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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第5章 魔王再臨と送還魔術

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第199話 爆弾魔は錬金術師の答えを聞く

「……それはぷろぽーず、かしら?」


 アリスは澄ました顔で尋ねてくる。

 少しも恥じらった感じがない。


 俺は苦笑して肩をすくめる。


「ちょっと違うが、そう解釈してもらってもいいさ。好きに捉えてくれ」


「どうして私を誘うの」


「アリスと行動するのが楽しいからさ。いつも助かっているし、これからも同じ仕事をしたいと思っている」


 俺は正直に告げる。


 異世界の日々を満喫できたのは、アリスの貢献による部分が大きい。

 何かと世話になっていたし、彼女とは気が合う。

 コンビを組めば、元の世界でも派手に暴れることができそうだった。

 俺はそれを希望している。


「嫌なら断ってほしい。無理強いはしたくないんだ」


「違うの。別に嫌ではないわ」


 アリスは首を横に振った。

 彼女は真っ直ぐと俺の目を見つめる。


「私の目的は世界滅亡。それを成し遂げたら、生きる意味なんて無いと思うの」


 彼女は本音をあっさりと告白する。

 普段の彼女なら、まず口にしないような言葉だった。

 こちらの驚きをよそに、アリスは話を続ける。


「私はこの瞬間のためだけに生きてきた。前世も、その前世も同じよ。人格は違うけれど皆が世界滅亡を目指して、そして死んだ。私は彼らの記憶と技術を引き継いでいる」


 それは知っている。

 アリスとコンビを組むと決めた際に聞いていたからだ。


 正真正銘、アリスは世界を滅ぼす怪物である。

 彼女ほどそれに執着している人間はまずいない。

 隣で見てきた俺はよく知っている。


 どんな時でも、アリスは世界滅亡を意識していた。

 ひたむきに実現を目指していた。

 彼女より前の人格も、同じ調子だったのだろう。

 それは常軌を逸した一生だったに違いない。


「私は夢のために生み出された。それなら、夢の達成と共に朽ちるのが自然じゃないかしら。そうすれば、悩むことも迷うことも苦しむこともなくなる。幸福なまま終われるわ」


「いや。まったくこれっぽっちもそう思わないな」


「えっ……」


 突然の俺の否定に、アリスは呆然とする。

 不意を突かれて言葉を失っていた。


 その間に俺は話を続行する。


「いいか、アリス。人生ってのはゲームだ。とにかく楽しんだ者勝ちで、目的なんて二の次さ。あくまでも通過点だと考えるべきだぜ。それに固執するのは三流のやることだ」


「通過点……」


「ああ、そうだ。何事もエンディング後が本番だろう? スタッフロールを観た後は、オマケ映像まで楽しまなくちゃならない。途中で席を立つなんてナンセンスだ」


「……何の例えか分からないけれど、だいたい意味は伝わったわ」


 アリスはなんとか頷く。

 ニュアンスだけでも理解してもらえればいい。


「今までは世界滅亡の任務を引き継ぐ誰かさんだったわけだが、これからはただのアリスになれる。白紙の人生に自分でスケジュールを書けるんだ。面白いと思わないか?」


「…………」


 アリスは黙り込む。

 視線は足元を揺らいでいた。

 彼女の中で決心が揺らいでいる。


 そこに俺は畳みかける。


「チープな言葉だが、本当の自分のために生きるってのも悪くないぜ? 俺を見てみろよ。憧れたりしないか」


「それはちょっと……」


 アリスが眉を寄せて嫌そうにする。

 その反応に、俺はがっくりと肩を落とす。

 小さな笑い声が聞こえたので見てみれば、アリスは微笑していた。


「冗談よ」


「ハッハ、こいつは一本取られたな!」


 俺は手を打って大笑いする。

 アリスもよく言うようになった。

 出会った当初は、もっと人間味が薄かった気がする。


 一人で腹を抱えていると、アリスが助手席に回ってきた。

 彼女はドアを開けて車内に入ってくる。

 澄んだ瞳と視線が合わさった。


「ねぇ、ジャックさん」


「何だ」


 俺が続きを促すと、アリスは沈黙する。

 そこには躊躇いや葛藤が見えた。

 言いにくい内容らしい。

 彼女にしては珍しいことだった。


 たっぷりと一分ほど悩んだ末、アリスは意を決して俺に尋ねる。


「――夢の終わりの先に付き合ってくれる?」


「もちろん。ツアーガイドだってやらせてもらうさ。世界中のどこでも案内するよ」


「ありがとう。嬉しいわ」


 俺の即答を聞いて、アリスは顔を輝かせる。

 今まで見た中で一番素直な笑みだった。

 彼女の抱える迷いは、もう消え去っていた。


 何はともあれ、アリスも同行することになった。

 俺としても良い結論だ。

 彼女をここで死なせてしまうのは、あまりにも惜しい。

 俺はゴーレムカーのハンドルを握る。


「さて、面子も決まったし、そろそろ出発するか」


「……もう、行かれるの、ですね」


 弱々しい声がした。

 シュウスケだ。

 骨だけとなった彼は、こちらを見ているようだった。


 俺は手を上げて応じる。


「やあ。よく眠れたかい?」


「ええ……多少は、意識、が……はっきりしま、した……」


 シュウスケは答える。

 本当だろうか。

 意識がはっきりするどころか、今にも死にそうだ。


 シュウスケは、身体の端から崩れ始めていた。

 一連の酷使でとっくに限界を超えているのだろう。

 彼はそんな状態で俺達に言葉を投げる。


「あなた達の……旅の、無事を……祈ってお、りま……す」


「サンキュー、恩に着るよ」


 俺はそれだけ言って笑い、ゴーレムカーのエンジンをかけた。

 コードを耳にはめて深呼吸をする。

 座席にもたれて意識を集中させた。


「さよう、なら……お元気、で……」


 掠れた声は、それ以降は聞こえなかった。

 喋るだけの力も失われたのか。

 或いはもう喋ることもなかったのか。

 もはや定かではない。


「ジャックさん」


「ああ。いつでもいいぜ」


 俺が頷くと、アリスはダッシュボードから起爆スイッチを引っ張り出した。

 彼女はボタンに指を添える。

 そして、意を決して押し込んだ。


 車外にて世界核と術式が発光し始める。

 激しく明滅し、紫電を弾けさせた。

 続けて城の壁が崩壊していく。

 使い捨ての部分が、術式を起動させて役目を終えたのである。

 壁がなくなったことで、ちょうど城外が見えるようになった。


 終末爆弾は起動した。

 城の外では、連続して地面が爆発していた。

 あちこちにクレーターができており、そこからまた爆炎が噴き上がる。

 地盤が上下にずれて、断層を露出させていく。


 上空では稲妻が迸っていた。

 まるで雨のような密度だ。

 遥か遠くまでそんな調子で光り輝いている。

 少し先では荒れ狂うハリケーンが発生し、稲妻を取り込みながら、雪原地帯を抉り飛ばしていた。


 室内は絶え間なく振動している。

 かなり大きな地震だ。

 下手な建物はあっけなく倒壊する規模だろう。

 今頃、これらと同じ現象が世界各地で発生しているに違いない。

 まさに世界の終わりに相応しかった。


 そこまで確認した俺は、元の世界をイメージする。

 俺が暮らしてきた世界の記憶だ。

 その様々な出来事を脳裏に浮かべていく。

 これらが帰り道の道しるべになる。


 起爆から数十秒後、ゴーレムカーの前部が傾いた。

 俺は薄目を開く。

 元の世界のイメージを維持しつつ、車外の状態を確かめた。


 床が裂けて、そこにタイヤがはまり込んでいる。

 いや、裂けているのは床ではない。

 空間そのものが割れ始めていた。

 亀裂は徐々に広がり、やがてゴーレムカー全体が完全に落下する。


 放り出されたのは、極彩色の光が歪みながら瞬く空間であった。

 目の錯覚なんかで使われそうな光景だ。

 それ以外は何もない。

 気色悪いカラーリングがどこまでも永遠に続いていた。

 見ているだけで吐きそうである。


 俺はこの間もイメージを止めない。

 思考を止めれば、取り返しのつかないことになってしまう。

 ひたすら帰るべき場所を思い描く。


 その中で俺は、アクセルを踏み込んだ。

 ゴーレムカーは落下しながら走行し始めた。

 確かに落ちているのだが、見えない地面を走っている。

 そんな不思議な感覚だった。


「ここは世界の狭間。どこでもない場所よ。何もかもが不安定だから、上下の概念もないようね」


 アリスの声が反響する。

 すぐ隣にいるのに、随分遠くから聞こえる感じがした。

 もはや自分と空間の境界すら曖昧だった。

 ゴーレムカーは突き進んでゆく。


 いつ終わるかも分からない空間を走り落ちていると、進路上に闇が広がっていた。

 その先は何も見えない。

 極彩色の空間とは対照的な虚無であった。


 だがしかし、恐れることはない。

 俺には頼れる相棒がいる。

 このまま進めばいいのだと直感的に理解していた。


 ――元の世界を強く想いながら、俺は闇の中へ飛び込んだ。

次回で最終回です。

明日の朝に更新する予定です。


同時に新作の投稿を始めます。

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