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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第4章 二人の召喚者と迷宮の都市

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第144話 爆弾魔は召喚者と交渉する

 迷宮の中でも広いスペースを持つ部屋。

 俺達はそこでトオルと再会した。


「ハロー、見舞いに来たぜ。フルーツの盛り合わせはないが、代わりに手土産がある」


 俺は友人のような親しさで挨拶し、引きずってきた皇帝を見せる。

 ぶち抜いた胴体の穴は、凝固していた。

 アリスが魔術で応急処置したのである。

 ただ、あくまでも時間稼ぎに過ぎなかった。

 このままだと、一時間以内に死ぬだろう。


「ジャック・アーロン……ッ!」


 トオルは変わり果てた皇帝を見て激怒する。

 血の涙を流さんばかりに、激情を露わにしていた。


(ふむ……)


 俺はそんな彼の身体に注目する。

 狙撃の傷が縫合されていた。

 かなり粗い上に力任せだが、辛うじて止血が為されている。

 ショッキングカラーの光る糸は、魔術によるものだろう。

 強引ながらも応急処置を済ませたらしい。

 皇帝の勇気も無駄ではなかったようだ。


 それにしても、トオルが広い部屋で待っているとは予想外だった。

 狭い場所で待ち伏せしてくるかと思ったが。

 治療痕を見るに、場所を選ぶだけの猶予がなかったようである。


 トオルの状態について考えていると、彼がこちらへ近付こうとした。

 すぐさま俺は皇帝の首筋にナイフを当てる。


「おっと、動くなよ。びっくりして手が滑ったら、このお嬢さんの首が切れちまう」


「ぐっ……」


 トオルは悔しげに呻く。

 距離はまだ十ヤードほどある。

 【幻想否定 A+】の射程には入っていない。

 俺はナイフで皇帝の顔を撫でる。


「卑怯だと思うかい? まあ、そうだよなァ。人質を使った戦法なんて、いかにも悪役って感じだ。ただ、こっちも必死なもんでね。目的のためには手段を選べないのさ」


 言いながら自分で苦笑する。

 戦闘におけるこちらのハンデは著しい。

 近付いた時点で勝ち目が無くなる。

 これまでに始末した召喚者との戦いも、同じくらい不利だった。

 その分だけ、俺は卑怯者にならざるを得ない。


 俺はナイフを弄びながらトオルに提案する。


「よし、ちょっとしたクイズをしよう。そんなに構えなくてもいい。簡単なクイズさ」


「…………」


 トオルは無言で睨んでくる。

 あまり乗り気ではないようだった。

 とは言え、中断する気もないので話を続行する。


「さて、問題だ。皇帝は致命傷を負っている。このままだと間違いなく死ぬだろう。この状況でどうすれば助かると思う?」


「ふ、ざけるな……」


「正解は、アリスの魔術による治癒だ。胴体に穴が開いているからな。生半可な手段じゃ回復できない」


 これは事実だ。

 最高級のポーションでも難しいだろう。

 それこそ、アヤメの【無限再生 A+】くらいのスキルがなければいけない。


「……やめろ」


「じゃあ、二問目だ。アリスに治癒を頼むには、どんな代償を払えばいいと思う?」


 俺は嬉々として尋ねる。

 トオルは歯ぎしりし、喉奥から掠れた声を洩らした。


「黙、れ……」


「正解はトオル――君の命だ。自殺してくれれば彼女を助けるよ。約束する。信用できないのなら契約書を書いてもいい。こう見えて魔術契約には慣れているんだ」


 魔術契約は過去に何度か使用している。

 これを利用して召喚者を殺害したこともあった。

 個人的にお気に入りのアイテムである。

 グレード別に常備しているほどだ。

 トオルが希望するならすぐに取り出せる。


 まあ、今回は必要ないだろう。

 俺は手を打ってふざけたノリから切り替える。


「さて。茶番はここまでにしよう。状況を理解できたかボーイ? 自分の命か、彼女の命か。選択は君に委ねるよ。自由に選ぶといい」


「…………」


 トオルは俯いている。

 その身体は小刻みに震えていた。

 傷の痛みによるものだろうか。

 相当に力んでいるのか、縫合痕からの出血が強まっている。


「……まえ、を……ろす」


 トオルがぼそりと呟いた。

 わざとなのか、ほとんど聞き取れなかった。

 俺は眉を寄せて、耳に手を当てながら訊き返す。


「なんだって? もう少しボリュームを上げてくれ」


「――お前を、殺す! そうすればどちらの命も助かる!」


 顔を上げたトオルは堂々と宣言した。

 それを聞いた俺は笑う。


「ははは、そいつは傑作だ。まさしく主人公のセリフだよ。そんな君に、悲しいお知らせが二つある」


 俺は指を一本立てる。

 トオルが怪訝な顔をした。

 構わず残酷な現実を告げる。


「まず一つ。俺を殺しても皇帝は助からない」


「……もう一つは、何だ」


 トオルが尋ねてくる。

 やはり気になるのだろう。

 俺は少々の間を置いてもったいぶってから、自信満々に言い放った。


「主人公は俺だ。つまりお前の敗北は確定している」


 答えを聞いたトオルは、硬直する。

 その眼差しには、尋常でない殺意が宿っていた。

 彼は両手の指をポキポキと鳴らす。


「ジャック・アーロン……お前は、もう、いい。ここで殺してやる」


「オーライ、いい顔になったな。どうするつもりか知らないが、かかってこいよ」


 俺は皇帝を拘束したまま応じる。

 残念ながら、交渉は決裂してしまった。

 こうなるとは思っていたので特にショックでもない。


 いよいよトオルとの再戦だ。

 この迷宮の奥地なら、余計な邪魔が入らずに始末できる。

 楽しい殺し合いになりそうだ。

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