第126話 爆弾魔は潜伏先に到着する
少年から逃れた俺達は、街中を移動中だった。
新勢力の追っ手を薙ぎ倒しながら爆走している。
「ハッハ、最高だ! やっぱりこうじゃねぇとなァッ!」
俺は歓喜しながらショットガンのトリガーを引く。
その一発でぶつかろうとしてきた車両の運転手を銃殺した。
制御を失った車両は、派手にクラッシュする。
前方から迫っていた別の車両と衝突して、爆炎を巻き上げた。
俺は運転しながら片手でリロードを行う。
「血沸き肉躍るとは、まさにこのことだな」
「ジャックさん、嬉しそうね」
「そりゃそうさ。さっきまでストレスまみれのクソッタレな戦いだったからな」
少年との戦いでは、理不尽な形で厳しい展開を強いられた。
ゴーレムカーが動かなくなり、銃や爆弾も使えず、おまけに身体能力でも圧倒されたのだ。
消化不良にもほどがある。
それが今では快調そのものだ。
ゴーレムの損傷が残っているくらいである。
他はすべて復帰していた。
あちこちから湧いてくる新勢力の連中を皆殺しにして満喫している。
「このまま直進よ。もうすぐ着くわ」
アリスのナビゲートに従い、俺はさらにアクセルを踏み込む。
後ろへ引っ張られるような感覚と共に加速した。
ご機嫌なエンジンが唸りまくる。
(ん? あれは……)
少し先に兵士が居並んでいる。
彼らは黒い大砲を用意していた。
ゴーレムカーを狙っているようである。
この世界のことだから、きっと魔術的な武器なのだろう。
厳ついビジュアルからして威力は高いはずだ。
俺は大砲を見据えながら不敵に笑う。
「ここで仕留めるつもりらしいな。やり方が本気だ」
「逃げ道はないわ。防御魔術を張っておく?」
アリスの意見に、俺は首を横に振る。
高鳴る鼓動に笑みが深まった。
「それもいいが、今回は俺がやろう」
俺は後部座席から一本の棍棒を取り出す。
耐久性を底上げした近接武器だ。
俺が術式の勉強で自作したのである。
アリスの魔術付与に比べれば、お粗末すぎるクオリティーだろう。
ただの荷物と化していたが、ちょうどいいので使うことにした。
「さて、一発かましてやろうかね」
「まさか……」
「ああ、そのまさかだ。これでもプロ野球選手になりたい時期もあったんだ」
俺は朗らかに頷く。
察しの良いアリスは、俺が何をしようとしているのか気付いたらしい。
俺は運転席からボンネットの上へ移動した。
運転はアリスに任せる。
身体を横に向けて棍棒を構え、大砲の挙動に注目した。
兵士達が運んできた弾を装填するところだった。
もうすぐ発射してくる。
向こうとの距離は百ヤード強はあった。
ゴーレムカーがかなり加速しているため、瞬く間に距離が縮まっていく。
やがて大砲が火を噴いた。
爆音と共に吐き出されたのは、発光する弾だ。
螺旋回転しながら一直線に突き進んでくる。
俺は意識を極限まで研ぎ澄ませる。
そこから弾の飛来に合わせて棍棒をフルスイングした。
棍棒と弾の先端同士が接触する。
そのまま突き抜けようとする弾を押し返す。
「ぶっ飛びやが、れェ……ッ!」
歯を食い縛る俺は、全身の力を込めて棍棒を振り抜く。
迫る弾を打ち返すことに成功した。
縦回転する弾は、ほぼ同じ軌道で兵士達のもとへ飛んでいった。
大砲に直撃すると、直後に大爆発する。
吹き荒れる白い炎。
当然、近くにいた兵士達は直撃を浴びて即死した。
「ヒュゥ、こいつはセンターヒットだな。ホームランは出なかったか」
俺は生み出された惨状に満足する。
見事に圧し折れた棍棒を捨てた。
やはり俺の仕込んだ術式では、耐久面が不十分だったらしい。
まあ、一度でも打ち返せたのだから上出来だろう。
「突破するわ」
「オーライ、お気の召すままに」
俺が運転席へ戻ると同時に、ゴーレムカーが白炎に突入した。
そのまま一瞬で走り抜ける。
「それで、結局どこを目指しているんだ? そろそろ教えてくれよ」
「目的地はもう見えているわ」
アリスが前方を指差す。
そこにはレンガ造りの巨大な塔が建っていた。
ちょっとした雑居ビルなら丸ごと収まりそうなサイズである。
開放された複数の入口を、冒険者が頻繁に出入りしている。
迷宮都市の構造は大まかながらも記憶していたので分かる。
その塔は、都市内の迷宮の一つであった。
「ここは迷宮都市で最も広大かつ高難度なの。下層に関してはほとんど未探索に近い状況で、強力な罠や魔物が跋扈しているらしいわ。新勢力から逃れるには打ってつけの場所ね」
「へぇ、面白いアイデアだ。しかも理に適っている」
「どうする? 私は提案したけれど、決定権はジャックさんに譲るわ」
アリスから意見を求める。
俺は即座に首肯した。
「もちろん賛成さ。ここより良い場所が思い付かない」
「じゃあ決まりね」
「ああ、地下探検を楽しませてもらおうか」
慌てて避ける冒険者達をよそに、ゴーレムカーはトップスピードのまま迷宮へ飛び込んだ。




