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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第1章 異世界の爆弾魔

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第18話 爆弾魔はドワーフの集落へ導かれる

 俺はライフルを下ろさず、無言で相手を観察する。


 髭面の男達は銃を所持していた。

 かなり筋肉質で、鋭い視線をこちらに向けている。

 戦いを知っている者の佇まいだ。

 それもかなりの熟練者揃いである。

 常日頃から荒事には慣れ親しんでいるのだろう。


 対峙しただけで分かる。

 向こうは相当な手練れだ。

 街の騎士や兵士よりも遥かに強いと思われる。


 全滅させるのは容易いが、車中にはアリスが眠っていた。

 彼女の身の安全を考えると、あまり戦いたくない。

 銃撃戦になった場合、流れ弾が当たる可能性があった。


 我ながら誰かを守るという行為が苦手なのだ。

 元の世界でも護衛任務は憂鬱だった。

 むしろ護衛されている要人を暗殺する方がよほど得意である。


 とは言え、不満を言える状況でもない。

 アリスは俺が守らねばならないのだから。

 軽率な行動は控えよう。


 それにしても、彼らの容姿にはなんとなく見覚えがある。

 肝心の名称は思い出せないが、ファンタジー作品にそれらしき種族が登場していた気がする。


(いや、今はどうでもいいか……)


 彼らの次の行動こそ、俺が注意すべき点だろう。

 もし発砲してくるようなら即座に殺す。

 ゴーレムカーを盾にすれば、アリスも上手く守れるはずだ。


 頭の中でパターン別に戦略を練っていると、髭面の一人が怪訝そうに問いかけてくる。


「お前ぇ、誰だ? なぜこんなところにいる」


 訛りを含んだイントネーションだった。

 声音に警戒心が表れている。


「ここは俺達ドワーフ族の縄張りだ――ひょっとして密猟者か?」


 別の髭面――ドワーフ族を名乗る男が、眉を寄せて怒りの表情を見せた。

 その言葉を皮切りに、他の者も銃を握る手に力を込める。

 返答次第では射撃も厭わない様子だ。

 そういった空気感を醸し出している。


 思わず発砲したくなるも、俺は寸前で堪えた。

 ここはクールに行こう。

 ライフルを下ろして、両手を上げてみせる。


「ちょっと待った。誤解だ。俺は密猟者じゃない」


 続けて俺は事情説明をする。

 渓谷地帯でドラゴンに食われかけたこと。

 この車両で逃げながら撃退したこと。

 滝から落ちてここまで流れ着いたこと。

 そういった経緯を淡々とドワーフ達に伝えた。


「――だから、好きであんたらの縄張りに入ったわけではないんだ。地上へ繋がる道が分かれば、すぐに出て行くよ。できれば外まで道案内してくれると助かるんだが……」


 説明を終えた俺をよそに、ドワーフ達が何やらざわついていた。

 俺の話の中で気になることでもあったのか。

 しばらく待っていると、一人が大声で尋ねてきた。


「竜を撃退しただと!? それは本当か!」


「もちろん。嘘は言わないさ。ほら、見てみろよ。ここに爪の一部が刺さっているだろう?」


 俺は大袈裟な身振りでゴーレムカーの後部を示す。

 そこには、ルーフを粉砕する爪の一部があった。

 俺が拳で叩き割った箇所である。

 何かに使えると思い、捨てずに刺さったままにしておいたのだ。


 ドワーフ達は遠くから爪を眺め始める。

 最初は怪訝そうだった彼らだが、徐々に驚愕した表情になった。

 そして何かを話し合った後、恐る恐るといった様子で近付いてくる。


「……近くで、見せてもらってもいいか」


 ドワーフ達は真剣な雰囲気だ。

 同時に静かな熱狂を秘めている。


 俺は両手を広げて頷く。


「ああ、見物料は取らない。存分に調べてくれ」


 ドワーフ達からは、既に殺気が消えていた。

 友好的とは言い難いが、いきなり撃ってくる心配はなさそうだった。


 彼らの視線は、ドラゴンの爪に釘付けである。

 並々ならぬ関心があるらしい。

 その姿はまるで、極上の素材を見つけた職人のようだった。


 慎重に歩み寄ってきたドワーフ達だが、気が付けば我先にと言わんばかりの全力疾走でやってきた。

 彼らは跳び付くようにして殺到すると、しきりにドラゴンの爪を調べ出す。

 細部まで念入りに観察したり、撫でて触感を確認したり、口々に議論したりと、相当にヒートアップしている。

 下手に口出しすると煙たがられそうなので、俺は黙って彼らが落ち着くのを待つ。


 やがてドワーフの一人が、興奮気味に質問しに来た。


「どうやら本当に竜の爪らしいな……これほどのものを、一体どこで手に入れた?」


「だから言ったろう。ドラゴンに襲われたから攻撃してやったんだ。そいつの置き土産さ」


「そうか……ふむ、嘘をついていない目だな。とても信じられんが」


「腕っ節には自信があってね。次は確実に仕留めるつもりだ」


 俺は力こぶを作ってみせる。

 するとドワーフは、半ば呆れたような顔をした。


「個人で竜殺しとは……本気か?」


「ああ。クソッタレのトカゲ野郎は丸焼きにすると決めたもんでね。ユーゲンジッコー、だったか? とにかく、どこへ行こうが居場所を突き止めて爆殺するつもりさ」


 俺は笑みを浮かべながら答える。


 ドワーフ達が後ずさる。

 なぜか怯えられたらしい。

 彼らに危害を加えるつもりはないというのに。

 気を取り直したドワーフが、今度は車内を指差した。


「乗り物の中にいるのは、お前ぇさんの妻か」


「いや、ただの同行者さ。ビジネスパートナーって奴かね」


「怪我をしているのか?」


「滝から落ちた衝撃で骨を折ったみたいだ。まあ、死にはしない」


 俺が受け答えする間、ドワーフ達は互いに顔を見合わせていた。

 何かの相談だろうか。

 そう思っていると、代表らしき一人が俺の前に進み出てくる。


「竜に襲われるなんて災難だったな。ここで会ったのも何かの縁だ。俺達の集落で休んでいけ。嬢ちゃんも気絶しているし、乗り物も壊れとる。集落まで行けば修理くらいはできるだろう」


「願ってもない話だが、甘えてしまっていいのかい?」


「その代わりと言っちゃなんだが、竜の爪を少しばかり分けてくれるとありがたい。親指程度の量でいい。万能薬になるもんでな」


「なるほど、交換条件ってわけか」


 ドワーフの提示に俺は納得する。


 彼の話を聞くに、竜の爪は稀少らしい。

 かなりの価値があるようだ。

 確かに頻繁に入手できる類の素材ではないだろう。

 あのモンスターの相手をしなければいけないわけだからな。

 命がいくつあっても足りないと思う。


 故に爪の譲渡を躊躇うかと言えば、そんなことはない。

 車体に刺さった爪は、それなりの大きさだ。

 人間サイズとまではいかないが、ちょっとした剣として使えそうなほどはある。

 したがって親指程度の譲渡なら構わなかった。


 それに、近場で休息が取れるのはありがたい。

 必要ならサバイバルも覚悟していたものの、なるべくしないに越したことはないだろう。

 ゴーレムカーの修理ができると言われたのも無視できない。


 考えをまとめた俺は、代表のドワーフに片手を差し出す。


「交渉成立だ。よろしく頼むよ」


「話の分かる兄ちゃんだな。よぉし、ついてこい! すぐに集落まで送ってやろう」




 ◆




 ドワーフ達に連れられて地下洞窟の横道を進む。

 俺はアリスを乗せたゴーレムカーを引っ張っていく。

 やや上り坂だがあまり関係ない。

 重さは誤差の範囲であった。


 ゴーレムカーを曳いていると、ドワーフ達から怪力だ何だと大層もてはやされた。

 彼らの中では、膂力の強さは絶対的な価値の一つらしい。

 戦士を尊ぶ文化なのだろう。


 おかげでドワーフ達が親しげに接してくるようになった。

 これから彼らの集落に向かう上では、事前に仲良くできてよかった。


 アリスはお世辞にもコミュニケーションが得意とは言えない性格だ。

 基本的に物静かで、発言も必要最低限にまとめがちである。

 そんな彼女は、豪快な気質のドワーフ達に打ち解けるのは難しそうだった。

 俺が仲良くできた方が、色々と都合がいいだろう。


「ところでお前ぇさん達は、どこへ行くつもりだったんだ。近くに街や街道はないはずだが」


「独立国家エウレアを目指していたんだ。森を抜けると近道になるだろう?」


「そりゃそうだが……随分と大胆だな。まあ、竜を追い返すだけの実力があれば不思議でもないか。おっと、魔物のお出ましだ」


 雑談に興じていると、岩壁の亀裂からクリーム色の芋虫が這い出てきた。

 しかも数十匹という大群で、一匹が赤ん坊くらいのサイズである。

 なかなか気持ち悪い光景だ。


「よっしゃ! こいつは大漁だぜぇっ!」


「今夜はご馳走だなァ!」


「野郎共、一匹たりとも逃がすなよォ!」


 ドワーフ達が果敢に突撃し、斧や銃を駆使して芋虫を殺害し始めた。

 彼らにとっては食糧らしい。

 威勢よく死骸を網に集めていく。

 それを見た俺は、近くで芋虫を切り刻むドワーフに声をかける。


「数が多いが、手伝った方がいいかい?」


「大丈夫だ。お前ぇさんは嬢ちゃんを守っとれ」


「了解。気遣い感謝するよ」


 俺は片手を上げて答える。


 ドワーフ達の戦闘能力は高い。

 一人ひとりが熟練の戦士で、見た目に違わぬ強さを持っている。

 俺が加勢せずとも、余裕を持って立ち回っていた。

 そのまま彼らは見事な手際で芋虫の軍勢を殲滅する。

 膨れ上がった網を担いで、ドワーフ達は移動を再開した。


 それから三十分ほどが経過した頃、岩に囲まれたドーム状の空間に到着した。

 正面に重厚な鉄扉があり、その向こうにはいくつもの屋根が覗く。


 天井の岩の一部に穴が開き、夜空の星々が見えた。

 岩壁に沿って石の階段が設けられ、穴の外へと続いている。

 ここからでは望めないが、地上にも同じように居住区が続いているのかもしれない。


 鉄扉の向こうからは無数の喧騒が聞こえてくる。

 熱気も凄まじい。

 まだ門の外だというのに、生き生きとした雰囲気を肌で感じられる。


「へぇ、こいつはなかなか……」


 俺は素直に感心する。

 想像以上の発展具合だった。

 集落というから、もう少し質素な場所を想像していた。

 認識を改めねばならない。


 そんな俺の心情を察したのか、代表の男は誇らしげな様子で肩を叩いてくる。


「ここがドワーフ族の集落だ。ゆっくりしていきな」

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