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異世界に降り立ってから村まで

「あ〜しんど…」

俺は口癖になってしまった言葉をボヤきながら、いつものスーパーを買い物袋片手に自宅への帰路についていた。

歳は25になったばかりで、最近伸びてきた前髪が鬱陶しく思い始めているが、これはこれでアリだと感じている。

この前髪かきあげ動作が何気に好きだ。

見た目が実年齢より若く見られがちなのもお気に入りの一つ。

中肉中背で目立った所は特に無し、社会に5年晒さられた経験から得たものは、人生に希望なんて無い。

なんて取りまとめの無い感情とこの死んだ魚の様な目。

実際に上司に言われて初めて気づいたよ。

「お前の目は死んでいる。死んだ魚の様な目だ!」

はぁ〜…何それ?俺と比べてやるな、魚が可哀想だろ。

などと、考えながら毎日をただ惰性で生きていた。

そうこうしているうちに、我が家に到着。二階建てアパートの二階の真ん中、階段から直ぐの部屋だから疲れた体にはありがたい。

角まで歩くとか…しんど。

いつもの玄関をくぐり、「ただいまーっと…まぁ、返事を返してくれる人なんて居ないんだけどな」

などと自虐的に笑みを零してしまう。」

そんな、くだらない人生を送る俺にも楽しはあった。

アニメ、マンガ、ライトノベルと…我が国が誇るサブカルチャーにその日々を癒されていた。

「あ〜、面白かったな。早く新刊でないかな、やっぱ異世界って良いよな…はぁ〜生まれて来た世界を間違ったかな…」

そんな事を言いながら布団に横になり今日の終わりを迎える…

そしていつも思う、異世界があれば…あのアニメや本の中の主人公達の様に冒険の旅に出れたらと、色んな出会いや経験ができたらと、だか実際にそんな世界も俺にとってのご都合主義が無いことなんて分かっている。でも、いつも目を閉じる時に願ってしまう…もしも次に目を開けた時そこは…と。


「(何だろう、眩しいな…もう、朝なのか…カーテン閉めてた筈なんだけどな)」

俺は寝ぼけた頭でそんな事を考えながら、夢と現実の間をさまよっていた。

しかし、普段は聞こえない鳥の鳴き声が聞こえ始めた頃から意識は覚醒へと向かって行き、目を開け携帯電話で時間を確認しようとした時に完全に目が覚めた。

それは、起きるべき時間を寝過ごしてしまい会社へと遅刻の危機にあると言うことではなく…朝、目を覚ますと隣に見知らぬ美少女がなどと言う展開でもなく…

ただ知らぬ場所、見知らない所、最後に意識を手放したであろ自室と違う場所、知らない天井に知らない部屋どころじゃなく天井も壁無い所、野外…一見して森の中と呼べる所に居たのだ。

「…はい?えっと、どう言う事ここどこ?」

どれくらいかは分からないが、頭が考える事を止めていた、それから程なくして段々と今の状況を考える事が出来る様になっていく、周りに目を向けると木と下には雑草が所々と後は剥き出しの地面、空は晴天で雲ひとつないとても綺麗な青空だった、そして、頰撫でる風の感触と草木の香りがここが現実の場所である事を知らしめていた。

「何これ、ドッキリか何か?それとも誘拐?何かしらの事件に巻き込まれてる?…訳分かんねえよ、あっ!会社…仕事どうするんだよ、うわッ携帯も何も無いし、これヤバいだろ…いや、本当どうするんだよ」

流石に今の状況に冷静な対処など出来なかった、起きてから周りを見渡すも、青々とした木々しか見えず人のいる気配など全く感じられないのだ、完全に1人取り残された状況尚且つ知らない場所、所持品と言えば上下黒のスウェットに着用中のパンツが1枚と今の状況を打破と言うには心許なさ過ぎる物だった。

数分程、考えたものの良い案など特に浮かぶ筈もなく取り敢えず歩き出した。

「どこに向かって歩けば良いんだ…このまま遭難なんて止めてくれよ」

口を開けば、弱音しか出て来ない…何とかポジティブな事を考えようとしてみると案外簡単に簡単に見つかった。

「…今日、仕事行かなくて良いんじゃ…いや、行けないじゃん!あー、困った困ったなぁ。でも、ここがどこか分かんないんじゃ仕方ないしな、連絡取ろうにも携帯も何も無いし!うん、不可抗力だな」

そこには、社会人5年目とは思えない無責任な言葉を吐きながら、社会に出て5年たっているとは思えない男の笑い声が響いていた。

「それにしても、何も無いな。森林浴には良いかも知れないけど…これだけの緑に囲まれてたのは、まだ、実家にいた時以来だな。少なくとも俺が住んでたアパートの近くには、こんな所は無かった筈だけどな…全く何がどうなっていることやら、昨晩布団に入って寝るまでの記憶はあるんだけどな…」

そんな事を言いながら、ずっと歩き続け全然当てにならない体内時計がそろそろ1時間位たったのと、体が喉の渇きを訴えて来たので休憩をとることにした。

「喉乾いた、体が水分を欲している。あぁ〜、考え無しに歩き過ぎた…高笑いしながら歩いてた数十分前の俺を殴ってあげたい」

目が覚めてから飲まず食わずで歩き続け、少なからずストレスを感じながらの移動は予想以上に体力を使ったようだった。

そんな遣る瀬無い気持ちを抱えながら、背を地面にあずけ大の字に寝転んだ。

「(風が気持ちいいな…)」

そして、そのまま目をつむっていると風によって草木が揺れる音とは別に違う音が聞こえてくる事に気が付き始めた。

「(何だろう、この音?)」

体を起こし音の元を辿りながら歩いて行くと、幅5m程の小川を見つけた。急いで近づき川の中に顔を突っ込み喉の渇きを潤した。

「くぅ〜、生き返ったぜ。こんなに水が美味しいのは初めてだ」

飲み水が確保出来た事に喜んでいると、不意に視線を感じ後ろを見ると男が1人立っていた。

今日始めて人に出会う事が出来、感動の様な物を感じながら近づき声をかけようとしたところで、その男風貌に目が行き足を止めた。

ボサボサの髪に痩せ細った頬、日本人とは違う顔の作りに瞳の色、服装も上下ぼろぼろのみすぼらしい物だった。

「(気合の入ったレイヤーさんって訳じゃ無いよね、何だろう関わっちゃいけない様な気がして来たな…)」

しかし、意を決して挨拶をしようとしたその時、男が腰辺りに手を回したと思ったらいきなりこちらに向かって来たのだ、その右手にはナイフの様な物が握ってあり、近づいてくる男との距離はもう無く右手のナイフがきらめいたのが見えた。

何とか体を横に逃がして避ける事が出来たが、地面に顔からダイブと中々に無様な姿があった。

「ちょッ!まて!タイム、タイム!ストップ、とりあえず話しを…」

「う、うるさい!黙れ、しゃ、喋るんじゃねぇ殺されてぇのか!」

そう言われ、ナイフを向けられると俺にはもう、何も出来なかった。

ただ、こんな状況下でも「あっ、この人日本語喋れるんだ」と思ってしまった俺はこの数時間で神経が太くなったなと感じたのであった…


先程の衝撃的とも言える邂逅から何度今日の不運を呪ったことか…目が覚めれば見ず知らずの場所に放り出され、着の身着のままで歩けばパンツは汗でビッショビッショ、やっと人に会えたと思ったらいきなり襲って来ると、不幸はこうも重なるもんかねぇ、などと今日の出来事を振り返っては苦言をボヤきそうになるのを我慢してた。

それと言うのも、今ここで口を開けば後ろで俺の背中にナイフを当ててる男が何をしでかすか分からないからであったからだ、あの後当たり前の様に捕まり今はどこかに向かって歩いているところだった、こちらから質問しても何も答えて貰えずそれどころか相手が興奮してしまい刃先が背中にチクチク当たるのだ、これ以上下手に刺激してしまい取り返しの付かない事になってしまっては、まさに目も当てられないと言った状況になってしまいかねない。

「本当に何がどうなってんだよ、ここは本当に俺が知ってる日本なのか?」

「お、おい!誰が喋って良いって言った、このくそガキが!黙らねえと、刺すぞ!」

「痛えって、刺すぞじゃなくてもう刺さってるから、ナイフの先が刺さってるって!」

「あぁ、悪い。本当に刺すつもりは無かったんだ」

などと言いながら、オドオドした様子でナイフを背中から外してくれたのだ、弱気な性格なのだろうと言うのはこれまでのやり取りで十分わかった事だった。

その上で色々と腑に落ち事もあったが、取り敢えず今は男に従って歩く事にした。

「もう少しでアジトに着く、それまで黙ってろ」

「(アジトねぇ〜、面倒な事にならないと良いけど…まぁ、いまの状況に陥ってる時点で無理な事か、ハァ〜)」

「お、おい!無視すんじゃねえ、聞いてんのか!」

「だから、痛えって!聞いてるよ、聞いてるから!ったく黙れって言ったのは…あ〜、はい、はい、すみませんでした、黙ってます。はい、お口チャックです」

そんなやり取りをしてると、目の前に木造の小屋が見えて来た、外木は黒く霞んでおり窓はヒビ割れて見るからにボロ小屋だった。

男は、ドアに近づくと周りをキョロキョロと見回した後、数回ノックしてから「ヨーギだ、開けてくれ」と言った。

「(この人、ヨーギって名前なのか…)」

などと考えていると、扉が開き中から男が1人出て来た

「随分、長ぇ〜しょんべんだったな…遅かったじゃねぇか…俺は、てっきり逃げたと思ってたがな。あと少し遅かったら俺が探しに行く所だったぜ、まぁ俺に見つかった時のお前の身の安全は保証しなかったかも知らんがな」

そう言いながら出て来た男は、身長や服装と言ったものはヨーギと変わらないが、筋肉質な体付きにスキンヘッド、何より左目の高さ辺りから頬を通り顎下まで伸びている傷痕が男から威圧感を滲み出していた。

「お、おい、変な事言うなよ、グスタ。俺が裏切る訳無いだろ」

そう言いながら愛想笑いを浮かべているヨーギを尻目にグスタとか言う奴は俺に目を向けて来た。

そのまま上から下まで目線を這わすと、俺に目を向けたまま話し始めた。

「何だ、このガキは?」

ヨーギは焦った様子で間髪いれず答えた。

「あぁ、このガキだコイツのせいで遅れちまったんだよ。コイツとはすぐそこの川で会ったんだが、1人だったし若ぇガキだ、だからここまで連れて来たんだ」

そう言いながら最後の方は、少し得意げになって話していた。

「ほぉ、お前にしちゃあ良くやったな。まぁ、中入れや、いつまでも外で喋ってる訳にも行かねぇ」

そう言うと、ヨーギが先に入り俺は2人に挟まれる形で扉をくぐった。

最後にグスタが周りを見渡して、誰も見聞きしていない事を確認するとドアを静かに閉めたのだった…


外観から察せれる程度の広さの部屋に入りまず目に入って来たのは、仲間と思われる人物だった。

「(2人じゃ無くて、全員で3人だったのか。)」

3人目については、身長が他の2人に比べると低いそれ位しか分からなかった。と言うのもそいつは室内にも関わらず、フード付きの外套を着込んでいたのだ。

「(ご丁寧にフードまで被っているなんて、重度の厨二患者じゃあるまいし)」

などと冗談を言っているのも此処までだった、壁に背を預けて立っているフード野郎の後ろ、部屋の隅辺りに10才位であろう子供が3人いたのだ。その上、望んでこの場所にいるという事では無いことは子供達の怯えきっている目を見てしまえば一目瞭然であった。

「(まぁ、背中にナイフ突き付けられながらって時点でろくな事では無い事は分かっていたが、今の日本社会でこんな拉致監禁が行われているとは、おまけに2人はあたかも盗賊、野党ですよと言わんばかりの格好だし、ここ本当に日本か?異世界物のテンプレ展開にしか見えないんだけど…)」

そんな事を考えていると、不意に背後のグスタから声を掛けられた。

「おい、ガキさっきから何も喋んないが、ビビってんのか…あぁ?…お前ら4人を引き渡すまで暇なんだ、おしゃべりの相手位してくれよ?」

などと言ってバカにした様な笑みを浮かべていた、実際バカにしているのだろう、「ヨーギよりビビリだ」何て言ってるのも聞こえたしな、だとしたらおしゃべりのお相手位勤めましょうか、聞きたいこともあるしな、ここはコミュニケーションを取っておいても間違いでは無い筈だ。

「おい、さっきからガキガキうるせぇ。俺は童顔だと言われているが成人年齢は超えている。それに、喋るなと言ったと思ったら次は何か喋ろか?まったく…

なんちゃって盗賊は、まともな会話も出来ないのか」

俺からの返答を受けてグスタの目が大きく見開いたのは、中々滑稽であった。

しかし、何だろう…コミュニケーションの取り方を間違っている気がしない事もないが…まぁ良い、取り敢えずおしゃべりのお相手しますよと言うこちらの意志は伝えた、後は何と返してくれるか、そこから話しを広げて今の状況の理解に努めよう。

などと、考えをまとめていると衝撃的とも言える返答をノーガードの上からもろに食らったグスタが硬直を解いて言葉を交わしてきた。

「なんだ、やけに威勢のいいガキじゃないか…確かに俺たちは盗賊だ。と言うことはだ、そこにいるガキ共と今、舐めた口吐いてくれた目の前のクソガキの身の安全は俺たちの気分次第って事だ、あんまり調子に乗っていると痛い目見るぞ」

そんな事を言いながら俺の目の前でナイフをチラつかせた。

「それにしても、変な…いや、珍しいガキだな。黒い瞳に黒色の髪、見たことの無い服。この辺りじゃ見かけない奴だな…おい、仲介人さんよ。この辺りじゃ見かけねえ様なガキだ、奴隷商の旦那に高く買い取って貰える様口添え頼むぜ」

ゲスな笑みを浮かべながらフードの人物に目線を向けた、フードは組んでた左手を少し上げてその意志に答えたようだった。

そして、そのまま話は終わりを迎えると誰もが思っていたが、そうはならなかった。

俺は、またもやガキと呼ばれたことに納得のいかない物があったが。まぁ、気にしない様にして言わせておけば良いかと割り切ったのだか、ふと視線を横に向けた時に奇妙な事が目に入ったのだ、俺の視線の先には1枚のガラス窓、ヒビ割れてはいるが窓本来の役目はまだ果たしていた、そのヒビ割れた窓には、2人の男が反射して写っていた。

1人は、スキンヘッド。まぁ、俺の目の前にいるグスタって奴だって事は直ぐにわかった。

こんな特徴的な頭は、今現在この部屋の中には1人しかいないからな。問題はソイツの向かい側にいる奴だった、そいつはどうやら俺と同じ上下黒のスウェットを着ている。そいつの顔の作りは、童顔などでは無く子供のそれだった。

年齢で14〜16歳位だろうか、ちょうどその歳の頃の俺にそっくりな顔立ちをしていた…と言うか、俺自身だった。

「な、なぁにぃぃぃぃい!」

俺は叫びながら窓へと向かった、横目で俺の叫び声によってビビってたグスタの顔が見えたが今はそんな事どうでも良い、問題は目の前の現実。俺の目の前のガラス窓に反射して写っている現実についてだった。

「ガキがいる。いやいや、子供の頃の俺がいる。いやいや、まてまて、どう言う事!」

今日だけでも何回目とも分からないリアクションを取っていた。普段そんなにオーバーリアクションや感情の起伏が少ない俺にとっては今日と言う日は、最早、過負荷運転気味である。

そんなことを考えつつガラスの向こう側にいる自分と睨めっこをしながら今朝からの出来事を頭の中で整理した。

目が覚めたら森の中から始まり、プチ遭難、流暢な日本語を喋る外国人盗賊、奴隷と言うキーワードが出て来て今捕まっている俺、何より外見が幼くなってしまっていると言う非科学的事実。

俺は、頭の中に浮かんで来た一つの仮説を確かめる為に簡単な質問をした。

「なぁ、ここの国の名前は日本って言う名前か?」

「ニホン?ニホンってなんだよ?…もしかして、お前は今自分がいる国の名前を知らないのか?そこに居るガキ共でも知っている事だぞ?」

やれやれ、といったジェスチャーをしながら嘲笑を浮かべていたが、次には俺の欲しかった質問の答えを出してくれた。

「いいか、よく聞いてろよ。ここは、マクティス。マクティス王国だ。まったく、変なガキを拾っちまったぜ。」

何やら、小言を言われている様だがそんな事はもう、耳には入って来なかった。マクティス王国と口の中で繰り返しながら、自分の心臓の鼓動が早くなっているのが分かる。そう…興奮が抑え切れない状態なのだ。やっと自分の置かれている立場に気づき、それが、叶うはずもない、空想のお話の中の出来事でしかないと、ずっとそう思い、想っていた異世界へとこんなにも何の脈絡も無く自分が立って居たのだから。

「ようやく、俺の人生が…いや、ようやく俺のターンが始まるぜッ」

俺はこの時、この世界で高らかに産声を上げた。


「いやー、すっげぇ、スゴイよ。こんな奇跡体験が出来るなんて。俺も、やっとここまで来たか。あ〜、今思えばおかしな事だらけだったもんな。くっそ…初の異世界入りはもっとカッコよく決めたかったが、まぁ、仕方ない過ぎてしまった事だ。それよりも…フッフフ、クククッ…ダメだ笑いが止まりません。」

俺はテンションがうなぎ登りのフルMaxだった。完全に周りを置いてきぼりの暴走運転状態。

盗賊の2人も俺の暴走状態を見て先程からドン引きフルMaxだった。

一頻り笑い終えると今の状況もあるので大分落ち着いて来た。

改めて、周りを見ると俺からやや距離を取り始めている盗賊の2人に変わらず壁に背を預けてる格好をとるフード野郎、そして最初に見た時より何故か顔が恐怖の色に染まっている3人の子供。

「(さて、先ずはこの状況をどうにかしないとな。異世界での新生活が奴隷スタートっていうのは避けたいよな。何より、柄でもないかも知れないが目の前で怯えている子供も放って置くのも嫌だしな…新しい人生なんだ、自分に正直に生きてみるのも悪くないかもな。)」

こんなボロ小屋の中で、新たな人生への生き方を決意した所で、早速行動に移す事にした。

とは言え、実際に出来ることなんて限られているのが現実。

肉体的に若返っている事を除けば、スペシャルスペックな運動性能の体を手に入れたわけでは無いし、伝説の武具を持っているわけでも無い。

凄い異能や魔力がある訳でも無い筈………多分。

異能や魔力については確かめようが無い。そもそも、この世界に魔法があるかどうかも分からない。

「くっそ〜、異世界に来る際に神様や 女神様的な人に会ってないだけど、何かしらの手続きミスとかじゃないよな…」

「おいッ、何をブツブツ言ってんだ!」

「(ぐはぁッ!心の声が…えぇい、取り敢えず今の空気をどうにかする為にも少しでも会話してコミュニケーションを取っておくか)」

「なぁ…こんな小さな子供を捕まえて、売るなんて事やめてさ真っ当に生きようよ。こんな事しても誰も幸せになれないぜ?」

こんな安っぽい言葉しか出ないなんてと自分の語彙力の無さに絶望した瞬間だった。

現に、盗賊共はバカにした様な顔でこっちを見ていた。

「ははッ!幸せにはなれるぜ。お前らを売って俺に金が入る。ほら、俺は幸せだ」

ケタケタと耳障りな笑い声が聞こえる。

良心の無い奴の良心に訴えた所で…

アイツの股間を蹴り上げる事が出来たら…

などと、短絡的な考えに陥りそうになったが何とか踏み止まる。

ここは、根気よく交渉を続けて隙を見つけ出すしか無いと自分に言い聞かせて会話を続けた。

「お互いにとって、建設的な話をしようじゃないか。えーと、あれだ!WIN-WINって言うお互いが幸せになれる…魔法の…えっ?」

ドタバタゴンッと何やら騒がし音がしたと思ったら、盗賊の2人が壁に背を付けなが怯えた表情をして俺にナイフを向けていたのだ。

ヨーギの方なんて膝が凄い勢いで震えていた。

「お、お前!さっき魔法って言ったか!お前は魔法使いなのか!」

正に血相を変えてと言う言葉がここまでと言う程、慌てふためく2人が居た。

「(…ふーん、なる程。どうやらこの世界には魔法があるらしいな。ヤバい!あまりの嬉しさににやけてしまいそうだが、今は我慢だ!この2人の反応を見るからに魔法使いはヤバい奴と言う事なんだろうな。なら、今はこの状況に乗っかるしかない!)」

俺は頭の中で状況の整理をし、すぐさま行動に移す。

とは言ってもやる事は簡単だ。俺は、両手をズボンのポケットに入れ背筋を伸ばしながら、何も恐ろしい物など無いとでもいった様な自信満々な顔を作り言ってやった。

「ふッ、だとしたら…」っと。

「ッ!クソっ!あぁ、なんて事だよ。ヨーギてめぇ何て物連れて来やがるんだよ!」

「す、すまねぇ、だが俺も知らなかったんだ奴が魔法使いだっただなんて、本当にすまねぇ」

2人の慌て様は、凄い物だった。もう、効果が出過ぎて笑いを堪えるのに大変だった。

ここは、もう一押ししたら完全に落とせると踏んだ俺は言葉を続けた。

「そこのヨーギって奴を責めるんならお門違いってやつだよ。俺は、小川で出会った瞬間に気付いたのさ。コイツは今、巷を騒がしている人攫いに違いないとね。だから、俺は魔法使いとバレない様にしてここまでわざと連れてこらされたって訳だよ。そいつが俺の正体に気付かなくても何らおかしな事は無いさ。それ位の事をしてのける俺が……フッ、まぁそう言う事だ」

2人の喉から唾を飲み込む音が聞こえた気がした。

だが、まだ懸念も残っていた。盗賊の2人はここまで脅していたら大丈夫だろう。問題はフードの野郎だ俺の魔法使い宣言にも何ら反応を示さないのだ、動きがあったとすれば今は、壁に背を預けておらず子供達の前に陣取っているといった感じになっている。

「(ここは、もう少しハッタリを効かしておくか)」

「お前は、俺の黒目黒髪が珍しいと言っていたな。これはな、俺の中にある巨大な魔力が抑えきれずに溢れ出ている結果なんだよ。巨大な魔力が俺の外見にまで影響を出してるんだよ。そう!巨大な魔力がな!」

俺は、そう言うと右手で顔を包み上を向く様なポーズを取った。

フードの方は、相変わらずだったが盗賊2人にはこれ以上ないと言っていい程の結果が出ていた。

しかし、行き過ぎたハッタリは良い結果だけでは無く余計な結果も引き連れてきた。

フードの方に意識を向けていた俺は、グスタの言葉に正に虚を突かれた。

「こうなったら、終わりだ。どうせ死ぬんなら!」

気付いたら、血走った目をしながらこちらにナイフを向けていた。

「(あれ?あれれ?おい待て待て、何を立ちはだかる敵に一矢報いるみたいな熱い展開の漢を出してるんだよ!)」

「おい!落ち着け!俺を刺したらヤベぇぞ!巨大な魔力がヤバい感じになるんだぞ!お前…とにかくヤバいからナイフは仕舞え!」

バカ2人が騒いでいるだけなのだか、状況は一触即発だった。

もう、いつこちらに向かってくるか分からない。荒い鼻息がこちらまで聞こえてくる。調子に乗り過ぎたと反省は今したが何も解決しないし、完全に後の祭り状態。

グスタが腰だめに力を込めて姿勢を低くした姿が分かった。

あぁ、これはもう、ヤバいやつだと頭の中で叫ぶも何も変わらず、ただ周りがスローモーションになった。

グスタはこっちに向かって走って来る。

頭の中では、今日の出来事を走馬灯の様に振り返っていた。

「(あぁ、やっと異世界に来れたと思ったのにこんなにもあっさりと終わっちゃうのかよ)」

もう、どうしようも無いのかと諦めてしまいそうだったが、現実はまだ物語を終わらせてはくれない様だった。

小屋の扉が勢い良く飛んで来たと思ったら外から、純白の鎧を着込んだ女性が紅く輝く炎髪を激しくなびかせながら室内へと入って来た。

そこからは、一瞬の出来事だった。

急の事で立ち止まったグスタに近づき、右手に持っていた剣の腹で壁まで殴り飛ばすと、放心状態のヨーギの鳩尾辺りに、蹴りを1発。白目を剥いたのがここからでも分かった。

そして、こちらに接近。

フード野郎の対応に行くと思われたのだが何やらおかしい。俺から目を外さないなと思ったら、そのまま近づいて来て剣を横に一閃。

「うわぁぁぁぁ!」

後ろに体重が向いてた事で尻餅をつく形で何とか避けれたが、目の前を剣が通り過ぎたのを見て青ざめる。

尻餅をついたまま壁まで高速で後退すると俺は必死で声を上げた。

「待って、俺じゃない!敵はそこのフード被ってる奴だから!」

俺はそう言いながら指をさしてそちら側を見ると、驚いた事にそこには泣いている子供達を宥めているフード野郎の姿があった。

「…何なんですかそれ?そんな事が出来るんですか?」

またもや、心の声が漏れた瞬間だった。

そして、騎士の様な姿をした女性から不敵な笑みと共に言葉を投げられた。

「アイツがお前にとっての敵なら、私にとっての敵はお前だな」

俺は吐息を1つ吐く、他を圧倒するかの様な目をしていながら、その整った顔立ちから発せられた声は凛としていて冷たくも綺麗な声だった。

そんな事をこんな時に思ってしまう俺はダメな人間なんだろうと自重気味に笑みをこぼした。

双方が何か勘違いをしている様な気はするが下手に場を掻き乱すより此処は大人しくしておく事に決めた。

先程の失敗が早速も生きた所だった。盗賊2人を横目で見ると気絶しているだけで命までは取られてない、ならばと敵意のない事を示す為に両手を挙げて武器を持っていない事を示した。

途中で、この格好の意図がこの世界でも通用するのか不安になったが意味を汲んでくれたらしく右手に持っていた剣を背中の鞘に戻してくれた。

溜め息を1つ吐き緊張の糸が少し緩みそうになったがまだ、問題は解決してないと自分に言い聞かせ糸を締め直した。

「(さて、どうしたらいいか…)」

何と説明すれば…と考えあぐねていると助けは意外な所からやって来た。

「エルザ、待って。ソイツはそこに転がってる盗賊の仲間ではないわ」

いきなりかけられた声に驚き、声の主の方に目を向けるとそこには目深く被っていたフードがめくられており中からは、銀髪の女の子の顔があった。

歳は見た感じ今の俺と同じ位であろうが、ずっと男だと勘違いしていたこちらからすると少し衝撃的でもあった。が、今はその驚きを飲み込み話しの流れに耳を向ける。

「ソーニャ、村長の話しだと攫われた子供は全員で3人だろ?」

訝しげに視線を俺と女の子の間を彷徨わせる。

「えぇ、その筈だったんだけど貴女が突撃してくる少し前にそこの盗賊に連れられて来たわ。彼も被害者よ。まぁ、貴女が来なくてもそちらの彼が1人でもどうにか出来るらしかったけどね…本当か嘘かは知らないけど」

そんな事を言いながら何とも言えない笑みをこちらに向けて来た。

俺は乾いた笑い声しか出せなかった。

「はぁ〜」

エルザと呼ばれた女性が大きなため息を吐くと、まだ尻餅をついたままの俺に「先程はすまなかった」と言って手を差し伸べてくれた俺はその手を借りようと手を伸ばしたら、相手の手が俺の手をすり抜けて来て丁度、顔の前で止まったかと思ったら。

「あやしい人について行っては駄目だなんて子供でも分かっている事だぞ」

と言って額を指で弾かれた。

呆然としていた俺の腕を掴み勢いよく立ち上がらせると、盗賊2人の捕縛に取り掛かっていた。

捕縛を手早く済ますと、6人と盗賊2人は小屋を後にした。

今は、森の中を村に向かって皆と歩いている俺は右手に新装備を手にしていた。

それは、ヨーギの手首を固く捕縛しているロープの橋だった。

森の中を歩く際にグスタには、エルザさんが子供達には、銀髪の娘ソーニャ…さんが付くことになったので必然的に俺のパートナーはコイツになった。

別に何ら意見も文句も無い。形はどうあれ助けて貰った身ですから手伝える事があるのなら手伝いますよ。

ただ、この新装備が小屋を出てから泣きっぱなしで、何歩か歩けば嗚咽を吐きながら立ち止まるのだ、近くで見てる俺からしたら心が痛むのだが、立ち止まる度に前方を歩いているエルザさんから強烈な睨みを頂くのだ、それを見てビクつくヨーギと位置関係的にも被害を被りビビる俺。

本当にもう、誰か助けて下さい。


そんなこんなで、精神的にもダメージを負いながらも村に向けて順調に歩いている。

俺は、助けて貰ったお礼を言ってなかったことに遅まきながらも気付きお礼も兼ねて軽くでも挨拶をする事にした。

エルザさんの隣まで行こうとするが、何故かヨーギが拒否反応を示す。

理由は分かるが今は無視だ。

俺は、並んで歩くと会釈をして声を掛けた。

「あのぅ、先程は助けてくれてありがとうございました。エルザさんとお呼びすれば良いですか?」

すると、俺の声に反応した彼女は先程の視線とは打って変わって柔らかな笑みを浮かべながら返事をしてくれた。

「いやいや、礼を言われる事の程でもないよ。むしろ、あと少しで被害者だった君に危害を加える所だったよ、すまなかったな。それと私の事はエルザで良いよ」

そう言うと、律儀にも頭まで下げてくれた。

顔を上げるとそれから暫く俺の頭から足まで何往復か目を向けると今度はエルザの方から口を開いた。

「あまり見かけない姿格好だがこの近くの者なのか?えーと…そう言えば名前も聞いてなかったな」

そう問われて、俺は少し考える。

出身地は何と答えれば良いのだろうと、こことは違う世界から来ました何て言って大丈夫だろうか?

少なくとも俺がいた世界で、俺異世界から来たんだ。よろしくな!って言われても曖昧な反応と距離を置く事しか出来ないな。

出来る事ならこの世界で初めてまともにコミュニケーションが取れた相手なので悪いイメージは持って欲しくない。この後も会話を続けて情報を少しでも得たいからな、ここは別の世界云々は抜きにして出身地はぼかす感じにした方が良いだろうな。

「あ〜、俺の名前はカズトって言うんだ。

生まれは此処よりずっと東の方かな…」

何とも曖昧な答えだろうか、言った後に直ぐにやり直したかったが口から出してしまった以上通すしかない。

まぁ、言い訳をさして貰えるなら、あまり長い間考えるのも怪しいと思い名前はそのままで出身地など特に考えずに言ってしまったが、ぼかし過ぎて逆に怪しい感じになってしまった。

現にエルザなど先程から、「東か、東の方か…」などと口の中で呟いている始末だ。

ここで黙ってしまったら、立場が危うくなると感じ取った俺は兎に角会話を続けようと声を掛けようとしたら、後ろから声を掛けられた。

「へー、カズトって名前なんだ。私は、ソーニャ!気軽にソーニャって呼んでね」

正に助けに船だった、ソーニャからの挨拶と軽い自己紹介で何とかこの場での沈黙と言う重たい空気の滞在という状況は間逃れたが、全てがいい状況へと向かってはくれなかった。

「ねぇ、カズトは東の方からあんな森の中に何しに来てたの?旅の途中とかだった?」

ソーニャがキョトンとした様な顔をしながら聞いてきた。

何だろ、この小動物みたいな感じ保護欲を唆られるな。

などと、考えながら質問に笑顔になりながら答えていた。

「うん。そうだよ旅の最中だったんだけどね森の中で丁度そこの盗賊に出くわして…まぁ、後は小屋の中で話した通りだよ」

ふーん、と言いながら何か考える素ぶりをするとまた、質問を投げかけてきた。

「荷物も何も持たずにあんな森の中に?」

顔に笑顔を貼り付けながら聞いてきた、俺は口の中で小さく呻きながらも何とか答える。

「あぁ〜荷物な…荷物は朝起きたら無くなってたんだよ。本当に運がないよ。どこか別の盗賊にでも盗まれたちゃったのかな?」

俺はそう答えながら恐る恐るといった感じで反応を待つ。

「それは大変だったね」と返事をくれる。

そして、一息つくのもつかの間「ちょっと、手を見せてくれないかな?」とせがんできた。

断る理由も無いので、左手を見せて上げる。そして、左手の平をプニプニと揉みながら、ふーむ…と唸っている。

俺は、手の平フェチの方かなと呑気な事を考えていた。

そして、ありがとうと礼を言うと左手を解放してくれ……なかった。

左手首を掴むと笑顔のまま聞いてきた。

「旅をしてるって言うのも嘘だよね?」

俺は初めて女の子の笑顔が怖いと思いました。

「(ヤバい。この子にはバレてる。まぁ、小屋での魔法使いハッタリの件から反応がおかしかったから一応、意識は向けていたつもりだったが…このタイミングでブッ込んできたか)」

背中を冷や汗がつたう。

このままだと、嘘つきの怪しい奴といったレッテルを貼られて下手したら、そこにお縄になっている2人と同じ末路を辿る可能性も…と嫌な考えが頭をよぎる。

考えろ!と頭を捻ろうとするもソーニャのターンはまだ、終わっていなかった。

「旅人って言うのはね、最低限の自己防衛の術を持っている物なんだよ?ナイフでも何でも良い。ある程度の武器を使う術をね。じゃないと今回みたいに簡単に襲われちゃうから。でも、カズトの手を見ると何かしらの武器を使っている感じも武術を使う感じもない。それどころか、農民の様に農具を使っていた跡も無い。簡単に言うと手が凄く綺麗なんだよね。それに、着ている服に関してだけど、見たことの無い生地の上に凄く丁寧に作ってあるよね。少なくとも只の村人では説明が付かないよね。後、言葉使いも丁寧な言葉を淀み無く使い発音が出来る、其れなりの教養がある証拠。何よりもね、そこの縛られている2人も言っていた事なんだけど、本当に見たこと無いんだよね…黒髪に黒い瞳って」

オーバーキルだよ。最初にでた言葉は何故かコレだった。

しかし、ふざけてはいないが、ふざけている場合では無いと自分に叱咤する。

今の状況はそれ程にまで切迫詰まっている状況なのだ。

皆の足は自然と止まっておりエルザもこちらの話を伺う様に聞いている。ソーニャの顔には笑顔など無く只、こちらの出方を伺っている。子供達は、年長者の背中に2人が隠れる形だ。

何か、心が痛いです。

盗賊2人に関しては、捕まっている身にも関わらず喉をゴクリと鳴らしながらこちらの話を聞き入っている始末だ。

お前ら本当に何なんだよ!

心の中で泣きながら2人にツッコミを入れて、少し落ち着き深呼吸をした後に何とか誤魔化そうと慎重に口を開こうとしたが、ソーニャの左手が一瞬閃いたのが見えると喉にチクリと…ナイフが当てられてた。

「まだ、変な嘘を吐こうなんて考えたらダメだよ」

彼女が素晴らしい笑顔を向けてくれました。

そして、俺は心の中で「俺詰んだ」と呟いたのだった…


現状…俺の両手はロープでキツく縛られており、エルザに引かれながら盗賊と並んで歩いていた。

盗賊の2人は何が面白いのだろうか、ニタニタと笑いながらこちらを見ていた。

俺は溜め息を1つ吐いて、これからどうなるのだろうかと暗い未来を想像していたのであった。………などと言う結末には実際ならなかった。

俺の両手は変わらず自由で右手にヨーギの縄を装備している状態だ。

あの時、ソーニャに追い詰められた時はもうダメだと覚悟も決めていた。それこそ先程の想像の様に両手にお縄で盗賊と並んで仲良くお散歩みたいな未来も容易に想像出来た。

だからこそ、吹っ切れてしまった俺は変に誤魔化すことをせずにまず、嘘を付いていた事を謝った。

そして、俺の身のことについてだが、これも実際この異世界に来てしまったと言う考えが頭の中で全然整理出来ていない状態なので「俺の現状がしっかりと口で説明出来る位に把握して整理出来たら説明する。だから、少し待ってくれないか?」とダメ元で聞いてみた。

エルザとソーニャは顔を合わせて小さく笑みをこぼすと口を開く。

「ソーニャ、もういいか?気は済んだか?」

「そうね。嘘を付いた事を謝ってはくれたし取り敢えずは良いかな。また、嘘をつく様ならビンタ1発位入れてあげようと思ってたんだけどね」

そんな事を言いながら2人は笑い掛けてくれたのだった。

俺は、一瞬混乱するも何とか言葉を繋ぐ。

「いや、でも俺自身の事は結局何も…」

「別に、カズトが悪い奴ではないことくらい私もソーニャも分かっている事だ、でなければソーニャも小屋で私のことを止めはしなかったさ。そうだろ?」

そう言いながら、ソーニャへと視線を送る。

ソーニャも視線を受け取るとエルザに続いて喋り出した。

「うん、カズトが小屋の中で俺は魔法使いだ!って嘘を付いてる時も、その嘘の言葉の中には必死で子供達を助けようって気持ちがあった事に気付いていたからね。でも、私達もカズトの事については知っておかないといけなかったからね。だから、嘘をちゃんと謝った事に免じてもう少しだけ待って上げる」

そう言うと無邪気な笑顔を向けてくれた。

途中で、「魔法使いって嘘だったのかよ」と聞こえた後、エルザに縄を引っ張られたのであろう、ギャフっと短い悲鳴が聞こえたが今は無視しよう。

すると、ソーニャが子供達にあのお兄さんも君達のことを助けてくれたんだよ。ちゃんとお礼を言おうねと言っているのが耳に入った。

子供達は、トテトテと俺の前まで来ると

「お兄さん、助けてくれてありがとう。」と声を合わせてお礼を言ってくれた。

俺は、膝を折って子供達と同じ目線になると

「うん、良かった。本当に良かった。無事で良かった」と何故か込み上げて来る涙を抑える事が出来ずに繰り返し良かったと言っていたのだった…。

目の端で何故かヨーギが泣いているのが見えたが、この時ばかりはツッコミを入れないであげた。

と、コレがつい先程までの現状に至るまでの経緯である。

不意にもこの歳で人前で涙を見せてしまったが、あの後から子供達との距離がグッと近づいたからまぁ、良しとしよう。

右手の装備品に関してはあの後、「兄ちゃん、女には気をつけなよ」などと言っていたがそれを聞いていたソーニャに尻を蹴られていた。

うん、気をつけるのはお前の方だったな。

などとしているうちにようやく村が見えて来たのであった。



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