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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第5章 魔王再臨と送還魔術

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第200話 爆弾魔は世界を渡る

 ゴーレムカーは闇の中をひたすら走行する。

 本当に何も見えない。

 体感時間では数時間が経っていた。

 もしかすると実際は数分かもしれないが、それくらいに思えた。

 なんとも奇妙な感覚である。


 そんな体験にも飽きてきた頃、唐突に闇が消失した。

 ゴーレムカーが飛び出した先は田舎道だ。

 舗装されていない上、猛スピードを出すせいで車内が揺れる。

 俺はブレーキを踏んで速度を緩め、ゴーレムカーを道端に停車させた。


 通りかかる車もない。

 迷惑にはならないだろう。

 俺は車内から周囲を観察する。


 遠くにぽつぽつと小屋や畑があった。

 どこからともなく鳥のさえずりが聞こえてくる。

 のどかな光景だ。

 一見すると、まだ異世界にいるのではないかと錯覚してしまう。


 しかし、その考えを否定する存在が近くにあった。

 それは前方に立つ案内標識だ。

 掠れたアルファベットが記されている。


 ここは間違いなく元の世界だ。

 どうやら無事に帰って来れたらしい。

 激しい歓喜というより、静かな安堵を覚えた。


「本当に魔力が感じられないわ……不思議ね」


 アリスが感心の声を洩らす。

 彼女は興味津々といった様子で、窓に張り付いて外の風景を眺めていた。


 俺は彼女に配慮して、ゆったりとしたスピードで走行する。

 この辺りは見覚えのある道だった。

 もっとも、別に自宅の近所とかではない。

 ある意味では縁深いものの、基本的には無関係と言える。


 ここは俺が召喚される直前に通った場所であった。

 仕事の追っ手を撒く際に使ったルートだ。

 この場所に出現したのは、俺の記憶が影響しているのだろう。

 最後に通りかかった場所だったから、その分だけ印象も強かったのかもしれない。


 とりあえず、道なりに進めば寂れたガソリンスタンドがあるはずだ。

 あれから一年が経過しているので、まだ潰れていないといいが。

 幸いにも金はある。

 元から所持していた分を、大切に保管していたのだ。


 併設のコンビニで何か買いたい。

 まずは酒と煙草だ。

 他にも色々な商品がある。

 アリスもきっと驚くだろう。


 数分ほど移動するとガソリンスタンドが見えてきた。

 どうやらまだ潰れていないようだ。


「……ん?」


 ガソリンスタンドに近付く中、俺はふと眉を寄せる。

 給油をしている一台の車両に注目する。


 一般的な黒のミニバンだ。

 それだけならまだいいのだが、ミニバンの車体は穴だらけだった。

 明らかに銃撃を浴びた痕跡である。


 ミニバンのそばには、一人の男が立っていた。

 屈強な肉体に精悍な顔立ち。

 男は瓶コーラを飲んでいる。

 リラックスしているように見えるが、実際は周囲を警戒しているようだった。


「おいおい、嘘だろ……?」


 俺は苦笑いを浮かべる。

 こんな展開を前にしては、さすがに笑うしかないだろう。


 あの男の容姿には、ひどく見覚えがあった。

 いや、見覚えなんてレベルではない。

 鏡を見れば、まったく同じ顔が映るはずだ。

 そこに立っているのは、間違いなく俺であった。


「ははは、異世界の次はドッペルゲンガーか?」


 俺は口笛を吹いて冗談を口にする。

 一方、アリスは神妙な表情で呟いた。


「誤差の範囲で、少しずれた世界に来てしまったようね」


「なるほどな。そいつは一大事だ」


 呑気に応じながら、俺はゴーレムカーのエンジンを吹かす。

 とりあえずやることは決まっていた。

 この世界に俺は二人もいらない。

 そうなれば、片割れを始末するしかないだろう。


「ふむ、これは七人目の召喚者を殺すってことになるのかね」


 首を傾げながら、俺はアクセルを一気に踏み込む。

 唸りを上げたゴーレムカーが勢いよく発進した。

 そのままもう一人の俺を轢き殺しにかかる。


「…………っ!?」


 もう一人の俺は、こちらを見て驚愕した。

 彼はすぐさま拳銃を連射する。

 運転手の俺を的確に狙うも、弾丸はフロントガラスに弾かれた。

 車両の前輪も撃ち抜こうとしていたが、生憎とそれも無駄である。

 ただの拳銃弾では、ゴーレムカーを傷付けられない。


「ハッハ! 行くぜ行くぜェ!」


 俺はゴーレムカーをさらに加速させる。

 もう一人の俺は、堪らず真横に転がって回避した。


 ゴーレムカーに衝突されたミニバンが横転してガソリンを撒き散らす。

 次の瞬間、ガソリンスタンド全体が大爆発を起こした。

 衝突の拍子に引火してしまったのだろう。


 爆発が直撃したゴーレムカーだが、やはり無傷であった。

 少し揺れた程度で損傷はない。

 アリスの安心設計はいつでも心強かった。


 俺はバック走行でゴーレムカーを移動させる。

 もう一人の俺は、炎上するガソリンスタンドの外で身構えていた。

 逃げても無駄だと悟り、ここで決着させようと決めたらしい。

 俺はサブマシンガンを手に車を降りる。


「いつの間にクローンなんて作られたんだ? 悪いが出番はない。SF映画に帰ってくれ」


 もう一人の俺は、気楽な調子でそう言った。

 喋り方までそっくりだ。

 ここまでの再現度だと笑うしかない。


 俺は親しげに尋ねる。


「あんたの名前を教えてくれよ」


「知らないのか? ジョン・アーロンだ。爆弾魔で検索してくれれば出てくるだろうさ」


 微妙に別人だった。

 中途半端な似せ方をしている。


 その時、瓶コーラが足元に転がってきた。

 俺はメーカーの表記に一瞥する。

 一般的に知られた絵柄や名称ではなかった。

 かと言ってまったく違うわけでもなく、何かのパロディーのようだった。


(もしかして、パラレルワールドか?)


 一連のヒントから俺は答えを得る。

 アリスの言う"少しずれた世界"とは、まさにそれを指しているのではないだろうか。


 考え込んでいたその時、ジョンがいきなり発砲してきた。

 俺は咄嗟に避けようとして、弾丸がスローモーションに見えることに気付く。

 集中すればするほど、その現象は顕著になった。


(まさか……)


 俺は回避を中断し、迫る弾丸を指でつまみ取る。

 難なく成功してしまった。

 それを何度か繰り返して、すべての弾を防ぐ。


 どうやら異世界のステータスがそのままになっているらしい。

 つまり今の俺は、ぶっ壊れ性能の超人というわけだ。


「ハッハ、こいつはいいな!」


 俺はサブマシンガンの銃撃を行った。

 ジョンは地面を転がって回避する。

 遮蔽物のない場所で完全に躱してみせるとは、さすがは平行世界の俺だ。


「ふざけんなよ、スーパーヒーロー気取りかっ?」


 軽快に罵倒を飛ばしながら、ジョンが拳銃を連射してくる。

 俺は腕でガードした。

 命中したところで痛みはない。


「おっ」


 眼前に手榴弾があった。

 射撃に合わせてジョンが投げてきたのだろう。


「やるじゃない、かっ!」


 俺は宙返りを繰り出し、爪先で手榴弾を蹴り上げた。

 上空で炸裂する爆発。

 そのまま地面に着地しながら、俺はサブマシンガンを乱射した。


「うおおおおおおっ!」


 雄叫びを上げるジョンが突進してくる。

 魔力製の弾丸を食らいつつも、彼は強引に距離を詰めてきた。

 負傷は覚悟の上といった行動である。


(遠距離戦では不利と見て、肉弾戦に持ち込んで来たか)


 突き出されたナイフを指で挟んで砕く。

 そこから回し蹴りを放った。


「ぐっ……」


 ジョンは両腕で凌いだ。

 たぶん衝撃で粉砕骨折となっただろう。

 俺は仰向けに倒れた彼を掴み上げる。


「すまないね。運が悪かったと諦めてくれ」


「クソ、ッタレ……」


 ジョンが拳銃の銃口を頭に押し付けてきた。

 間もなく銃声が轟き、強い衝撃が伝わってくる。


 からん、と音が鳴った。

 弾丸の落ちる音だ。

 発射された弾は、俺の肌に阻まれてマッシュルーム状に潰れていた。


「見上げた根性だな。抱き締めてやりたいくらいだ」


 軽口を叩きつつ、俺はサブマシンガンの代わりに爆弾を取り出した。

 歯で起爆用のピンを抜き、ジョンの顔に押し付ける。


 間もなく爆弾が作動した。

 一瞬、噴き上がる爆炎。

 ジョンの頭部は、木端微塵に吹き飛んでいた。

 焼け焦げた断面から黒煙が昇る。


 元が同等のスペックなら、異世界の法則でパワーアップした俺が勝つのは当然だろう。

 彼には申し訳ないが、これも運命だと考えてほしい。


 俺はジョンの死体からライターと拳銃を拝借した。

 死体を肩に担いでゴーレムカーの後部座席に押し込む。

 エイブが迷惑そうだが、少し我慢してほしい。

 この死体を放置すると面倒なことになりかねないのだ。


 助手席の窓から、アリスがひょこりと顔を出す。


「いきなり災難だったわね」


「まったくだ」


 まさか平行世界の自分を殺すことになるとは思わなかった。


 どうやらここは、俺が戻りたかった世界とは違うらしい。

 だが、さほど変わらないようなので、あまり気にしないことにした。

 ここからさらに世界を移動するのは手間すぎる。

 どうせ誤差の範囲なのだから、別に構うことはあるまい。


 俺が運転席に乗り込もうとしたその時、空から異音が聞こえきた。

 雲の切れ間に穴が開いている。

 空間の亀裂だ。


 そこから黒いドラゴンが出現し、続けて多種多様な生物が飛び出していく。

 見れば、空のあちこちに同じような穴が形成されていた。

 閉じることもなく、モンスターの大量放出を続けている。


 そうして溢れ出したモンスター達は、都市部の方角へ向かっていった。

 すぐに街中はパニック状態に陥るだろう。

 俺は空間の亀裂を見上げながら、深々とため息を吐いた。


「まったく、今度は何の騒ぎだ? そろそろ勘弁してくれよ」


「次元を越える終末爆弾で空間が緩んだみたいね。その余波で別世界から魔物が紛れ込んで来たようだわ」


「ははは、そいつは傑作だ」


 せっかく帰ってきたというのに、これでは世界がモンスターに壊されてしまう。

 帰還直後にこの仕打ちは、さすがに嫌がらせが過ぎるというものだ。


「あの穴を潰す方法はないのか?」


「そうね……空間を塞ぐための爆弾が必要かしら。不可逆の歪みを吹き飛ばせば、あれを修復できるはずよ」


「はは、また爆弾かぁ……」


 腰に手を当てた俺は、空の亀裂を眺めて苦笑する。

 こうして会話をする間にも、無数の魔物が世界に侵入を果たしていた。

 原因を作った以上、俺達が食い止めるしかない。


 ――帰還記念のバカンスは、まだお預けのようだ。

これにて本作は完結となります。

最後まで読んでくださりありがとうございました。


新作も連載中です。

よろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです。

下のリンクより飛べるようになっております。

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― 新着の感想 ―
悪辣で外道なアメリカン傭兵 最初から最後までブレずに短気で卑怯なまま終わった。 大抵ブレて改心したりする作品が多い中。見事にジョンはジョンのまま綺麗に完結できてよかった 作者様、おつかれさまでした
大変楽しく読ませて頂きました。主人公の生き様が清々しくスカッとしました。
完結おめでとうございます。 最高の作品でした。
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