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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第4章 二人の召喚者と迷宮の都市

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第119話 爆弾魔は迷宮を調査する

 迷宮探索からおよそ二時間が経過した。

 現在、俺達は地下十二階にいる。

 一辺が三十ヤードくらいの広い部屋で、俺は煙草をくわえて一服していた。


「……ふう」


 紫煙を吐きながら天井を眺める。

 そばには大きな蛇の死体があった。

 人間を余裕で丸呑みできるサイズだ。

 胴体には無数の穴が開き、左右の目には剣が刺さっており、先端の割れた舌は根元から引っこ抜かれていた。


 大蛇はこの迷宮における中間的なボスらしい。

 一般的な冒険者は苦戦するそうだ。

 巨体にしては素早く、噛まれてしまえば逃れるのは困難なためだろう。

 おまけに多少ながらも魔術耐性を有している。


 もっとも、俺達にとっては楽な戦いだった。

 噛み付きの際に爆弾を飲ませたり、両目や舌といった感覚器官を破壊して、あとはひたすら鉛玉をぶち込むだけだ。

 アリスによる魔術の牽制や防御も一役買っていた。

 強力な毒も俺には効かず、アリスは魔術で対策していた。


 あまりにも簡単に倒せたので拍子抜けしたくらいである。

 これまで数々の難敵を打ち破ってきた経験が活きたと言えよう。

 常識外のスキルを駆使する召喚者に比べれば、赤子みたいなものだ。

 本当にその程度にしか思えなかったのだから、我ながら感覚が麻痺している。


 道中の魔物との戦いに至ってはさらに楽だった。

 これで生活費を稼げるのならいい商売である。

 エウレアで代表になっていなければ、迷宮専門の冒険者になっても良いくらいだった。


「ジャックさん、できたわ」


 二本目の煙草を取ろうとしたところ、アリスから声がかかる。

 俺は煙草を仕舞って彼女の方へ向かう。


「おお、美味そうだな。上手く焼けているじゃないか」


 俺はアリスの手元に注目する。

 そこでは大蛇の一部が料理されていた。

 鉄の串に刺して焚火に炙られるように固定されている。

 脂がとろけてぱちぱちと弾けていた。

 実に食欲をそそる。


 俺はさっそく串を手に取り、蛇肉に食らい付いた。

 咀嚼して味わってから飲み込む。


「……ふむ」


 美味い。

 香ばしい上に肉も柔らかい。

 自然と噛み切れる。

 味がしつこくないので食べやすかった。

 今は飲まないが、酒にもよく合うだろう。


 見ればアリスも小動物のように頬張っていた。

 無言だが、心なしか表情が緩んでいる。

 満喫しているようだ。


 蛇肉の炙りを完食したところで、この先についての打ち合わせを始める。

 現在、迷宮探索は順調すぎる状態だった。

 ほぼノンストップで進み、ついには中層部まで来てしまった。

 このまま進み続けるだけのメリットはあるのか、微妙なところである。

 迷宮の様子見だけなら、そろそろ引き返すべき頃合いだろう。

 これ以上は時間がかかるだけで実りが乏しくなる可能性があった。


 途中、アリスがふと提案する。


「ここは部屋の外を巡る魔力が濃密ね。人もあまり来ないだろうし、調べてみてもいいかしら」


「何か分かるのか?」


「少なくとも損にはならないはずよ」


 アリスがこのように言うのだから間違いはあるまい。

 迷宮の構造を知るいい機会だ。

 収穫に繋がるのなら、これくらいの努力は惜しまない。


 さっそく俺は部屋の壁を掘り進めた。

 道具がないので、大蛇の骨をシャベル代わりにする。

 俺の膂力で使ってやれば、サクサクと掘ることができた。


「そこで止まって」


 アリスの指示に従って腕を止める。

 深く抉れた壁の奥に、緑色の光の筋が覗いていた。

 形状的には植物の茎のようで、複雑に枝分かれしている。


「これは何だ」


「魔力の通り道ね。これが迷宮全体に張り巡らされて、魔力を循環させているみたい。私も初めて見たわ」


「ようするに電線みたいなものか」


 俺は大蛇の死骸の一部を掴み、緑光に押し当てる。

 死骸は音を立てて焼け、接触部分が見事に炭化した。

 迂闊に触れるのは危なそうだ。


 ただ、悪くない。

 これだけの高エネルギーだ。

 利用価値は十二分にある。


(やり方次第だが、爆弾を設置すれば迷宮を破壊できそうだ)


 循環する魔力を流用して、爆破のダメージが深部まで行き渡るようにする。

 上手くいけば甚大な被害を期待できるだろう。

 こういった分野はアリスの監修が必須だが、きっと不可能ではない。

 今までも様々な物を爆破してきたので、可能か不可能かくらいは判別できるようになっている。


 新勢力の城も同様に破壊できるはずだ。

 地下の迷宮に忍び込んで、然るべき処置を済ませればいい。

 具体的な部分はアリスと相談する。


 そこで探索は終了した俺達は、穴を埋めて引き返すことにした。

 魔力の通り道を発見できたのは大きな収穫だ。

 他の迷宮でも似たような場所を探せば、爆弾の設置ができるようになる。

 きっと素晴らしい爆発を起こすので暗殺にも最適だろう。

 召喚者殺害に活用できるのは言うまでもない。


 迷宮都市の中でも、ここは初心者向けにあたるらしい。

 さらに高難度の迷宮もあるそうなので、次はそちらに挑戦したい。

 迷宮の内部構造のサンプルはなるべく集めておいた方がいい。

 どのようなタイプでも的確に爆破できるようになるのがベストであった。


 部屋から出た俺達は、地上へ続く通路を進もうとして足を止める。

 前方に複数の人間が立ちはだかっていた。


 一見するとただの冒険者だ。

 しかし、雰囲気が異なる。

 汚れ仕事を扱う人間特有のものである。

 しかも相当なプロだろう。

 外套で隠しているが、彼らは銃や刃物を握っていた。


 連中の一人が感情を窺わせないトーンで口を開く。


「ジャック・アーロンだな」


「人違いじゃないか? 俺はノリス。名前がまるで違う」


 俺は偽装した冒険者カードを見せる。

 場の空気は一向に緩和しない。

 連中は研ぎ澄まされた殺気を湛えるままだ。


「とぼけるな。狂った爆弾魔め。貴様の素性は既に把握している」


 俺のことを爆弾魔呼ばわりとは、本当にバレているらしい。

 こんな迷宮の奥地で遭遇してきたということは、かなり早い段階から気付いてたのだろう。

 迷宮都市の諜報部はそれなりに優秀みたいだ。


「ははは。ブラックリストにでも入っていたかい? 心当たりが多すぎて分からないが」


 俺は肩をすくめて笑う。

 同時に腰の拳銃とナイフを意識した。

 相手との距離はおよそ八ヤード。

 数はたったの七人。

 一瞬で片付けられる。


 こちらの思考を知ってか知らずか、連中は近付いて来ようとしない。

 そのうち一人が俺達に用件を告げる。


「……付いてこい。皇帝陛下が貴様を呼んでいる」

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