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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第4章 二人の召喚者と迷宮の都市

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第147話 爆弾魔は意地と誇りを以て処刑する

 その部屋は、ひどく殺風景だった。

 視覚的に関心を向けるようなものは何もない。

 強いて言うならば、全体的に煤けて黒くなっていたり、一部が変色しているくらいだろうか。

 それもこの迷宮においては、あまりにも些細な特徴であった。


 ただし、このような部屋にも特筆すべき点は存在する。

 それは視覚的なものではなく、聴覚が感じ取れる部分だった。


(よしよし、問題なく出ているな)


 耳を澄ますと、空気の漏れるような音が聞こえた。

 正体は知っている。

 壁や地面の亀裂からガスが噴出しているのだ。


 実を言うと、ここは迷宮で暮らしていた時期に発見した部屋であった。

 危ないので近付くことはなかったが、罠として利用できそうなので記憶していたのだ。

 役に立ちそうで何よりである。


「さて、到着だ」


 部屋の中央にトオルを置く。

 そのまま俺は、踵を返して部屋の出口へ向かった。

 ここはあまり長居すべき場所ではない。

 巻き添えを食らっても困る。

 たぶん死にはしないだろうが、積極的に痛い目に遭う趣味もなかった。


「死に際の心境は? 最後にインタビューさせてくれよ」


 出入り口で振り向いた俺は、トオルに声をかける。

 彼はずっと無抵抗で、今も静かに横たわっていた。

 殺意なども感じられず、穏やかな気配さえある。


「…………」


 彼はゆっくりと首を動かすと、無言で俺を見た。

 やはり大きな感情の揺れはない。

 ただ眺めているだけといった感じである。


「異世界……たのし、かった……すごく、ワクワクして……大変だった、けど、ヒーローみたい、に活躍、して……」


 トオルは語り、そして目を閉じた。

 彼は今にも止まりそうな呼吸だけを繰り返す。

 特に遺言もないらしい。

 一連の出来事からは考えられないほど、満足そうな顔をしていた。


 異世界召喚を果たしたトオルが歩んだ道は険しく、エンディングに至っては最低最悪のはずだった。

 それにも関わらず、あんな顔で死ねるのが不思議でならない。

 俺なら墓場から蘇ってしまうだろう。


「――まあ、いいか」


 肩をすくめた俺は、部屋を出て真っ直ぐ歩く。

 途中、煙草を口にくわえ、ライターの火を添えて先端を炙った。

 着火できたところで紫煙を味わう。


「…………」


 くゆる紫煙を眺めながら歩き続ける。

 ひとしきり堪能したところで、それを指で弾いて後方に飛ばした。

 同時に脇道へと素早く身を隠す。


 数秒後、鼓膜を叩く大爆発が起きた。

 爆炎が通路に沿って発生してそばを突き抜けていく。

 脇道へ避けていなければ、背中から浴びていたところだった。


 炎が治まったところで、俺は焼け焦げた通路を進んで成果を確認し行く。

 爆発した部屋には、半ば炭化した肉片と骨が散らばっていた。

 原形はまるで留めていない。

 "それ"と知らなければ、割れた石や砂塵に紛れて分からなかっただろう。


「ははは、ウェルダンだな」


 ガス爆発は元の世界でも起き得る現象である。

 つまり【幻想否定 A+】では防げない。

 これが魔力による爆発なら効かなかっただろう。

 どれだけ威力が高くても、ファンタジー由来という時点で無力化されてしまうからだ。


 もっとも、トオルを殺すだけなら他にも方法があった。

 わざわざガス部屋まで運んでこなくても、脳味噌にリボルバーの弾丸をぶち込むだけでいい。

 あえて爆殺を選んだのには理由がある。


 端的に述べると、爆弾魔としてのプライドだ。

 結局、トオルに俺の爆弾が通用していなかったのが、心残りになっていたのである。

 ファンタジー要素に依存しない爆弾の製造も考えたが、固執しても仕方ないと結論付けていた。

 まずは殺害を最優先しなければいけないからだ。

 結局、能力の射程外から銃撃するという手段に落ち着いた。


 なのでガス爆発によるとどめは、完全に俺の自己満足であった。

 まあ、後悔はしていない。

 むしろ心のしこりを解消できて清々しい気分だ。


 何はともあれ、これでトオルの殺害は完了した。

 残る召喚者は二人。

 そのうちの一人であるアヤメは、これから殺す予定である。


 既に殺害方法の目途は立っていた。

 あとは準備時間を少し設けるだけでいい。

 たとえ失敗しても、また別の手段を探すだけである。


 アヤメはあの調子だ。

 殺し殺されることを至上とする以上、俺達が何かを企てようと関係ないだろう。

 隣で堂々と準備しても問題ないと思われる。


 そういったことを考えていると、頭上から異音が聞こえた。

 岩盤が振動しており、徐々にそれが大きくなっている。


(何だ……?)


 俺は眉を寄せて訝しむ。

 とりあえず、呑気に突っ立っている場合ではなさそうだ。

 そう考えて背後へ飛び退くと、ワンテンポ遅れて天井が崩れてきた。


「はっ?」


 その光景を見ていた俺は、思わず変な声を出してしまう。

 崩れる天井と共に落下してきたのは、破損したパワードスーツだった。

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