第197話 爆弾魔は召喚者の本音を聞く
「戦争ゲームができなくて残念か?」
俺は酒を飲みながら質問をする。
シュウスケは小さく頷いた。
「まあ、はい……一世一代の挑戦、ですから、ね……残念です」
その気持ちは分かる。
入念に準備していた計画が、ラストで台無しになってしまったのだ。
喪失感は半端ないだろう。
原因である俺が言うのもなんだが、ショックは大きいはずである。
俺なら癇癪を起こすに違いない。
「そもそも、どうしてそんな大それたことをしたかったんだ」
「……元の世界が退屈、で……刺激を求めて、いたのです。自分の命を、賭ける、のは……楽しいと、思いません、か?」
「同感だな。人生にスリルは必要だ。ちょうどいいスパイスになる」
俺は肩をすくめる。
退屈な日々は地獄に等しい。
何らかの変化がなければ、生きている意味なんてないと思う。
もし俺が会社員になれば、三日と持たないだろう。
まず間違いなく職場を爆破してしまう。
上司だって半殺しにする。
少なくとも俺には、鬱憤を発散する機会が必要だった。
そういう観点で考えると、傭兵はまさに天職である。
十分に儲かるし、仕事が楽しい。
良いこと尽くめだった。
元の世界に戻ったら、是非とも再開したいと考えている。
「私の人生は……とても、つまらなかった……模範的な善人を演じ、て……窮屈に感じるのを、我慢して……」
シュウスケは淡々と嘆く。
彼は望む環境に恵まれなかったらしい。
個人の選択で人生は変えられるが、どうしようもない部分があるのも事実だ。
シュウスケはスリルを渇望していた。
冷めた人物かと思っていたが、実際は俺と似たタイプなのだろう。
彼の場合、その衝動に蓋をして見ないふりをしていたのだ。
きっとそれは耐え難い苦痛だったろう。
「この世界は、素晴らしい……刺激に溢れて、いる……魔族達を従えて、街を発展させるのは……楽しかった、です……」
「確かになァ。この世界は最高だ。俺も楽しませてもらったよ」
俺はしみじみと呟く。
およそ一年にも及ぶ異世界での日々は、元の世界では味わえない体験に満ちていた。
当初はとんでもない事態に巻き込まれたと思ったものだが、今は召喚されたことを幸福に感じている。
シュウスケも同じような気持ちらしい。
そこで場に沈黙が訪れた。
俺は黙々と酒瓶を傾け、たまに息を吐いて口笛を吹く。
残りが少なくなってきた。
元の世界で買わなければならない。
好きな銘柄をまとめ買いしよう。
そう考えると、余計に恋しくなってきた。
元の世界でやりたいことを振り返っていると、シュウスケがこちらを向いた。
彼は途切れ途切れになりながら、俺に対して告げる。
「申し訳、ありま、せん……あなたを、侮辱したことを……謝ります」
「気にするな。あんたは命で償うんだ。追い打ちするほど冷酷じゃない」
俺はあっさりとした口調で応じる。
借りはもう返したようなものだ。
シュウスケがこれから死ぬことは確定している。
今更、口汚く罵るような真似はしない。
するとシュウスケは、俺をじっと見てきた。
彼は笑い声のようなものを洩らす。
「……十分、冷酷ですよ」
「クールと言ってくれ」
俺がそう返すと、シュウスケはさらに笑った。
ため息に近い弱々しい声だが、気分の軽さが窺えた。
彼なりに心境の変化があったようだ。
その後、ほどなくしてシュウスケは呟いた。
「少し、疲れまし、た……眠っても、いいですか」
「おいおい、そのまま死ぬなよ? フィナーレに参加できなくなっちまう」
「安心、してくだ……さい。休むだけ、なので……」
そう言ってシュウスケは頭を垂らして動かなくなる。
ただし黒炎は燻ったままだ。
本当に休んでいるだけで、死ぬ気配はない。
このままくたばるのなら叩き起こすつもりだったが、その必要はなさそうである。
俺は酒瓶の中身を飲み干す。
続けてそばに置いた未開封のものを手に取った。
コルクを抜いて開けようとした時、階段から足音が鳴る。
上階から現れたのはアリスだ。
彼女は俺に告げる。
「ジャックさん。準備ができたわ」
「サンキュー、助かるよ」
俺は酒を手に立ち上がる。
戦闘で失った四肢は既に再生済みだった。
それに合わせて服も新しいものに着替えている。
城内にあった浴槽で身体も洗ったので、心身共にすっきりしていた。
「…………」
アリスはそばのシュウスケを一瞥する。
彼女は特に表情を変えずに観察していた。
「眠ってしまったのね」
「お疲れみたいだぜ。今はそっとしておいてやろう」
俺は息を吐く。
湧き上がるのは爆破衝動。
そろそろ抑え切れなくなってきた。
だから俺は、意気揚々とアリスに宣言する。
「――さあ、世界を滅ぼそうか」




