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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第108話 爆弾魔は召喚者の執念を讃える

 俺がアリスを見ると、彼女はこくりと頷いた。

 魂の保護はきちんと解除されているようだ。

 それらしきエフェクトがあったものの、しっかりと見極められる人間に確認した方がいい。


 続けて俺はネレアにハンドサインを送った。

 彼女は嬉しそうな顔で幻術を行使する。


 すぐにミハナがよろりと倒れ、壁に向かって泣き言を言い始めた。

 視線は虚空を見つめている。

 上手く術にはまってくれたようだ。


「ははは、大人しい子猫ちゃんだ」


 俺はリボルバーのシリンダーを回転させた。

 弾倉にはまだ実弾が残っている。

 スイングで戻し、撃鉄を起こして発砲した。


 銃口から放たれた弾丸は、ミハナの片脚を掠める。

 本当は背中を狙っていたのだが、不意に彼女がよろめいたせいで外れてしまった。

 あの状態で躱そうとするのはさすがである。


 ただ、今は予知も万全ではないらしい。

 何より精神状態がボロボロだ。

 回避もままならないと見える。


 俺はリボルバーを置いてミハナに歩み寄る。


「うあ、あ、あぁ…………」


 ミハナは壁に爪を立てていた。

 力を入れ過ぎたせいで、何枚かが剥がれている。

 血だらけの指をした彼女は、幻術による架空の扉を開けようと必死だった。


「何も観えない……どうして死の未来が……あああああぁ、観えない観えない観えない……」


 ミハナはぶつぶつと何かを呟いている。

 おそらくは予知で部屋の外がどうなっているかを知ったのだろう。


 外には何重ものトラップが仕掛けてある。

 彼女をここへ運び込んだ後、俺が丹念に仕掛けたものだ。

 即死クラスの爆弾を贅沢に使いまくっていた。

 ミハナが予知を駆使しても、絶対に脱出できないようにしている。


 彼女の【未来観測 A+】は、一%未満のほぼ存在しないような出来事を任意で発生させる能力だ。

 それは確率ゼロの事象は再現できないということでもある。

 選択肢を徹底的に排して、残る可能性を潰していけば、ある程度の対策が可能だった。

 どんな手段を使われても爆殺する自信がある。


 ただ、ミハナの能力が危険なことに変わりはない。

 予知と確率操作が複合したスキルだ。

 油断は禁物である。

 最後の最後で奇跡の逆転を起こされたら笑えない。


 だから彼女を限界まで追い詰めて衰弱させた。

 加えてネレアの幻術で予知の精度を削いだ。

 今のミハナは無力に近い。

 未来を変えるだけの余力はないだろう。


 ようやくこの局面まで持ち込むことができた。

 時間停止に対抗した時もそうだが、準備が実に手間である。

 もっとも、ここまでしなければ敵わないのも事実だ。

 残りの召喚者については、もっとシンプルな能力だと嬉しい。


(さて、どうやって殺してやろうか)


 俺は腕組みをして思案する。

 できれば苦しめてやりたいものの、それで何らかのトラブルが生じても厄介だ。

 やはり銃殺するのがベターだろうか。


 殺害方法の候補を挙げていると、ミハナが唐突に壁を叩いた。

 血の手形がべっとりと付く。

 彼女はふらつきながらも立ち上がった。

 そして、手探りで壁際を歩き出す。


「えっ!?」


 ネレアが少し驚いたような声を発する。

 何事かを視線で尋ねると、彼女はミハナを指差す。


「わたくしの幻術が解かれました。信じられませんが、精神力で弾かれたようです……」


「へぇ、マジかよ」


 幻術はネレアの得意技だ。

 それを今のミハナのメンタルで打破するとは。

 心身が好調でも困難だろう。

 彼女に対する評価を改めなければいけない。


 心が壊れても尚、ミハナはなんとかして生きようとしていた。

 常人とは思えない強さだ。

 正直、俺も驚いている。


 職業柄、様々な人間と見てきたが、彼女のようなタイプは初めてだった。

 決して不屈の精神を持っているわけではない。

 むしろ心が弱い部類だろう。


 ミハナという人間の異常性は、絶望に負けながらもそれを克服せずに突き進む点に尽きる。

 日本という国の一般人とは思えない。

 こんな素質を持っているからこそ異世界に召喚され、不可避の運命を切り抜ける【未来観測 A+】というスキルに目覚めたのかもしれない。


「はぁ……はぁ……私、は……まだ……」


 ミハナは一歩ずつ進む。

 施錠された扉に触れると、彼女はこちらを振り向いた。

 険しい表情で、両目から血を垂れ流している。

 瞳が金色に染まり、ぎらぎらと異様な光を灯していた。


「アンタなんかに……負けない、か、ら……私、死にたく、ない……」


 ミハナは吐血しながら言う。

 彼女は何度か咳き込み、赤い唾を吐き捨てた。

 乱暴な動作で口元を拭うと、鼻を鳴らして笑う。


「あっちも、こっちも爆弾ばかり……何十種類も、爆弾ばかり……芸が、無いわ……」


「そう言うなよ。頑張って用意したんだ」


「ふふ……確かに、すごいわ。私の力では、脱出できない……死の未来しか、観えない、から……でも諦め、ない、わ……」


 ミハナは扉に手をついて固まる。

 壁を睨み付けながら、彼女は荒い呼吸を繰り返す。


「五分……十分……三十分、六十分……まだ……まだ、よ……もっと観ない、と……」


 呟くミハナの出血が悪化する。

 時折、鼻血を噴き出した。

 床に膝をつきながらも、決して倒れようとはしない。


 彼女が何をしているのかは、なんとなく察することができた。

 限界を超えてスキルを行使しているのだ。

 ミハナの言葉から考えるに、予知範囲を拡張しているらしい。

 観える未来が増えると、一分以内には存在しなかった最適解が見つかる可能性がある。

 死に瀕したミハナは、無理を承知で賭けに出たのだ。


「二時間……三時間……うぅ、ぐっ……ろ、六時間……んぅ……」


 ミハナはさらに予知の射程を伸ばしていく。

 床に落ちた血が湯気を発していた。

 明らかに致死量である。


 一体このままどこまで行くのか。

 俺は純粋に興味を抱いた。

 背後から撃ち殺すような真似はせず、彼女の奮闘を見守ることに徹する。


 やがてミハナがぴたりと止まった。

 彼女は天井を仰ぐと、乾いた笑いを洩らす。

 壊れた人形のように笑い続けた。


 ひとしきり笑ったところで、ミハナは首を回して俺を見る。

 血反吐に塗れているとは思えないほど晴れやかな笑顔だった。


「――地獄で待ってるわ」


 ミハナは掠れた声で言うと、指先から氷の針を射出する。

 狙ったのは俺ではなく、扉のノブだった。

 氷の針が扉を貫通する。

 施錠部分を破壊したのだろう。

 調べなくとも分かる。


 ミハナが部屋の扉を開ける。

 日光は差し込んでこない。

 意識していなかったが、現在は夜らしい。


 ミハナはぴょんと跳んで部屋の外へ消えた。

 数秒の間、小さな物音が鳴る。

 直後、大きな爆発が轟いた。

 そこから連鎖的に爆発が発生する。


 耳を塞ぎたくなるほどの衝撃だ。

 部屋全体が軋んで揺れる。

 開いたままの出口からは爆炎が噴出し、濛々と室内に煙が侵入してくる。

 この部屋はアリスとネレアに補強してもらっているが、それでも危うい気配がした。


 部屋の倒壊を心配しているうちに、連鎖的な爆発は終了した。

 すべての罠が作動し尽くしたようだ。

 俺は慎重に部屋の外へと向かう。


 濛々と立ち込める黒煙。

 爆発で耕された地面。

 大穴が開いている箇所も多い。

 余波で周囲の建物にも損害が出ており、現在進行形で炎上している家屋もあった。

 どれだけ過激な戦場でも、一瞬でここまで酷くなるのは珍しい。


 しかし、それらの光景はどうでもよかった。

 注目すべきモノが前方にある。

 瓦礫の間にひっそりと転がるのは、ミハナの生首だ。

 ちょうど俺の方を向いている。


 血塗れだが、なぜか損傷していない。

 部屋を出て行った時と比べても、ほとんど変化していなかった。

 煤で汚れているくらいだ。


 生首は無表情である。

 金色の瞳が、じっと俺を見つめていた。


 首から下は見当たらない。

 爆破で木端微塵になったのだろう。

 頭部だけが奇跡のように無傷だった。


 死者からの視線を受けて、俺はふっと笑う。


「やるじゃないか。大した女だ」


 ミハナはオーバーヒートした予知で遠い未来まで観測した。

 結果、自らの死を覆せないと知った。

 おそらくどんな展開でも、最終的には俺に殺されたのだろう。


 それを悟ったミハナは生存を諦め、代わりに自らの死に様を選んだ。

 ただ爆死するのではなく、俺の脳裏にこびりつくような最期を望んだに違いない。

 俺への当て付けだろうか。

 よくも覚悟できたものである。


「…………」


 俺は壁にもたれかかった。

 近くで燃える枯草で煙草を炙り、先端に火を点ける。

 それをくわえて、炎上するスラム街とミハナの生首を眺める。


 ――こうして俺は、三人目の召喚者を始末した。

次回で三章は完結です。

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