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死神ちゃんとグルメさん

まさかの新作追加


なお、このお話は本編(https://ncode.syosetu.com/n3814dd/)の〈最終回1つ前〉と〈最終回〉の間に位置するエピソードです。

そのため、本編未読の方にはネタバレになるような要素がいくつも出てきます。

ご注意&ご容赦願います。

 死神ちゃんがダンジョンに降り立つと、そこは”馴染みのある腕の中”だった。目の前には、小太りの青年。──装備から見るに、職業は戦士だろうか。

 青年は驚いたように目をぱちくりとさせながら、死神ちゃんを見つめて言った。


「ねえ、マコママ。今、この子、いきなり湧いてこなかった…?」

「あら、そう? 横からアタシの腕の中に飛び込んできたのを、そういう風に見間違えただけじゃないの?」


 マコママと呼ばれた人物は死神ちゃんを抱きかかえたまま、青年に見えないようにコソコソと<死神ちゃんの左腕にはめられている黒い腕輪>を撫でた。そして、その表面に映し出された情報を見るために俯いた。すると、苦虫を噛みつぶしたような顔で見上げてくる死神ちゃんと目が合った。


「ねえ、その子、もしかしてマコママの子だったりするの? 俺、マコママのこと、実は狙ってたんだけれどもな。ねえ、ねえ、違うよね? 他のスタッフの子だよね?」


 不躾な青年の言葉に、死神ちゃんの表情がみるみると「今すぐにでも殺してやる!」と言わんばかりに歪んでいく。マコママは苦笑いを浮かべると、死神ちゃんの<人にお見せできない顔>を隠すように、大仰に死神ちゃんに頬ずりした。


「残念、アタシの子なのよ~。……ご注文はカツサンドだったわよね? はい、どうぞ」

「わあ、ありがとう、マコママ! これで今日こそ、勝てるぞ! ……はい、これ、お代ね!」


 品物を受け取り、代金を支払い、ネオ屋台の側にあるベンチに移動する青年を睨みつけながら、死神ちゃんはがなるように言った。


「ちょっと、あの()()()()()()()()()

「ええ、()()()()()


 マコママの腕から飛び出して、死神ちゃんは青年のもとにやってきた。どっかと不機嫌に、彼の隣に座り込む。すると、彼が不満げに死神ちゃんを見下ろした。


「僕はまだ、オジサンというような年齢じゃない!」

「うるせえな、オ・ジ・サ・ン!」


 死神ちゃんは彼から、カツサンド(二個入り)をひとつ引ったくった。「僕のカツサンド!」と叫ぶ彼に構うことなく、死神ちゃんはガツガツとカツサンドを食べきった。


「ていうか! 言葉遣いも態度も悪いし、君、本当にマコママの子なの!?」

「お前には関係のないことですー。……で、お前はこのダンジョンに何しに来たわけ? 見たところ、戦士の中でもかなり装備が充実しているほうみたいだがよ」

「お子様のくせに、見る目は確かなようだね。──僕は、街でもちょっと名の知れたグルメさん。週末冒険者をやめて、職業冒険者になろうかどうか悩んでいる最中さ」


 グルメさんは熱く語り始めた。彼が言うには──

 会社の先輩に、田沼さんという人がいる。彼は趣味でダンジョンに潜る、いわゆる<週末冒険者>だ。しかし、冒険者としての腕は確かで、ダンジョンから得た宝物を売り払うことでかなり副収入を得ているそうだ。なお、その金で土地付き一軒家を買ったという。しかも、一括払いで。

 さらに、彼は妻子持ち。子どもは五人もいるそうだ。


「会社の稼ぎだけじゃ、そんな大所帯は支えられない。けれど、田沼さんは冒険者と二足の草鞋をすることで、それを成し遂げた。すごいことだと思わないか!?」

「ああ、すごいな。で、その話とお前が<グルメさん>であるという情報に、どんな関係があるっていうんだよ?」

「焦るなよ、順を追って説明したいタイプなんだよ、僕は。──それにしても、田沼さん、すごいよなあ。うちの会社、社長が代わってから給料がちょっと下がってさ。それなのに、一軒家を土地付きで買ったんだもんなあ。……はあ、何であの親の七光りピカリンが、社長になっちゃったかなあ」

「は!? あいつ、社長になったの!? ていうか、お前、あの会社勤めかよ!」


 思わず声をあげ、大きく目を見開いた死神ちゃんに、グルメさんはたじろいだ。


「食いつくところ、そこ!? ていうか、ピカリンと知り合いなの? あ、もしかしてピカリンもマコママ狙ってたとか!? 駄目だよ、マコママは僕の──」

「だから、お前のじゃないし。そもそも、ダンジョンに出会いを求めるんじゃありません!」


 グルメさんは、死神ちゃんに膝を思いきり蹴飛ばされて「痛い!」と泣き叫んだ。


「幼女の蹴りじゃない! まるで、ガチムチのおっさんに蹴られたみたいだ!! 膝の皿が割れそう!」

「甲冑着こんでるんだから、そんなこたあないだろ。大げさだな」

「いやいや、めちゃめちゃ痛い! ──で、どこまで話したっけ」


 再び、グルメさんは話し始めた。ピカリンのあまりの無能ぶりに、前社長は同族経営を諦めて別の人物を社長にしようとしたこと。しかし、ピカリンが役員たちに賄賂と、指揮官様と呼ばれる怪しい術師の催眠を駆使して社長の座に収まってしまったこと。くっころ先輩がピカリンに耐えかねて退社し、新たに起業したこと。くっころ先輩の会社のほうが世間様にも受け入れられているので、そちらに転職しようか悩んでいるということ。でも、自分も週末冒険者になれば、最悪とはいえ慣れた環境を捨てて転職せずとも、田沼さんのように豊かな暮らしができるのではないかということを……。


「くっころ、起業したのかよ! ていうか、横道の話はいいから!! さっさと本題入れよ!!!」


 ゲシゲシと蹴りを連発してくる死神ちゃんに、グルメさんは泣いて謝った。そして、ようやく本題に入った。


「このダンジョンで、天にも昇る美味しさのカレーライスが食べられるらしい」

「……はい?」


 死神ちゃんが顔をしかめると、グルメさんは笑顔で再度「カレーライスが食べられるらしい」と言った。そして、話を続けた。

 彼の趣味は食べ歩きで、仕事終わりに必ずどこかしらの店に立ち寄るそうだ。特に気に入った店には足繁く通うそうなのだが、その<彼が足繁く通うようになった店>は軒並み「美味い」と評判になり、大繁盛するという。そのため、彼は街の人たちから「グルメさん」という愛称で呼ばれ、「今行くべき、美味いお店」についてよく聞かれるのだとか。


 そんな、美味しいものを食べることが誰よりも好きな彼には、敬愛する師匠的な人がいるらしい。──それは、街の定食屋を切り盛りするマンマだった。

 彼はマンマから「実は、ダンジョンの中は美味しいもので溢れている」という情報を得た。マンマが言うのなら間違いない。それは事実だ。だから、彼は冒険者になった。田沼さんのように、いやでも……と悩んでいた時間が馬鹿らしいくらいのすばやさで、冒険者ギルドの登録説明会に行ったそうだ。


 冒険者になってからの彼の美食ライフは充実していた。四階の<小さな森>ではBBQをしたし、回転寿司という危険なモンスターともやりあった。五階で釣りをして、ここいらの街では食べることのできない魚もたくさん食べた。あと、宝箱の中から稀に出てくるプロテインおにぎりとやらも食べた。……このおにぎりは、あまり美味くはなかったが。


「そうそう、あと、マコママのお店──ダンジョン内を移動する<幻のパン屋さん>にたどり着くまでに、何度、街のパン屋の襲撃に遭ったかな……。もう何年も、あの人のパン、食べてないんだよね。こんなところで彷徨ってないで、お店を再開させてほしいよ。どうして、こんなことになってしまったんだろう……」

「さあ、どうしてかな……」


 死神ちゃんは、そっと目を逸らした。


 グルメさんは、気を取り直して話を再開させた。

 ダンジョン内で美食ライフを送るようになってから、彼が街で「グルメさん」と呼ばれていることを知っている冒険者から「あれって、もう食べた?」と聞かれることが多くなった。もちろん、聞かれたもののほとんどが実食済みだった。しかし、問われたメニューの中に、唯一食べたことのないものがあったのだ。──それが、カレーライスだった。


「カレーライスは、直接戦ったり、アイテムドロップすることで食べられるものではないらしい。まずは、七階のミノタウロスを倒して、肉を手に入れる。それを使って、自分で調理を行って食べるものだそうだ。……そりゃあ、僕もまだ食べたことないよね」

「肉を手に入れただけじゃあ、カレーは作れないだろう。他の材料はどうするんだ?」


 死神ちゃんが首を傾げると、グルメさんは「買うんだよ」と教えてくれた。


「さ、そろそろ、幻のカレーライスを目指して出発するぞ! 今日こそ食べるんだ!   ……って、何でついてくるの。これは遊びじゃないんだよ。お子様は、ママのところに帰りなよ」

「このダンジョンは、俺の庭みたいなものだからな。お前よか、俺のほうがよっぽど詳しい。それに、俺は()()()()し」


 あとをついてくる死神ちゃんを見下ろしながら、グルメさんは「不死系のお守りでも持っているの?」と羨ましがった。


 ***


 グルメさんは肉以外のものを「買う」と言っていた。だから、死神ちゃんはそれらを六階の歓楽街で買うのかと思っていた。しかし、彼はきらびやかな歓楽街を通り過ぎ、薄暗いダンジョンの少し奥まったところへと向かって行った。そして、まるで暗号のようなリズムで壁をノックした。そこには隠し扉があるらしい。──ゴゴゴゴという重々しい音を立てて開いた扉から出てきたのは、死神ちゃんにとってとても見慣れた<角>だった。

 <角>は、死神ちゃんを見るなりゲッと顔を歪めた。グルメさんはそれを気にすることなく、死神ちゃんに笑顔で説明した。

「ダンジョン食愛好家だけの秘密の話さ。このノームの農婦さんがね、ダンジョン内の秘密の場所でいろいろと栽培しているんだよ。で、ここは彼女が栽培した野菜や香草の取引場所ってわけさ。……はい、農家さん。これ、お代ね。事前注文しておいたもの一式、ください」

「へえ、そうなんですね。六階の歓楽街を抜けた先の、隠し扉のあるところでねえ」


 死神ちゃんは真顔で、腕輪に触りながらそう返した。直後、歓楽街からダークエルフの老人が怒り顔で走り込んできた。老人は農婦の腕をしっかりと掴むと「ここから出ていけ!」と叫んだ。すると、農婦は死神ちゃんを睨みつけて「ケチ! 意地悪!」と捨て台詞を吐きながら、どこかへと消えてしまった。

 不機嫌に去っていく老人の後ろ姿を見つめながら、グルメさんは首を傾げた。

「無事に取引は完了できたけれど……。でも、何がどうして……?」

「あの人は、この歓楽街の組合長さんだよ。勝手に商いしてたら、そりゃあ怒りもするし、追い出しもするわな」


 フンと鼻を鳴らす死神ちゃんに、グルメさんは「まあ、それもそうか」と頷いた。


 ***


 誰もがトラウマを抱える六階の恐怖の浄瑠璃人形ゾーンを何とか突破し、それ以降の強敵フルコースもかいくぐり、グルメさんはとうとう七階に到達した。


 五階の砂漠ゾーンにあるピラミッドのように、このダンジョンにはいくつかの<ミニダンジョン>が存在する。だが、この七階には「もはや、別のダンジョンが丸々存在していない?」と言いたくなるような規模のミニダンジョンがある。──というよりも、実際、七階が丸ごと「もはや、別のダンジョン」なのであった。

 そのため、冒険者たちのほとんどは、いまだに七階の浅層にしか足を踏み入れることができていない。奥に進むことができている者がいるとするなら、多分それはマンマとその息子夫婦、酒屋の嫁・まさことその息子くらいのものだろう。なお、マンマとまさこには<ばあちゃん>と呼ばれる仲間がいたらしいが、彼女は冒険者を引退し、余生を孫とともに楽しんでいるそうだ。


 グルメさんは、ミノタウロスを見つけると、早速討伐を開始した。通常、一人で倒すには骨が折れる相手なのだが、彼は<溶かし方>を知っているのか、効率よくミノタウロスを何体も処理していった。

 ようやく、グルメさんはカレーを作るのに適した肉を手に入れた。モンスターが徘徊していない安全な場所へと移動すると、彼は鍋や飯盒などを取り出して調理に取り掛かった。

 調理中のグルメさんの横で、死神ちゃんが懐かしそうに呟いた。


「俺も、よくここで焼肉食ったっけなあ……」

「は!? 君、ピクニック感覚でよくここに来てたの? 庭って、そういうこと!?

 君ん()、一体何なの!? ていうか、ということは、マコママ、強すぎじゃない!?」

「包丁をこっちに向けんなよ! ほら、とっととカレー作れよ!!」


 包丁を持ったまま勢いよく振り返ってくるグルメさんを、死神ちゃんは窘めた。


 しばらくして、飯盒から、ほんのりと甘い白飯の香りがしてきた。鍋から匂い立つのは「日本のご家庭の、ごく普通のカレー」だ。


「いや、美味そうな香りではあるが……。これ、普通のカレーじゃないか? もしかして、天にも昇る美味さってのは『山頂で淹れるコーヒーは格別』的なやつか?」

「どうだろう? それは、食べてみてからのお楽しみじゃないかな!?」


 疑わし気に首をひねる死神ちゃんにも、グルメさんはできあがったカレーを盛り付けてやった。しかしスプーンを手に持ち、いざ食べようとした刹那、カレーに異変が起こった。


「は? 何? 何!? カレーライス、めちゃめちゃ揺れてるんですけど!?」

「うわああああ! カレーライスが空を飛んだ! 僕、まだひとくちも食べてないのに!」

「驚くよりも文句かよ、食い意地張ってんな!」

「グルメさんって言ってよ!!」


 ──そう、カレーライスは、空を飛んだのであった。グルメさんと死神ちゃんがギャアギャアとわめくのもお構いなしに、カレーライスは空高く舞い上がった。そして、カレーライスはそのまま、グルメさんに襲いかかった。


「あっっつ! 熱い! やめっ、やめて! あっ、これ、倒さないと食べれないタイプ!? 途中でモンスター化するって、アリなの!?」

「さあな。使った材料が悪いんじゃあないか? 肉と、怪しい野菜の、どっちが原因かな?」

「そんなこと言ってないで、倒すの手伝ってよ!!」

「お子様を戦わせようとするだなんて、オジサン、ひどいよーう。うえーん!」

「こういうときだけ、可愛い幼女ぶるってどうなの!? 君、本当に、あの優しいマコママのお子さん!?」


 カレーライスと戦い、ルーにまみれるグルメさんを死神ちゃんは適当に応援した。しかし、カレーライスはとても強かった。おそらく、ミノタウロスよりも強かった。あまりの強さに、さすがの死神ちゃんもドン引いた。


「もしかして、このカレーライス、七階に何体もいる中ボスのうちのどれかくらいの強さじゃないか……?」


 一方、必死にカレーライスと戦っているグルメさんはというと。攻撃を受けながらも、何とかこのカレーライスを食べることができないかと試行錯誤していた。だが、受けたダメージは思いのほか甚大だったようだ。


「あっ、今、やっとひとくち食べることができ── 痛い! 痛っ……いったあああああああああ!?」


 カレーライスを口に入れた途端、彼の舌は火に焼かれたような痛みに襲われた。あまりの痛さに味を認識することがでないらしく、痛い痛いと連呼していた。そしてそのまま、彼は炎を吐き散らかし、自身の吐き出した火に焼かれて灰となった。


 死神ちゃんは空に浮かぶ「カレーのかかったライス」と、地面にできあがった「カレーのかかった灰」を交互に見た。


「天にも昇るって……そういうことかよ」


 満足げにどこかへと飛び去っていくカレーライスをげっそりとした顔で見つめてため息をつくと、死神ちゃんはスウとその場から姿を消した。


 ***


 勤務が終わり、死神ちゃんは家路についた。<会社>と家との間にある商店街で、死神ちゃんは買い物中の()と遭遇した。


「あら、(かおる)ちゃんも今上がりだったの?」

「おう、お前もか。お疲れ様。……今日の晩飯か? 何にするつもりだ?」


 死神ちゃんはワクワクとした表情で、()が持つ買い物バッグの中を覗き見た。そして、顔を青ざめさせた。


「えっ、何、どうかした?」

「マコ、お前、本当に、毎度毎度、トラウマえぐってくるよな!? ピザのときといい、エスカリオンのときといいさあ!」

「ええっ!? もしかして、今日、カレー絡みの何かがあったの!?」


 驚き戸惑う()に、死神ちゃんは街頭テレビを見るよう促した。ちょうど、「今日の薫ちゃん」が放送される頃合いだったからだ。

 ()は、それを見て全てを理解した。そして一言、同情するように「今日は、外食にしましょう」と言ったのだった。





 でも結局、南インド料理店に行って本格的なカレーを食べた。カレーのかぐわしい香り攻撃を受けてカレーが食べられないだなんて、ちょっとそれは我慢できないDEATHもんね。

某wizライク絵本のタイトルに「カレーライス」と書いてあるのに、実際に主人公はカレーライスと遭遇することなく終わったのが「!!??」となったんですよ

だから、冒険者にカレーを食べさせたかったんです

食べさせたかったんですけれど……ね……

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