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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第1章 異世界の爆弾魔

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第20話 爆弾魔は竜の討伐を誓う

「確認だが、俺の力でドラゴンを倒してほしいってことで大丈夫かい?」


 長老の奇行に調子を崩されたが、俺は気を取り直して本題に触れる。


 ドワーフ達にとって、ドラゴンは厄介な存在のはずだ。

 日々の安息を脅かすモンスターである。

 あの強大な力には容易に対抗できず、疎ましく思っているだろう。


 俺の質問に長老は首肯する。


「うむ、お主の言う通りじゃ。戯れが過ぎたが、まさしくそれを伝えたかった。この集落の長として、ジャック殿に依頼したい。竜の討伐をしてもらえんだろうか」


「任せてくれ。俺はドラゴンを殺しに行くつもりだ。やられた分を返さなくちゃならないのでね」


 俺は即答する。

 これは確定事項だった。

 できるできないの話ではない。

 やると決めたのだ。


「ただし、それにあたって要求が二つある。一つ目は、ドラゴンの住処の情報の提供。二つ目は乗り物の修理と、武器作製のための材料と設備の提供。できれば何人かのドワーフに手伝ってほしい。あとはこっちで勝手にやる。見返りが足りないなら、ドラゴンの爪を追加するよ」


 俺は事前に考えていた内容を長老に告げる。

 どれも必要な工程だ。

 ドラゴンは紛うことなき難敵である。

 無策で挑めば、また痛い目を見ることになるだろう。

 報復を企てるにしても、それ相応の準備がいる。


 長老は俺の前に立って頷く。


「いずれの要求も承った。我が一族は、お主に全面的な協力を約束する。竜の討伐については、手練れの者を同行させよう。決して足手まといにはならんはずじゃ」


「助かるよ。あんたが話の分かる人で良かった」


 俺は長老と固い握手を交わす。


 それから具体的な打ち合わせを行い、ドラゴン討伐は三日後と決まった。

 随分と早い気もするが、事態はそれだけ深刻なのだろう。

 言ってしまえば、生きた自然災害が近所に居座っているのだ。

 すぐにでも排除したい気持ちは理解できる。


 俺も出発までに諸々の準備を進めなければ。

 あのドラゴンには、とっておきのサプライズを披露してやろう。

 さぞ喜んでくれるはずだ。


 こうしてドワーフ族に認められた俺は、彼らと共に戦うことになった。




 ◆




「あれ、私……」


 そばのベッドからアリスの声がした。

 上体を起こした彼女は、ぼんやりと室内を見回している。

 窓際に立つ俺は歩み寄る。


「よく眠れたかい?」


「あら、ジャックさん。おはよう」


 アリスは静かに挨拶をする。

 いつも通りの調子だった。


「体調はどうだ?」


「悪くないけれど……骨が折れているわ」


「滝壺に落ちた時の怪我だ。すまない、上手く庇ってやれたらよかったんだが。やはり痛むか?」


「気にしないで。ジャックさんのせいじゃないわ。それに、これくらいの怪我はすぐに治せるから」


 そう言うとアリスは、ギプスで固定した片脚に無事な手を添える。

 すると、彼女の手が発光し始めた。

 温かな白い光は、脚へと浸透して消える。

 アリスは同じ手順でギプスを着けた片腕にも光を落とした。


「ほら。これでもう平気よ」


 ギプスを外したアリスは、自然な動作で立ち上がった。

 折れたはずの腕を曲げ伸ばしたり、その場で足踏みを繰り返す。

 特に痛がる様子はない。

 骨折箇所の腫れや肌の変色も綺麗に治っていた。


 その姿に俺は感心する。


「……驚いたな。それも魔術か?」


「ええ、回復魔術よ。三番目の私は治療師だったの」


 アリスは少し得意げに語る。

 相変わらずの多芸ぶりだ。

 骨折すら瞬時に完治させるとは、元の世界では到底考えられない。

 魔術の利便性を改めて思い知らされた瞬間であった。


「ところで、ここはどこかしら」


 アリスは周りを見て首を傾げた。

 ずっと眠っていたのだ。

 状況が把握できていないのも当然である。

 俺は彼女に簡単な経緯を伝えた。


「――というわけで、ドワーフ達と共闘することになった。ちなみにここは集落内の空き家だ。持て余していたそうで、一軒丸ごと貸してもらえたよ」


「ドワーフの集落なのね。彼らは強者を尊ぶから、ジャックさんを気に入るのも納得だわ」


「だいぶ持てはやされたよ。ヒーローにでもなった気分さ。この通り、たくさんのプレゼントも貰った」


 俺はテーブルを指し示す。

 そこには手作り料理の数々と、ボトルや壺に入った酒が置かれていた。


 そう、念願の酒である。

 これが抜群に美味い。

 料理とも合うのだ。


 味はウイスキーやブランデーに近かった。

 鼻を抜ける芳醇な香りが堪らない。

 度数はかなり高めな印象だった。

 ドワーフは酒好きな種族なのだろう。


 本当はオン・ザ・ロックで楽しみたいが、氷が用意できないので断念した。

 この辺りは仕方あるまい。

 ストレートでも十分に美味いので文句はなかった。


「すごい量ね。とても食べきれないわ」


「まったくだ。しかも明日は歓迎の宴を開いてくれるらしい。ドラゴン討伐がよほど嬉しいみたいだ」


 俺は懐から葉巻を取り出した。

 ナイフで先端を切り、ライターで炙って着火する。


 この葉巻もドワーフから譲ってもらったものだ。

 正確には葉巻もどきか。

 何種類かの薬草を使っており、彼らの数少ない嗜好品なのだという。

 薬草と聞いて心配だったものの、味は意外と悪くない。


 俺はどちらかというと紙巻き煙草が好きなのだが、残念ながら葉巻しかないらしい。

 こればかりは我慢するしかない。

 葉巻だって煙草の一種だ。

 贅沢を言える立場や状況でもない。

 これでも満足できている。


 酒と同様、元の世界とそっくり同じものを入手するのは不可能なのだ。

 ある程度の妥協はして然るべきだろう。

 どうしても欲しいのなら、元の世界へ帰還するしかない。


 会話が途切れて、室内に沈黙が訪れる。

 気まずい空気ではなかった。

 心地よい落ち着きである。

 俺は葉巻をくわえたまま、外の景色を眺めた。


 集落は寝静まっている。

 少し前までは酒盛りをするドワーフ達の声が聞こえたが、今はそれもない。

 どこの家屋も既に消灯していた。


 岩の天井に開いた穴から、ちょうど月が見えた。

 青白い輝きを帯びて、粛々と夜空に浮かんでいる。

 俺はなんとなしに月を見上げながら、葉巻の煙を満喫する。


 それからしばらくして室内に視線を戻す。

 椅子に座るアリスが、テーブルの酒をじっと見つめていた。

 言葉はないが、何が望みかは明白であった。

 俺は彼女のそばに腰かける。


「酒は飲めるかい?」


「ええ、少しだけなら」


「そいつは良かった」


 俺は葉巻の火を消して、二つのグラスを用意する。

 そこへボトルの酒を丁寧に注いだ。

 二つのグラスが琥珀色に満たされていく。

 俺はそのうち一つをアリスに手渡した。


「さて、何に乾杯しようか」


 アリスは唇に指を当てて思案する。

 たっぷり十秒ほど考えた末、彼女は優艶な微笑みを見せた。


「儚き竜の命運に、というのはどうかしら」


「最高だ」


 俺はグラスを軽く掲げた。

 アリスもそれに倣う。


 そしてどちらからともなく、俺達は互いのグラスを打ち合わせた。

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