旧 第13話 死神ちゃんと六兄弟
「そういえば最近、怪しい冒険者の集団がダンジョン内を徘徊しているらしいのよ」
困るわよね、と溜め息をつきながらマッコイが顔をしかめた。〈尖り耳狂〉や〈にんげんがたのいきもの〉のことかと尋ねると、どうやらそうではないらしい。
「そんなの、今に始まったことじゃないだろ」
「そうなんだけど、あいつらはお一人様だったじゃない? でも、今回は六人フルのパーティーで、しかもメンバー全員らしいのよ」
「ええええ、そいつは憂鬱だなあ……」
「お仕事とはいえ、そんな面倒臭そうなのとは出会いたくないわよねえ」
まったくだ、と返しながら死神ちゃんは頷いた。ただでさえ、死神ちゃんは変態担当にさせられているフシがある。これ以上は正直、お腹いっぱいだと死神ちゃんは思った。
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(そう思ってたら出会うって、俺、知ってた!)
心の中でそう叫ぶと、死神ちゃんはぷるぷると震えながら愕然とした。目の前には筋肉隆々かつ見分けのつかないくらい似通った男が六人、綺麗に隊列を組んで歩いていた。しかし、その格好ときたら、どうだ。色違いの褌を締めただけの者が五人に、頭巾で顔を覆い隠している以外は何も身に着けていない者が一人。――あからさまに、変質者の集団だった。
筋肉に対しては一家言あり、熱く滾る情熱を先日弾けさせていた死神ちゃんだったが、さすがにコレはちょっとあり得ないと思った。
すると、六人が一斉に「何奴!」と口々に言いながら俊敏に駆け寄ってきた。
「幼女よ、貴様、何奴!」
「いやいや、お前らが何奴だよ!」
「名を聞きたくば、まずは己からということだな! よかろう!」
死神ちゃんを取り囲んでいた六人はそう言うと、姿を消した。そして、一人ずつ名乗りを上げながら姿を表し、ポーズをつけて、そして最後に全員で「我ら、忍びの六兄弟!」と叫んだ。
「忍びぃ? てことは、お前ら、忍者かよ」
「左様」
「だったら、もっと忍べよ! そんな格好じゃあバレバレだろ!」
死神ちゃんがツッコミを入れると、頭巾が指を振りながらチッチと舌を鳴らした。そして他の兄弟達よりも一歩前に出てくると、死神ちゃんを指差し、誇らしげに胸を張ってもう片方の手を腰に当てた。
「甘いな、幼女! 忍ぶどころか、暴れるでござるよ!」
「やめろ! お前が言うと、余計に危ない!」
「何故、後退る? 怖がることもなかろうに」
頭巾はじりじりと後退していく死神ちゃんに近づくと、死神ちゃんの頭をポンポンと撫でた。すると、ステータス妖精さんがクルクルと舞い上がった。
* 忍者の 信頼度が 5 下がったよ! *
「何故! 何故でござる、兄者達よ!」
「それはお前、いたいけな幼女の眼前でそんな小汚いモノをぶるんぶるんとさせては、なあ……」
「ややっ、これは失敬!」
頭巾は申し訳なさそうに頭を下げると、目にも留まらぬ速さで兄弟の元へと戻った。
「――で。お前ら、何で裸なんだよ?」
「幼女、貴様、知らぬのか。忍者はな、何も身に纏わぬほうが強いのだ。己が手刀が最上の武器であり、己が肉体が鋼の鎧なのである」
赤が威厳のある声でそう言うと、青が腕を組みながら首を傾けた。
「しかし、それは己が肉体と精神を限界まで高めた者のみが到達できる極みの境地。正直なところ、我らはきちんと装備を充実させておいたほうがよいのだよなあ」
青が豪快に笑い始めると、他の兄弟達も同じように笑い出した。死神ちゃんが眉間に皺を寄せると、黄色が当然とばかりに胸を張った。
「上達したくば、まずは形からというであろう?」
「いや、それ、ちょっと意味が違うから」
死神ちゃんが乱暴に言い捨てると、ちょうどモンスターの群れがやってきた。忍者達は上手いこと立ち回り、連携プレーで敵をなぎ倒した。
「幼女よ、見たか! 形から入った結果が、きちんと出ているであ――」
戦いながら、桃色が死神ちゃんをちらりと一瞥し、自慢気に叫んだ。しかし、その直後、大きなドラゴンがやってきて、炎ひと吹きで忍者達を全滅させた。あっさりと焼き払われた忍者達は霊界に姿を現すと、頭をボリボリと掻き毟りながら口々に愚痴を垂れた。
「いくらアーマークラスが高くとも、ドラゴンの炎は耐えられぬなあ」
「そもそも、我らはまだ修行が足りぬから、それ以前の問題なのでは」
「形から入ろうと言い出したのは、一体誰だったか」
「――まずい、死神が近づいてきているぞ!」
「ええい、祝福の像まで走るぞ!」
「――あっ、兄者! 俺を踏み台にし――」
死神から逃げおおせるための生け贄にされた頭巾を刈った銀勤務の死神が、死神ちゃんに気づいてペコリと頭を下げた。死神ちゃんは疲れた体で「お疲れ様です」と挨拶を返した。
死神ちゃんは壁の中へと消えていきながら、先日の〈ハム〉や本日の忍者達のことを思い返しながら、装備はやはり大切だなと改めて思ったのだった。
――――自分の死神としての装備も早く充実させたい。だから早く給料日が来ないかなと、待ち遠しく思ったのDEATH。