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カコからミライへの手紙

作者: UFO

初投稿です。

……初投稿なのに、こんな暗い作品で良いのかって気はしますが()



読んでくださった方の心に、何か響くものがあったなら幸いです。



『私━━━木下(きのした) 佳子(かこ)は、自殺を決心しました。

家族に不幸があったとか、高校でひどいいじめを受けていたとか、そういう訳ではありません。



ただ、何となく辛いんです。



人付き合いも上手くいかないし、学校の勉強も難しくて大変だし、何より自分が将来何をしたいのか、何のために生きているのかが分からないんです。 私が生きている事に何の意味があるのか分からなくなってしまったんです。 ……だから、死のうと思いました。



世間の人たちは言うでしょう。

「そんなものはただの"甘え"だ、"逃げ"だ」 

「感謝の心も、命の重みすらも知らないで」

「おまえ一人が苦しんでるんじゃないんだ」

「そんなに死にたいなら勝手に死ねよ」 などと。

きっとそれは正しくて、今の私のような人には反論する余地もないと思います。



でも、私は本当に間違っているのでしょうか?

自殺は、いけない事なのでしょうか?



私が言うのも変ですが、自ら命を絶つ決断をするのって、相当な勇気が要ると思います。 辛くて、苦しくて、不安で、怖くて、死にたくて。 ……そういう思いが勇気になって、その人の命を終わらせる。

きっとそれは、不安や悲劇を二度と見ないようにするため。 あるいは、自分の意志や遺伝子を後世に残さないため。 あるいは、これ以上周りに迷惑をかけないようにするため。 理由は多々あれ、その人たちは、何かしらの"強い意志"を持った上で、自らを殺すのです。



私は、そうした人たちを尊敬します。 「よく決断したね」と、そんな言葉を掛けてあげたくて仕方ありません。

でも、世間はそれを否定する。 最後の最後まで、誰からも理解されなかった人たちの苦しみを、自殺したその後ですら理解してあげようとしない。 ……だとしたら、私のような人間の居場所など何処にもないのです。 世界は、一握りの人たちだけのためにあるのだから。






私は、キラキラと光り輝く夜の街の中で、その影に隠れ、行き交う人々の間をすり抜けるように歩いていました。 首を吊るのに丁度良い場所を探すためです。

ニコニコと楽しそうに笑いながら、友達としゃべり歩く学生。 誰かに電話を掛けながら、忙しそうに走っていくサラリーマン。 手を繋いで、幸せそうに語らう若いカップル。

……そういった人々が目に入る度に「ああ、この人たちは生きる価値のある人たちなんだ。 私と違って、生きている事を許されている人なんだ」と、自分の心臓を抉るような感覚に襲われます。 彼らとは違って、私はきっと、生きちゃいけない存在。 間違って生まれてしまった存在。 だからこそ私には、彼らは何が楽しくて生きているのか、何で行き続けられるのかが分からないのです。





きらびやかな街の風景に耐えきれず、ついに嗚咽が込み上げてきたので、私は逃げるように路地裏へと駆け込み、力なくゴミ箱の横に座り込みました。

後悔することは、もう何も残っていない筈でした。 家出してからもう三日も経つし、学校なんてもう一ヶ月近く顔を出してないし……。 全てを捨ててきた私にはもう、きっと何も思い残すことは無いし、周りもきっと私に思うことなど無いでしょう。 

誰も私の事なんて心配していない。 万が一居たとしても、それは私には届かない。 その証拠に、私は此処に至るまで誰にも声を掛けられる事はありませんでした。 孤独……それが、私がこの世界に誤って生まれ落ちてしまった事への罰なのでしょう。 誰からも見放された世界は、私におあつらえ向きの場所でした。




このままのたれ死ぬのもアリかと、ふと思いましたが、それだと自殺にならないような気がして、仕方なく私は重い腰を上げました。 さっきの吐き気がするような路地には戻りたくなかったので、私はそのまま路地裏を進んでいくことにしました。 深く、奥深くへ進むにつれて、耳障りな街の喧騒は次第に小さくなっていき、足下もおぼつかない程に周囲は暗くなっていきます。 まるで死者の世界の入り口のような、そんな暗闇の世界を進んでいくと、丁度行き止まりの、少し開けた空間にたどり着きました。 








そこは、さっきまでの街中とは全然違って、何の音もなく、僅かな光だけが差し込むような、何か不思議な空気を漂わせる場所でした。 四方をビルの壁が囲む中、ヒュウヒュウと音を立て、時折冷たい夜風が入り込んできます。 そんな異様な空間の中で、一際存在感を放つものがありました。 そこには、ビル街に相応しくないような大きな木が一本、どっしりと立っていたのです。

こんな都会のど真ん中に、しかも、こんな誰も来ないような路地裏の一角に、これほど大きな木があるなんて想像もしませんでした。 しかし、私には好都合です。

早速私は、リュックから首吊り用のロープと遺書を取り出しました。 少し迷ったのですが、遺書はやっぱり置かない事にしました。 きっと誰も、私の遺書に興味なんてないだろうと思ったからです。 でも、せっかく書いたんだし、どうせなら足下にでも埋めておこうと思い、こうして持ってきました。

木が残っているからか、地面はコンクリートではなく、少しザラザラした土になっていて、穴を掘るのには困りませんでした。 爪に土が入る事も気にせず、私は無心で穴を掘りました。 ……この作業が終われば、私は、晴れて死ねるのです。



そんな思いでしばらく掘り進めていると、私はそこに何か大きい箱のようなものが埋まっている事に気がつきました。 何だろうと思って掘り出してみると、それは少し歪な形をしたカプセルのようでした。

不発弾か、何かの死体か……そんな物を想像して、元に戻そうとしたけど、やっぱり気になって……そして、馬鹿らしい好奇心に負けた私は、恐る恐る、そのカプセルを開けてみました。



その中には、可愛く装飾が施された一通の手紙が入っているだけでした。



どうやら、これは誰かが埋めたタイムカプセルのようだと、この時初めて気がつきました。 人のタイムカプセルを勝手に開けるのもどうかと思いましたが、深く考えても仕方ありません。 どうせこの後、私は自殺するのですから。 他人の思い出を踏みにじる私の罪は、この後償えば良いのです。

思い切って、私はその手紙の封を切ってしまいました。 手紙は、少し茶色に変色していたものの、読めない程汚れてはいなくて、むしろ綺麗な状態でした。

リュックを下ろし、私はその手紙を読み始めました。









『10ねんごのわたしへ』



手紙の冒頭は、いかにもタイムカプセルに入れる手紙、というような書き出しでした。 丸っこく、ちょっとグニャグニャとした字体から察するに、書き手は小学校の低学年ぐらい、といったところでしょうか。 封筒にハート型のシールが貼ってあった事から、女の子が書いたものだと判別できました。




『こんにちは。 


10ねんごのわたしは、いま、なにをしていますか? 


わたしはいま、大さかのおばあちゃんのいえで、このてがみをかいています』



お婆ちゃんか……。 私も小さい頃は、よくお婆ちゃんの家に遊びに行ったりしていました。 母方のお爺ちゃんはもう他界してしまいましたが、父方のお爺ちゃんとお婆ちゃん、母方のお婆ちゃんは今も元気でやっています。 ……もう一年近く会っていないし、みんな私の事なんて忘れているでしょうけど。



『わたしはいま小がく2ねんせいだから、10ねんごのわたしは、こうこうせいになりますね。


こうこうせいは、たいへんですか?』



この時、私はちょっとビックリしました。 今、私はちょうど高校三年生なので、この子の言う10年後と一致します。 仮に、彼女の言う10年後が今だとしたら、この子は私と同い年という事でしょうか?

この子の未来は分かりかねますが、少なくとも、私の高校生活は、辛く苦しいことだらけでした。



『おとなになったわたしは、どんなかんじかな? 


わたしは、大きくなったら、みんなをすくうおいしゃさんになりたいな、っておもってます。 


10ねんごのわたしは、おいしゃさんになるおべんきょうをしていますか?』




残念ながら、私は医学系の道に進む為の勉強には一切触れていません。 ……それどころか、夢すら見失っています。 子どもの頃に抱いていた夢も、もう忘れてしまっていました。 そんな退廃的な思いに浸りながら手紙を読み進めているうちに、ふと、ある言葉が私の目にとまりました。




『わたしはおいしゃさんになって、こまっている人や、くるしんでる人をえがおにしたいです。 


そして、たくさんのいのちをすくいたいです』




━━━私は、胸に針が突き刺さったような痛みを感じました。

この子は、自分以外の人々の命を救い、笑顔にしたいと言っている。 それに対して私は、自分自身の命すら投げ捨てようとしている。 街を歩いていた時よりも強い劣等感が、私の胸の奥底を軋ませました。



『でも、そのためにはじぶんがちゃんとけんこうでいなきゃダメだ、って、おばあちゃんがいってました。 


10ねんごのわたしは、けんこうですか?』



今……私は健康ではありません。 私の心はズタズタて、ボロボロで、ぐちゃぐちゃで……そして、空っぽでした。





ここまでは、手紙の子が10年後の自分に対する質問を投げ掛けるような内容ばかりでした。 それだけ、彼女が未来に希望を持っているという事でしょう。 彼女もきっと、"生きている事を許されている"人なのです。 年齢の事もあってか、彼女の言葉には夢や期待が満ち溢れていて、大人になる事を待ち望んでいるように感じました。

私は、途中で何度も手紙を読むのを止めようとしました。 あまつさえ、手紙を破り捨てたい衝動に駆られもしました。 手紙は、内側から侵食していくように、私の頭を苦しめました。 まるで、闇に慣れた毒虫の目の前で閃光弾を爆発させるかのように、その光が私を蝕み、焼き殺していくのです。

……それでも、私が手紙を読むのを止めなかったのは、きっと私が、その光に手を伸ばしたいと思ってしまったからでしょう。  私には、もう光を求める資格なんてないのに。



手紙は、二枚目の紙に続いていました。 ザワザワと音を立てて揺れる木の下で、私は、ビルの窓から漏れる光を頼りに、夢中で手紙を読み進めていました。 もしこの時、手紙を読むのを止めていたらどうなったのでしょうか。 私にも分かりません。 ……しかし、この手紙は私を苦しめつつも、同時に私のことを掴んで離さなかったのです。

禍々しくも、何か神々しい光をその先に隠しているらしい、大きな扉。 その前で、私は退く事も、進む事もできずに立ち尽くしていました。



怖い……でも、手を伸ばしてみたい。



そんな思いで、ついに私は扉に手をかけました。 恐る恐る、二枚目の手紙の文面へと目を向けたのです。



そこには、以下のようなメッセージが綴られていました。







『10ねんは、ながいようでみじかい、っておばあちゃんはいっていました。


わたしは、10ねんはすごくながいとおもいます。 


だって、10ねんのあいだに、小がっこうでべんきょうして、ちゅうがっこうでべんきょうして、こうこうでべんきょうしてるからです。


それに、10ねんあったら、ともだちといっぱいあそべるし、

パパとママといっぱいお出かけできるし、

すきなこともいっぱいできるからです。


10ねんごのわたしは、すきなこといっぱいできてますか? べんきょういっぱいでいそがしいですか? 


もし、いやなことやつらいことがあったら、ママと一しょにのぞみゆうえんちにあそびにいったときのことをおもいだしてください。 そしたら、たのしいきもちいっぱいになるとおもいます。


こうこう3ねんせいだから、もうすぐおしごとはじまりますね。 おいしゃさんになるには、大がくにいかないとダメ、ってパパにおしえてもらいました。 だから、だいがくでおいしゃさんがんばってください!




わたしも、あなたみたいなステキなひとにはやくなりたいな。 だから、そうなれるように、わたしもあなたみたいに、がんばります!』








━━━ボロボロと、涙が溢れていました。




ごめんなさい……と、無意識に何度も呟いていました。




私は、この手紙の子じゃない。 それでも彼女は、こんな私を"ステキなひと"だと言ってくれたのです。

赤の他人の手紙なのに、まるで自分に何かを訴えかけるように、文面の一つ一つが小さな輝きとなって私の胸に降り注ぎました。 この時私は、これから首を吊って死のうとしていた事など、とうに忘れてしまっていました。

いつの間にか夜空に顔を出していた月が、涙で濡れてしまった手紙をぼんやりと照らしていました。 冷たい風は弱まり、ただ木の葉を優しく揺らしています。 暗く、廃れた場所だと思っていたその空間は、大きな木を中心に、ちっぽけな私を温かく包み込んでくれる、そんな場所だったのだと気づきました。



手紙は、ここで終わっていました。 私は、どこかにこの手紙を書いた子の名前が書かれていないかと探しました。 すると、破り捨てた封筒の裏側に、小さな文字でその子の名前が書かれているのに気がつきました。



『1985ねん 4がつ11にち   上月 ミライ』



━━━驚きました。 今は2017年ですから、この手紙は少なくとも2007年以降に書かれたものだと思っていました。 それ以前に書かれたものならば、書いた人がとっくに掘り起こしている筈だからです。

でもこの手紙は、10年どころか30年以上も掘り出される事なく、こうして今私の手にあります。 手紙の書き手━━━ミライちゃんは、私よりもずっと歳上だったのです。

何故この手紙が埋められたままになっていたのか、それは分かりません。 でも、きっとこれは、私に向けて届けられた手紙なんだと、そんな気がしてなりませんでした。 そのくらい、私にはミライちゃんの手紙との出会いが、運命的なものだったのです。





考え方が180度変わった訳ではありません。 今でも、自分の生きる意味は分からないし、自信を持って生きることも出来ません。 自殺だって、それを悪いことだと決めつける事は、私には出来ません。



ただ、もう少しだけ生きてみようと思いました。



ミライちゃんが見ていた夢に、ミライちゃんが描いていた希望に……そして、ミライちゃんが追いかけていた"ステキな人"に、少しでも近づいてみたい……! そんな風に、思ったんです。




私は、手紙を封筒に戻しました。 そして、書いてきた遺書をビリビリと引き裂いて、ロープと一緒に捨てました。 それから、片手に手紙を握りしめながら、両手を広げて大きな木に抱きついて、静かに目を閉じました。

……きっとこの後、親にも、先生にも、その他色んな人に怒られるでしょう。 元の生活に戻るには、一筋縄ではいかないかもしれません。

でも、この時の私は、それでも進みたいと思っていました。 ゼロからのスタートでもいい。 生きる意味が見つからなくてもいい。 ……でも絶対、ミライちゃんが背中を押してくれた事だけは無駄にしたくない。 ほんの僅かな……でも、私にとって大きな覚悟を決め、私は木からゆっくりと離れ、振り返り、そして、月明かりを頼りにしてその空間を後にしました。









……少し、長くなっちゃいましたね。 私自身、誰かに向けて手紙を書くなんて経験はした事がなくて、ちょっぴり小説みたいな堅苦しい文面になっていたりするかもしれません。

とにかく、私が貴女の━━━ミライちゃんの手紙に出会った時の経緯は、こんな感じです。 もう1ヶ月も前の出来事ですけど、私は昨日の事のように覚えています。 私は貴女に救われました。 あの手紙があったからこそ、今ここに私はいるんだと思います。

夢は、まだ見つかっていません。 とにかく今は色んな経験を積んで、それから私の生きる意味、やりたい事を見つけていこうと思います。 ……私にその勇気をくれた貴女にどうしてもお礼がしたくて、こうして手紙をしたためました。 




私はこの手紙を、あの路地裏の、例の木の下に埋めておくつもりです。 きっと、この手紙が貴女のもとに届く事は無いでしょう。 私は、貴女に出会った事もなければ、今貴女がどこに居て、何をしているのかすら知らないのですから。 

それでも、私は貴女にこの思いを伝えたいです。 きっと届くはずだと、そう信じています。 


……自分勝手でごめんなさい。 でも、言わせて下さい。




  ━━━ミライちゃん。 私に、光をくれてありがとう。





        2017年 6月12日    木下 佳子』

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