表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/200

第100話 爆弾魔は代表を葬り去る

 被弾した賢者が墜落する。

 地面に激突する寸前、彼の身体は不自然に減速した。

 それから地面をバウンドして転がる。


 魔術を使って落下スピードを緩めたのだろう。

 つまりまだ生きているのだ。

 弾丸は顔に当たったはずなのだが、角度が悪かったのか。

 悪運の強い男である。


 俺はリボルバーの空薬莢を捨て、新しい弾を装填した。

 いつでも撃てるように意識しながら、倒れた賢者のもとへ歩いていく。


「いい銃だろう? 相棒からの贈り物なんだ。魔術だろうが何だろうがぶち抜ける」


「ごっ、ぁ……」


 賢者は血反吐を垂らしながら起き上がった。

 右の頬が抉れて穴が開いている。

 破れた歯茎が剥き出しになり、そこから息が漏れ出していた。


 傷の具合を見るに、脳や脊髄を破壊できなかったようだ。

 紙一重で即死は免れたらしい。

 それでも致命傷なのは明らかであった。


「…………」


 賢者はゆらりと立ち上がる。

 意外とタフだ。

 彼は片手の人差し指を俺に向ける。

 その先から青白いレーザーが放たれた。


「おっ」


 俺は首を傾げて躱す。

 後方で瓦礫が崩れるような音がした。

 遺跡の一部が貫かれて破損したようだ。

 この状況でも俺の命を狙うとは諦めが悪い。


 俺はお返しにリボルバーを発砲する。

 賢者は何重にも防御魔術を展開させた。

 弾丸はそれらを連続で突き破り、賢者の脇腹に命中する。


「ご、ぶっは、ぁ……っ」


 賢者はよろめいて血を吐いた。

 彼は倒れそうになり、なんとか踏み留まる。

 その双眸は焦点が定まっていない。

 震える足腰を総動員して俺と対峙していた。


(よくもまあ、粘れるもんだ)


 俺はリボルバーを回しながら呆れる。


 この銃はとっておきの切り札だ。

 強力な魔術でも破壊できるように設計された武器である。

 序盤で使って対策されると困るため、なるべく温存していた。

 その目論見は見事に成功したわけだ。


 今や賢者は虫の息で、放っておいても死にそうな姿であった。

 無理をして魔術を乱発したせいで、魔力も残り僅かしかない。

 逃走する余力もないだろう。


「さて、くたばる覚悟は決まったかい?」


「…………」


 返答をしない代わりに、賢者は自身の頬に手を当てた。

 肉の焼けるような音が鳴り始める。

 彼が手を離すと、そこに修復された頬があった。

 魔術で治癒したようだ。

 賢者は傷の消えた口を開く。


「……ミハナと俺を、見逃してくれ」


「なんだって? 俺の聞き間違えか?」


 俺は耳に手を添える。

 賢者は沈痛な面持ちで続きを述べる。


「もちろんただの命乞いではない。お前の目的に協力する。元の世界に帰還したいのだろう」


 賢者は手のひらの上に炎を発生させた。

 それを包み込むようにして氷の球体を作る。

 さらに風が球体を回転させた。

 複数の属性の魔術を同時に行使するのは困難だと聞いたことがある。

 賢者は満身創痍の身でも可能らしい。


「俺は賢者だ。魔術にも詳しいから、きっと役に立てる。ここで殺すには惜しい人材だと思わないか」


 賢者は氷の球体を消した。

 彼は芯の通った眼差しで見つめてくる。

 負傷をものともしない堂々とした態度だった。


「どうだ。お前の答えを聞かせてくれ」


「ふむ」


 俺は引き金に指をかけたまま考える。

 賢者は固唾を呑んで答えを待っていた。

 少しの怯えも出さず、真剣な様子で沈黙している。


 そうして十秒ほど悩んだ末、俺は拳銃を下ろした。

 殺気を解き、脱力しながら苦笑する。


「素敵な自己アピールをありがとう。合格だ。大した度胸を持っている」


 俺は賢者に歩み寄り、その肩に手を置いた。

 賢者は一瞬だけ驚いた表情を見せるも、すぐに安堵して頷く。


「ジャック・アーロン。お前は敏い男だ」


「当然さ。俺はいつもクールだからな」


 賢者の称賛を肯定しつつ、俺はリボルバーをホルスターに戻す。

 せっかく相手が気を許してくれたのだ。

 不必要に威圧してはいけない。

 俺は旧友と再会した時のような調子で賢者と肩を組む。


「あんたとミハナは俺の部下になる。その間は二人の命を保証する。これでいいか?」


「問題ない。誠意を以て助力しよう」


 賢者は力強く答える。

 彼の目には、確固たる意志の光が秘められていた。

 どれだけの苦難を前にしても、決して挫けない力である。


 俺は微笑み、ふと思い出したように声を上げる。


「そうそう、さっそくだが伝えないといけないことがあるんだ」


「何だ」


 賢者は怪訝そうに言う。

 対する俺は、賢者の顎下にリボルバーを押し付けた。


「あんたはクビだ」


「なッ――」


 驚く声を聞きながら引き金を引く。

 賢者の頭頂部が破裂した。

 粉々になった脳漿と骨片が噴出する。


 白目を剥いた賢者は、膝からくたりと倒れた。

 中身の減った頭の中を晒しながら痙攣する。

 濃密な血の臭いが立ち込める。


 俺は賢者の胸に向けて発砲した。

 胴体に大穴が開き、そこからさらに出血する。

 射線にあった心臓は跡形もなく潰れていた。


「ふぅ、これで一安心だ」


 俺はリボルバーを気分よく弄ぶ。


 賢者は魔術の達人だ。

 妙な手段で蘇生する可能性がある。

 その点についてはアリスからも忠告を受けていた。

 とりあえず脳と心臓は壊すようにアドバイスされている。

 その二箇所を潰すと、大抵は復活できなくなるのだという。


 それにしても、賢者は最期まで愚かだった。

 俺が本当に許すと思ったのだろうか。


 賢者はひた隠しにしていたが、目の輝きが復讐者のそれだった。

 彼は俺を殺すことだけを考えていた。

 舌を噛み千切りたいほどの怒りと憎しみを堪え、形ばかりの言葉を吐いていたのだ。

 そんな状態で俺を騙せるわけがない。


 こいつの魔術知識は有用だろうが、別に喉から手が出るほど欲しいわけでもなかった。

 俺にはアリスがいる。

 賢者を生かしておくと、後々になって面倒なことになりかねない。

 色々とリスクが高すぎるため、ここで始末するのが無難だろう。


「…………」


 俺は夕日を背に一服する。

 賢者の死体のそばで煙草を片手に佇む。

 視線はなんとなしに地面を彷徨う。


 細長く伸びた自分の影が目に入った。

 その肩の部分がぐにゃりと変形する。

 異変の生じた箇所が人型になり、尖ったものを掲げる。


 俺は実際の肩を見る。

 いつの間にか黒い靄の人型がへばり付いていた。

 その手に握られるのは短剣だ。

 俺を突き刺すために振り下ろしてくる。


(ようやく姿を見せたか)


 俺は靄――暗殺王の腕を掴んで止めた。

 そのまま指に力を込めていく。


「む」


 暗殺王が短く声を発する。

 ぶちり、と靄の腕が分離した。

 その隙に暗殺王は俺の肩から跳び退く。


 掴んでいた靄の腕は、短剣と一緒に崩れて形を失った。

 それらは空気中を流れて暗殺王に吸収される。

 欠損した部分が伸びて元の形状となった。

 短剣も変わらず握られている。


(相変わらずおかしな肉体だな。面倒だ)


 俺は煙草を地面に落とし、靴底で火を踏み消す。

 暗殺王は前方で幻のように揺らめいていた。


「薄情な奴だな。賢者が生きているうちに助けるべきじゃなかったのかい」


「……汝を殺すのに、最も良い機会を待ったまでだ。その男は情に移ろい過ぎた。我が助ける価値も無い」


「そういうあんたもミハナを救出しに来たんだろう? 他人のことを言える立場かよ」


 俺の指摘に暗殺王は沈黙する。

 全身が靄で構成されているせいで、感情の起伏が読めない。

 それでも、向こうが不機嫌であることは何となく察することができた。

 俺は笑みを深めて挑発を続ける。


「図星か。そういうのをブーメランと言うらしいぜ」


 暗殺王は俺の言葉に応じず、静かに短剣を構えた。

 希薄な気配に洗練された殺気が混ざる。


「狂気に侵された爆弾魔よ。汝はエウレアに仇為す害悪。故に我が斬り捨てる」


「上等だ。やってみろよ」


 俺はナイフを手に取って身構えた。

いつも読んでくださりありがとうございます。

今回の更新でちょうど100話に到達しました。

引き続きがんばりますので、今後ともよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ