第188話 爆弾魔は最後の召喚者と対峙する
翌日、最果ての城の中層で仮眠を取っていると、部屋にアリスがやってきた。
彼女は手短に報告をする。
「ハリマ・シュウスケよ」
「やはり来たか」
俺はベッドから上体を起こす。
予期していた事態なので動揺はしない。
できるだけ見つからないようにしていたが、いずれバレるだろうとは考えていた。
向こうもそこまで馬鹿じゃない。
ベッドを出た俺は、そばに置いた武器を装備していく。
なるべく重装備にしたいが、身軽さが失われない程度に留めておいた。
防具の類はほとんど意味がないので着けない。
「じゃあ、手筈通りに頼んだぜ」
「ええ。ジャックさんも気を付けて」
「了解。任せときな」
俺はアリスに手を振りながら部屋を後にした。
その足で城を下りて外に出る。
雪原地帯に降り立った俺は、目を凝らして辺りを見回す。
すると、彼方に人影が見えた。
こちらへと真っ直ぐに進んでくる。
この雪原地帯には、カルマによる立ち入り制限がある。
一般人は決して踏み込めず、こうして侵入できる者など限られている。
具体的には常軌を逸した極悪人だ。
その人影は三十ヤードほど先で足を止めた。
ここまでの距離になると、見間違えようもない。
人影はハリマ・シュウスケだった。
俺と同時に召喚された人間で、最後の標的である。
彼と目が合った俺は、気さくに声をかけた。
「よう、久しぶりじゃないか」
「お久しぶりです」
シュウスケは会釈する。
相変わらずの鉄仮面ぶりだ。
つまらなさそうな顔をしている。
服装も地味なスーツのままだった。
挨拶を済ませたシュウスケは、肩の雪を払いながら辺りを見やる。
「ご存知ですか。この地域には強力な転移阻害が施されています。おかげで途中からは徒歩での移動となりました」
「優秀なお前のことだ。解除できたんじゃないか?」
「それは買い被りです。高く評価していただけるのは嬉しいですが、私ができることにも限界がありますので」
シュウスケは首を振って言う。
俺はすかさず指摘の言葉を返した。
「コピー能力だろう? 知っているよ」
「――やはり突き止めていましたか」
「あれだけヒントをくれたからな。こっちには名探偵がついているんだ」
一連の戦闘から、俺とアリスはシュウスケのスキルを推測した。
コピー能力という結論については、大樹の仮拠点に暮らしていた時期に導き出された。
振り返ると、シュウスケの使う能力には既視感があった。
おそらく他の召喚者のスキルだろう。
アリス曰く、謎の瞬間移動は時間停止と転移魔術の複合技の可能性が高いという。
時が止まっている間に移動するせいで、彼女では感知できなかったのだそうだ。
他にも反射、再生、予知、無効化等、それらしきスキルが散見された。
コピーできるのだから、どのような能力や魔術を使おうと不思議ではない。
様々なスキルを扱うシュウスケは、その力で旧魔族領を占領したのだろう。
大量のスキルがあれば、魔物や魔族を配下に置くような真似も可能に違いない。
俺がエウレアで成り上がったのと同様に、彼もこの世界における基盤を築き上げたのである。
一方、シュウスケは特に驚いた様子もなく頷いてみせた。
「ご指摘の通り、私の能力はコピーです。スキル名は【能力模倣 A+】――目視した人間のスキルをBランクで取得できます」
「そいつは反則だな。ちなみに俺のスキルもコピーしたのかい?」
俺が尋ねると、シュウスケはあっさりと首肯した。
「はい。あなたの【爆弾製作 EX++】も模倣しましたが、残念ながら使い道はなさそうです。Bランクだと、成功率を三十パーセント上昇させるだけでした」
「ははは、厳しい意見だ。一応、気に入っているスキルなんだがね」
俺は肩をすくめて苦笑する。
ランクが下がると、スキルの効果が劣化するらしい。
確かに俺のスキルはランクが重要だ。
そこが低下した場合、汎用性はかなり損なわれるだろう。
シュウスケの言い分に納得しつつ、俺は別の話題を振る。
「ところで、どうしてこんな秘境に来たんだ。戦争ゲームの準備で忙しいはずだろう?」
「あなた達が世界核に干渉する気だと知ったからです。一体何をするつもりですか」
「世界を木端微塵に吹き飛ばす。爆弾魔としてこれ以上の名誉はない」
俺は残忍な笑みを浮かべながら宣言する。
対するシュウスケは、ほとんどノーリアクションだった。
「やはりそうでしたか。私はあなたを止めねばならない。勝手に世界を滅ぼされると不都合ですから」
「世界滅亡を防ぐつもりか。おめでとう、ヒーローを名乗れるぜ」
「ヒーローではありません。私はただ、思うように盤面を動かしたいだけです」
そう言ってシュウスケは僅かに身構えた。
戦闘態勢に入ったようだ。
彼は冷めた眼差しを俺に投げる。
「ジャック・アーロンさん。あなたと戦うのはこれで三度目ですが、今回は手加減しません。覚悟してください」
「ハッハ、上等だ。やってみろよ」
サブマシンガンをシュウスケに向けつつ、俺は片手をさりげなく後ろに回した。
ベルトに挟んだスイッチを手に取り、付属のボタンに親指を這わせる。
シュウスケが気付いた様子はない。
それを確信してから、ゆっくりとボタンを押し込んだ。




