表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の上の悪魔  作者: 酢兎
3/3

第二章 彼の日常②

卑しいことに賞をやってると聞いて投稿 最近文字に悩んでいるのでアドバイス貰えたらなぁ・・・

抽選で1000程度・・・あっ無理だわ

「あいつとの会話は楽しかったが、それはそれとして寒い。さっさと帰るか」

 やつが入っていくのを確認した後に自転車に跨がり帰路へつく。行きはよいよい帰りは怖いとはよく言ったもので、我ながらここの立地は恨みが尽きない。

 遠くからこの街を観察したらいくつかの高層ビルの合間から小高い丘が見えるだろう。丘、というよりは山だろうと思うのだが住人が丘というのだから、そこは丘なのだろう。いや俺は納得してないけど。学校から少しすれば緩やかな坂が始まり、そこから館付近つまりは頂上までは緩急はあるがずっと坂だ。大体歩いて10分ほどの道のりに自転車という重しがのしかかり更に辛い。

 ちなみに奏は自転車に乗りながら坂を颯爽と登っていく。あの細い体のどこにそんな力があるのやら。…俺?バイクという文明の利器に頼りきってるヤツに聞いちゃう?



 俺がヒイコラヒイコラと疲れながら館に戻ってくると珍しいことに伊吹が外に居た。あいつを外で見たのはいつぶりだ?覚えてないがここ数ヶ月は見ていない気がする。

「やあ一。気分はどうだい?」

「はっ、すこぶる最悪だったが珍しい現象を目の当たりにして少し良くなったぜ」

 そいつは良かったと懐からタバコ取り出し咥える伊吹。火をつけずにさも吸っているかのように振る舞っているおかしな光景が見えるが、それが伊吹なりのタバコの使用方法だ。ヤツいわく『火事になったら困るから』と本気か冗談か分からないのがタチが悪い。というかそれはタバコである意味があるのか。しかし加えたタバコと風になびく金髪の髪と遠い場所を見ている憂いを帯びた目は、アニメとかで出てきそうだと感じるぐらいには様になっていた。

 とある事件の直後、被害者として確保されていた俺と奏を里親として引き取った伊吹。既に長い付き合いと呼べるほどだが、未だにこいつについて知っていることは少ない。ただ、元々は超常憑依そのものだったという事と超常憑依について調べている事ぐらいだ。霊宮(内閣特務機関霊宮の略称な!)に所属はしていないが協力はしているようで、偶に霊宮関係者が館に尋ねてくるのを見る。変な関係だ。あぁでも流石に性格とかは付き合い故に分かる部分もある。人の不幸が大好きでいつも笑顔な不気味で悪魔みたいな奴。

「それで、珍しく外に居るのはどういった理由?」

 自転車を館の裏手に置いてくると伊吹に話しかけた。登山とも言える行動のおかげで暖まったから少し冷ましたいという理由で。

「ソレに関しては君も大差ないと思うがね。ああそういえば彼、永山悠君が君に会いに来たよ。珍しく出かけた事と学校にいる事を伝えたら驚いていたよ」

「ふーん。先にこっちに来てたのか。あと珍しくって言うな」

「連絡先ぐらい教えてあげればいいだろうに。今時連絡が取れないのは不便でしかないよ?」

「これ見よがしに携帯をぶら下げるな!俺だって持ってるわ!」

 眼の前で携帯を見せつけてくる伊吹に俺はポケットから携帯を取り出してやった。

 別に連絡先を、携帯を持ってないわけじゃない。というか携帯でゲームやってるんだから持ってないわけがない。ただ俺の携帯に登録されている連絡先は少なく、伊吹と奏と霊宮関係者だけだ。これもまた霊宮の指示だ、と考えている。あまり交友関係を広めない事、と具体性があるわけではないので勝手に俺が線引しているだけに過ぎないが。ただなんとなく、俺の行く末的にはそうした方が良いと思ったから。

 なんて少しカッコつけても奏にはマジでお世話になりまくってるから、あんまり締まらないなぁ…。

「…君の本当の要件は昨日の事だろ」

「おっ話が早いな。分かってるなら早く寄越せ」

 俺は携帯をしまって伊吹に対して手を差し出す。目当てのモノをヤツが出してくれるのを期待して。しかし、まぁ。案の定ヤツは素直に出すことはなかった。

「まぁ落ち着きなよ。そう急ぐことでもないし、どうせ君も暇だろ。中でゆっくり話をしてからでも構わないだろう?」

 伊吹はほぼ新品のタバコを携帯灰皿に入れると館へと入っていった。尋ねておきながら有無を言わせない行動よ。

「アニメとかゲームとかあるんですけどぉ!?暇じゃないんですけど!!」

 返事は当然ない。一人ポツンと残された俺も諦めて館に戻る事にした。


「やはり即席のものでは彼女の淹れてくれるには及ばないな。君もそう思わないか」

「庶民舌の俺じゃどっちも美味いぐらいにしか思わんね。後用意した相手の目の前でその台詞はどうかと思うぞ」

 伊吹の部屋でお互いにコーヒーを飲む。お湯を注いですぐに完成する便利さは素晴らしいといつも思う。インスタント商品は最高だぜ。

「いやなに、君が持ってくるとは思っていなかった。別にこっちで用意しても良かったのに」

「単純に俺が飲みたかったついでだ」

 それに用意してなかったら『君はそういう奴なんだね』とか嫌味を言ってくるにだろうし、この後のやり取りを考えるとそういう不都合は排除しておくに限る。

「そういう事にしておくよ。さて、早速だが話題は用意してあるんだ」

 伊吹は机の上に置かれていた書類らしきものを俺に差し出した。それを受け取ると伊吹は早く読めとばかりに目で催促してくる。

「えーなになに。『壁』についての調査書…。いや、予想はしていたが今回もか?」

 流し読みだが簡単に読むと昨日の件が書かれているようだった。壁の強度はどれぐらいだとか発生時期や環境、原因等の情報が詳細に書かれている。俺の知っている事前情報よりも多いし、解決後にまとめたものだろう。

「その通り。何度か言っている事だけど私は超常憑依を調べている、学者あるいは研究者さ。つまり報告書では省かれるであろう、どんな些事も気になるんだ。そして近くには当事者に最も近づいた人間がいる。それならば聞かない手もないだろう?」

 まぁ、正直な話。流石に10回目ともなればこの行動が定例化しているのは分かっていた。分かってはいたが、面倒なものは面倒なのだ。とはいえ、あの佐藤も分かっていてこういう報酬の渡し方をしているだろうし、俺に拒否権もない。報酬欲しいです。

「はぁ。それで?今回も似たような質問なんだろ。なんなら質問の前から全部答えていこうか?」

「君から乗り気になってくれるとはいい傾向だ。しかし今回は追加で質問をしたい」

 そこで伊吹は一旦区切り、コーヒーを飲み干した。俺は猫舌だからちびちび飲んでいるが奴はそうではなく、いつも先に飲み干している。

「これまで君が関わってきた事件の憑依者は他人だった。だけど昨日の彼女はそうじゃない。それは言わなくても分かるだろう」

「知り合いの妹だったってことか?それがどうしたんだよ」

 と言っても俺も行きしなに車の中で聞いたから知ったのは当日だけど。

「単純にどうだったかなってね。心境とかその辺りを聞こうと思って」

「心境ねぇ。別にいつもと心構えとかは一緒だったと思うが。憑依者に相対してる時にソレ以外の事を考える余裕なんて俺にはない。あぁでも強いて言うなら美少女の妹とか羨ましいなぁぐらい」

 いやほんと。…少し、いやかなり情緒不安定だったけど。

「そうかい。君はああいった娘が好みなのか?奏にあまりそっけないのは好みではないからなのかな」

 思わず飲もうと思っていたコーヒーのカップを落としそうになる。なんだいきなり?

「なんだよその感想は。好みとかそういうんじゃねーよ。単純に褒め言葉だろうが。つうか奏も十二分に美少女だと認識してるっつーの!」

「そうなのかい?まぁそれはさておき、悪印象は残ってないみたいだね?怪我を負わされたっていうのに」

 伊吹は右手をひらひらとさせながら言った。昨日、コンパスで刺された右手の事を指しているのだろう。

「そりゃあの時点じゃ思う所はあったが、どうせすぐに治るものについて考えてもしょうがないだろ。そんな事を考えるぐらいなら俺はアニメの視聴順を考えていたいね」

 いや本当は朝の時点ではまだ気にしてドアが怖かったけどね?そこんところは見栄を張りたいのですよ、俺は。

「…常々感じてはいたけど君はやはり馬鹿だ。とはいえ、そこが君の良い所でもある。過ぎた事を考えてもキリがないからね」

 人をバカにしたように、いや実際している伊吹は鼻で笑った。貶しと称賛が同時に来た気分だ。割合は9対1ぐらいだが。

「褒め言葉として、受け取っておくよ」

「実際褒めているのさ」

 伊吹は空になったはずのカップを再び仰ぐ。すると机に戻された時には何故か湯気の出ているコーヒーらしきものが淹れてあった。

「では話を少し戻して、何時も通りの質問の時間だ。それが終わったらお待ちかねの報酬を出そう」

 いつもとは違う始まりだったが、その後の質問は聞き慣れたものだった為、俺は少し冷めたコーヒーを飲みながら報酬の使い方について考えながら答えることにした。


「つっても、使い道なんて考えるまでもないけどな!」

 今現在、俺は報酬を封筒で受け取った後、中身を確認してから直ぐに部屋に戻り通販サイトで片っ端から購入予定リストの物を精算しつつ、課金サイトにお金を振り込んでいる俺の姿がそこにはある。後で口座に報酬を振り込みに行くのは面倒だが、とりあえずこれでまた暫くアニメ、ゲーム三昧だ。最高だぜ!

「これでまた積みが増える。この光景はなんとも言えぬ幸福を生み出すな!」

 俺の部屋のクローゼットは所狭しと置かれているそういった数々の作品と、本来の用途なのに場違い感を醸し出している数種類の衣服で埋まっている。ちなみに使っていない部屋を倉庫代わりに使っているので、更にどん!だ。奏からは割と苦言を貰っているが気にしたことはあんまりない。

「おぉ!虹色か!」

 ネットサーフィンをしながら片手間に早速ガチャを回していたら虹色演出だ。虹色演出ってのはつまり、最高レアが確定ってことで。どう考えても期待せざるを得ない。まぁダブリが辛いが、それはそれで良い素材になるから良しだ。10連を回して最後尾に虹色が出ているのを確認した後、適当に画面を連打して演出を飛ばす。残念ながら今の俺には虹色しか見えていないのだ。

「うーんダブリか。まぁ今回のガチャの新キャラはそこまで欲しくないし無理に回す必要はないか」

 負け惜しみっぽく聞こえる?実際そうだよっ!!こんちくしょう。こんな事言いながら俺はずっとガチャボタンを押してるよ!物欲センサーをあわよくば回避出来ないかなってな!皆もやるだろ!?

 その後、無事に新キャラをゲットした俺は金額には目を向けず、アニメを見ながらゲームをいじる至福の時間を過ごした。


「ごちそうさまでした。今日も美味かった」

「お粗末さまでした。それじゃあよろしくね」

 時刻は夜八時過ぎ。奏の用意した晩御飯を完食した後、俺は食器を洗いに、そして奏は洗濯物を干しに行く。いつもの光景だ。流石に何でも世話になりっぱなしは情けなさすぎるし、と夜の食器洗いは俺の当番になっている。

 それでも結局大半の家事は奏がやっているので、やっぱり奏様様だ。正直俺なら…。えー、早起きして朝食作って弁当作って学校行って何か色々して帰ってきて、洗濯物を回して晩飯作って洗濯物干して取り込んで……いや無理だろこれ。俺が目撃してるだけでも多いしこれに掃除とか勉強とかも追加だぞ?ありえない。

 まぁ俺に出来ないことは奏がやってくれるので良し!そういう事だ。適材適所だようん。…たまには労ったほうが良いのか?

「奏、いつもありがとな」

「えっ、何よ急に。気持ち悪い」

 タイミングよくリビングに戻ってきたので言ってみた結果が、気味悪がっている奏での顔だ。うんそうなるよね。

「いや、いつも世話になってるなぁって。家事とかその他諸々」

「今更?別に良いけどね。私も好きでやってるだけだから気にしないで」

 ほらぁ出来た娘だわ本当。

「そういえば永山君には会えたみたいね。学校で会った時は本当に感謝しているみたいだったわよ。何をしたかは知らないけど、やるじゃない」

「あぁ。…あいつ重役出勤みたいに二限からの登校だったけどよ、あんなので本当に良いのかあの学校」

 ちなみに奏は霊宮の詳しいことは知らせていない。昨日の件は永山家の事件を解決したとしか言ってない。詳しくは聞いてこないのが、やっぱり出来る娘って感じ。変な奴に引っかからなきゃ良いけど。

「一応成績は上位十位以内だから学校側もあまり言えないのかもね。家の事もあるし」

 なんだよあいつ馬鹿じゃないのか。あの見た目で?…小卒の俺じゃ絶対勝てねぇなうん。

「へぇー。でも奏の方が上だろうけどな!んじゃおやすみ」

「なにそれ、まぁおやすみ。また明日ね」

 食器を洗い終わるとリビングで何かし始めた奏に軽く自慢を言いながら部屋に戻る。さて、また至福の時間だな!

 至福の時間によって目が疲れてダウンする限界、日付が変わるか変わらないかぐらいに俺は眠りにつく。目を瞑りながら今日のことを考える。非日常である霊宮の仕事の後は何でも無い日が、とてもありがたく身に沁みる。いやまぁ。仕事なんて数ヶ月に一回ぐらいしか無いんだけど。大体日常じゃねぇか俺。あーアニメに影響されて何か感傷に浸ってみようと思ったけど無理だな。諦めよう。

 諦めて先程まで見ていたアニメの展開を思い出しながら感想を考えていると、いつの間にか意識を手放して夢の世界に旅立った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ