第21話 爆弾魔は宴を盛り上げる
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翌朝、集落の一角にある工房でゴーレムカーの修理を始める。
とは言え、知識のない俺ができることはない。
アリスがメインで作業を行い、手伝いのドワーフ達が力仕事を担当することになった。
修理を始めて早々、両者は熱い議論を交わしていた。
物作りという点において、互いにシンパシーを感じているのかもしれない。
技術体系にも違いがありそうなので、そういった興味もあるのだろう。
真剣に話し合いつつ、アリスは金属に魔導液を塗布したり、複雑な紋様を刻み込んでいる。
まずは新たなゴーレムを造って破損個所を補完するのだそうだ。
ちなみに金属の一部はドワーフ達から提供されていた。
地下洞窟で採れる豊富な鉱石らしく、アリスによると魔術との親和性も高いのだという。
お礼にドラゴンの爪の欠片を追加で渡したところ、とても驚かれると同時に感謝してもらえた。
アリスは張り切って作業に従事している。
朝食の際も、修理に加えて性能の底上げも図ると意気込んでいた。
ゴーレムカーが半壊させられたことを悔しがっているようだ。
製作者としてのプライドが刺激されたらしい。
アリスとドワーフ達が作業する間、俺は横で爆弾作りを進める。
ドラゴン討伐までの時間を無駄にはできない。
すべきことを事務的にこなすまでだ。
現状、火力不足が最大のネックであった。
今のままではドラゴンを始末することは不可能だ。
とにかく、高威力の爆弾を用意しなくてはならない。
「ふむ」
俺は荷物として持参していた素材や、道中で倒した魔物の死骸、ドワーフから譲り受けた素材等を並べて思案する。
細かい部分は抜きにして、まずは破壊力を最優先だ。
そこさえクリアすれば、あとは俺が投擲して命中させるだけでいい。
三十分ほどの試行錯誤の末、ひとまず試験的な爆弾が完成した。
俺はステータスを確認する。
名称:竜爪爆弾
ランク:C+
威力:10000
特性:【防御貫通】【術式粉砕】【魔術耐性】
どうやら最低限の形にはなったようだ。
出来上がったのは、ドラゴンの爪の破片を仕込み、炸薬に魔導液を用いたファンタジー式の爆弾である。
自作した中では、都市核の爆弾に次ぐ高威力だった。
ドラゴンの爪はゴーレムカーの装甲を切り裂くほどの硬さを持つ。
今回はそれを逆手に取った。
ステータスの特性欄を見るに、俺の目論見は成功したらしい。
実際に試してみないと分からない部分もあるが、おそらくは竜にも通用するはずだ。
もちろん、これだけではない。
この竜爪爆弾が効かなかった場合も考えなくては。
不測の事態に備えて、策はいくつも用意しておいた方がいいだろう。
それからさらに一時間後、俺は新たな爆弾をこしらえた。
さっそく性能をチェックする。
名称:粘着爆弾
ランク:C
威力:7500
特性:【剥離困難】【接着】【魔術脆弱】
その爆弾は、野球ボールのような形状をしていた。
感触は硬めのゼリーで半透明の薄緑色である。
中心部に爆弾を埋め込んでおり、着火式ではなく紐を引き抜くと起爆するタイプだ。
表面のゼリー状の物体は、強く押し付けるとくっ付く性質を持っていた。
これでどこにでも設置できる。
元の素材はスライムという粘液状の魔物だ。
それを専用の薬液で凝固させたのである。
ドワーフから譲ってもらった素材の一つで、なんでも地下洞窟に生息しているらしい。
なんともファンタジー感の溢れる生物だ。
この粘着爆弾の最大の特徴は、起爆後の効果であった。
爆発すると外殻のゼリー体を飛散させるのだが、これが付着した箇所は魔術に対する脆弱性を付与されるのだ。
簡単に言えば魔術が効きやすくなる。
俺が意図していなかった効果で、アリスの解析によって判明した。
地味なようで嬉しい誤算だ。
有用性はなかなかに高い。
例えばこの粘着爆弾を食らわせることで、ドラゴンの防御を弱める。
そこにアリスが魔術強化を施した爆弾を叩き込む。
通常なら効きが悪い魔術も、スライムのゼリー体によって相対的に効果を向上させられるのだ。
実にいいやり方である。
ドラゴンの強固な守りを削げるのはありがたい。
単純に威力を上げることばかりを念頭に置いていたので、考え付かなかったアイデアだった。
元の世界の常識に囚われず、柔軟な思考をしなければ。
その後も何種類かの爆弾を作製した。
渓谷地帯での戦いや、ドワーフ達の意見を参考に発案と作業を進めていく。
ドラゴンは常識外のモンスターだが、決して敵わない相手ではない。
適切な対策を組めば、確実に屠れる存在だ。
あれが生物である以上、殺せない道理などない。
爆弾魔の意地とプライドにかけて吹き飛ばしてみせよう。
そして数時間後。
赤々とした夕日に照らされる俺は、無数の爆弾を前に一息つく。
途中から上手く集中できたため、それなりの数と種類を揃えることができた。
今日のノルマはこなせただろう。
見ればアリス達の作業も完了していた。
俺は改良されたゴーレムカーを観察する。
破損個所は綺麗に修復され、全体的に装甲が増えていた。
ボディーも分厚い印象だ。
戦闘機能に特化したものにしたのだろう。
車体の変化を順に確かめていると、アリスがそばに立って解説を入れる。
「以前まで十体のゴーレムで構成していたのを、倍の二十体にしてみたわ。これで破損による機能不全が起きづらくなったと思う」
「他に追加した機能は?」
「防御結界に魔力光線の投射。変形による水上走行と潜水も可能になったわ。他にもいくつか機能を搭載する予定よ。前回のように簡単に破壊されることはないはずだわ」
流暢に述べられた内容を聞いて、俺は思わず感嘆する。
素晴らしい。
これだけのアップデートを一日でこなしてしまうとは。
元から改良案を閃いていたのだろう。
ドワーフ達の手を借りたとは言え、信じられないほどのハイペースだ。
「ジャックさんから何か要望はある?」
「いや、今のところは無いな。予想以上の出来栄えで驚いたよ」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」
アリスは可憐に微笑んだ。
彼女もドラゴンとのリベンジに燃えている。
この調子なら問題ない。
相変わらず頼りになる相棒だ。
同行者に選んだのがアリスで本当に良かった。
作業を終えた俺とアリスは、手伝いのドワーフに礼を言って借り家に帰宅する。
改良したばかりのゴーレムカーに乗車したところ、難なく動いてくれた。
動作面も良好であった。
以前までよりも運転しやすい気さえする。
(この分なら、ドラゴン討伐も実現できそうだな。概ね順調だ)
ハンドルを握る俺は気分よく笑う。
ドラゴンとの遭遇というアクシデントに見舞われたが、事態は好転しつつあった。
親切なドワーフ族の協力を得て、様々な課題点の洗い出しとその克服ができた。
全体として見れば、なかなかに悪くない。
あとはドラゴンの屍と記念撮影ができれば完璧だろう。
生憎とカメラは無いが、屍に関しては用意できる。
写真は残せずとも、素敵な思い出の一ページにはなってくれるはずだ。
その時が、ひたすら楽しみだった。
◆
その日の夜、ドワーフの集落では歓迎の宴が開かれた。
石畳の広場にて焚火を囲んで酒盛りを行う。
あちこちでドワーフ達がにぎやかに歌い踊った。
俺も渡された酒を次々と呷り、美味い料理を食らい、幾人ものドワーフと語らい合う。
そうして一通りの挨拶と飲み食いを経た宴は、やがて突発的な模擬戦闘に突入した。
「うおおおおおぉぉぉッ!」
ドワーフの男が後ろ回し蹴りを繰り出してくる。
側頭部を狙った豪快な動きだ。
軸回転と遠心力を乗せた鋭い一撃である。
まともに食らえば脳震盪では済むまい。
俺は高速で迫る足に手の甲を添えた。
同時に手首のスナップで蹴りの軌道をずらす。
強い衝撃を伴うも、足は俺の頭上すれすれを通り過ぎた。
「なっ……!?」
驚愕するドワーフの男。
がら空きとなった胴体に、俺はボディーブローを炸裂させる。
ドワーフの男は吹っ飛んで地面を転がり気絶した。
その途端、周囲から喝采が巻き起こる。
俺は片手を上げてそれに応えた。
一時間ほど前からこの調子だった。
長老に勝ったという噂が広がっていたようで、対決を希望する者が続出したのである。
とりあえず大怪我だけはさせないように注意している。
これはあくまでもレクリエーションなのだから。
それにしても、歓声の中で戦うのも楽しいものだった。
軍人時代の訓練を思い出す。
傭兵になってからは実戦ばかりで、久しく忘れていた感覚であった。
(こういう機会も大切だな。彼らには申し訳ないが……)
死屍累々といった有様で倒れ伏すドワーフ達を見て、俺は苦笑する。
もちろん誰一人として殺していない。
どの顔も満ち足りたものだ。
戦い好きな連中ばかりで気が合いそうである。
「嘘だろ、素手で三十人抜きだって……!?」
「すげぇぞ! とても人族とは思えねぇな!」
「あの動きは何なんだ? 見たこともない流派だ……!」
観戦するドワーフから様々な声が上がる。
その一角には、ひっそりと座るアリスの姿があった。
彼女は小さく微笑んで拍手をしている。
俺はウインクを返しつつ、周りのドワーフ達に呼びかける。
「さぁ、次は誰が挑戦するんだい? 俺はいつでもいいぜ。ベルトはないが、無敗のチャンピオンとして受けて立とう」
宴に沸く集落の夜は、興奮冷めやらぬままに更けていった。




