私の両親
とにかく一人になりたくて、でも寂しいのは嫌で。
蝉が命を燃やして愛を囁く中、私は夕暮れの道を近所の神社へ歩いた。
『あのね、この神社には、お狐様っていう優しい神様がいるのよ。神音も困ったことがあったらお狐様に話すといいわ。』
母は、私をよくこの神社に連れてきて、ここに来る度にそう言った。だから自然と足が向かったのかもしれない。
母や祖母の家系は昔から人ではないものを見ることが出来るらしく、その力は私にも受け継がれていた。母は若い時にお狐様に会ったことがあるらしく、とても美しい毛並みの狐だと言っていた。
短い階段を上って朱塗りの鳥居をくぐると広い境内。お参りに来る時はきちんと手順を踏んでいた。『神様にご挨拶する時はちゃんとしないといけないのよ。』と母が言っていたから。
でも、その日は全部飛ばしてお社の屋根の下に座って膝を抱えた。
神社には神様がいる。だから境内には悪いものは入ってこれない。実体を持っていようといまいと。それを教えてくれたのも母だった。
母はふんわりした雰囲気の人で、少し抜けているところもあったけど大好きだった。明日は父の誕生日だから一緒にケーキを作ろうって約束もしていた。他の人には見えないものが見える私に、害を為すものと為さないものの見分け方やそれらとの付き合いを教えてくれた。幼かった私は全てを理解することは出来なかったけど、でも大好きな母が教えてくれることだったから頑張って覚えようとした。これからも教えてもらえるんだと思ってた。
父は母には似合わない真面目で少し硬い人だった。小さかった私はあまり笑わない父が少し怖くて苦手だったけど、人として間違ったことをした時に厳しく叱ってくれたことのありがたさが今ならよく分かる。あんなに突然別れが来るのなら怖がってないでもっとちゃんと話せばよかったと思う。
神社には母との思い出がたくさんある。お参りに来ていたこと。境内で誠人と遊んでいるのがバレて、あまり怒らない母に珍しく怒られたこと。周りの森を母と散歩したこと。
もうそれらが出来ないと思うと涙が零れた。両親が死んでしまったということがじわじわと心にしみこんで、会うことも出来ないと幼いながら理解した。
みっともなく声を上げて泣きながら見上げた空は嫌味なくらいに綺麗で、あのあかいあかい夕焼けはたぶん一生覚えている。
ごめんなさい、お狐様出ませんでした。
次こそお狐様が出します!