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旧 第231話 死神ちゃんとジュエリーハンター②

 死神ちゃんが小さな森にやって来てみると、一人の女性が岩が剥き出しになっているところでうずくまっていた。彼女はモンスターがやってくると、デコイを設置して丁寧に戦った。そして戦闘が終了し、宝箱を開けて舌打ちすると再び岩場の側で蹲った。

 死神ちゃんはこっそりと彼女に近づいていくと、地面に置いてあった工具を手にとって眺めた。すると彼女は手にした石から視線を外すこと無く、工具を使用しようと地面に手を這わせた。死神ちゃんが「はいよ」と言って手渡すと、彼女は普通に「ありがとう」と答えて受け取った。


 少しして、彼女は誰かから工具を受け取ったということを疑問に感じで眉根を寄せた。受け取る際に手がぶつかり合ったのだから、「はいよ」という掛け声も幻聴ではなく、確実に横に誰かいるということだ。――こんなダンジョンの中で、いきなり横に人がいるというのは物盗りか何かの可能性もある。彼女は不審と不安で額に汗を浮かせると、ゆっくりと横に首を振り動かした。そして、横でニコニコと笑顔を浮かべている幼女を見るや否や、彼女はその場で尻もちをついて叫んだ。



「ぎゃあああああ! 死神ーっ!」


「おう、よく覚えていたな。前に会ったの、かなり前だっていうのに」



 死神ちゃんは、顔を青ざめさせてガクガクと震える彼女の姿を見てご満悦だった。彼女――過去に、ダンジョン内でも宝石や鉱石が出ると知って鉱脈探しにやって来ていたジュエリーハンターは、深呼吸を二、三したのちに〈心を落ち着かせるため〉という名目でお茶にすることにした。

 ジュエリーハンターはモンスターに見つからないようにと岩場の影へと入り込むと、平静を装いながらお茶を優雅に飲み、軽食を口に運んだ。死神ちゃんが羨ましそうにそれを眺めると、彼女は顔をしかめさせてた。



「死神になんてとり憑かれていないって思い込みたいんだからさ、そんな可愛らしい幼女の顔して見上げてこないでくれる?」


「そんな思い込んでも、とり憑かれたという事実が覆されるということはないんだが」


「だからって、そんなじっと見つめてこないでったら! ――ほら、仕方ないわね!」



 彼女は非難がましく目を細めながらも、死神ちゃんにお茶とお菓子のお裾分けをした。死神ちゃんが喜んでそれを受け取り食べ始めると、彼女は苦笑いを浮かべて死神ちゃんの頭をポンポンと撫でた。死神ちゃんが不思議そうに彼女を見つめると、彼女はフッと小さく笑って言った。



「妹を思い出したのさ。あたしの妹も、あんたみたいに食べるのが大好きでね」



 彼女は鉱脈求めてあちこちを旅しているそうで、故郷に随分と帰っていないそうだ。死神ちゃんが「たまには帰ったら」と声をかけると、彼女は笑顔を浮かべて無言で頷いた。

 死神ちゃんはお菓子を食べながら、今日は何しに来たのかと尋ねた。すると彼女は目を輝かせて「探している物がある」と答えた。



「なんだ、装備鍛錬石でも探しに来たのか? それとも、魔法石か?」


「どちらかと言えば、魔法石ね。でも、全乙女の夢でもあるわ」


「は? 乙女の夢?」


「そう……、全乙女の夢、それは〈この指に、ダイヤモンドを煌めかせたい〉ということ! ――お嬢ちゃんも、分かるでしょう?」



 死神ちゃんが顔をしかめさせると、彼女は〈分かってないわね〉と言いたげにフンと鼻を鳴らした。一転して思案顔を浮かべると、彼女は胸の前で腕を組み、首を捻った。



「このダンジョン産のダイヤモンドは普通のダイヤモンドじゃなくてね、何やら特殊な効果があるらしくてね、それを指輪として仕立てて身につけておくと良いことがあるらしいのよ。原石の発掘はもちろん、指輪としてもドロップするみたいだから、必死になって探しているんだけど。これが中々見つからないのよねえ」



 特殊な効果というものには〈身につければたちまち幸運に恵まれて、重要なアイテムが全て揃う〉だとか、〈召喚士でなくても、指輪一つにつき異界人一人と召喚契約が結ぶことが出来るようになる〉だとか様々な噂があるそうだ。どれも眉唾ものだが、本当のことであればとても重宝することは確かである。そのため、彼女以外にもダイヤモンドを探してダンジョン内を歩き回っている者は少なからずいるのだそうだ。

 死神ちゃんは首を傾げさせると、不思議そうに尋ねた。



「ていうか、召喚士でもないのに召喚契約って、どうやって結ぶんだよ。指輪を使って何かすると、異界への門が開いたりするのか?」


「何それ、あんた、物語の読みすぎなんじゃないの? 一階に魔法書やスクロールを売ってるお店があるんだけど、そこにある本を見てお財布と相談しながら契約したい人を選ぶのよ」


「何だそりゃ、カタログギフトか何かみたいだな」



 死神ちゃんが眉根を寄せると、彼女はケラケラとおかしそうに笑った。そしてお茶を飲み干すと、彼女は再びダイヤモンド探しを再開させたのだった。

 しばらくして、彼女は額の汗を腕で拭うと、しょんぼりと肩を落とした。



「うーん、全然それらしいものに出会えないわねえ……。やっぱり、希少品だから滅多にお目にかかれないのかしら。それとも、ここより下の階層に行かないと出てこないかしらね。でも、あたしの強さで五階に降りるのはちょっとな」



 言い終えるや否や、彼女は慌てて後方を振り返った。そこには少し手強そうなモンスターが立っていて、彼女は短剣を手に取ると臨戦態勢に入った。

 デコイなどを駆使して、なんとかモンスターを倒すと、小ぶりではあるものの少し豪華そうな宝箱がそこに残った。彼女は期待に満ちた顔で罠解除に臨み、そして見事解除に成功した。しかし、中に入っていたのは毒々しい髑髏どくろの装飾が施された指輪だった。



「豪華な宝箱から出てきたんだから、良いものが入っているかと思ったのに。何なのよ、これは」


「あからさまに、呪われていそうな見た目だな」



 箱の中を彼女と一緒になって覗き込んだ死神ちゃんが苦笑いを浮かべると、彼女は不服そうに頷いた。そして指輪を箱から取り出しながら、首を傾げさせた。



「箱の見た目は見掛け倒しだったってこと? それとも、実はいい装備とか? もしくは、売ったら凄まじくいいお金になるとか」



 手のひらの上に乗せた指輪を彼女が見つめていると、突如指輪から黒いもやがブワッと広がって彼女を取り巻いた。彼女は盛大に顔をしかめさせると、ゲッと大声で叫んだ。



「身につけていないのに呪われた!? どういうことなの!?」



 次の瞬間、彼女は軽くめまいを覚えた。どうやら、この指輪は少しずつ体力を吸っているようだった。ジュエリーハンターは己の頬を叩いて喝を入れると、手早く荷物をまとめに入った。死神ちゃんが不思議そうに眉根を寄せると、彼女は荷物整理を終えて立ち上がりながら言った。



「ダンジョン内で活動する宝飾関連業仲間に聞いたことがあるんだけど、手に持っただけで呪われる指輪があるんですって。多分、これがそうよ」


「それが、どうしたんだよ?」



 死神ちゃんが首を傾げさせると、彼女は森の出口に向かって歩き出した。



「普通、教会で解呪を頼むとかなりのお金がかかる上にモノは消滅してしまうでしょう? でもこの指輪はね、解呪を頼みに行くと何故か逆に莫大なお金がもらえるそうなのよ。――うふふふふ、お金! あたし、宝石ちゃん達と同じくらい、お金って大好き!」



 彼女は悪どい笑みを浮かべ、舌なめずりをした。彼女の目は完全に〈お金!〉となっており、死神ちゃんは思わず呆れて口をあんぐりとさせた。彼女は精気を吸われてゼエゼエと荒く息をつきながら、雄々しく拳を振り上げた。



「あたしが死ぬのが先か! 無事に教会に着くのが先か! ――死なずに辿り着けば、その分収入はプラスだからね。絶対に生きて帰るわよ!」



 しかし、その執念も虚しく、彼女は今一歩というところで力尽きた。死神ちゃんは苦笑いを浮かべると、そそくさとその場を後にしたのだった。




   **********




 待機室に戻った死神ちゃんは、先ほどの指輪のことをグレゴリーに尋ねた。たしかにあれ(・・)は高値で引き取ってもらえる品で、それを知っている冒険者は死の恐怖と隣り合わせになってでも持ち帰ろうと必死になるのだそうだ。その話を聞いている横で、クリスが「ダイヤモンドリング、どんなものなのか見てみたかったな」と呟いた。死神ちゃんが目をパチクリとさせると、彼は照れくさそうに頬を染めた。



「やっぱり、いつかはプレゼントしたい(・・・)ものじゃん?」


「驚いたな、プレゼントされたい(・・・・)と言うかと思ったのに」


「贈り物は男女関係なくするものだけど、指輪は()()にするものなんだよ」



 死神ちゃんは興味深げに相槌を打った。



「男女の概念が逆ってだけで、そういう部分は共通しているんだな」


「だから、かおる、いつか私にプレゼントさせてね」


「ですから、俺はお前の前世せかいで言うところの〈オカマさん〉なんだって。つまり、お前の恋愛対象外なんです!」



 ケチ、認めないんだから! と口を尖らせるクリスを他所よそに、死神ちゃんはグレゴリーに向き直った。そして召喚契約カタログのことを尋ねると、彼はモニタールーム内にある棚をごそごそと見て回った。



「……お、ここにあったか。――ほら、これがそうだ。同じ内容がデータとして、ここのコンピューターにも入ってるぞ。前世の関係者が召喚された際、俺らは出動出来ない決まりになっているからな。召喚を感知したらアラームが鳴るように設定されているんだわ」


「そう言えば、そんなことを前に言ってましたね」



 頷きながら、死神ちゃんはカタログをパラパラと捲ってみた。写真が添えられ名前や特技などが記載されており、その下に契約にかかる条件や金額、現在契約可能か否かの表示がなされていた。その中に、死神ちゃんは権左衛門の隣の家に住んでいるという愛されっ子チワワを見つけ、ほっこりとした気分になった。

 更にパラパラと捲っていった死神ちゃんは、あるページで手を止め顔をしかめさせた。すると、いつの間にか隣りにいたチベスナがニヤリと笑ってコヤァと声を漏らした。死神ちゃんはそのページを見なかったことにすると、本を閉じ、爽やかな笑顔でグレゴリーに本を返したのだった。





 ――――なお、ダイヤモンドリングの効果はダイヤモンドの色によって変わるので、噂は全部本当だという。全てコンプ出来たら結構なお金持ちなのDEATH。

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