第128話 爆弾魔は拠点を建築する
迷宮地下の湖に到着してから早数時間。
俺とアリスは、隣接する部屋に居座っていた。
ここは地面が土で、他は岩で埋められている。
一辺三十ヤード程度のこれといった特徴のない場所である。
現在は、ここを暫定的な拠点にしていた。
魔物が自然発生しないためである。
湖に隣接しているのも大きい。
あそこに生息する個体はほとんどが食糧になる。
この状況においては代え難い魅力であった。
迷宮にはこのような安全地帯が点在しているらしい。
冒険者達は有効活用しながら下層へと潜っていくそうだ。
今後、迷宮各地に拠点を増やしていく予定だった。
数を増やして損はない。
いつ何が起こるか分からない場所だ。
トラブルに備えて様々な準備をしておいた方がいい。
ちなみにアリスは、魔物の死骸で魔道具を作成中だった。
彼女曰く、下手な材料より良質らしい。
加工に時間を取られるものの、その労力に見合う性能になるそうだ。
俺は技術の関係で手伝えない。
下手に手を出しても失敗して迷惑をかけるだけだろう。
即席の材料で魔道具をこしらえるのは、とても難しいのだ。
手軽な様子で進めているアリスがおかしいのである。
俺にできることと言えば、材料となる魔物を殺して集めることくらいだった。
(爆弾なら簡単に作れるんだがなぁ……)
スキルの効果によって絶対に失敗せず、いくら製造しても無駄にならない。
状況がある程度まで落ち着いたら、爆弾の製作も行いたかった。
ゴーレムカーで持ち込んだ荷物は有限だ。
それは爆弾も例外ではない。
使えば使うほど減り、やがて無くなってしまう。
今後のためにも補充が必要だった。
せっかくなので、魔物の死骸だけで作るのも楽しいかもしれない。
少し考えただけでも、次々とアイデアが浮かんでくる。
今すぐにでも試したくなる。
しかし、その前にまずは拠点の建設が先だ。
俺の目の前には、無数の丸太が並んでいる。
近くの階層から引き抜いてきた樹木だ。
それらを加工して丸太にした。
地下なのに木が生えているというのはよく分からないが、迷宮とはそういうものだ。
存在自体がファンタジーの産物と言える。
今更、ナンセンスな疑問は抱かないようにしよう。
俺は地面を掘り、等間隔で四本の丸太を刺し込んで固定していった。
四本を結ぶと、ちょうど正方形ができるようにする。
これが拠点の四隅となる。
それらを基準に丸太を刺して壁を形成した。
建設は大雑把で構わない。
細かな部分はアリスの魔術に頼る予定だからだ。
俺は骨組みの構築だけでいい。
本来ならとてもできないような重労働だが、例の如く高レベル補正がある。
太い丸太でも楽々と持ち上げることができた。
この世界なら重機に頼らなくても良さそうだった。
そうして俺は拠点の外壁を完成させ、次に床の製作に着手する。
最初に余った丸太を板状に切断する。
使用したのはサバイバルナイフだ。
ただし、ただのナイフではない。
アリスの魔術付与によって、魔力の刃が搭載された特別製だ。
これによってスムーズにカットできた。
今回のような自給自足の生活を始めると、魔術の利便性を痛感させられる。
俺は魔力を持たないため、彼女のように自在に行使することは叶わない。
それが残念で仕方なかった。
他の召喚者は魔術を使っていた記憶があるので、単に適性の問題なのだろうか。
まあ、俺が爆弾の能力に特化している時点でお察しな気はする。
そんなことを考えつつ、俺は板を拠点内に敷き詰めていった。
あっという間に床が出来上がる。
「意外と悪くないな」
俺は拠点内を歩き回ってみる。
まだまだ殺風景だが、工夫次第で快適に暮らせそうだ。
アリスの作る魔道具を設置することで、文明的な生活も望める。
必要なものを脳内でリストアップしていると、突如として頭上から轟音が聞こえてきた。
見上げるとそこには、大質量の水が迫りつつあった。
「うおおっ!?」
俺は咄嗟に身を投げ出すも、拠点内に落下してきた水に呑まれる。
ぐるぐると急速に回転する視界。
呼吸ができず、息苦しさを覚える。
濁流の中でシェイクされた末、俺は拠点の外へ流れ出た。
そこにはアリスが立っていた。
彼女は水浸しになった拠点を一瞥して述べる。
「天井の穴から地下水が溢れ出したようね。上層で罠でも作動したのかしら」
「……ここは安全地帯じゃなかったのかい?」
「迷宮の中ではまだ安全地帯と言えるわね。だけど絶対じゃないわ」
アリスは澄まし顔で答える。
こういった現象も承知の上だったらしい。
「ハハハ、そうかい……」
ずぶ濡れになった俺は、苦笑いを洩らすしかなかった。




