神様と人
神様が、お狐様が隣にいるなんて不思議な気分だ。神社には今までも何回も来ていたけど、お狐様を見ることはなかったし、こうして話すことが出来るなんて思わなかった。
「おきつねさま。おきつねさまはさみしくないの?」
昨夜、祖母が聞かせてくれたのはお狐様が神様になる前の話。
普通の狐だったお狐様は、たぶん人のことが大好きだったんだと思う。お母さんの前に姿を見せたり、私を家まで連れて行ってくれたりするくらいだから、人と関わるのが好きなんだと思う。それなのに、お狐様は神様としてのありのままの姿では人に見つけてもらうことが出来ない。移り変わっていく町と、人々をたった一人で見守るのは寂しい気がする。
もっとも、この時の私は幼かったし、そんなことまで考えてした質問ではないと思うけど。
「…そうだな、同じ時の流れを感じることが出来ないのは悲しいことだ。でも、関わることは出来るし、神音や叶のように私のことを見える者もいる。…そういう意味では寂しくはない。」
その時のお狐様の表情は今でもよく覚えている。狐の姿なのに表情が分かるのかと言われればそれまでだけど、私にはとても寂しそうな、悲しそうな顔に見えた。
お狐様は何年も何年もこの町を見守ってきた神様で、とても長い間生きている。だから、建前も上っ面も使うと思う。必要であれば嘘だってつくだろう。
でも、寂しそうな顔をして平気そうに言われると私まで悲しくなる。
「…でも、やっぱりひとりはさみしいです。いえにいると、しずかでさみしいです。…おひさまがしずむまででいいです、ここにいさせてください。」
たぶん、私が初めてお狐様に言ったお願いだ。神様に願ったというよりかは、ただお狐様という人ではないものに対してお願いしたという感じだ。
「…分かった、いいだろう。帰りは送っていく。」
「ありがとう、おきつねさま。」