでいる。

 立ち昇る湯気と香りが食欲をそそる。


「ジャック殿からどうぞ。お召し上がりください」


「ああ、ありがとう」


 俺は木の椀を受け取る。

 ドラゴンとはどれほどの味なのか。

 純粋に興味があった。

 俺はワクワクしながら椀を口に運ぶ。

 そしてよく味わってから、感想を述べた。


「……うん。まあ、悪くないな」


 なんというか、感想に困る味だった。

 不味くはない。

 しかし、大して美味くもない。

 百点満点で言うと六十点辺りを彷徨うだろう。

 絶品の味を期待していただけに、失望は大きかった。


 ただ、滋養強壮という面では良さそうだった。

 力が漲る感覚がある。

 寝起きにこれを流し込めば、その日は元気に動けそうだ。

 アリスやドワーフ達も満足そうに食べている。

 俺が過度に期待したが故の感想だったようだ。


 食後、場は談笑の時間となる。

 緊張がようやく解けたドワーフ達は、生き生きとした表情で笑い合った。


 彼らにかかっていたプレッシャーは相当なものだろう。

 集落の命運を背負っていたのだから。

 その中で役目を全うした彼らには褒め言葉しか出てこない。


 盛り上がるドワーフ達を横目に、俺は自分のステータスを確認する。

 ドラゴンなんて大物を倒したので、何か変わっているんじゃないかと思ったのだ。

 その予想は当たっていた。


 スキル欄に【竜殺者 B+】という表記が増えている。

 聞けばアリスやドワーフ達も同名のスキルを取得しているらしい。

 ただし、彼らのそれはランクがCとのことだ。

 この差はおそらくドラゴンにトドメを刺したか否かだと思う。

 それくらいしか理由が考えられなかった。


 加えて俺だけが【蒼竜の血潮 A】というスキルも取得していた。

 アリス曰く、ドラゴンの生き血を浴びたのが要因だろうとのことだ。

 ついでにスキルの詳細効果も教えてもらうことにした。


「まず【竜殺者 B+】だけど、これは竜との戦闘における攻撃補正や、威嚇行動の成功補正。竜素材の武具を使う際の性能向上ね。ランクが高いほど効果は高まるわ」


「じゃあ【蒼竜の血潮 A】は何なんだい?」


「再生能力の獲得と身体能力の強化ね。あとは攻撃魔術への耐性かしら」


「随分と大盤振る舞いだな」


 どちらも便利そうなスキルだ。

 汎用性が高い。


 俺の【爆弾製作 EX++】は非常に便利だが、あれは事前準備で活躍する能力である。

 戦闘中に使用する類ではない。

 今回の二つのスキルは、主に戦闘行為を直接的にサポートする効果ばかりだった。

 あらゆる場面で役に立ちそうだ。


 此度の出来事を経て、俺は学んだことがある。

 それは、この世界で生きていくことの難しさだ。


 この世界には、モンスターが跋扈している。

 ドラゴンのような怪獣が決して珍しくもないのだ。

 人類に優しくないのは確かであった。


 元の世界で培った戦闘技術や、高レベル補正が通じない場合も出てくるだろう。

 ふとした拍子に命を落としても不思議ではなかった。

 決して慢心できない。


 俺は必ず元の世界へ帰還する。

 そのために使えるものは何であろうと利用していかなければ。

 生存率を底上げするスキルが増えるのは大歓迎だった。


 余談だが、アリスとドワーフ達は大幅にレベルアップしたらしい。

 ドラゴン討伐に貢献したからだろう。


 一方で俺のレベルは変動していない。

 アリスによると、レベルが高くなりすぎて次のレベルアップに必要な経験値が桁違いなのだという。


 こればかりはどうすることもできない。

 気長に待つしかないだろう。

 今のままでも十分に高い。

 レベルアップすればラッキーといった程度に考えておこう。


 談笑もそこそこに俺達は就寝する。

 変形させたゴーレムカーを各自のベッドにして横になった。

 夢も見ることもない、深い眠りだった。


 そして翌日。

 心身共にリフレッシュした俺達は移動を再開した。

 相変わらず魔物とも遭遇せず、スムーズに森を進んでいく。

 そのまま昼前には集落へと帰還した。


 集落の人々は、俺達が犠牲者ゼロで戻ってきたことを驚いた。

 全滅の可能性も十分に考えられ、生還するにしても大部分が死ぬと思っていたらしい。

 ドラゴンに挑むということは、そういう認識なのだとか。

 なんとも世知辛い。


 まあ、実際は最上の結果を叩き出したのだ。

 何も憂うことはないだろう。


 ざっくりと経緯を話した俺達を待っていたのは、豪勢な祝宴だった。

 悲観的に捉えながらも、準備はしてくれていたらしい。


 祝宴は三日三晩にも及ぶ長いものであった。

 ドワーフ達はありったけの酒と料理で昼夜問わずに騒ぎ続ける。

 その間、俺とアリスは集落のどこへ行っても人気者だった。

 おかげで竜殺しの英雄譚とやらを飽きるまで語る羽目となった。


 まあ、たまにはこういう体験も悪くない。

 自らの功績を称えられるのは、気分が良いものだ。

 開き直った俺は、祝宴の日々を満喫するのであった。

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