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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第1章 異世界の爆弾魔

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第23話 爆弾魔は竜を蹂躙する

 対峙するドラゴンは、前脚の爪が割れていた。

 俺達が遭遇した個体で間違いないようだ。

 心なしか俺を睨んでいる気もする。

 恨まれているのかもしれない。


 観察をしていると、ドラゴンが大きく息を吸った。

 口の中でちらつく紅蓮の炎。

 急速に勢いを増して膨れ上がっていく。


 あれはブレスの挙動だ。

 事前に聞いていたドラゴンの代表的な能力である。

 体内の魔力を炎に変換して吐き出すらしい。

 個体によってはそれが氷だったり風だったりと違いがあるそうだが、このドラゴンは普通に炎を扱うみたいだ。


 極めて破壊力の高いブレスだが、相応のデメリットも存在する。

 具体的には消耗が大きい上に連発ができない。

 窮地に陥った際に使用されるのが一般的だと聞いていた。


 それを初っ端から放とうとするとは、よほどの殺意が窺える。

 出し惜しみせずに早期決着を望んでいるのか。

 或いは俺達に接近したくないのか。

 何にしろ単なる捕食対象ではなく、排除すべき天敵として見ているのは確かだった。


 いきなりのブレスで全滅を狙うのは、存外に理に適った戦法である。

 野生動物かと思ったが、きちんと頭も回るらしい。


 だが、甘い。

 ブレスはドラゴン最大にして最強の必殺技だ。

 使用を想定していないわけがない。


「アリス、防御だ」


「了解」


 俺の指示を受けたアリスが、ゴーレムカーに手をかざす。

 すると車体が変形を始め、瞬く間に半ドーム状の盾となった。

 ちょうど俺達とドラゴンの間にそびえる位置である。

 車内に積んだままの武器類は、盾の内側に格納されている。


 そんな盾の表面が仄かに光った。

 防御魔術が起動したのだ。

 俺達のいる側からは見えないが、前面には何重にも及ぶ魔力のバリアーが張られている。


 直後、轟音が空気を震わせた。

 ガラスが割れるような音が連続で鳴り響く。

 放たれたブレスが、防御魔術を破壊しているのだろう。


 周囲に火炎が飛散して大地を焦がす。

 ただし、俺達の立つ場所に被害はない。

 熱気が鬱陶しい程度である。


 やがてブレスが止まった。

 ゴーレムの盾に損傷はない。

 無数の防御魔術がブレスの威力を削いだのだ。

 役目を果たしたゴーレムの盾は、元の車両形態へと戻る。


 目論見通りの結果に俺は笑みを深める。


「最高だな! 文明の勝利ってやつだ」


「油断しないで。今の防御は魔力消費が大きい。何度も使えないわ」


「分かっているさ」


 アリスの注意に俺は頷く。


 ゴーレムの盾を乱発するつもりはない。

 あくまでもブレス専用の防御策だ。

 それも使わせた以上、ここからは俺達の出番であった。


「例の魔術、使う?」


「ああ、頼んだ」


「分かったわ」


 アリスが詠唱し、淡い光を投射した。

 滞空するドラゴンの片翼に、ぼんやりと紋様が浮かび上がる。

 特にダメージを与えた様子はなく、それ以外の現象は起こらない。

 だがこれでいい。

 あの紋様はただのマーキングだった。


 一方でドラゴンは空を旋回する。

 高度を保ってこちらを様子見していた。

 ブレスが効かなかったことで警戒しているのだろう。

 他に遠距離攻撃を持たないようで、俺達の出方を窺っている。


(このまま膠着状態を続けて、もう一度ブレスが撃てるようになるのを待っているな?)


 もちろんそれだけの猶予は与えない。

 防戦は終了した。

 あちらが来ないのなら、遠慮なく攻勢に移ろうか。


「野郎共、構えろ」


 俺の命令を機に、一列に並んだドワーフ達が片膝立ちになる。

 そして、肩に担ぐようにして武器を構えた。


 彼らの持つ武器は、一見すると大きな筒だった。

 その正体は個人携行型のミサイルランチャーである。

 集落で急造したもので、内部構造のほぼすべてがファンタジー式だ。

 ミサイル自体も使い捨てのゴーレムで、弾頭に竜爪爆弾を仕込んだ特別製であった。


 俺が片手を上げると、ドワーフ達はミサイルランチャーの狙いをドラゴンに固定した。

 向こうの動きに合わせて照準を調整している。


 彼らは揃って覚悟を決めた顔をしていた。

 自らの役割を理解し、忠実にこなそうと行動している。

 生粋の戦士だ。

 勇敢なドワーフ達に満足しつつ、俺は合図の手を下ろす。


 その瞬間、ミサイルが一斉に発射された。

 砲身の加速術式が起動し、ドラゴンを目がけて一直線に飛翔していく。


 飛行するドラゴンは回避を試みるも、ミサイルは軌道を変えて正確に追尾する。

 どれだけ複雑な挙動だろうと決して逃がさず、徐々に距離を詰めていった。


(よし、順調に機能しているようだな)


 あのミサイルタイプのゴーレムは、特定の目印を追いかけるように造られている。

 すなわちドラゴンの翼に浮かんだあの紋様だ。

 故に回避は不可能。

 どこまでも追いかけていく。


 やがてミサイル群は、ドラゴンの片翼に炸裂した。

 相次ぐ爆発。

 ドラゴンが悲痛な叫びを上げ、錐揉み回転しながら墜落する。

 巨体が地面に激突し、砂塵を巻き上げた。


「さてさて。どうなったかな」


 俺は小躍りしたくなる気分で墜落地点を眺める。


 起き上がったドラゴンは土砂塗れだった。

 ミサイルの命中した片翼はぼろぼろで、飛膜が引き裂かれている。

 鱗も無残に剥げて血が滴っていた。


 もう片方の翼は健在だが、バランスが取れないので飛行はできまい。

 これで位置的な優劣を削ぎ、万が一の逃亡も阻止できた。


 あれは見るからに痛打だろう。

 初戦が嘘のように攻撃が通用してくれた。

 まあ、あのミサイル型のゴーレムは、俺とアリスが共同開発した自信作だ。

 今回の作戦の要でもあった。

 効いてもらわないと困る。


「りゅ、竜に傷を与えたぞ……!」


「やれる。俺達でも、やれるんだッ!」


 ミサイルランチャーを下ろしたドワーフ達が歓喜する。

 実際にダメージを与えたことで、不安や恐怖が薄れたのだろう。

 見事に士気が高まっている。

 良い流れだ。

 俺はドワーフの一人の肩に手を置く。


「おいおい、アフタートークには気が早いぜ? 第二射、始めるぞ」


 ドワーフ達はすぐさまミサイルランチャーのリロードを済ませた。

 たった半日の訓練で培ったとは思えない速度だ。

 兵士としてのセンスがある。

 是非とも部下に欲しいくらいだった。


「次の目印を付けるわね」


 アリスがマーキングの魔術を行使した。

 今度はドラゴンの背中辺りに紋様が浮かぶ。

 かなりの距離があってもマーキングは一瞬だった。

 アリス曰く、ミサイルを誘導するだけという単純な効果なので、射程距離や投射速度にリソースを回せるのだそうだ。


 俺は起き上がろうとするドラゴンを指差す。


「今度は上向きでぶち込むんだ……よし、それでいい。発射しろ」


 追撃のミサイルが飛び出した。

 上空へ向かってから、ドラゴンへと降下していく。

 緩やかなアーチ状の軌道だった。


 ドラゴンは首を動かしてミサイルを睨むと、薙ぎ払うようにブレスを放つ。

 炎を浴びたミサイルは、いくつかが空中で爆発した。

 結果的にドラゴンへのダメージは軽微に終わる。


「へぇ、やるじゃないか」


 俺はドラゴンの底力に感心する。

 連続でブレスを使えるとは思わなかった。

 ただし、大きくよろめいているので、それなりに無理をしたのだろう。

 それだけミサイルを食らいたくなかったらしい。


 ミサイルの第二射を凌いだドラゴンは、身を起こしてこちらへ接近を始める。

 距離を取ったままでは分が悪いと判断したようだ。

 その突進は大した速度ではないが、油断は禁物である。


 たとえ片翼が潰れようと、圧倒的なパワーがまだ残っている。

 あの爪を叩き付けられれば、人体など容易に潰されるし、噛み付きや尻尾による殴打もある。

 いずれも他の生物からすれば、致命的な攻撃となり得るだろう。

 見上げんばかりの巨体と重量も相まって、接近戦においても無類の強さと言える。

 距離を詰められれば、ドワーフ達など一瞬で蹂躙されるはずだ。


「き、来やがった……!」


「早く第三射の準備をしなくてはッ」


 案の定、ドワーフ達が狼狽える。

 動揺が浸透する前に、俺は彼らの前に進み出た。


「いや。急がなくていい。合図をするまで待機だ」


「ジャック殿……やはり単騎での突撃など無茶では……」


 ドワーフの一人がこちらを気遣うように意見した。

 その気持ちは理解できる。

 こちらの身を案じている部分もあるのだろう。


 だからこそ、俺は不敵な笑みを返す。


「その無茶を押し通すのが傭兵ってもんさ」


 ドラゴンの接近を阻止するのが俺の役目だった。

 翼を破壊した時点で、ドワーフ達の仕事は半ば完了したようなものである。

 ここからは俺が活躍させてもらう。


 俺はアリスにアイコンタクトを送った。

 彼女は頷き、ゴーレムカーに命令をする。


 同時にゴーレムカーの一部が分離し、変形し始めた。

 そして、あっという間に大木を輪切りにできるサイズの鉈となる。

 多数の魔術強化が施された逸品であった。


 俺は倒れかかってくる大鉈を掴む。

 いい重量感だ。

 レベル補正で膂力が上がっていなければ、到底持てないだろう。

 俺はドワーフ達の顔を順に見やる。


「竜殺しの英雄が誕生する瞬間だ。最前列で楽しんでくれよ?」


 そう告げると、地面を蹴って駆け出した。


 前方にはドラゴンが迫りつつある。

 血を振り撒き、地響きを立てながら接近してくる。

 爬虫類を彷彿とさせる目が、俺を捉えていた。

 既にアリスやドワーフ達など眼中にない。

 俺だけを殺そうとしていた。


「よう、トカゲ野郎。寂しくて会いに来たぜ」


 返ってきたのは、凄まじい咆哮。

 気を抜くとそれだけで吹き飛ばされそうだ。


 こちらが攻撃範囲に達した途端、ドラゴンが前脚の振り下ろしを繰り出してくる。

 俺は寸前で横へステップした。

 空を切った爪が地面を耕していくのを横目に、勢いよく踏み込む。


 俺はすれ違いざまに大鉈を掲げ、柄に付いたボタンを押した。

 大鉈の峰に仕込んだジェット噴射が作動する。

 斬撃に強い推進力が生まれ、そこにスイングの勢いを乗せた。


 ――分厚い刃が鱗に覆われた骨肉に食い込み、片方の後脚を切断していく。

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