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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第1章 異世界の爆弾魔

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第17話 爆弾魔は地下洞窟を漂流する

 岩々で構成された空間が一面に広がっていた。

 壁や地面に生えた苔が発光し、僅かばかりの灯りとなっている。

 空気はひやりと涼しい。

 滴の落ちる音が断続的に反響している。


 半壊したゴーレムカーは、地下洞窟を流れる河川を漂っていた。

 俺はその上に片膝を立てて座り込んでいる。

 手にはライフルを持ち、引き金は指にかけたままだ。


 俺は視線を巡らせて辺りを警戒し続ける。

 光の届かない暗闇をも注視した。

 意識を研ぎ澄ませて、些細な音も聞き逃さないようにする。


 そのルーチンに辟易した俺は、小さくため息を吐く。


「まったく、なんてザマだ……」


 ドラゴンとの逃走劇から、体感で一時間ほどが経過していた。

 滝壺に落ちたゴーレムカーは、為す術もなく地下河川を流されている。


 現在地は不明だ。

 頭上はおそらく森林地帯だとは思うが、裏付けるだけの確証はない。

 ただの直感である。

 地図を見ても見当も付かなかった。


 アリスは車内で気を失っていた。

 落下当時は溺れていたが、助け出してなんとか生きている。

 右腕と左脚を骨折していたので、今は即席のギプスで固定してある。

 まあ、命に別状はないだろう。

 じきに目覚めるはずだ。

 むしろ生きていたことに驚きである。


 あれだけ高所からの落下にも関わらず、骨折程度で済んでいるのは不自然だ。

 おそらくは魔術で衝撃を軽減したのだろう。

 或いはゴーレムを最良な形に変えてダメージを抑えたか。

 レベルアップによる身体能力の向上も影響しているのかもしれない。


 何にしろ、さすがは十三の人生を経験してきた錬金術師だ。

 しぶとさもピカイチである。

 ここで死なれるとせっかくの協力者がいなくなり、非常に困るところだった。


 一方で俺自身はほぼ無傷だ。

 落下時、水底の岩に激突して痣ができたのだが、それも綺麗に消えている。

 想像以上にタフな肉体である。

 強靭になった自覚はあったものの、まさかここまでだったとは。

 存外に侮れない。

 レベル補正がなければ、さすがに重傷くらいは負っていたろう。


(人生、どう転ぶか分からないな……)


 しみじみと思いつつ、俺はふやけた干し肉を齧る。

 変な硬さで食感が悪い。

 おまけに水に浸ったせいで冷たかった。

 控えめに言ってもかなり不味い。

 誰かの靴の中敷きでも食っているような気分である。


 とは言え、吐くほどではない。

 これも貴重な食糧だ。

 味と食感を意識せず、俺は機械的に干し肉を咀嚼して飲み込む。


(あのトカゲ野郎め……)


 黙々と食事をしながら、屈辱を強いられた戦いを振り返る。

 ドラゴンはとんでもないモンスターだった。

 こうして生きているだけでも幸運と思えるほどだ。

 映画なんかで見るより何百倍も迫力があった。

 もはや歩く自然災害に等しい。


 遠距離攻撃が通用しなかったのが痛かった。

 弾丸も爆弾もほとんど弾かれてしまった。

 催涙弾と火炎弾のコンボも、致命傷とは言えないだろう。

 多少なりとも怯ませただけに過ぎない。


 唯一、ダメージを与えたのは俺のラッキーパンチのみだ。

 それも限界まで接近しないと当たらない。

 飛行能力を有するドラゴン相手には心許ない攻撃手段である。


 総じて圧倒的に火力が不足していた。

 やはり離れた地点からでも痛打を食らわせられるのがベストだ。

 元の世界の兵器があれば一発解決だが、無いものをねだっても意味がない。

 それに値するだけのものを自作するしかないだろう。


 真っ先に思い浮かぶのは、強力な爆弾だ。

 俺が本領を発揮できる分野である。

 スキル的な都合を加味してもちょうどいい。


 極端な話、帝都で使った都市核の爆弾に比肩する威力があれば、ドラゴンなんて消し炭にできる。

 今はアリスという魔術の専門家もいる。

 材料さえあれば、あれだけの爆弾も製造可能だろう。

 無論、武器として現実的な運用ができるように調節が必要だが、その辺りはアリスが目覚めた後にでも相談すればいい。


 あのドラゴンは絶対に許さない。

 もし再会することがあれば、是非とも仕留めたかった。

 丸焼きにして食ってやろう。

 さぞ素晴らしいご馳走になるに違いない。


(いや、その前にまずは脱出か)


 この地下洞窟から、果たしてどうやって地上へ戻ろうか。

 見たところ出口らしきものは見当たらない。

 河川がどこへ繋がっているかも不明であった。

 このまま流されるうちに、適当に地上へ出てくれれば助かるのだが、そこまで都合のいいことは起きまい。


 そんなことを考えていると、唐突にゴーレムカーが止まった。

 車体の底から摩擦音がする。

 浅瀬に達したようだ。


(仕方ない、ここからは徒歩で移動するか)


 現在、ゴーレムカーは機能を停止している。

 滝壺への落下で故障したらしいのだ。

 運転しようにも動かない。

 ドラゴンにやられた損傷も大きかったので、それも要因の一つだろう。

 アリスなら修理できるかもしれないが、生憎と気絶中である。


 魔術由来の乗り物は、こういう時に不便だ。

 何もできないのがもどかしい。

 ここを出たら、俺も魔術を勉強してみるか。

 新しいことを学ぶには辛い年齢になってきたが、そうも言っていられない状況だ。


 すべては元の世界へ帰還するため。

 やれることからやっていこう。


 ゴーレムカーから飛び降りた俺は、車体前部に回り込んで引っ張りながら進む。

 総重量はトン単位だろうが、今の膂力なら手荷物感覚だ。

 前にいた方が不測の事態にも対応しやすい。

 まだ目撃していないものの、ここにも魔物がいないとも限らない。


 俺はゴーレムカーを岸辺に引き上げた。

 巨岩の陰に隠れる位置だ。

 遠くからだと攻撃されにくく、同時に守りやすい場所である。

 俺は車体にもたれかかって一息つく。


「はは、参ったな」


 トラブルには慣れたつもりだったが、今回は滅多にないほどの酷さだった。

 一周回って呆れてしまう。

 元の世界の出来事を考慮しても、ワースト五位には確実にランクインするだろう。


 まずはここで時間を潰して、アリスの目覚めを待つつもりだ。

 下手に移動しても体力の無駄だろう。

 そしてアリスが目覚め次第、ゴーレムカーを修理してもらう。

 修理が難しければ俺が車体を牽引しよう。

 水と食糧にはまだ余裕がある。

 それらが尽きるまでに地上へ出られたらいい。


 俺はライフルを携えたまま、じっとその場に佇む。

 アリスの容態をチェックしつつ、敵襲への警戒は緩めない。


 そうしてどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 コツン、と不意に小石の転がる音がした。

 同時に複数の気配を察知する。


「…………」


 俺は気配のした方向へライフルを向けた。

 引き金をギリギリまで絞り、いつでも発砲できる状態をキープする。

 こちらからは仕掛けない。

 正体を認めるまで、相手の出方を窺うつもりだった。


 彫像のように動かずに待つこと暫し。

 恐る恐るといった調子で、遠くの岩陰から無数の人影が出てきた。

 俺は構えを解かずに目を凝らす。


 現れたのは、ずんぐりむっくりとした体型の髭男達だった。

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