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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第4章 二人の召喚者と迷宮の都市

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第146話 爆弾魔は真意を聞く

 俺は迷宮内の通路を歩く。

 片手はトオルを引きずっていた。

 彼の四肢は千切れかけている。

 リボルバーで何度か撃ち抜いたからだ。

 この怪我のせいでトオルは身動きが取れず、俺は【幻想否定 A+】の範囲内にいても安心できるという寸法である。


 ちなみに女性陣二人は、この場にはいなかった。

 彼女達には皇帝の埋葬を任せていた。

 トオルの処理くらいは俺だけで事足りる。

 別に死体なんて放置しておけばいいのだが、トオルたっての希望だったのだ。

 せっかくなので、叶えるやることにしたのである。


「諦めが早かったな。俺としては都合がいいが。心境の変化でもあったのかい」


「もう、生きる意味が、無い……彼女は、死んだんだ……」


 トオルは口から血を漏らしながら言う。

 言葉は途切れ途切れで、目は濁り切っていた。

 誰が見ても瀕死と分かる様だ。

 心身の傷が深すぎるようであった。


「惚れていたんだな。悪いことをしたよ」


「……ジャック・アーロン」


「何か用か?」


 俺が応じると、トオルは逡巡する。

 彼は少し間を置いてから喋る。


「僕達を狙った理由を、教えて、くれ。最期、に……知りた、い」


「ふむ。まずは予想してみな。君の考えを聞いておきたい」


 俺は淡々と告げる。

 どういった答えが返ってくるのか、少し興味があったのだ。


 トオルは引きずられながら考え込む。

 頭を捻った末、彼は小さな声を発した。


「日本人が、嫌いだった、とか……」


「不正解。正解は謁見の間での侮辱だ。今まで殺してきた召喚者にも説明してきたよ。君で四人目だ」


 既に慣れたやり取りだ。

 誰もが勘違いをしている。

 俺が殺しに来た理由を分かっていなかった。


 一度狙った獲物を逃したくないという気持ちもあるが、そもそもの要因はやはり侮辱である。

 蔑まれることに我慢ならない。

 人として当然の感情だろう。


「四人目……やはり、殺していた、か……」


 トオルはぼやく。

 あまり驚いていないので、なんとなく予想はしていたのだろう。


「あの時、どうして俺を笑ったんだ?」


「……皆が、笑ってい、た。自分も、笑って……大丈夫、と思った……」


 トオルは気まずそうに言う。

 目の端には光るものが滲んでいた。

 俺は深々と嘆息する。


「レベルが1で雑魚スキルしか持たない俺は、さぞ惨めで愉快だっただろう? 馬鹿にしたところで害はないからなぁ。自分は異世界召喚で多大な力を得たんだ。そりゃ舞い上がるさ」


「ごめ、ん……僕、が……悪、かった……」


「非を認めて謝れるのは良いことだ。なかなかできることじゃない。これからは、無闇に他人を馬鹿にしないことを勧めるよ」


 もっとも、トオルには"これから"が存在しないわけだが。

 それについては言及しない。

 彼自身も理解しているだろう。

 わざわざ指摘するのも無粋である。


 最愛の人を喪った今、トオルは生存を放棄していた。

 彼は緩やかな速度で確実な死に向かっている。


 俺はその姿を眺めながらふと閃く。

 大事なことを訊き忘れていた。


「そうだ。残る召喚者について、知っていることを教えてくれよ。コージ、ミノル、ミハナ、アヤメ、トオル……この中にいない奴だ。名前とか能力とか居場所とか、そういう個人情報がいい」


「言わ、ない」


「理由は?」


 俺が尋ねると、トオルは目を閉じて動かなくなってしまう。

 数秒ほど待っても反応はない。

 ついに死んでしまったのか。

 そう思った時、彼は薄く目を開いた。


「――お前を困らせたいからだ」


「はっはっは! 素晴らしい回答だなッ! 百点満点だよ、トオル」


 その言葉を耳にした瞬間、俺は思わず爆笑する。

 なんて正直な野郎だ。

 随分と吹っ切れている。

 本音を言えば、悪くないリアクションだった。

 どちらかというと好みの部類である。


 俺はトオルの髪をくしゃりと撫でて告げる。


「そのナイスな答えに免じて、召喚者は自力で調べるとするよ。エウレアでの権力を使えば、そこまで難しいことじゃない」


「お前、では、勝てないぞ……絶対に、な……あの人、は、とても強い」


 トオルは断言する。

 だんだんと彼の声量が衰えてきた。

 時折、迷宮内の振動や水音に負けるほどだ。


「そうかそうか。貴重な意見をありがとう。参考にさせてもらうよ」


 異世界人が強いのは今更だ。

 今までも、絶対に勝てないという相手ばかりを始末してきた。

 残りが誰であろうと、その点に変わりはない。


「さぁ、着いた。ここが君の墓場だ」


 俺は足を止める。

 そこは迷宮内でも狭めの密室だった。

 ここには面白い特徴が一つある。

 今からそれを利用するのだ。

 俺にとっても色々と都合がいい。


「もう少しの辛抱だ。踏ん張って生きてくれよ?」


 フィナーレが台無しになっては興醒めだ。

 慎重にトオルを引きずりながら、俺は鼻歌混じりに室内へ踏み込む。

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