第166話 爆弾魔は召喚者の手先と遭遇する
「ったく、どこまでもムカつく野郎だ」
俺は悪態を吐く。
どうしようもなく苛立ちが燻っていた。
無論、シュウスケの放送を聞いたせいである。
野郎の舐めた態度が許せないのだ。
とにかく何かで発散したかった。
具体的には滅茶苦茶にしても構わない敵がほしい。
思い切り爆弾で粉砕してやりたい衝動に駆られている。
そんなことを考えていると、アリスが俺の肩を叩いた。
彼女は車外を指差している。
「怒る気持ちも分かるけれど敵襲よ」
アリスの指の先に注目する。
土煙を巻き上げ、木々をへし折りながら何かが突き進んでくる。
それは様々な種類の魔物達だった。
いずれも大型で、ゴブリンやオークといった人間サイズではない。
見上げんばかりの巨人やゴーレムカーを丸呑みできそうな大きさの蛇、それらを比肩するほどの虎や狼といった猛獣など、怪獣のような化け物が勢揃いしている。
さらに上空をドラゴンらしき生物までもが飛行していた。
俺はその光景に笑みを湛える。
「野郎が寄越したゲストってわけか。上等だ。ぶち殺してやる」
後部座席から一本の槍を掴み取る。
これは城塞都市で開発された魔術武器だ。
突き刺した対象から魔力を吸い上げて破壊力を増す代物である。
その性質から魔槍と呼ばれており、シンプルな能力だが非常に便利だった。
さすがに大型の魔物ばかりを相手に銃火器だけでは厳しい。
最大の武器である己の肉体を使うべきだろう。
そういう意味では、この槍は最適解に近い。
俺は魔槍といくつかの爆弾を手に、ゴーレムカーのドアを開けた。
魔槍には既に魔力がチャージされている。
何もせずとも高威力が発揮できるようになっていた。
俺は助手席のアリスに指示を告げる。
「このまま予定通りのルートで走ってくれ」
「任せて」
俺はゴーレムカーの上部によじ登った。
魔物達は左方から雪崩れ込むように接近している。
このままだと、連中の突進にゴーレムカーごと巻き込まれてしまう。
「よっと」
俺は跳躍し、地面を転がるようにして着地した。
猛スピードの車両から落ちたわけだが、身体は怪我一つしていない。
俺は魔槍を打ち鳴らしながら大声を出す。
「ヘイ、こっちを見ろッ!」
ゴーレムカーに迫りつつあった魔物達が停止した。
俺の方を向いたかと思いきや、猛然と突進を再開する。
奴らはそれなりの知能を持っているようだ。
或いは現在進行形でシュウスケに操られているのか。
標的である俺を狙うだけの判断ができるらしい。
とにかく、注意をこちらに引き付けることには成功した。
俺は手持ちの爆弾の一つを掴み、指でピンを弾き飛ばして投擲する。
放物線を描く爆弾は、魔物達の眼前で炸裂した。
封じ込められた精霊が暴走し、赤い稲妻を撒き散らして魔物達を焦がす。
絶叫の合唱が辺りに轟く。
負傷した魔物達は怯んでいた。
展開される赤い稲妻を前に、突進を止めている。
あの爆弾は持続力を重視して作ってある。
牽制程度の威力しか持たないものの、少なくともあと十秒は稲妻を発し続ける。
絶叫のせいで鼓膜が破れそうだが、今がチャンスだろう。
俺は疾走し、最も近くにいた大蛇のもとへ迫る。
赤い稲妻を掻い潜り、魔槍を引いて構えた。
俺の接近を察知した大蛇は、焦げた顔面でこちらを凝視してくる。
赤い瞳が眩しく明滅する。
その途端、全身に強烈な痺れが走った。
「……っ」
四肢の自由が利かない。
まるでスタンガンを食らった時のようだ。
何度も経験があるので知っている。
あの衝撃を三倍増しにした感じだった。
一方、大蛇は口を開けて這い進んでくる。
暗い喉奥がよく見えた。
俺を呑む込むつもりらしい。
(どいつもこいつも俺を舐めやがって……)
怒りに任せて全身に力を込める。
それだけで痺れが吹き飛んだ。
大蛇から何らかの力を受けたようだが、所詮は嫌がらせ程度の効果でしかなかった。
俺は前へと踏み込み、迫る大蛇の頭部に向けて魔槍を突き込む。
魔槍の穂先が上顎の裏を捉えて発光し、大蛇の頭部を爆散させた。
千切れ飛んだ肉片が降り注ぎ、俺は瞬く間に血塗れになる。
頭部を失った死骸が痙攣する。
断面から黄色い粘液が垂れ、白煙を上げながら地面を溶かしている。
どうやら消化液らしい。
「汚ねぇな……シャワーが浴びたくなる」
俺は小声で愚痴りつつ、魔槍を構え直した。
他の魔物達が精霊爆弾のダメージから復帰し、こちらに反撃を試みるところだった。
一斉に無秩序な攻撃を仕掛けてくる。
「さてさて、パーティタイムだ。楽しませてやるよ」
何体来ようがやることは変わらない。
魔槍と爆弾を携えて、俺は獰猛な笑みを浮かべた。




