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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第5章 魔王再臨と送還魔術

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第193話 爆弾魔は召喚者の切り札を見る

 銃撃を浴びたシュウスケが倒れた。

 数秒後、彼はぎこちない動きで起き上がる。

 スーツのジャケットに複数の穴が開いていた。

 そこから血が滲んでいる。

 普通は致命傷だが、再生能力を持つ彼は平気だろう。


「…………」


 シュウスケがこちらを向く。

 トレードマークの眼鏡が割れていた。

 倒れた拍子に壊れたらしい。

 彼の額を一筋の血が伝い落ちていく。


 その姿を見た俺は、両手を広げて歓喜した。


「ハッハー! 油断したかいベイビー? 相手が死体になっても、迂闊に背中を見せるもんじゃないぜ」


「なぜ、生きているのですか……あなたは確かに殺したはずです。再生能力はお持ちのようですが、蘇生系統は持っていない」


 シュウスケは訝しそうに言う。

 彼の疑問も当然だった。

 首を刎ねたばかりの相手が、無傷になって銃を撃ってきたのだ。

 意味が分からないだろう。


 そして俺は、彼の言動から一つ弱点を見つけた。

 シュウスケは相手のステータスを自由に閲覧している。

 その力で俺のスキルを見て、できることを判断しているようだった。


 彼自身、スキルに依存する戦闘スタイルなのも影響しているだろう。

 そのせいで思考が微妙に凝り固まっている。

 俺がスキル以外の戦法を採ってくることを想定していなかった。


「元の世界でも、よく不死身の男だって言われたよ。どいつもこいつも詰めが甘いんだ。肝心なところでミスをするから、死ぬ羽目になるのさ」


 俺は得意げに語る。

 対するシュウスケは、冷静さを保とうとしていた。

 しかし、明らかに苛立ちが膨らんでいる。

 この調子で挑発を続けようと思う。

 平常心を失わせるほど、俺の勝利は近付いてくる。


「弾が反射しなかったってことは、反射能力をオフにしていたな? 予知も使っていなかったんだろう。消耗を抑えたいのは分かるが、ちょいと気が早かったようだぜ」


「……あなたが生きていることは驚きですが、依然として私が有利であることに変わりはありません」


 シュウスケは眼鏡を外して胸ポケットに仕舞う。

 さらにネクタイを緩めた。

 彼は鋭い視線を以て俺に尋ねる。


「他にどのような秘策を用意しているのですか?」


「安心しなよ。そんなに多くない」


 俺は気さくに応えて片手を上げた。

 中指と親指を触れさせる。


「……何」


 シュウスケが眉を寄せる。

 この後に起こることを予知したのだろう。

 もっとも阻止はできない。


「イリュージョンの開始だ」


 俺が指を鳴らすと、それを合図に視界が闇に包まれた。

 まるで目を閉じたようだが、実際は開けている。

 付近一帯の光が失われたのだ。


「魔術の闇だ! これで予知ができなくなったろう」


 俺は声を張ってシュウスケに告げる。


 未来予知のスキルは、視覚的なイメージで先の展開を知る。

 故に闇一色の場所では使い物にならない。

 どれだけ予知しても、闇に包まれた光景は変わらない。


 この魔術の闇の中では、探知魔術も利かなくなる。

 俺には関係ないが、シュウスケにとっては死活問題だろう。

 スキルに依存する彼からすれば、大きな弊害である。


 魔術の光を使えば視界も改善されるが、この闇を展開したのはアリスだ。

 彼女の魔術の練度は高い。

 その辺りの対策も徹底されており、並大抵の魔術では闇を切り払えないようになっていた。


 シュウスケも魔術は使えるようだが、それらはコピーした借り物である。

 ランクもBで固定なので一流の魔術師であるアリスには敵わない。

 いつまで経っても闇が晴れない状況が、それを証明していた。


(さあ、どうする?)


 俺は足音を立てずに移動する。

 密かにシュウスケのもとへ近付いていく。


 シュウスケがこの状況を打開する場合、手っ取り早いのは【幻想否定 B】を使うことだろう。

 ファンタジー由来の効果を問答無用で打ち消せるこのスキルなら、即座に解決が可能だ。

 彼もそれを分かっているはずである。


 それなのに闇は依然として展開されたままだった。

 この状況で負担軽減のために使用を控えているというのは考えにくい。

 ランク低下によってスキルの効果範囲が狭くなっており、一帯を覆う闇を排除できないのかもしれない。

 そもそもオリジナルである【幻想否定 A+】の射程が半径二メートルだった。

 シュウスケの使うそれは、さらに限定されているのだろう。


 俺は意識を集中する。

 前方にシュウスケはいた。

 なぜか気配が希薄だ。

 おそらく何らかのスキルを使っているのだろうが、俺はしっかりと認識できている。

 この辺りは純粋な戦闘経験による察知だった。

 スキル等に頼らない部分である。


 今頃、シュウスケは【完全反射 B】を発動し、全方位からの攻撃に備えている。

 それが最も安全だからだ。


 彼が恐れているのは、俺の攻撃をまともに食らうことである。

 再生の暇もなくミンチにされれば、さすがの彼でもどうしようもない。

 一方で反射できるようにしておけば、シュウスケが負ける可能性は少なくなる。


(まあ、関係ないがね)


 ここからは俺の独壇場だった。

 反射があろうが、どうとでもできる。

 俺は反射持ちを殺した実績があった。

 コツは掴んでいる。


 さらに反射を使う間、シュウスケは常に消耗する。

 この闇の中では、何秒か時間を止められたところで関係ない。

 負担のない俺は着実に追い詰めていけばいい。


 そう考えて慎重に距離を詰めていると、シュウスケのため息が聞こえてきた。


「仕方、ありませんね。これだけはあまり使いたくありませんでしたが……」


 その直後、彼のいる方角から紫色の炎が発生した。

 炎は轟音を立てて爆破する。

 衝撃で俺は吹っ飛ばされ、地面を滑りながらなんとか止まる。

 顔を上げると付近の闇は残らず消え去り、元の雪原地帯があった。


 さらにシュウスケのそばには、見上げんばかりの巨躯が立っている。

 ローブに身を包むそれは、二本の角が生えた黒い鬼のような異形だった。

 異形は全身から禍々しいオーラを発している。


 こちらを向いたシュウスケが咳き込んだ。

 彼は少し青ざめた顔で唾を飲む。


「……魔王です。私の記憶から複製しました」


 血を垂らす彼は、平坦な口調でそう言った。

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