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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第107話 爆弾魔は心壊を誘発する

 床に散乱する薬莢。

 潰れて変形した弾丸。

 それらに囲まれる俺とミハナは、歪なロシアンルーレットを続けていた。


 絶望に打ちのめされたミハナが再起してから四時間が経過している。

 ここまで彼女は、すべてのコイントスと弾選びを成功させてきた。

 ただの一度の失敗も無く、俺に弾丸を撃ち込んできたのだ。


 おかげで俺の衣服は穴だらけだった。

 数百発の弾を食らってきたのだから当然ではある。

 木箱に大量の予備弾を用意しておいてよかった。

 実弾の残数にはまだ余裕がある。


 ミハナは容赦がない。

 あれから眼球や口内といった人体の急所も遠慮なく攻撃してきやがった。

 さすがの俺でも無傷では済まず、箇所によっては激痛も伴う。

 ただし、弾丸の貫通力では、体内に潜り込むまでには至らない。

 弾丸を摘出すれば、勝手に再生してくれる。


 こういった痛みには慣れていた。

 モーニングのコーヒーのように味わってきたものである。

 どれだけの痛みだろうが俺は耐えられる。

 元の世界では、戦場の負傷で何度も死にかけた。

 傷が高速で自然治癒される分、今の方が遥かに気楽だった。


「はぁ、はぁ……」


 前方に立つミハナがリボルバーを持ち上げる。

 この四時間の経験によって、構えが幾分かマシになっていた。

 彼女は銃を発砲する。


 今回もダミーではなく、弾丸は俺の喉に命中した。

 圧迫感と同時に呼吸が詰まり、俺は咳き込む。

 僅かながらも皮膚にめり込んだ弾丸が剥がれ落ちた。

 痛みはあるものの、クリーンヒットでもほぼノーダメージである。


 対するミハナは、終わらない決闘で精神的に疲弊していた。

 当たり前だ。

 四時間もこんなことを繰り返しているのだから。

 いくら肉体的な苦痛はないとしても、心身は着実に摩耗する。

 彼女は終わりのない行為に辟易していた。


 それでも、ミハナの殺意は未だに衰えていない。

 彼女の目を見れば、はっきりと伝わってくる。

 半ば強がりかもしれないが、まだ諦めていないようだ。


(ふむ、そろそろ仕掛けてもいい頃合いか)


 ミハナの様子を観察して、俺はそう判断する。

 仕掛けるとはつまり、このロシアンルーレットを決着させるのだ。

 実はまだ策を残してある。


 現状、俺はリボルバーを握る権利が獲得できない。

 このままだと、いつまで経っても勝利に近付けない。

 一方的に撃たれるのにも飽きたので、ゲームの流れに変化を与えるべきだろう。

 膠着状態が長引くと、緊張感も薄れてしまう。


「…………」


 ミハナがリボルバーをテーブルに置く。

 次のロシアンルーレットを始める合図だ。

 もはや口に出さずとも分かるようになった。

 完全にルーチンワークと化している。


「どうだい、俺を殺す抜け道は見つかったか?」


「……黙って」


「ハッハ、強気なお嬢さんだ」


 ミハナはまだ俺の思惑に気付いていない。

 この苦行がまだまだ続くと考えている。

 彼女もそろそろゲームを終わらせたいはずだ。

 その願いを叶えてあげよう。


「よし、始めるぞ」


 俺は何気ない調子でコイントスをする。

 銅貨を手の甲で隠しながら、ミハナに尋ねた。


「表か裏か。どっちだ」


「えっ」


 訊かれた途端、ミハナが顔を青くする。

 今までの即答が嘘のように答えない。

 正確には答えられないのだ。

 現在、彼女にはコイントスの結果が観えていなかった。


 仕組みは簡単だ。

 ミハナの宣言から一分以上は結果を見せないと決心して実行する。

 たったそれだけである。


 これによってコイントスの結果は【未来観測 A+】の射程外に逃れた。

 ミハナには、いつまでも銅貨を隠す俺が観えていることだろう。

 【未来観測 A+】の強みとは、確定した未来を主体的な行動で都合のいい展開に塗り替えられる点にある。

 裏を返すと、彼女が行動しなければ未来は変わらない。

 予定通りの流れで進行していく。


 現在のミハナは、その強みを封じられていた。

 コイントスの結果を知りたいのなら、自身が表裏の予想を宣言しなければならない。

 しかし、宣言してから結果を知っても意味がない。

 彼女は一種のジレンマに苛まれている。


 かと言って、何らかのアクションで強引にコイントスの結果を知るのは論外だ。

 それはロシアンルーレットのルールに反する。

 実行した場合、その時点でミハナは敗北し、魂の保護を失うことになる。


 故に彼女は予知に頼ることができない。

 この回のコイントスは純粋なギャンブルだ。

 五十パーセントの確率を直感で当てねばならない。


 この手段をなぜ今まで使わなかったのかと言うと、ミハナに深い絶望と恐怖を与えるためだ。

 最適なタイミングで披露して、彼女の心を折れるように仕向けたかった。


 現状、俺は正攻法でロシアンルーレットに勝つことができない。

 勝利するにはミハナをリボルバーで射殺しなければならない。

 魂の保護を外していない状態で彼女を殺せば、道連れで呪い殺されてしまう。

 しかし、保護を外すにはロシアンルーレットに勝利する必要がある。

 俺も俺で矛盾に挟まれている状態なのだ。


 この矛盾を解決する唯一の手段が、ミハナのメンタルを嬲ることであった。

 元からこれだけを狙っている。

 彼女の精神を徹底的に壊した成果は、すぐに表れるだろう。

 俺の望み通りに進めば、無事にこのゲームで勝利できる。


「うぅ、そんな……いや、でも……」


 ミハナは髪をくしゃくしゃに掻きながら焦る。

 なかなか表裏の宣言をできずにいた。

 今までと違って、予想が外れる恐れを孕んでいるためだ。

 もし外してしまうと、リボルバーが俺の手に渡る。

 彼女が何よりも避けたい事態だろう。


「時間は有限なんだ。さっさとしてくれよ」


 俺は平然と急かした。

 汗だくになったミハナは、充血した目で俺の手元を凝視する。

 手は震え、唇の血色も悪くなっていた。

 何かを言いかけては、寸前で留まる。

 この異様な空間において、彼女だけが追い詰められていく。


「………………表」


 果てしない熟考の末、ミハナは掻き消えそうな声でそう言った。

 その顔を見るに、かなり憔悴しているようだ。

 宣言するのに相当な覚悟を要したらしい。


「よく言った。それじゃあオープンだ」


 俺は勿体ぶらずに手を動かして銅貨を見せる。

 上向きの面に刻まれるのはドラゴンの絵柄――すなわち裏であった。


「あっ…………」


 ミハナは呆然とする。

 ぽかんと間抜けな面で銅貨を見ている。


 一方で俺は歓喜していた。

 小躍りしそうな気分で銅貨をテーブルに置く。


「おっと、アンラッキーだったな。ついに不敗神話が崩れちまった」


 仮にここで運良く的中できたとしても、次の回でまたコイントスを五分五分に持っていくだけだった。

 当たるまでそれを延々と繰り返せば、いずれミハナは予想を外しただろう。


 俺はリボルバーに実弾を込めてシリンダーを回転させる。

 適当なタイミングで戻して撃鉄を起こした。

 これで準備は万端だ。


 ミハナを正面に座らせ、彼女の太腿に銃口を押し当てる。

 これなら即死してしまう心配はない。

 アリスに頼めば、すぐに治療が可能だ。


「さてさて、弾が出るか楽しみだな」


 何があっても一分以内には撃たないと心に決める。

 焦って撃つ気になると、ミハナに弾の種類を悟られてしまう。

 ダミーと分かれば彼女の緊迫感を維持できない。

 できるだけ引き延ばしていきたい。


「ひぃっ、や、やめて……ッ!」


 ミハナはパニック状態だった。

 泣きながら身をよじって、銃口から逃れようとする。

 それを押さえ付けるのは簡単だが、少し鬱陶しくも感じる。

 ミハナがころころと表情を変えるのは、やはり発砲のタイミングが分からないからだろう。


 俺は彼女の反応を楽しみ、陽気に歌を歌う。

 ミハナ自身が"銃に怯える"という行為によって、未来を現在進行形で微調整している。

 そのせいで急に俺の考えが変わり、今すぐに発砲しかねない可能性が生まれていた。

 意図しない未来変更だろうが、ミハナにはコントロールできない。


 そのまま数分が経つと、ミハナは過呼吸気味に銃口を見つめ始めた。

 抵抗をやめて小刻みに震えている。

 下手に暴れない方がいいと判断したのだ。

 顔は土気色に達しようとしており、彼女の疲労具合が見て取れる。

 まともに予知できているのか怪しいところだ。


(そろそろ頃合いか)


 ミハナの様子を観察した俺は考える。

 あまり焦らしすぎると、今度は緊迫感が薄れてしまう。

 最大限のダメージを与えるのなら、この辺りで仕掛けるのがいいだろう。


 その瞬間、一分以上は発砲しないというスタンスから方針を切り替える。

 同時に引き金を引いた。


「――――ッ!!」


 ミハナは雷に打たれたように背筋を伸ばして硬直する。

 銃声は鳴らず、リボルバーからも弾丸は出ていない。

 当然、彼女の脚は無事だ。


「ふむ。残念ながらダミーだったよ」


 俺は肩をすくめる。

 ルール上、ダミーの弾は自分に撃たねばならない。

 予想を外したので、次の回はコイントスがスキップされる。

 リボルバーの使用権は、自動的にミハナへと移される。


 ここで決められなかったのは惜しいが、別に唯一のチャンスというわけでもない。

 次の回は弾を食らうものの、その次はまた五分五分でコイントスに挑戦できる。

 そうしてリボルバーを使っていけば、いずれ実弾を引けるだろう。

 ミハナを精神的に追い詰める効果もあるので、時間の無駄にもならない。


 俺はリボルバーをミハナに渡そうと手を伸ばす。

 刹那、彼女は絶叫した。


「あ、あぁ……ああああああぁッ!!!!」


 ミハナは椅子から転げ落ちると、床を這いずって逃げ出した。

 どうやら腰が抜けているらしい。

 彼女は何事かを喚きながら出口の扉へと向かっていく。


(ついに糸が切れたか)


 リボルバーを下ろした俺は、憐れな背中を眺める。

 今のミハナには、決闘を続行する意思は見られない。

 勝敗がまだ決まっていないにも関わらず、彼女は断りも無く賭けを降りた。

 それはつまり、決闘における敗北を意味する。


「だ、出して! 私をここから出してよッ! ねぇ、もう嫌だ……、お願いだから……死にたく、ないよ……」


 扉に縋るミハナの胸元が発光する。

 甲高い音と共に、光が砕け散って霧散した。

 魂の保護が外れたのだ。


 ――それを目撃した俺は、満面の笑みを湛える。

本作とは関係ありませんが、金曜日より新作の投稿を開始する予定です。

そちらも楽しんでいただければ幸いです。

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