第176話 爆弾魔は仮拠点にて再起を図る
「こっちに置くが構わないかい?」
「ええ、大丈夫よ」
「了解」
アリスの返答を受けた俺は、木箱に詰めた爆弾を運ぶ。
それを部屋の端に置いた。
室内を往復して、同じ木箱を追加で五つほど運ぶ。
徐々に生産していたが、だんだんと増えてきた。
やはり地道な作業は大事である。
運搬を終えた俺は、腰に手を当てて息を吐いた。
(だいぶ充実してきたな……)
仮拠点の大樹に到着してから早三日。
俺とアリスは地下空間の拡張を進めていた。
並行して武器を作製している。
主に爆弾や魔道具だ。
ゴーレムカーに積んでいた物や森の資源、狩猟で得た魔物の素材を利用していた。
あとは三つ首が曳いていた巨大な馬車も解体して使っている。
ここに来て迷宮の地下深くで暮らしていた経験が活きてきた。
限りある物を駆使して上手くやりくりしている。
これらの作業は、アリスの魔術で隠蔽しながら慎重に行っていた。
シュウスケに感知されないことが一番だからである。
焦ることはない。
下手に急いで感知される方がよほど問題だ。
俺達は優先目的を変更した。
シュウスケの殺害ではなく、世界滅亡を実行することにしたのである。
なぜかと言えば、理由は単純極まりない。
世界を滅ぼせば、自ずとシュウスケも死ぬことに気付いたのだ。
どれだけ反則級の能力を持っていようが関係ない。
何もかもが一瞬で消し飛ぶ。
最も手っ取り早い殺害方法と言えよう。
今までは、俺自身の手で殺すことに固執していた。
その方が気分が良いからだ。
故に採用できない案だったが、事態はそういったことを言っていられる段階を超えている。
この際はっきりと認めておくが、シュウスケはとんでもなく強い。
万能の能力に加えて、彼は冷徹なメンタルを持っていた。
判断力も良く、必要とあれば躊躇いなく行動する胆力を持っている。
元の世界で何をしていたのかは知らないが、大した野郎だった。
だから俺達は方針を変えた。
シュウスケとは直接戦わない方向で行くことにしたのである。
もし彼が魔王を復活させて世界に戦争を仕掛けたとしても、俺達には関係ない。
素知らぬ顔で世界滅亡を目指すのみだった。
これによって行動を縛られず、リスクも大幅にカットできる。
やはりケースバイケースでこだわりは捨てるべきだろう。
世界を滅ぼしたいアリスも、この案には大賛成だった。
だからと言って、別にシュウスケへの対策を怠るわけではない。
あいつは俺達を探している。
きっとまだ諦めていないだろう。
場所が分からないから大人しいだけだ。
もしかすると、死に物狂いで捜索しているかもしれない。
奴に見つかれば、必然的に戦うことになる。
こうして武器を揃えているのも、彼が俺達の居場所を突き止めた時に使うためだった。
あの能力を前にすると役に立たない物が大半だろうが、それでも無いよりは遥かにマシだ。
即席のポーション爆弾でも窮地を救ってくれたのだから、何でも用意しておくことに意味があった。
準備ができ次第、俺達は世界核のもとへ移動する。
それなりに長い旅路となるだろう。
道中で見つかる可能性は十分に考えられる。
だからこそ、対策は欠かせない。
どのような状況でも反撃できるようにしておかなければ。
凄まじい能力を持つシュウスケだが完全無欠ではないのだ。
俺が旧魔族領から脱出できている点からもそれは明らかであった。
今までの召喚者のように、何らかの弱点があるはずだ。
これまでのやり取りを参考に、それを特定するのも目的の一つである。
弱点さえ暴けば、それを突くようにして戦うことができる。
「ジャックさん、できたわ」
作業中のアリスが声をかけてきた。
頼んでいた物が完成したらしい。
俺は駆け足で彼女のもとへ向かう。
「さっそく見せてくれ」
「はいどうぞ」
アリスに手渡されたのはサブマシンガンだ。
ただ、各所に新しい術式が仕込まれており、以前までは無かった部品も増えていた。
シルエットが全体的に一回りほど大きくなっている。
「魔力消費で弾を生成できるようにしたわ。事前に魔力を充填できるから、弾切れは滅多に起きないはずよ」
「最高だな。十歳の時のクリスマスプレゼントより嬉しいよ」
俺は彼女の説明に微笑む。
ゴーレムに搭載された銃と同じ仕様だろう。
内蔵された魔力を弾に変換するタイプだ。
小型化が課題だったが、アリスはこの場所で見事に成し遂げたらしい。
相変わらずの天才ぶりである。
サブマシンガンを返した俺は、腰を伸ばしながらアリスに提案する。
「そろそろ休んだ方がいい。ノンストップで作業していただろう?」
「そうね。少し眠たいわ」
小さく欠伸を洩らしたアリスは、そのままベッドへと向かった。
ややふらついている。
さすがの彼女でも疲れているようだ。
顔にはあまり出ないが、それなりに無理をしているのだろう。
(……俺も頑張るしかねぇな)
アリスに背中を見届けたところで、俺は踵を返して爆弾作りに戻る。
近日中に世界を滅ぼす爆弾を製造するのだ。
今のうちに少しでも腕を上げておかなければ。




