表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第4章 二人の召喚者と迷宮の都市

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/200

第145話 爆弾魔は召喚者に苦悶を強いる

「ハァッ!」


 トオルが突進してくる。

 拍手で迎えたくなるほど馬鹿正直な動きだ。

 入隊直後の調子に乗った新兵を彷彿とさせる。


 とは言え、相手はチンケな新兵ではないのだ。

 特殊能力を持つクソッタレな少年である。

 距離を取らなければならない。


 俺は後ろへ下がろうとして、抵抗を覚える。

 見れば足元に黒一色の物体がへばり付いていた。

 半透明で触れられている感触はない。


 一瞬の思考を経て、それが影であることに気付く。

 それもトオルの影だ。

 彼の足先から変形して伸びていた。


(くそ、魔術かよ……ッ!)


 悪態を吐く暇もなく、トオルが一直線に接近してくる。

 さすがに不味い。

 このままだと【幻想否定 A+】の射程内に入ってしまう。


「フンッ!」


 俺は足腰に力を込め、影を引き千切りながら飛び退く。

 ギリギリで能力の射程外へ逃れるも、代わりに皇帝を手離すことになった。


 トオルは一目散に皇帝を抱き止めようとする。

 俺はそこへ投石した。

 レベル補正を受けた豪速球を、トオルは片手でガードする。


「……っ」


 鈍い音がして、トオルの手の甲に石がめり込んだ。

 彼は顔を歪める。

 たぶんあれは骨折しているだろう。

 投石のダメージがトオルの防御力を凌駕したのである。


 俺はさらに連続で投石を行っていく。

 ここは迷宮だ。

 弾になる石は辺りにいくらでも散らばっている。


 トオルは皇帝を抱えながら跳び、俺達から距離を取った。

 皇帝を庇いながら動くのは大変そうだが、彼が諦める気配はない。

 何がなんでも二人で生き残るつもりのようだ。


 俺はリボルバーを手に取る。

 距離を詰められると作動しないが、能力の射程外なら発砲が可能だ。

 リボルバーの弾をぶち当てれば、さすがのトオルでも只では済まないだろう。


 撃鉄に指を当てて思考していると、唐突に肉体が軽く感じるようになった。

 まるで羽毛のようだ。

 同時に力が漲ってくる。


 背後を確認すると、アリスが魔術を行使していた。

 どうやら俺に強化を施したらしい。

 トオルに魔術は効かないため、味方のパワーアップに専念することにしたようだ。


 続いてアヤメが前へ踏み出し、ナイフを器用に回転させる。


「この人を殺せばいいんだねっ! わたし、やるよっ!」


 一方、トオルは呆然としていた。

 彼は辛そうな顔で問いかける。


「アヤメさん……やはり何も憶えていませんか?」


 小首を傾げたアヤメは、眉を寄せて考え込む。

 数秒後、彼女はぽかんとした表情になった。


「えー? なに言ってるの? あなたは誰?」


「アヤメ、さん……」


 トオルは膝から崩れ落ちそうになる。

 説得でアヤメが寝返るとでも思ったのだろうか。

 つくづく哀れな男である。

 俺はそんな彼に告げる。


「残念だが諦めろ。彼女はもう手遅れだ」


 アヤメの狂気は、人の言葉でどうにかなる段階ではない。

 完全にアウトだ。

 こういう人種の破滅は何度も目にしてきた。


「めでたく皇帝をゲットしたようだが、そこからどうするんだい? 魔法のキスで治すのか?」


「……お前を殺して、そこの魔術師に治癒させる」


「私は従わないわ、絶対に」


 アリスはきっぱりと断言する。

 頼もしい相棒の答えに、俺はニヤリと微笑んだ。


「だそうだ。どうする?」


「ぐ、ぬぅぅ……っ」


 トオルは、俺達の顔を順に見やる。

 負傷した手からは、止めどなく血が流れ出していた。

 彼は歯を食い縛って地団駄を踏む。


「それでも、僕は――ッ!」


「隙ありだ」


 俺はリボルバーを連射する。

 瞬時に放った四発の弾は、避けられないように角度とタイミングを調整した。

 回避できないと悟ったトオルは、意を決して皇帝を庇うように立ちはだかる。

 弾丸が彼の腹をぶち抜いた。


「……えっ」


 トオルはよろめき、そっと腹を押さえる。

 彼はゆっくりと後ろを振り向いた。


 そこには、皇帝が倒れていた。

 頭部の半ば以上が弾け飛んでいる。

 美しかった顔は割れて、血と脳漿に塗れていた。

 貫通した弾が皇帝に当たったのだ。


「あーあ、やっちまった。お姫様は守り切れなかったようだな」


 俺はリボルバーを弄びながら嘲笑う。

 狙い通り命中してくれた。

 この部屋でトオルと再会したときから、彼と皇帝を同時に殺傷できる立ち位置を常に吟味していたのだ。

 そしてようやく見つけ出した。


「う、うぅ……あっああああ、あああああっ!」


 トオルが頭を抱えて絶叫する。

 腹に開いた穴も気にせず、彼は慟哭し続けた。

 もはや周りが見えていない。


「ハッハ、ついに限界か。心がぶっ壊れやがった」


 最高のタイミングで皇帝を犠牲にすることができた。

 理想通りの展開である。

 トオルの【幻想否定 A+】は厄介だが、適切な距離さえ意識できれば楽に対処が可能だ。

 今までの召喚者に比べても生温い。

 正面からでも戦える時点でイージーモードである。


(さてさて。仕上げといこうか)


 メンタルを壊せば、あとは簡単だ。

 こちらの独壇場であった。

 これまでの鬱憤晴らしも兼ねて、さっさと処理させてもらおうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ