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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第1章 異世界の爆弾魔

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第19話 爆弾魔はドワーフの長老と対面する

 俺はドワーフ達と共に集落内へ入る。

 鉄扉の先には木造や石造の家屋が並んでいた。

 造形に統一感はないが、どこも見事な建築技術を用いられている。

 鍛冶と思しき光景や、農作物を植えた畑も散見された。


 一目で分かるほど安定した営みである。

 人里離れた場所とは思えない。

 この集落は見事に自立している。

 ドワーフ達の職人気質と逞しさが成立させているのだろう。


「まずは長老のもとへ行くぞ。お前ぇさんのことを話さにゃならん。追い出されることはないだろうが念のためだ」


 先導する代表のドワーフが語る。

 まず責任者に話を通しに行くらしい。

 余所者だから当然の対応である。

 特に異論はない。

 後々になってトラブルになっても困る。


 むしろ、すんなりと集落に入れている現状の方が異例と思われた。

 大丈夫なのかと心配になる。

 事実、周囲のドワーフ達は、俺やゴーレムカーを物珍しそうに眺めていた。

 他の種族はいない。

 察するに集落の外から人間が訪れることは皆無なのだろう。

 他所との関わりを断っている印象がある。


 敵意を向けられていないのが幸いか。

 ドワーフ達が同行しているので、ひとまず危険人物ではないと判断されているに違いない。


 閉鎖的なコミュニティーは、外部の人間を嫌う傾向がある。

 そういった経験は幾度となく味わってきた。

 今回も疎まれるのではないかと危ぶんでいたが杞憂に終わったようだ。


 存外に人好きな種族なのかもしれない。

 すぐに打ち解けてくれたドワーフ達を見るに、あながち間違いでもないだろう。


「ここが長老の自宅だ。定期集会の場所としても使われている」


 そうこうしているうちに目的地に到着した。

 案内されたのは、集落の中央部に位置する木造建築の大きな家だ。

 奥行きもある三階建てで、入り口には見張りのドワーフがいる。


 代表のドワーフ以外が解散して、さりげなく立ち去っていく。

 ここから先は大所帯では進めないらしい。


 俺はゴーレムカーを自宅の前に駐車し、未だに眠るアリスは肩に担ぐ。

 ドワーフ達を信用していないわけじゃないが、万が一の時のためだ。

 車内の荷物とは違って、アリスの能力は替えが利かない。

 この後、どういった展開になったとしても、俺のそばにいれば守ることができる。

 用心深く行動するに越したことはないだろう。


「必要なら、嬢ちゃんだけでも先に治療するが?」


「いや、これでいい。治療は長老との話の後だ」


「分かった。荷物は見張らせておく。決して盗みはしないから安心しろ」


「ああ、任せるよ」


 仮に盗まれたところで、暴力を以て取り返すだけだ。

 それくらいの気概はある。

 泣き寝入りなど以ての外だった。

 我ながら悪事には容赦しない主義だ。

 願わくばそうならないように祈っておこう。


 まあ、ドワーフ達を見るに、余計な心配に終わると思われる。

 ここは善良な雰囲気の者ばかりだ。

 悪党特有の陰湿な悪意を感じられない。

 とてもいい場所であった。


 俺は見張りに車両を任せ、代表のドワーフと家の中へ入る。

 そのまま付いていくと、奥まった一室に通された。


 板張りのその部屋には、杖を持った白髪のドワーフがいた。

 他の者に比べて皺が多く、目元に布を巻いて隠している。

 何か傷でもあって失明しているのかもしれない。

 白髪のドワーフは、俺達と向き合う位置で椅子に座っている。

 十中八九、この男が長老だろう。


「親父、客人だ」


 代表のドワーフが声を掛ける。

 我が家のように入っていくと思ったら、長老の息子だったのか。

 言われてみれば顔のパーツが似ているような気がする。

 ドワーフは同じような顔ばかりで見分けづらいが、たぶん間違いではないだろう。


 代表もとい息子ドワーフは、俺とアリスを示す。


「人族の男と女だ。名は……あー」


「ジャックだ。肩に載せているのはアリス。洞窟を漂流していたところを、息子さんに助けてもらったんだ」


 俺が名乗ると、長老が顔を上げた。

 目が見えていないはずなのに、視線が合わさった感覚だ。

 長老は深々と息を吐く。


「これはまた、危険な男を連れてきたよのう……魂が歪んでおるぞ」


「不器用なもんでね。真っ直ぐ生きられるほど純情じゃないのさ」


「加えて口も達者じゃな。もっとも、外での行いは問うつもりはない。我々は俗世に興味がない。集落の行く末だけを見据えておる」


 長老は荘厳な口調で語る。


 空気の読める爺さんだ。

 俺の本性に気付きながらも、それを追及するつもりはないらしい。

 触れれば良くない展開になると予測したのだろう。


 目が見えないというのに、なかなかの観察力である。

 いや、常人とは違う何かを視ているのか。

 魂がどうのと言っていたしな。

 アリスも精神の色が見えるそうなので、似たような力を持っているのかもしれない。


「して、漂流者が何用かな?」


「相方の怪我の治療と、乗り物の修理をしに来た。ここなら可能だと聞いてね。もちろん無料タダじゃない。それに見合うだけのものを支払っている」


「……竜の爪の欠片をもらった。ジャック達は、竜に遭遇して地下に落ちてきたそうだ」


 息子ドワーフが竜の爪の欠片を長老に渡す。

 移動中に前払いで譲ったものだ。

 それを受け取った長老は、眉を寄せてうなる。


「なんと。これは確かに竜の爪……偶然拾ったものではないのだな?」


「そんは姑息な真似はしない。正真正銘、俺があのトカゲ野郎からぶん捕ったものだ。まあ、こっちは乗り物を壊されたから痛み分けだがね」


 俺は苦笑しつつ肩をすくめる。

 損害を考えると、あまり誇れることではなかった。


「…………」


 長老は俯いて何事かを考え込む。

 俺の話の真偽でも疑っているのか。

 その表情から思考は読めない。

 やがて長老は重い口を開く。


「あの竜は、十日ほど前にやってきた。現在は集落から少し離れた山を住処としておる。群れを追い出されたはぐれ個体じゃろう。近隣を飛行しては、目に付いた獲物を食らっておる。集落の者にも被害が出ているのじゃ」


 そこで言葉を切った長老は、意味ありげな視線を送ってくる。

 こちらを試すような色が見えた。


 俺は表情を消して目を細める。


「ん? 何か言いたいことでも?」


「お主なら分かっておるだろう。察しは良いと見えるが」


「へぇ、随分と褒めてくれるじゃないか」


 俺はその場にアリスを下ろすと、長老のもとへ歩み寄る。

 湧き上がる殺意を抑えず、全身へと漲らせていく。


「お、おい。やめとけ。親父は一族の中でも……」


 息子ドワーフが制止するも無視する。

 彼を押し退けてさらに歩を進めた。


「長老だか何だか知らないが、ふざけた態度を取りやがって。俺はな、都合よく利用されるのが大嫌いなんだ。頼みがあるならそう言えよ」


「そうか。それは悪かったのう――」


 相槌を打つ長老。

 その小柄な体躯がいきなりこちらへと踏み込み、同時に左腕が霞んだ。

 旋回する左腕は短刀を持っている。

 切っ先は俺の胴体を薙ぐ軌道を描いていた。


 俺は短刀の側面を蹴り上げて、軌道をずらす。

 跳ね上がった刃は、上体を逸らして躱した。

 刈り取るような動きの斬撃は、眼前すれすれを通過する。

 翻ろうとする長老の腕を掴んで止めて、俺はライフルを彼の顔面に突き付けた。


「おっと、動くなよ。目が見えなくとも状況は分かるはずだ。綺麗な床を汚したくないだろう?」


「ぬぅ……」


 長老が悔しそうにうなり、ゆっくりと短刀を下ろす。

 そのまま脱力して構えを解いた。


 しかし、平然と不意打ちを仕掛けてくるような男だ。

 少しも油断ならない。

 こちらが気を緩めた瞬間、再び短刀を突き込んでくる可能性だって十分にあった。


 そう考えた途端、前触れもなく長老が相好を崩した。

 背後から息子ドワーフのため息が聞こえてくる。

 急に柔和な雰囲気となった長老は、先ほどまでとは打って変わった調子で笑った。


「ほっほっほ。すまんな。お主を少し試させてもらった。相手を手っ取り早く知るには、刃を交えるのが一番だでな。まさか、そこまで激昂するとは思わなんだが……」


「……こいつは一体どういうことだ?」


 俺は息子ドワーフに尋ねた。

 彼は頭痛でも堪えているかのような表情で答える。


「親父は集落一の戦闘狂なんだ。見苦しく言い訳しているが、お前ぇさんと手合わせしたかっただけだろう。」


「ジャック殿といったかのう? お主は素晴らしい戦士じゃ。レベルに驕らず、自らの武を高めておる。ドワーフの集落は、お主を歓迎しようぞ」


「ったく、親父はいつも無茶をして……」


 長老は上機嫌だった。

 対する息子ドワーフは疲れた顔をしている。

 どこか慣れた様子を見るに、いつも苦労させられているのだろう。


 そんな親子の姿を前に、俺は額に手を当てて嘆息した。


「……迷惑な爺さんだな」


 一度は湧き上がった怒りも萎えてしまい、呆れ果てることしかできなかった。

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