神社の狐
綺麗な夕焼けがなんだか恨めしくて、膝に顔を押し付けて泣きじゃくっていると、玉砂利を踏む音が聞こえて顔を上げた。
あの時は一人になりたくて、泣いてる姿を見せたくなくて神社に行ったけど、冷静に考えれば神社に人が来ることくらい想像できたと思う。自分で気付いてなかっただけで、実はそんな余裕がないくらい追い詰められていたのかもしれないけど。
顔を上げると黄金色の毛並みをした狐がいた。狐はゆっくり私に近づいてくると、隣に座って私の頭に自分の頭を擦り付けた。その慰めるような仕草に驚きで止まっていた涙がまた流れ出した。
それからのことは少し曖昧で、狐にしがみ付いて泣いていたことしか覚えていない。
目が覚めた時には次の日の朝で、祖母に前の晩のことをたっぷり叱られてから、『お狐様が連れてきてくれたからお礼を言ってきなさい』と五円玉を握らせられた。
この日がたぶん私が初めて神社に一人で行った日だと思う。
神社にお参りする時のことは一通り母に仕込まれていたけど、もう母に何かを教えられることがないと思うと目の前の景色が滲んだ。
道路から横にそれて短い階段を上って鳥居をくぐる前に一礼。母は『ここから先は神様の場所だから、お邪魔しますって挨拶するのよ。』と言っていた。
母は神様のことを信じてはいたけど、一般的な信仰とは違ってただ存在するものとして信じていた。神社に来る時も何かを願うことはなく、日々の些細な事を話していた。
鳥居をくぐって手水舎で手と口を清めようとしたが、幼かった私は柄杓に手が届かず、母にとって貰っていたことに気付いてまた景色が滲んだ。
柄杓は顔見知りの神主さんが取ってくれて、私は母が教えてくれた手順で手と口を清めた。その様子を見ていた神主さんは『神音ちゃんはお利口さんだね。』と頭を撫でてくれた。
お狐様出せました